【中国の衛星開発】政府と民間企業の動向を解説

中国 衛星開発
2021年の中国の衛星打ち上げ回数は、アメリカ・ロシアを抑えて世界1位となりました。また、現在の国際宇宙ステーション「ISS」は2024年に運用終了予定であり、その後に宇宙ステーションを運用する国は中国のみになるとの見方もあります。

世界的な注目が集まる中国の衛星開発について、政府と企業の側面から詳しく解説します。

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目次

世界における中国の衛星開発の位置づけ

世界の衛星開発事情

2021年米国衛星産業協会(SIA)のレポートによると、宇宙産業の市場規模は約3,710億ドルで「衛星サービス」というカテゴリが約1/3以上を占めていた。テレビジョン関連は884億ドル、ラジオ関連は63億ドルの市場規模がある。2021年の世界の宇宙産業は、2020年比6%増、コロナ前の2019年と同等の市場価値とされる。

宇宙産業は2030年までに74%成長し、6420億ドル(年率6.3%)に達すると予測される。コロナ影響により、2020年に商業宇宙サービスは4%減少したが、再び強い成長パターンが見える。

最大の収益ドライバーは依然として衛星ナビゲーションと通信であり、B2Cアプリケーションに牽引されてそれぞれ市場総額の50%と41%を占めている。これに対して、EOアプリケーションはまだ全体の5%に過ぎないが、上流の比率が非常に高い。一方、衛星ナビゲーションは衛星通信を上回り、主にGNSSサービスやその関連機器の好調により、総収益は2016年の約37%から2021年には50%以上まで成長した。

中国の衛星開発事情

2020年4月まで最も多くの衛星を宇宙に打ち上げているのはアメリカで、1,308基を打ち上げた。中国はアメリカに次ぐ356基である。中国の宇宙開発計画は、軍と政府によって支配されており、年間予算は80億ドルでNASAに次ぐものである。国営メディアによると、中国は月と火星を探査し、宇宙飛行士のための独自の軌道上ステーションを建設する計画もある。

習近平国家主席は2014年、高度な半導体や人工知能、キューブサットと呼ばれる小型衛星を生産できるハイテク産業の育成を目的に、民間企業の宇宙事業への参入を許可した。独自の宇宙ステーション、月開発、火星探査などのプロジェクトは国家主導で進める一方、衛星製造、打上げ装置関連には次々に民間企業が進出した。

中国の衛星開発の現状

2020年6月23日、政府は中国版測位システム(GPS)「北斗」の完成を宣言した。北斗で衛星53基を打ち上げ、米国の31基を上回る35基を運用し、現在の誤差5メートル以内の位置精度を中国とその周辺に限りセンチメートル単位まで引き上げ、自動運転技術の開発に活用していく計画だ。また、次世代通信規格「5G」との融合も進めると見られる。さらに、中国メディアによると「北斗」関連特許申請は7万件 、サービスや関連製品の生産に関わる経済規模は2020年に4千億元(約6兆2,600億円)に達する見込みである。

2016年には、2名の宇宙飛行士が天宮2号とドッキングし、約1カ月の宇宙滞在に成功している。中国は今後、2022年、中国版宇宙ステーション「天宮号」の稼働に向け着実に準備を進めている。因みに現在地球の周回軌道で稼働している国際宇宙ステーション「ISS」は2024年に運用が終了する予定であり、2024年以降に宇宙ステーションを運用する国は現時点では中国のみとなる見込みである。

国家航天局の呉艶華副局長によると、中国の宇宙飛行は世界の同業者と共に国連の持続可能な開発のための2030アジェンダの履行、宇宙技術による持続可能な開発のサポートを共に推進し、50件の協力協定あるいは了解覚書に新たに署名した。中国とロシアは国際月科学研究ステーションの計画を共同発起した。有人宇宙飛行、月探査、火星探査などの任務において広く国際協力を展開し、BRICSリモートセンシング衛星ネットワーク協定に署名し、中仏海洋衛星と中伊電磁衛星の打ち上げに成功した。

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衛星開発を行う中国の主要企業

中国航天科技集団

中国航天科技集団は中国宇宙事業の主力軍として、中国有人宇宙・月探査プロジェクト、北斗衛星測位システム、高分解能地球観測システム、次世代キャリアロケットなどの国家科学技術重大特別プロジェクトの任務を担っている。中国の宇宙開発に係る衛星や宇宙船は、同社が開発しており、110億ドルの資本と11万人の従業員を保有している。

中国航天科技集団の党組副書記を務める徐強(シュー・チアン)社長は会議で活動報告を行った。その報告によると、中国航天科技集団は今年40数回の宇宙打ち上げ任務を予定しており、有人宇宙飛行の6つの重要任務を実行する。中には、宇宙貨物船の2回の打ち上げ、神舟と実験モジュール1・実験モジュール2の2回の打ち上げ、及び軌道上のドッキング、船外活動と宇宙船帰還任務が含まれ、全面的に宇宙ステーションを完成させる。さらに「長征6号甲」キャリアロケットの初飛行任務を行う。

米国のウェブサイトの情報によると、米国政府は現地時間2022年1月21日、ミサイル技術の拡散活動に従事したとして、中国航天科技集団(CASC)第一研究所、中国航天科工集団(CASIC)第四研究所と保利科技公司の3社に対する制裁措置の発動を決定した。

中国長城工業集団有限公司

中国航天科工集团公司は超大型国有ハイテク企業である。国内に600余の事業組織が30の省市自治区にまたがって存在する。傘下に6つの研究院のほか合わせて180余の組織、職員10万人を擁する。ミサイル兵器、軍民両用の情報技術と宇宙関連製品を主な業務としている。また、中国最大のミサイルメーカーである。

同社は国防産業の科学技術の中核として、国防ミサイルシステム、固体ロケット、宇宙関連装備品の開発を行う。2018年に宇宙スーパーサーバー、宇宙スーパーデータバンク一体機、宇宙スーパーストレージアレイという3種の大型国産化情報技術設備、プラグインリアルタイムOS「天熠」、プラグインリアルタイムOS「海鷹翼輝」、安全モバイルOS「科斗」という3種の小型国産化情報技術製品を重点的に展示した。

子会社1つに、2002年1月に設立され、小型衛星や衛星の応用技術、特にGPS(全地球測位システム)応用技術の高度化と産業化を主要任務とする中国航天科工情報技術研究院がある。

国星宇航

中国長城工業集団有限公司は、中国航天科技集団公司の全出資企業である。中国政府が授権する商業打ち上げを実施し、国際宇宙技術協力事業を展開する商業機関である。中国の商用衛星市場への参入が注目されているが、政府が認可した対外交渉・契約に当たる中国唯一の商用機構である。中国運搬ロケット技術研究院や上海航天技術研究院、中国衛星発射コントロールセンターをパートナーとして契約交渉に当たっている。

2012年より2017年まで25回の商業打ち上げを実施し、中国の打ち上げ任務の4分の1前後を占めている。32の商業ペイロードを打ち上げ、重さは合計43トン以上に達している。2018年運搬ロケット「長征2号」1本で人工衛星12基を打ち上げ成功したと発表した。このロケットではサウジアラビア衛星2基、小型の中国衛星10基を地球周回軌道に投入することを明らかにしている。中国とサウジの両国政府は、「宇宙空間の科学技術に関する協力の覚書」を2013年に締結。宇宙分野の提携・交流を進めてきた。サウジアラビア衛星2基地は、国王系の企業が開発。

専門要員訓練やその他の航空宇宙システム総合サービスの提供、航空宇宙技術利用商品の国際事業と専門サービスも実施している。

中国航天科工集团公司

国星宇航はAIを利用する宇宙事業ベンチャー。大学、研究機関、産業および部隊の元宇宙事業人材から設立された。2022年に15機AI衛星を打ち上げ、2021年には地震関連衛星を打ち上げた。

2018年12月には、軌道上にAI衛星を投入することに成功した。宇宙と地球の結合を目指す国星宇航は、2022年前に192機の小型衛星の打ち上げを考えている。2022年にシリーズBラウンドにおいて3.5億人民元の融資を受けた。

AI衛星インターネット技術とサービス能力をベースに、緊急災害救助分野の製品「国土災害の目、林業の目」、デジタルツインの分野で開発した製品「都市の目、公園の目、交通の目、不動産の目」は、四川省、チベット、雲南、広東、甘粛、新彊などで展開された。

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中国の衛星開発に関する政策

宇宙開発白書2021における衛星開発

宇宙開発白書は、2016年以降の中国の宇宙活動の主な進捗状況及び今後5年間の主な課題を紹介し、国際社会における中国の宇宙産業の理解をさらに深めることを目的として発行された。習近平総書記は、「広大な宇宙を探検し、宇宙産業を発展させ、宇宙強国を構築することは、宇宙の夢を絶え間なく追求することである」と指摘した。

原則として、中国は国家の全体的な開発戦略に従って宇宙産業を発展させ、イノベーションとリーダーシップ・協調と高効率・平和的な開発・協力と共益の原則を堅持し、高品質の宇宙開発を推進する。中国宇宙事業は衛星公共福祉サービスと商業アプリケーションを強化し、宇宙アプリケーション産業の発展を促進し、宇宙開発の効率を改善する。

今後5年間で衛星応用とビジネス及び地域開発の統合を強化させる。ビッグデータやモノのインターネットなどの新世代情報技術との統合を深める。気象観測衛星データの総合応用、北斗導航+衛星通信+地上通信ネットワークを融合した統合アプリケーションインフラの構築を推進し、正確な運用サービス機能の改善を加速させる。

中国製造2025における衛星開発

この計画は、半導体、5Gなどの次世代情報技術や高度なデジタル制御の産業用ロボット、新エネルギー車など10の重点分野と23の品目を設定し、製造業の高度化を目指している。その中で宇宙設備(次世代キャリアロケット、超大型ロケット)を発展させ、宇宙への突入能力を高める。

国の民間向けの宇宙開発用施設の建設を加速し、新型衛星などの宇宙プラットフォーム、ペイロード(最大積載量)及びブロードバンドインターネット・システムを発展させ、安定した衛星リモートセンシングなどの宇宙情報サービス能力を形成する。有人宇宙飛行や月面探査プロジェクトを推進し、深宇宙の探査を適度に発展させる。また、宇宙技術の転化と応用を推進する。

大型航空機、航空エンジン、ガスタービン、民間用宇宙事業、スマート環境型列車、省エネ・新エネルギー自動車、海洋建設機械、ハイテク船舶、スマートグリッド総合設備、先端デジタル制御工作機械、原子力発電設備、先端診療設備などのイノベーションを起こし、産業化、重大プロジェクトを実施する。

2020 年までにこれらの分野で自主開発と応用を実現する。2025 年までに独自の知的財産権を持ったハイエンド設備の市場シェアを大きく拡大し、コア技術の対外依存度を引き下げ、国内製品によるサポート能力を高める。重要分野の設備を、世界をリードするレベルに到達させる。

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中国の衛星開発の今後の動向

宇宙ステーションの運用に向けた動き

2021年の中国の衛星打ち上げ回数は55回で、アメリカ、ロシアを押さえて第一位となっている。今後、中国版宇宙ステーション「天宮号」の稼働に向け着実に準備を進めている。現在地球の周回軌道で稼働している国際宇宙ステーション「ISS」は2024年に運用が終了する予定であり、2024年以降に宇宙ステーションを運用する国は現時点では中国のみとなる見込みである。

中国の宇宙事業は高頻度の打ち上げ段階に入り、高い成功率を誇っている。2020年は世界で114回の打ち上げが行われた中、中国は39回の打ち上げで人工衛星など89機を宇宙に送り出した。打ち上げ回数と搭載量はいずれも世界2位。そして2021年の打ち上げ回数は最多記録を更新した。中国航天科技集団の計画によると、2022年は40回以上のミッションがあり、貨物宇宙船2隻、有人宇宙船「神舟」2隻、宇宙ステーションの実験モジュール2棟を打ち上げる6大ミッションが含まれている。宇宙ステーションは今年完成し、長征6号Aの初打ち上げも行われる。

今後、宇宙ステーションが運用段階に入ると、長征2号Fと7号は年間2回の打ち上げを維持する。また近い将来、月探査プロジェクトの第4段階、小惑星探査、木星探査、有人月面探査、初の火星サンプル探査などの大型プロジェクトを計画している。

第14次五カ年計画期間中のプロジェクト

国家航天局の呉艶華副局長によると、中国は第14次五カ年計画期間中に一連の新たな宇宙重大プロジェクト(月探査プロジェクト4期、惑星探査プロジェクトなど)を開始する。また大型ロケットなど一連の重大プロジェクトを検証・実施し、上級機関からの回答後も持続的に実施する。

ただ、中国の宇宙ベンチャー企業が国際宇宙ステーション(ISS)関連のプロジェクトに参加しないことだけは、はっきりしている。これは、2011年に米航空宇宙局(NASA)および科学技術政策局(OSTP)が中国企業と協力することを禁じた修正条項が設けられたためだ。ロシアやカナダなどISSにかかわるほかの国は、中国に対してこうした規制を設けていないが、逆に中国政府側が宇宙開発関連技術の輸出に制限をかけている。

地方政府も地方経済を活性化させるために、ハイテク宇宙開発企業を推進している。2021年11月に第7回中国商用航空宇宙フォーラム開催された武漢も、企業が宇宙開発産業に参入することを奨励する地方都市のひとつである。中国はボトルネック解消のための新しいインフラの建設を重視し、液体メタンを推進剤に採用したロケットの打ち上げを可能にする施設を「酒泉衛星発射センター」に建設予定である。

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