中国では路上ライブやお年玉、田舎の市場といったあらゆるシーンでキャッシュレス決済が普及しています。一方、顔認証決済も普及する中で、政府による規制も強化されつつあります。
今回は、世界的な注目を集めている中国のキャッシュレス事情について詳しくご紹介します。
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中国のキャッシュレス事情の概要
キャッシュレスの利用シーン
キャッシュレスが普及した背景の一つに、偽札の流通が考えられる。しかし近年はコロナ影響でマクロ経済が短期的に変動し、オフライン決済取引が大幅に減少した。
iiMedia Researchのデータによると、モバイル決済の利用者は男性が中心で、62.1%を占めている。収入面では、月収10000元以下のユーザーがモバイル決済の利用傾向が高く、特に月収3000元以下のユーザーが全体の36.3%を占めた。
利便性という優位性によりモバイル決済の活用シーンは豊富になっている。所得階層による活用が推進されていることから、国内全体での普及ペースが持続的に伸びていると考えられる。
近年では、支払い側と受け取りの側双方の利便性から、田舎の市場や路上ライブでの投げ銭などでもモバイル決済が主流となってきている。
顔認証システムを活用したキャッシュレス
中国のモバイル決済市場全体の発展傾向を見ると、市場は成熟しつつも市場規模は連年成長を続けている。
易観「中国第三者支払モバイル決済市場四半期モニタリング報告書2019年第4四半期」のデータによると、アリペイなどを代表する第三者決済市場全体の取引規模は2019年に2,048,672億人民元に達し、前年同期比20%増となった。
人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの急速な発展に支えられ、生体認証技術がアルゴリズムモデルなどの応用面でブレークスルーを遂げた。
2019年は、第三者決済機関が競って顔認証決済に力を入れた。二大大手の支付宝(アリペイ)と微信(ウィーチャット)は、巨額の補助金政策を打ち出して顔認証決済を推進し、決済の新たな可能性を見出した。
現在、顔認証を代表とする生体認証決済技術は商業小売、交通、医療、スマートキャンパスなどの決済シーンで応用されている。
中国のキャッシュレス決済:カード決済
中国のクレジットカード決済事情
产业信息网による「2020年の中国のクレジットカード発行量、与信限度額、当座貸越残高、不良率の分析」によると、消費者金融業界は2017年以降に市場の飽和度が高まり、業界は成熟・発展期に入った。消費者の意識も変化し、カードの枚数ではなく、カードを保持していることで得られるサービス内容を重視するようになった。
一人当たりのカード保有量の観点から見ると、中国における2020年の一人当たり保有量は0.56枚であった。このことから、中国のカード業界の発展にはまだ可能性が残されていると示唆される。
主要カード会社は、招商銀行、中信銀行、光大銀行など。利用可能場所は、銀聯、ビザ、マスターカード、JCB、アメリカンエキスプレスなどの受付標識がある場所、または国内に銀聯受付標識を持つ特約店、およびカード発行機関が指定した特約店が挙げられる。
中国のデビットカード決済事情
中国では銀行カード発行時、デビット機能が自動で付帯されている場合が多いで。
ここ数年、全国の決済システムが順調に運営され、取引規模は絶えず拡大している。銀行カードの発行量と決済回数はいずれも着実な増加を維持している。
2020年末までに、全国の銀行カードの発行枚数は89億5400万枚となった。これは前年比で5億3500万枚増え、6.36%の増加となった。主要カード会社は、招商銀行、中信銀行、光大銀行が挙げられる。
中国のキャッシュレス決済:QRコード決済事情
Alipay
Alipayは、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)が提供するQRコードを活用したキャッシュレス決済システムである。
決済機能だけでなく、資金情報のセキュリティ保障も重視されており、消費者金融サービスなどの金融プラットフォームも豊富に取り揃えられている。
また、同サービスは常に新しい変革を遂げている。利用画面のトップページには、健康コードや行動履歴など、生活に関連するサービスプレートが追加されている。ビッグデータのアルゴリズムを活用し、各ユーザーの利用履歴をもとに、各個人が最も利用する機能をトップ表示している。
WeChatPay
WeChatPayは、中国で最もシェアの高いメッセンジャーアプリ「WeChat」に紐づいたQR決済サービス。中国国内ではAlipayに次ぐ決済サービスとなっている。
全世界で約11.5億人の月間アクティブユーザー数を誇るWeChatの強みを生かし、決済機能と連動した店舗情報の発信やクーポン配布なども特徴としている。
決済システムとしてはAlipayと同様の機能があるが、 WeChatPayはキャッシュ引き出しに手数料を課している。また、紅包(ホンバオ)と呼ばれるお年玉送金機能も有しているのも特徴だ。家族間、友人間など幅広いシチュエーションで送金できる仕組みが人気を集めている。
UnionPay
国際ブランドのカードとして世界的なシェアを持ち、世界三大銀行カードブランドの1つにもなっている。国際影響力の大きい中国ブランドの1つともいえるカードブランドだ。本来中国国内ではデビットカードとして知名度のあるUnionPayだが、QRコードを活用したモバイル決済サービスも提供している。
もともと「UnionPay(銀聯)Wallet」というサービスを提供していたが、現在は中国の銀行業界の統一アプリである「Mobile QuickPass」にてQR決済などのモバイル決済サービスを提供している。
例えば、上海においてはバス、地下鉄、高速鉄道などの公共交通機関で、Mobile QuickPassを介して利用料金を払える。
中国のキャッシュレス関連の規制
支払機関外国為替業務管理方法
2019年4月、国家外国為替管理局は「支払機関外国為替業務管理方法」を発表し、越境決済に対する監督管理を厳格化した。具体的には、リスト登録された企業のみ決済業務を行えるように取り決めた。
同年12月、中央銀行は「代行業務の規范化に関する通知(意見募集稿)」を公示した。代行業務は受取人が固定され、支払額や支払頻度などの条件も事前に決定される。つまり、第三者決済の利用シーンが明確に取り決められることとなった。このように厳しい規制が常態化したため、第三者決済業界全体がコンプライアンスを強化している傾向にある。
銀行による独自政策
キャッシュレス決済の安全性管理規制の強化に伴い、各銀行では独自の政策が公表された。
例えば、中国銀行は「中国銀行オンライン銀行システム情報セキュリティ共通規範」を打ち出した。
この規範は、評価検査で発見されたオンライン銀行システムの情報セキュリティ問題を分析し、セキュリティ強化を行うというもの。オンライン銀行の健全な発展を促進することを目的に策定された。
中国のキャッシュレスに関する現状課題
データ収集に関する課題
2019年に「インターネット安全法」の徹底が求められ、金融業界全体がデータ保護の整備に向けて動き出した。どのようなデータが収集可能で監督管理が必要か、規範を定められることとなった。
これを受け、金融業界全体において支払いデータの活用に関する課題が生じた。例えば、決済機関はPOSトランザクションの位置情報を収集する必要があるが、今回の規制により、SaaSやリスクコントロール、マーケティングなどのサービスが影響を受け、データの適合性を確認する必要が出てきた。
マネーロンダリングに関する課題
2019年には、モバイル決済の個人アカウントを利用したマネーロンダリングの事案が次々と発生した。このような状況を受け、例えばWeChatは、違法なアカウントの利用制限や凍結などの対策を講じると発表している。
中央銀行深セン支店が開催したマネーロンダリング防止作業連席会議では、マネーロンダリングを阻止するための監督管理基準を設けることを要求した。現在中国は、マネーロンダリングを阻止するための国際基準と相互評価から提出された改善提案要求に基づき、改善ポイントの実行に動き出している。
中国のキャッシュレスの今後の展望
顔認証によるキャッシュレス決済の加速
2019年に顔認証システムを活用したキャッシュレスが急速に普及し、あらゆる生活シーンで利用されるようになった。 前瞻产业研究院が発表した「2020年移动支付发展现状及趋势分析」によると、インタビューに回答した顔認証利用者の40.2%がスーパーマーケットで、36.8%がコンビニエンスストアで利用しているとのこと。
顔認証決済をはじめとする新たな決済モデルは、決済の効率化とセキュリティの向上というアドバンテージを受け、急速に広がりつつある。今後、5Gなどのテクノロジーの発展により顔認証決済の活用はさらに広がることが期待されている。
顔認証決済と個人情報保護法
顔認証の分野でも、Alipayを提供するアリババと、Wechat Payを提供するテンセントの2社が主力となっている。アリババは「蜻蜓」、テンセントは「青蛙」という名称の顔認証決済を提供している。
一見便利で画期的に見える顔認証決済だが、プライバシー保護や犯罪の観点から不安の声も上がっている。顔認証で撮影された顔写真が流出し、顔写真の人になりすました犯罪などが発生している懸念もあるとのこと。
このような状況を受け、中国では2021年8月20日に個人情報保護法が可決され、同年11月1日から施行されることになった。さらに今後は顔認証システムに由来するデータ管理をどのように整備していくかなど、生体認証に関連した新たなルール整備が加速していくと思われる。
まとめ
中国のキャッシュレス決済はもともと偽札の流通が背景となって普及しました。しかし今ではあらゆる生活シーンで利用されるサービスと変化しています。顔認証決済などに関連する規制の影響を受け、今後はサービスの在り方も変化していくのではないでしょうか。
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。