税制におけるメリットの高さから、ASEAN諸国への事業展開の入口としてシンガポールを選ぶ企業が着実に増加しており、ビジネスにおける専門性の高い依頼を受ける会計事務所の需要が増しています。
今回は、そんなシンガポールの会計事務所業界に焦点を当て、最新の業界情報をお届けしていきます!
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2019
ウェルネスマネジメントに大きな変化?EYの見解
大手会計事務所EYによる2019グローバルウェルスリサーチの報告書によると、資産運用関連会社の3分の1(34%)以上がアジア太平洋地域において、今後3年間で業者を切り替える予定であるため、ウェルスマネジメント関係では大きな変化が生じていると報告している。
オーストラリア、中国本土、および日本の顧客が、金融プロバイダーを切り替える可能性が最も高い。これは、近年出現しつつあるデジタルソリューションの台頭、および顧客が何を評価するかの定義の変化に起因している。
多様なニーズを解決できる資産運用業者は存在せず、現在5社以上の業者との関係を維持していると報告されている。資産運用業社は自らの商品を評価し、顧客のニーズおよび期待によりよく応えるためにどのような財務アドバイスを提供するかを見直す必要があると言える。
2,550社を調査!民間企業は今年どう動く?Deloitte
大手会計事務所Deloitteが行った、30カ国2,550社の非公開企業の役員を対象にした調査によると、回答者の大半が今後12か月以内に8つの主要ビジネス分野のうち6つで成長が見込まれると回答した。
ヨーロッパ、中東、アフリカおよびアジア太平洋地域の他の国々と比較すると、特にアメリカの企業が拡大を予測している。
テクノロジーは、ビジネスの規模や業界に関係なく、国境を曖昧にする。実際、向こう12ヶ月間のM&A活動での最大の利点は、新しくグローバル市場に参入する機会の獲得(39%)である。調査によると、多くの民間企業幹部が積極的な合併および買収戦略を実行することを期待しており、42%がその期間内にいずれかの企業を買収する可能性が高いと回答している。
前年度比10.7%の増収、 BDO
会計事務所BDOは、2018年9月に終了した事業年度の合計手数料収入を8.99億米ドルと発表した。これは、前年度比で10.7%のであった。
ビジネスが世界的に拡大する中、同社はサイバーセキュリティ会社などに関連する大規模な企業買収をして、明確な戦略を展開している。現在162の国と地域で営業活動をしているBDOは、2018年度においては全地域で成長を遂げ、EMEAで最大の増収(+17%)を記録、続いて南北アメリカ(+7.8%)、そしてアジア太平洋(+6.6%)となった。
BDOはローカルでカスタマイズできる柔軟で安全なプラットフォームを提供し、顧客との間の情報交換を合理化するなどして効率化を図っている。
Smart Nationへの提言、KPMG
2019年1月16日、大手会計事務所KPMGは「Becoming Smarter」を発表し、シンガポールにおいて最大の利点を持つ5つの主要セクターの企業が、Smart Nationのビジョンを実現できるように支援する施策を提案した。
注目を集めている分野は、金融サービス、不動産、ヘルスケアおよびライフサイエンス、消費者向け小売およびIT分野である。またこれらの分野の他に、サイバーセキュリティなどへのさらなる投資の必要性を訴えている。これは、すべてのセクターが目指すSmart Nationの重要な構成要素であると考えている。
シンガポールのSmart Nationについて、今は、次の段階への移行時期であると考えられており、政府がSmart Nationのビジョンを実現するため必要な5つのセクターに刺激とインセンティブを提供することで次の成長へ到達できると考えている。
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2018
EY wavespaceを利用した企業の参入支援戦略
Ernst & Young Globalのシンガポール部門であるEY Singapore(EY)は、アジア太平洋地域(APAC)における企業の成長機会を提供することを目的に、新しいセンターをシンガポールに設置した。さらに、グローバル成長とイノベーションセンターのEY wavepace™ネットワークの拡大を示唆している。
EY wavepace™では、あらゆる技術の中でも人工知能、機械学習、ブロックチェーン、自動化ロボットなどのスマートテクノロジーを重視しており、これらの技術とEYの知識と経験を融合することを目指している。
EY wavepace™のシンガポールセンターは、世界に18ある旗艦店の1つで、他のセンターとシームレスに接続してグローバルなコラボレーションを可能にする、と各方面からの期待が高い。
アジア太平洋市場に約3億米ドルを追加投資、Deloitte
Deloitteは、オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、東南アジアの各地域を統合し、 Deloitte Asia Pacificを設立することを明らかにした。今後さらに多額の投資が可能となり、アジア太平洋地域(APAC)の顧客に照準を絞ることとなる。
上記5つの地域では、今後3年間で3億2,100万米ドルの投資が見込まれており、人材の増員や、グローバル・国内・プライベート市場の顧客に向けたサービス提供の強化に繋がると、内外からの期待が高い。Deloitte Asia Pacificは9月1日付で始動した。
5つの地域に合計44,500人の専門家を擁し、2022年までに10億米ドルに上る事業を創出する可能性がある。Deloitte GlobalのCEOも期待のコメントを出している。
BDO、星・尼の経営コンサルティング事業を統合
ベルギーに本拠地を置く会計事務所大手BDOは、シンガポールとインドネシア地域のビジネスを加速させるための二国間の基本合意書(MoU)に署名した。BDOグループネットワークの結束に向け勢いをつけた。
基本合意書における対象となるサービスは、経営コンサルティング部門のサービスであり、1)ファミリービジネスアドバイザリーサービス、 2)人的資本管理とアウトソーシングサービス、3)Eリクルートメントサービスの3つである。
BDOシンガポール執行役員であるロジャー・ルー氏は「同合意書は2国間をまたぐ大規模プロジェクトの開発、知識の共有、研修などの基盤となる。今回の署名により、国境を越えた経営コンサルティングサービスを提供するという我が社のビジョンを推し進め、同地域における強固なネットワークを敷いていけることを期待している」とコメントしている。
会計士の仕事はAIに奪われるのか?RSMの見解
会計事務所大手RSMのパートナーTay Woon Teck氏は、Professional Accountants in Business(PAIB)カンファレンスにおいて、機械と人工知能が会計士の仕事を奪わない理由を「事業が存在する限り、株主・債権者および利害関係者は、事実および客観的な財務情報を取得し、新しい財務報告基準の策定や、財務諸表に対する国民の信頼を維持するために、会計士を頼る必要がある」とまとめた。金融危機が発生するたびに、規制当局は財務諸表の作成、統合、解釈のための最終的な意思決定者であることから、会計士に対する需要は尽きないと考察している。
規則に沿った証拠収集やコンプライアンス関連の仕事は、既に機械やAIによって行われることが可能であると認めているものの、一方で機械では専門的な判断や、疑問を持つことができないとコメントしている。
カンファレンスには、「会計士はデータ分析や評価、リスク管理ツールなどの技術を使用して、客観的かつ偏りのない財務諸表を提供すべきである」と指摘する参加者もいた。
まとめ
アジア地域(特にASEAN加盟国)における会計サービスのニーズを取り込み、国内の会計セクターのさらなる成長を目指す政府の勢いもあるシンガポールでは、会計事務所業界には大きなビジネスチャンスを期待できるのではないでしょうか?
2017年よりシンガポール在住の日本人。元客室乗務員。大学ではマーケティングと経済を学び、卒業後は海外での生活と旅行を重ね、さまざまな国の文化や人々、食に関する豊富な知識を身につける。シンガポール人の旦那との結婚を機にシンガポールに移住し、現地で就労。現在はライター業と翻訳業を行っている。