【マレーシアの医療大麻】政府の見解と合法化に向けた動き

マレーシアの麻薬に対する規制は世界的にみてもかなり厳しく、大麻に関しても年間約1200人が死刑判決を受けています。一方で、マレーシアの医療用大麻市場は今後4年間で4,000億リンギット(957億米ドル)に達すると見られており、医療目的での大麻利用に関して政府での議論が進んでいます。今回は、そんなマレーシアの医療大麻に関して詳しく解説します。

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マレーシアでビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

マレーシアにおける大麻の取り扱い状況

マレーシアの麻薬全般に対する規制

マレーシアにおける麻薬については、1952年危険薬物法(Dangerous Drugs Act 1952)にて定められており、厳しい罰則等が定められている。麻薬等の危険薬物の違法売買は死刑とされ、所持は最高で終身刑といった重刑が科せられる。また、ヘロインで15グラム以上、大麻だと200グラム以上を所持していると、違法売買することが目的であると判断され、死刑が科される可能性もある。

他にも、1952年危険薬物法を補足する法律として1952年毒物法(Poisons Act 1952)が制定されており、向精神薬などについて規定されている。また、薬物依存者の治療や更生などについて規定した1983年薬物依存者(処遇及び更生)法(Drug Dependants(Treatment and Rehabilitation)Act1983)、薬物の不正取引防止について定めた1985年危険薬物(特別予防措置)法(Dangerous Drugs (Special Preventive. Measures) Act 1985)、そして薬物密輸者の資産追跡・凍結・没収について定めた1988年危険薬物(財産没収)法(Dangerous Drugs(Forfeiture of Property)Act 1988)がある。

内務省薬物対策庁においては、マレーシアにおける薬物・物質乱用撲滅のための主要機関として、予防教育、法執行、リハビリテーションプログラム、国際協力を展開している。

マレーシアでは、これまでに「薬物ゼロ」(Sifar Dadah)や「ドラッグ・フリー・マレーシア2015」(Malaysia Bebas Dadah 2015)などの目標を掲げ、現在5ヵ年計画として「2025年ドラッグ・コントロール」(Dadah Terkawal 2025)を推進している。

嗜好用大麻の規制や政府の見解

マレーシアの大麻規制は大変厳しく、年間約1,200人が死刑判決を受けている。

大麻、大麻樹脂、大麻抽出物、大麻チンキは、1952年危険薬物法の対象となる危険な薬物とされている。本法では、こけらの輸入、輸出、販売、供給、製造、栽培、所持、消費を含む大麻の取り扱いの管理が規定されている。個人が大麻を所持又は栽培していることが判明した場合、 1952年危険薬物法に従い、所持量に応じた罰則が適用される。

20~50グラムの大麻所持は同法のセクション39A(1)に従い、 2年以上5年以下の懲役、及び3回以上9回以下の鞭打ち刑となる。50~200グラムの大麻所持は、同法のセクション39A(2)に従い終身刑又は5年以上の懲役、及び10回以上の鞭打ち刑、さらに200グラム以上の大麻所持はセクション39Bに従い死刑又は終身刑、及び15回以上の鞭打ち刑が適用される。

大麻の種を所持している場合でも、同法のセクション6に従い、2万リンギット以下の罰金、又は5年以下の懲役、或はその両方が科せられる。さらに、大麻栽培については、セクション6B(3)に従い、終身刑及び6打以上の鞭打ち刑が科せられる。

また、日本では合法とされている嗜好品のカンナビジオール(CBD)については、マレーシアでは大麻と同じ違法薬物として規制されており、極刑が適用される。

医療用大麻の規制や政府の見解

1952年危険薬物法のセクション6Bにおいて、マレーシアでは大麻の栽培は固く禁じられている。また、大麻チンキを含む大麻の輸入は、1952年危険薬物法に基づくタイプAライセンスと、輸入許可を持っている輸入事業者のみが行うことができる。

人間の医療で使用する大麻ベースの製品は、マレーシアで製造、販売、供給、輸入、所有、又は管理する前に登録する必要がある。登録要件は、1952年医薬品販売法に基づいて制定された1984年医薬品及び化粧品管理規則に基づいて規定されている。この要件に従わなかった場合は違反となり、有罪判決を受けた場合、25,000リンギット以下の罰金、又は5年以下の懲役、或はその両方が科せられる。

また、マレーシアでは大麻の栽培はできないとされているが、セクション6B(2)において、保健大臣が研究、学習、実験、又は医療目的のため、指定された条件に従って大麻を栽培する許可を公務員に付与できることを規定している。

2021年11月、カイリー・ジャマルディン保健相は、医療目的で使用される大麻を含む製品が法律に適合していれば、マレーシア国内に輸入して使用することができることをアナウンスしている。そして2022年1月、同大臣は医療用大麻とケタムを規制するため、1952年危険薬物法と1952年毒物法を見直していくことを発表。大麻やケタムなどの物質の医療目的での使用規制を、科学的証拠とデータ、及びそれらの使用に関する最新の研究に基づいて適応できるようにするとしている。

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マレーシアの医療大麻事情

マレーシアにおける医療大麻の市場規模

マレーシアの国家医薬品規制庁は、2014年に多発性硬化症による筋肉の痙攣や痙縮の治療薬として、大麻由来の処方薬(Sativex)を承認したことがあるが、3年後の2017年に撤退している。そのため、現時点でマレーシアには大麻由来の処方薬はない。

2021年から2027年までの世界の大麻産業は約2,000億米ドルに達するとした試算があり、その中でマレーシアの医療用大麻市場は今後4年間で4,000億リンギット(957億米ドル)に達すると見られている。

クチンの国会議員であるケルビン・イー・リー・ウェン博士は、大麻を医療用として使用することを合法化することは、国に健康と経済的な利益をもたらし、闇市場での販売を減らすと同時に、その製品が消費に安全であることを保証することになるしている。

大麻使用の利点としては、鎮痛剤、筋弛緩剤、制吐剤(吐き気止め)、抗けいれん剤(発作止め)などとしての利用、そして薬物乱用の治療にも役立つ可能性があると述べている。

また、大麻草(ヘンプ)製品は国際市場で高い市場性を有しているため、政府が大麻草農業を支持することで、マレーシア経済の歳入が増加することも指摘されている。2021年9月には、大麻製品を専門とする中国のハンプ・タイム社が、マレーシア国内で大麻スプレーの商用化準備を行っていることを発表している。

マレーシアの医療大麻の利用状況

マレーシアでは1952年危険薬物法において大麻が規制されており、もし研究者がCBDオイルを使った実験を独自に行い、行動障害に有効かどうかを研究しようとすれば、死刑になる危険性が伴う状況にある。そうした状況の中、2020年12月に世界保健機関(WHO)が医療用大麻を危険薬物のリストから外すことを決定した。

2021年1月、WHOの決定に対してムヒディン・ヤシン首相(当時)は、大麻は明らかに人々に多くの害をもたらすため、1952年危険薬物法に規定された大麻及びその他すべての関連薬物物質の管理状態を政府が変更しないことを強調したいと述べている。ただ、マレーシア国内では超党派の議員連盟が結成され、規制に関する問題を研究することで、医療用大麻とケタムの使用、販売、流通を合法化することが検討されている。

また、カイリー・ジャマルディン保健相は、現行法において医療目的での大麻使用は認められているが、製品は保健省管轄の薬品取締局に登録する必要があるとし、技術的には合法であるとの見解を示している。

これに対し、多くの専門家はこの規定を知って認識しているものの、保健省に認可を申請する手続きが大変なため、消極的となっている。また、大麻は栽培ではなく購入しなければならないことから別の承認プロセスが必要となり、継続するには費用がかかりすぎるとされている。

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マレーシアの医療大麻に対する議論状況

マレーシアの医療大麻に関する政府の見解

国会議員のサイド・サディク・サイド・アブドル・ラーマン氏は、オーストラリア、アメリカ、カナダ、アルゼンチン、デンマーク、そして最近ではタイなど、40ヵ国以上で大麻と医療用大麻の認可が下りているとし、マレーシアは「デリケートな問題」だからといって、取り残されるわけにはいかないと述べている。

また同氏は、政府がこの問題を議論し、内務省や保健省など各省庁が代表する委員会を立ち上げ、適切な監督を行うことを期待するとしている。

上院議員のダトゥク・ラス・アディバ・ラジ氏は、大麻と麻、特にカンナビジオール(CBD)の医療目的での使用を許可する進歩的な行動をとることによって、重大な役割を果たす必要があるとしている。同氏は障害者代表であり、マレーシアで大麻や麻を医療分野で使用できるようにするために、政府に早急に対応すべき9つのことを提案している。

提案された内容は、マレーシア保健省と医療用大麻コーカス(MCC)などによる大麻・麻のロードマップを策定、大麻栽培の影響に関する研究結果を農業・食品産業省が国会に提出すること、 CBDとテトラヒドロカンナビノール(THC)を区別するため、1952年危険薬物法の改正を早めることなどとなっている。

また、2022年4月には、医療用大麻に関する国会議員連盟が大麻・ケタム産業の発展に関する政策課題を内閣に提起すると発表している。

マレーシアの医療大麻に関する賛成者の声

上院議員のダトゥク・ラス・アディバ・ラジ氏は、大麻の使用許可は障害者が豊かな生活を送ることができ、質の高い医療サービスへのアクセスを増やすことを可能とすると述べている。

マラヤ大学中毒科学センター長のルスディ・アブドル・ラシッド准教授は、医療用大麻研究を試みたが、薬物にまつわる汚名が原因で必要な承認を得ることができなかったとし、大麻が自閉症治療や鎮痛剤、抗うつ剤、ガンジャ(大麻の別名)中毒者の治療にも使える可能性があると説明している。さらに、大麻を医療目的で使用することに保健相が前向きであれば、鎮痛剤や薬物乱用の治療薬として知られるケタムの研究を、現地の研究者が行う道が開かれるとしている。

プトラ・マレーシア大学のモハマド・アリス・モクラス准教授は、この天然植物が持つ医療分野での可能性は、マレーシアの利益のために十分に活用されるべきであるとし、医療用大麻の栽培を許可して欲しいと述べている。

マレーシアの医療大麻に関する反対者の声

医療活動家であり、非政府組織「イブヌ・シーナ医療慈善団体」の顧問理事長であるスハゼリ・アブドゥラ氏は、医療大麻の合法については利益よりも害が大きいのではないかとの懸念があると指摘している。

2021年1月時点において、ムヒディン・ヤシン首相(当時)はマレーシアは大麻と関連薬物に対する立場を維持すると述べ、それらは地域社会に害をもたらすとの見解を示している。

マレーシア華人協会ユース副会長のチュア・ホック・クアン氏は、大麻とケタムの栽培は国に追加収入をもたらすかもしれないが、適切な規制がなければ若者の薬物乱用につながる可能性もあると指摘する。その上で、プトラジャヤは大麻とケタムの栽培を合法化することを検討する前に、一連の効果的な戦略を起草すべきだとしている。

マレーシアの医療大麻に関する判決状況

2022年4月、医療用大麻コーカス(MCC)はイスマイル・サブリ・ヤアコブ首相と会談を持ち、マレーシアで使用する大麻産業、医療用大麻、ケタムに関する政策課題について議論した。会談において首相は問題提起に対して前向きな回答を行い、この問題は閣議でさらに詳しく扱われることになるとしている。

また同月には、カイリー・ジャマルディン保健相が産業界や学術界と協力してマリファナの医療用利用を研究する用意があると示したものの、医療用大麻の使用について多くの議論がや主張があるが、臨床研究や試験の提案はまだないと述べている。

2022年5月には、副保健相であるヌール・アズミ・ガザリ博士がマレーシアでの医療用大麻の臨床研究はまだ準備段階にあり、慢性疾患の治療への大麻使用は海外ほど進んでいないことを示した。

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マレーシアの医療大麻の今後の動向

医療大麻に対しての規制緩和

医療大麻の法改正に関しては、専門家・議員において法体系・政策に関する様々な課題が提示されている。

人権弁護士のサマンサ・チョン氏は、権力の乱用を防ぐための法律も必要であり、1983年薬物依存者(処遇及び更生)法、1957年物品販売法(Sale of Goods Act 1957)、1995年刑務所法(Prison Act 1995)などの更新も必要であるとの見解を示している。さらに、政府は医療用大麻の使用で死刑になった囚人の減刑の準備も必要でると述べている。

医療専門家は、医療的な観点から政府が採用している懲罰的な依存症やリハビリテーションへのアプローチ方法を変更する必要があると見ている。また、ダトゥク・ラス・アディバ・ラジ上院議員は、大麻の使用に関する知識はまだ低レベルであるため、政府及び非政府組織は一般市民向けの活動、キャンペーン、及び教育を強化する必要があると述べている。

国立通信のベルナマがインタビューした弁護士、医療関係者、麻薬対策活動家は医療大麻を支持していたが、医療用として栽培・販売が合法化された後は、乱用を防ぐために規制を厳しくする必要があるとの意見が多く挙がった。

医療大麻の生産による経済発展

医療用大麻の栽培でサバ州が注目されており、農業政策を促進する動きが活発化しており、高品質な大麻の栽培・供給の体制づくりが進められている。

サバ州政府は、州の経済発展を促進するため、医療用マリファナや産業用大麻のような新しい作物産業を検討することが求められている。サバ州は何年も前にタワウでマニラアサ産業を有していた。サバ州の土壌は火山性の成分を含んでおり、より質の高い産業用大麻の生産に役立つことから、これらの作物に適しているとされている。

ダレル・レイキング議員は、サバ州はもはや単なる農耕州としてではなく、高級農産物を生産できる州として見られるべきだと述べている。

マレーシアのサバ州は、肥沃な土地と現実的で開放的な州政府により、国内初の麻栽培の研究開発を確立するには理想的な場所となっている。

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