【インドネシアのパーム油】輸出制限の影響や政府の意図を解説

パーム油の国際価格が高騰する中、インドネシア政府は国内市場対策のため、輸出政策を打ち出しています。インドネシアのパーム油の輸出制限による影響や、政府の動向を解説します。

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インドネシアでビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

インドネシアのパーム油事情

インドネシアにおけるパーム油の生産量や需要

インドネシア国中央統計庁(BPS)の「インドネシア・パームオイル統計2020」のデータによると、インドネシアのパームオイルの総生産量は、2016年:3,149万トン、2017年:3,494万トン、2018年:4,288万トン、2019年:4,712万トン、2020年:4,476万トンとCAGR9.2%で成長している。

輸出量は、2016年:2,276万トン、2017年:2,735万トン、2018年:2,790万トン、2019年:2,828万トン、2020年:2,594万トンとCAGR3.3%で成長している。輸入はほとんどなく、2020年で957トンだけであった。これらのことから、総生産量の伸びは国内需要の拡大に負うところが大きいと言える。

一方、耕作面積は、2016年:1,120万ha、2017年:1,238万ha、2018年:1,433万ha、2019年:1,446万ha、2020年:1,459万haと2018年以降ほとんど増えていない。今後、地球温暖化対策で森林伐採ができない中、パームプランテーションの耕作面積を増やさず、生産性向上によってパームオイルの増産ができるかが課題。

商務大臣によると2022年の食用パームオイルの国内需要は570万キロリットルと推定されるということで、その内、家庭用は390万キロリットル、産業需要は180万キロリットルだとのこと。

インドネシアのパーム油の輸出事情

国連輸出入統計(UN-comtrade)によると、2020年の世界のパームオイル(HS:1511)の総輸出金額は312億USDで、トップ5は、1位:インドネシアの174億USD(56%)、2位:マレーシアの98億USD(31%)、3位:オランダの10億USD(3%)、4位:ガテマラの5億USD(1%)、5位:コロンビアの4億USD(1%)であった。

インドネシアからの輸出がダントツに多く、世界中の国々からインドネシアへの依存度が極めて高いことがわかる。

2020年のインドネシアからのパームオイルの輸出金額トップ10は、1位:インドの29.9億USD(17%)、2位:中国の24.9億USD(14%)、3位:パキスタンの16.6億USD(10%)、4位:マレーシアの7.8億USD(5%)、5位:スペインの7.5億USD(4%)、6位:バングラデッシュ7.0億USD(4%)、7位:エジプトの6.4億USD(4%)、8位:イタリアの6.3億USD(4%)、9位:アメリカの6.1億USD(4%)、10位:ミヤンマーの5.9億USDで、トップ10の合計は全体の68%を占めている。

インドネシア国中央統計庁(BPS)の「インドネシア・パームオイル統計2020」のデータによると、ちなみに2016年~2020年の平均輸出単価616USDであった。

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インドネシアのパーム油の輸出制限

パーム油の輸出制限の概要

パームオイルの国際価格が高騰する中、インドネシア政府は国内市場対策のために、輸出政策と規制に関する2021年第19号商業大臣規則の改正に関する2022年第2号商業大臣規則でパームオイルを輸出政策および規制対象品目に追加した。これにより、パームオイル(CPO)輸出企業は国内市場義務(DMO)および国内価格義務(DPO)を負うことになった。

ムハンマド・ルトフィ商務大臣によると、2022年1月27日からCPO輸出企業は輸出量の20パーセントを国内市場に供給する義務(DMO)を負うことになった。そして、キロ当たりの取引価格(DPO)はCPO(粗パームオイル)で9,300IDR/㎏となった。

さらに政府は2022年3月10日からDMOを20%から30%に引き上げた。国内市場への供給量を充足するため、メーカーに国内向けの在庫が確保されるまで続けるとのことであった。

しかし、2022年3月18日に政府はパームオイルに関する国内市場義務(DMO)および国内価格義務(DPO)の方針を取り消した。その代わり輸出税を引き上げ(375USD/トンから最大675USD/トンへ)て、国内市場のパームオイル価格の補助金に充てることにしたとのことである。

パーム油を輸出制限した理由

パームオイルの国際価格は、2019年1月:585USD/トン、2020年1月:810USD/トン、2021年1月:990USD/トン、2022年1月:1,345USD/トンとCAGR32%と毎年大幅な価格上昇が起こっている。

最近の6か月を見ても、2021年9月:1,181USD/トン、10月:1,310USD/トン、11月:1,341USD/トン、12月:1,270USD/トン、2020年1月:1,345USD/トン、2月:1,522USD/トンと毎月値上がりしており、この6か月の平均値上がり率は5.2%/月と高い。

パームオイルメーカーにとって輸出に関しては、国際価格が上昇するとそれに応じて売上高が増加し、利益が増えることになる。インドネシアではパームオイルが食用として使われており、生活必需品のため値上げは消費者の大きな抵抗があるため難しい。そのため、国内向けの供給量を絞り込み、できるだけ輸出量を増やそうとするメーカーが増える。

この動きを止めるために政府はパームオイルを輸出政策および規制対象品目に追加し、パームオイル(CPO)を輸出するすべての会社に国内市場義務(DMO)および国内価格義務(DPO)を負わせることで、メーカー間の公平感を保ち、国内市場でのパームオイルの供給量確保と市場価格の安定化を図っている。

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インドネシアのパーム油の輸出制限による影響

国内のパーム油市場への影響

最初に政府が導入した2022年第2号商業大臣規則でパームオイルを輸出政策および規制対象品目に追加し、パームオイル(CPO)輸出企業に国内市場義務(DMO)および国内価格義務(DPO)を負わせた。

この目的は、インドネシア国内市場に一定価格で需要に見合う十分なパームオイルを供給することなので、国内価格は国際価格とは連動せず一定価格で安定し、消費者の不安は解消される。

また、3月中旬からDMOとDPOの適用が解消され、輸出税の引き上げを行った後も、輸出税額の引き上げで増加した税収がパームオイルの国内価格への補助金として使われるため、パームオイルの国内価格は安定し、消費者に負担がかかることはない。

パーム油の輸出価格への影響

今回、最終的に、輸出税の引き上げを行い、輸出税の増税分から国内価格への補助金を捻出する方法がとられた。そのため、結果として輸出価格は国内市場価格の補正額を上積みした割高な価格となる。

直近の6か月間のパームオイルの国際価格は5%/月以上の値上がりを続けているので、今回の輸出税額アップの影響も短期間に買い手によって吸収されることになると考えられる。

メーカーにとっては、国内市場義務(DMO)による国内市場向け出荷量の管理の必要性がなくなるので、輸出手続きも簡素化されるメリットがある。DMOがあると、輸出許可を得る際、国内出荷量が規定されている量だけ実施されたか証明する書類の提出が必要になるためである。

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インドネシアのパーム油の今後

環境問題と生産性の課題

インドネシア国中央統計庁(BPS)の「インドネシア・パームオイル統計2020」のデータによると、パームプランテーションの面積は、2016年:1,120万ha、2017年:1,238万ha、2018年:1,433万ha、2019年:1,446万ha、2020年:1,459万haと2018年以降ほとんど増えていない。

熱帯雨林の減少は地球温暖化と密接な関係があることから、パームオイルを採るためのパーム(アブラヤシ)プランテーションの開発が停滞していることを示している。

2060年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成すると公表しているインドネシアとしては、今後もパームプランテーションを増やさずに外貨獲得の手段でもあるパームオイルの増産をどう実現するかが重要な課題となる。

また、「インドネシア・パームオイル統計2020」のデータによると、2020年のパームオイル(CPO)の生産性実績は、公営プランテーションが4,743㎏/ha、民間大規模プランテーションが3,984kg/ha、民間小規模プランテーションが3,273kg/haである。政府系農業試験所や大学研究機関と連携した公営プランテーションでの生産性改善を高位平準化するように広めていく活動が今後重要になると考えられる。

パーム油の国際価格の動向

国連輸出入統計(UN-comtrade)によると、2016年から2020年の世界のパームオイル(HS:1511)の総輸入金額は、2016年:270億USD、2017年:319億USD、2018年:293億USD、2019年:281億USD、2020年:306億USDで、毎年変動はあるものの、ほぼ300億USD±10%以内に収まっている。

この5年間のトップ5は、1位:インド、2位:中国、3位:パキスタン、4位:オランダ、5位:スペイン/イタリアでトップ5の比率は全体の約50%と毎年ほぼ変わっていない。

変化があるとすると、1位のインドが少し減少傾向で、2位の中国がその分少し増加傾向にある程度である。

また、近年、国際価格が上昇傾向にあることからすると、世界的なパームオイルの輸入数量は減少傾向にあるのかもしれないと考えられる。インドネシアがパームオイルの最大の供給国ということから、インドネシアでの輸出制限のニュースが2022年1月、2月のパームオイルの国際価格に影響していると思われるが、4月以降、輸出税の上昇分が織り込み済みになった後、パームオイルの国際価格がどのように動くのかが注目される。

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