【インドネシアの石炭輸出】石炭輸出規制による国内外への影響を解説

世界有数の石炭輸出国であるインドネシアは、近年、産業発展に伴う電力需要増の影響を受け、国内向けの消費も増えています。これを受け、政府は石炭採掘会社に対し、石炭の輸出を規制する動きを強めています。今回はインドネシアの石炭輸出に関して、詳しく解説します。

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目次

インドネシアの石炭事情

石炭の国内生産や輸出状況

インドネシア中央統計庁(BPS)が発行している「Statistik Pertambangan Non Minyak Dan Gas Bumi2015-2020(石油ガス以外の鉱業統計2015-2020)」によると、石炭の供給量は国内向けが、2015年:0.68億トン、2020年:2.20億トンとCAGR7%で増加している。輸出は、2015年:3.28億トン、2020年:3.32億トンとほぼ横ばいである。総供給量は、2015年の3.96億トンから2020年には5.52億トンに増加している。

インドネシアの石炭産業は基本的に輸出が主体であるが、近年、急速な産業の発展に伴う電力需要の増加から、政府が2015年5月に35GW電源開発計画を発表して以来、多くの石炭火力発電所が建設されたことから国内での石炭需要が増加しており、国内向けの供給量が増えている。ちなみに、2015年は国内販売比率が17%であったが、2020年には40%と倍以上になっている。

今後、地球温暖化対策のためのCO2削減として石炭火力発電の削減が世界的流れとなっており、インドネシアでも再生可能エネルギーへの転換に力を入れているが、当面、増加する電力需要を支えるために石炭需要は拡大すると見られており、積極的設備投資による増産が難しい中での動向が注目される。

石炭掘削会社の国内供給義務DMOとは?

石炭掘削会社の国内供給義務DMOについては2021年に発布された「国内の石炭需要の充足」に関するインドネシア共和国エネルギー鉱物資源大臣令番号:139.K / HK.02 / MEM.B / 2021に規定されている。

第1規定は石炭生産運用段階で「電力供給」と「産業用原料・燃料」のための国内需要のために年間生産計画量の25%を国内ニーズ(DMO:国内供給義務)に充てる。第2規定は、石炭生産事業段階で、第1規定で言及された国内ニーズ(DMO)のための石炭販売割合を充てる。

第3規定は、国内の石炭需要が緊急に満たされない場合、エネルギー鉱物資源大臣に代わって鉱物石炭局長が石炭生産事業段階の鉱業許可証の保有者を任命することができる。第4規定は、採炭事業段階で国内販売比率を満たしていない場合、海外への石炭の販売の禁止を行う。また、本来国内で販売すべき量に海外販売と国内供給価格の差額を掛けた罰金を科す。

第5規定は、第4規定が、石炭輸送業者、石炭販売業者にも適用される。第6規定は、第4規定が鉱物石炭長官によって規定される。

第7規定は、「電力供給」のための石炭供給価格をFOB70USD/mtonとする。第8規定は、毎年石炭需要を満たすための計画を立てる必要がある。というもの。

石炭輸出禁止の概要

石炭輸出禁止は2021年に発布された「国内の石炭需要の充足」に関するインドネシア共和国エネルギー鉱物資源大臣令番号:139.K / HK.02 / MEM.B / 2021の第4規定の中にあるように、「採炭事業段階で国内販売比率を満たしていない場合、海外への石炭の販売の禁止を行う。」に基づいている。

この大臣令は基本的にインドネシア国内での発電および産業用原料/燃料のための石炭供給を確保することを目的に制定されている。とりわけ、政府が2015年より35GW電源開発計画で力を入れてきた電力供給の増加を果たすための火力発電所の稼働維持は最も重要な目的である。

石炭産業は政府の許認可が必要な事業のため、首記大臣令も政府が認可する鉱業許可、特別鉱業許可を持つ事業者の管理に基づいている。

昨年8月に政府は国内供給義務DMOが守られていないことから、34の生産者の輸出許可を取り消したが、国内供給義務DMO順守の状況が改善されず、国営電力会社(PLN)の石炭在庫が枯渇し、全力供給に支障をきたす事態となったため、今回、政府は全面輸出禁止処置を行った。

Jakarta Postによると、石炭生産者とエネルギー鉱物資源省との間の綱引きがクライマックスに達したように思われるとのことである。

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インドネシア政府が石炭輸出を禁止した理由

国内の石炭在庫枯渇

Jakarta Postの1月3日付け記事「石炭輸出禁止の正当化」によると、発電所の石炭在庫は、生産者の国内市場義務(DMO)へのコンプライアンスが低いために危機的なレベルに達したのでエネルギー鉱物資源省は抜本的な決定を下すよう促され石炭輸出禁止に踏み切ったとのこと。

世界の石炭価格とDMO政策の下で国営電力会社(PLN)に石炭を供給するために設定された価格との間のギャップが拡大し石炭生産者はPLNへの石炭供給より輸出を優先させた。

ちなみに、石炭の国際価格は1月の時点で1トンあたり約170米ドルに上昇した。一方で、DMO政策下で決められているPLNへの供給価格は1トンあたりわずか70米ドルである。

その結果、PLNの発電所の石炭在庫が枯渇する事態を引き起こした。需給のミスマッチの結果として継続的な石炭不足は、合計容量が11,000メガワット(MW)相当になる。つまりPLNの発電容量の6分の1に相当する。そしてジャワ島の約20の大規模発電所での発電を脅かす状態に至ったということ。

この状況を打開するため、政府は石炭生産者に対して国内市場義務(DMO)を順守するよう輸出禁止という強硬処置を講じた。

DMOコンプライアンス

1月13日付けREUTERSの記事「インドネシアは石炭を積載する37の輸送船の輸出禁止を解除」によると、インドネシア政府は、国営電力会社(PLN)が15日間の操業を確保するのに十分な石炭の調達ができ、それに協力して国内市場義務(DMO)を履行した石炭会社の石炭を積む輸送船を輸出禁止から解除したとのこと。

しかし、カリマンタンにあるインドネシアの石炭港には石炭の積み込むのを待つ船がまだ約120隻以上あるということ。

また、国内にある631社の採炭会社のうち約490社がまだDMOの義務を果たしていないと推定されている。これら490社の生産量はインドネシアの総生産量の約35%-40%を占めると推定されている。

今回、インドネシアは国営電力会社(PLN)の発電所の石炭在庫が非常に少ないことからインドネシアの広範囲にわたる地域での停電の危機に瀕しているために石炭の輸出禁止を行い、DMOコンプライアンス順守の周知を図った。

しかし、日本や韓国を含むインドネシアの最大の石炭顧客に大きな影響がでるため、今後、インドネシア政府は毎月DMOコンプライアンスを監視し、突然の石炭輸出禁止を回避する努力をするとのこと。

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石炭輸出禁止による影響

輸入国への影響

UN Comtradeデータベースによると、2020年のインドネシアの石炭輸出実績は全世界で約3.4億トン。

輸入国上位10か国は、1位:インド(29%)、2位:中国(18%)、3位:フィリピン(8%)、4位:日本(8%)、5位:マレーシア(8%)、6位:韓国(7%)、7位:ベトナム(5%)、8位:台湾(5%)、9位:タイ(5%)、10位:バングラデシュ(2%)で、これら10か国が全体の96%を占める。

これらの国々では今回の突然の輸出禁止処置で大きな衝撃が走るとともに影響があった。とりわけ日本は第4位の輸入国であり、インドネシアからの輸入に占める石炭の割合が約14%を占めるため、インドネシア政府の輸出禁止の発表があった後、すぐさま輸出禁止措置の撤廃を求めている。

DMO周知による影響

2021年8月に政府は国内供給義務DMOが守られていないことから、34の生産者の輸出許可を取り消した。しかし、その後、DMOが順守されることに大きな改善はなく、国営電力会社(PLN)の操業がおぼつかなくなるレベルまで石炭の在庫が減少するという事態に落ち入って輸出禁止措置が取られた。

今回の措置により、石炭会社へのDMOの順守警告となったことと政府自身がDMOの順守状況を月単位で把握することで行政指導の早期化を図り、PLNの石炭在庫の安定化を通じて電力供給を安定化するきっかけとなったことはよい影響だと言える。

国内にある631社の採炭会社のうち約490社がまだDMOの義務を果たしていないと推定されており、末端までの徹底が課題である。

電気代への影響

石炭採掘会社にとって、石炭の国際価格(170USD /トン)とDMO政策下で決められているPLNへの供給価格(70USD/トン)の隔たりは非常に大きい。DMOによる国内への供給の縛りがなければ、さらに大きな利益を上げることができると考えている石炭会社は少なくない。

しかし、石炭火力発電が総発電量の半分以上を占めるインドネシアでは、PLNへの石炭供給価格を国際市場価格に合わせると、電気代の大幅値上げにつながり消費者の大きな反発を招く。

もともと石炭の原価は国際価格に関係なく一定だということと、どの石炭会社も一律に国内供給責任を25%負っていることから、石炭業界全体の理解を得ることが政府にとっては非常に重要なことになってくる。

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インドネシアの石炭輸出に関する今後の動向

DMO順守の行政指導

1月13日付けREUTERSの記事「インドネシアは石炭を積載する37の輸送船の輸出禁止を解除」によると、インドネシア証券取引所に上場する大手石炭会社のPT Bumi Resources Tbk(BUMI)、PT Adaro Energy Tbk(ADRO)とPT Bukit Asam Tbk(PTBA)の3社はDMO要件を満たしていると公表しているとのこと。

2020年の各社の石炭生産量は、BUMIが0.81億トン、ADROが0.55億トン、PTBAが0.26億トンで3社合わせると1.62億トンとなり2020年のインドネシアの総生産量5.52億トンの29%に相当する。

これらの業界大手の石炭会社を筆頭にしてDMOを順守する会社を増やしていくことによって石炭業界全体のモラルを高めていく必要がある。

また、議会の公聴会で政府が回答しているように、DMOコンプライアンスの透明性を高め、輸出が許可される船舶は必ずDMOを順守していることを確認する。また、PLNとの売買契約と2021年のDMO要件の100%を満たした石炭会社が輸出を許可される仕組みを整備する。

そして、PLN契約とDMOを履行しなかった石炭会社はエネルギー鉱物資源大臣令番号:139.K / HK.02 / MEM.B / 2021の規定に基づく罰金を科すことを実施する必要がある。

石炭業界への政府の介入

UN Comtradeデータベースによると2020年の世界の石炭輸出実績トップ3は、1位:オーストラリア(3.7億トン)、2位:インドネシア(3.4億トン)、3位:ロシア(2.0億トン)であった。

現在ウクライナ問題で経済制裁を受けているロシアが第3位の輸出国ということから、当面、経済制裁の影響でロシアからの輸出が減ると、消費国からインドネシアに出荷量を増やすよう要望が出されることが予想される。また、需給関係から国際価格が上がれば、石炭会社にとって輸出は更に魅力的になる。

一方、インドネシアはCOP26で「石炭火力発電に関する共同声明」に条件付きで支持を表明しており、再生可能エネルギー発電を増やすこと、エネルギー効率性を向上させること、2030年代に石炭火力発電からクリーンエネルギーに移行するための技術導入と政策を進めるとしている。

また、CO2の回収・貯留など低炭素化措置を講じない石炭火力発電所の新規許可・新規建設を停止するということについては、国際的な資金および技術支援が行われることを条件に2040年代に石炭火力発電を段階的に廃止するという考えを示している。

時代に逆行する石炭採掘設備投資ができない中、政府がどのように業界をコントロールするかがポイント。

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