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中国の自動運転の現状
自動運転レベルとは?
自動運転レベルとは、アメリカの学術団体であるSociety of Automotive Engineers(アメリカ自動車技術会)が定めた自動運転車の能力の定義である。0(完全に手動)から5(完全に自律)までの6つのレベルの運転自動化を定義している。これらは米国運輸省によって採用されており、今は世界基準ともなっている。
レベル0:自動運転なし
レベル1:ドライバー支援 ステアリングや加速(クルーズコントロール)などのドライバー支援のための単一の自動システムを備えている。
レベル2:部分的自動運転 車両はステアリングと加速/減速の両方を制御できる。ただし人間が運転席に座っていつでも車を制御できる状況にあることが求められる。
レベル3:条件付き自動運転 レベル3の車両には「環境検出」機能があり、動きの遅い車両を通過して加速するなど、情報に基づいた意思決定を行うことができる。しかしシステムがタスクを実行できない場合、ドライバーが制御できるように準備しておく必要がある。
レベル4:高度な自動運転 車両自身がシステム障害なども含め感知し、ほとんどの状況で人間の操作を必要としない。レベル4の車両は、法律とインフラが整備されるまでは、限られたエリア内でしか自動運転ができない。
レベル5:完全自動運転 人間の注意や制御を一切必要としない。
中国の自動運転の市場規模
Statistaの調査では、2018年における中国の自動運転市場は890億元を超えたとされている。2014年は228億元の市場であったが、4年間で約4倍近くに増加している。中国では、乗用車とは別に、自動運転を電気トラックや配達車両などの商用車に採用する計画がある。
レベル1・2の車両は一般車でもポピュラーであり、2018年の総販売台数は約30万台であった。乗用車では自動運転車の96.5%がレベル1・2の自動運転車である。
公共タクシーやバスなどの商用車で自動運転技術が広まる予測もされており、2025年の乗用車市場シェアの25.6%を占めるであろうともいわれている。
中国政府は、2023年までに自動運転車に関する公式規制を導入する予定だとされている。上海、北京などの自動運転車の実証基地は、2019年から2020年の間に中国でさらに拡大している。
中国の自動運転のテスト状況
2021年8月、中国政府は自動運転技術の商業的導入を進めるために、無人運転車のテストに関する規制を改正、更新した。
自動運転車を製造し、試験を行う資格のある企業は、高速道路や都市道路で乗客や商品を輸送するために使用される自動運転車両の試験を実施することができる。
その資格とは、リアルタイムのリモート監視システムを搭載し、衝突やシステム障害が発生する前に少なくとも90秒間運転データを記録および保存できる自動運転車である必要がある。
運転手は、試験で使用される自動運転車に立ち会う必要があり、現在の交通規則に従って交通違反の責任を負う。
5月、中国の自動運転車のスタートアップであるPony.aiの子会社は、中国南部の広州で商用自動貨物輸送を行うためのライセンスを取得した。4月、中国の検索エンジン大手Baiduは、中国西部の重慶での自動運転バスパイロットプログラムの料金を請求する承認を得た。
中国の自動運転車の普及状況
中国の自動運転車の普及状況~自動運転タクシー~
現在、中国では深圳など一部の都市で、自動運転タクシーが実際に使用されている。2020年12月、AutoX Inc.は完全自動運転のロボットタクシーサービスを開始した。AutoXの完全無人運転のRoboTaxiサービスは、深圳の住民や関係者から好評であるされている。
中国では、上海、深圳、武漢、およびその他の都市に100を超えるRoboTaxiを展開している。しかし都市によって規制は様々で、深圳では公道の走行が可能だが、北京では限られたゾーン内だけで運転でき、広州では低速運転かつ後部座席に安全ドライバーの乗車が義務付けられているなど、違いがある。
Baiduは、中国の大都市圏、主に長沙、滄州、北京、広州、上海で自動運転車テストを実施しているもう1つの中国企業である。2021年から、同社は「Apollo Go」ロボタクシーサービスの傘下で車両の公開テストを開始した。現在、北京の一部エリアで完全自動運転車を一般に提供している。Baiduは、今後3年間で自動運転タクシー台数を500から3,000までに増やすことを目指している。
中国の自動運転車の普及状況~自動運転バス~
中国の自動運転スタートアップQCraft、China Mobile、および調査会社CB Insightsが発表した共同レポートによると、無人バスは現在、中国、米国、フィンランド、ドイツの4か国の一部の公道で運行されている。
中国の自動運転バス路線の長さは54.6kmで、米国の約8.6倍であり、世界の無人バス路線の長さの85%を占めていると報告されている。江蘇省の蘇州、河南省の鄭州、広東省の深センと広州、海口省の海口、および中清と天津の自治体は、公道で無人バスを運行している。
中国は2022年までに無人バス路線数を60以上に増やし、全長は300kmを超えると推定されている。
2020年10月、QCraftの技術を使用した自動運転ミニバスは、蘇州の公道で試運転を開始し、市内の通勤者へ無料乗車の機会を提供した。2021年3月31日現在、11,000人以上の乗客が無人バスで同市内を周遊しており、1日の平均乗客数は約116人となっている。
中国の自動運転に関する政府の動向
中国の自動運転の法整備
2021年3月24日、中国公安省が交通安全法の改正案(「MPS改正案」)を発表した。
MPSの改正案は、自動運転機能を備えた車両の道路試験とアクセスに関連する条件を明確にし、交通違反と事故に対する責任をどのように割り当てるかを規制している。中国が交通安全法のレベルで自動運転車に関する特定の法律を提案したのは初めてのことである。
また深圳市は、2021年3月23日、深センドラフト規則と呼ばれる規則を発表している。自動運転車の流れ全体を法制化したもので、道路試験、アクセス登録、使用管理、道路輸送、交通事故、事故や違反の処理、および法的責任への対処からの開発などを定めている。
深圳市は、完全自動運転車の商品化を実現する最初の都市になることを目指している。
中国の自動運転の政策
産業情報技術省(MIIT)による2021年8月12日の発表によると、中国はスマートコネクテッドカー業界の管理を強化し、政策、規制、技術基準のシステムを確立するとしている。
企業は自動車データと自動車ネットワークのセキュリティ管理システムを確立し、リスクと脆弱性を監視し、セキュリティインシデントに関するレポートを作成する必要がある。特に、ソフトウェアのオンラインアップグレードは規制されるべきであるとされる。自動車企業は、オンラインアップグレードの目的、コンテンツ、必要な時間、注意事項、アップグレード結果、およびその他の情報を自動車ユーザーに通知する必要がある。
2020年には、中国汽車工程学会により「コネクテッドカー技術ロードマップ」2.0が発表された。2025年にレベル2・3級の自動運転技術を搭載する割合を25%から50%へ引きあげることを目指している。
また2025年までに、レベル2・3級コネクテッドカーの販売台数が、その年の自動車総販売台数に占める割合の50%を超え、レベル4級コネクテッドカーが特定のシーンと限られた区域で商業化を実現することを目指す。一方でレベル5級の完全自動運転技術が実用化される時期は2025年から2035年に延期されている。
中国の自動運転の主要企業
Baidu(百度)
Baiduは中国最大の検索エンジンを提供する企業。近年は事業を多様化するために、半導体から電気自動車、自動運転までの分野に投資している。
同社は2013年に自動運転分野への進出を開始し、2017年には世界初の自動運転のオープンプラットフォームであるApolloを発売した。現在、Baidu Apolloは、自動運転、スマートカー、スマート輸送の3つの主要分野で業界をリードするソリューションを提供している。Baiduは、2030年までに100都市で無人タクシーサービスを開始する予定としている。
現在、Baiduは中国の7つの都市※(北京、上海、広州、重慶、長沙、滄州、深圳)でApollo Go robotaxiサービスを運営している。ユーザーはアプリを介して自動運転車を呼ぶことができる。同社は、Apollo Goを2025年までに65の都市に拡大し、2030年までに100の都市に拡大したいと考えている。
この市場拡大の発表は、同社が第3四半期に319.2億元(49.5億ドル)の収益を報告した後のことであった。これは市場の予想を上回っていた。
AutoX
lAutoXは、2016年にMITとプリンストン大学での教鞭経験を持つJianxiong Xiao博士が設立した自動運転ベンチャーである。SAEレベル4自動運転車を開発しており、世界中に8つのオフィスと5つの研究開発センターを持つ。中国の大手テクノロジー企業であるアリババが支援している。
AutoXは、安全ドライバーなしで、公道での自動運転ロボタクシーサービスを運営している中国初の会社である。またカリフォルニア州車両管理局から完全自動運転のロボタクシーの運転許可を取得した2番目の会社である。同社は、深セン、上海、その他の中国の都市に100台以上のロボタクシーを配備している。ロボタクシーの1回あたりの平均走行時間は約20分。
l2021年11月、深圳でロボタクシーサービスを拡大する発表を行った。自動運転ロボタクシーは、昼夜を問わず、雨や霧の中、深圳のサービス提供エリア内のすべての公道で動作する可能性がある。65平方マイルに及ぶ中国最大のサービス提供エリアとなる。
これまでに中国の4つの主要都市、深圳、広州、上海、武漢でのテスト走行を行っている。またAutoXは、Hondaなどと提携して、車両をよりスマートに改良している。
Pony.ai
トヨタが支援するPony.aiは、2016年にカリフォルニア州で設立された中国の自動運転ベンチャー企業。同社は中国広州市南沙で、自動運転開発企業としては初めてのタクシーライセンスを取得した。
今回Pony.aiが取得したタクシーライセンスは、広州市南沙で100台の自動運転タクシーを従来のタクシーと同様の形で運用できるようにするものである。2022年5月から南沙区の800平方キロ全域で運賃を伴うタクシーサービスを開始するという。支払いは独自のアプリを使用する。
また同社は、アメリカへの進出に取り組んでいる。2021年12月にカリフォルニアで自動運転車の1台がアクシデントを起こし、許可が一時停止されたため、進出見通しは後退した。同社は2017年から州内で車両のテストを行っており、2021年はドライバーなしで車両を運転する許可を取得していた。
これまで、Pony.aiは、中国の4つの主要都市とカリフォルニアで自動運転車のテストと運用を行ってきた。2024~2025年に計画されているPony.aiの大量商業化の開始までに、2023年には商用robo taxiを国内他2つの都市に、さらに多くの都市へと拡大する計画を立てている。
中国の自動運転の今後に向けた課題
安全上の懸念とコストの課題
自動運転技術、自動運転自動車の開発、使用が実現する未来は近いと、何年もの間世界のリーダーたちは予測してきた。しかし、その未来はいまだに実現が難しい。その原因の1つは、技術的な複雑さにある。
Pony.aiのCEO兼共同創設者であるJamesPeng氏は「技術的な進歩があるたびに、課題がある。AI、高速コンピューターチップ、センサーなど、すべてのピースをスムーズに組み合わせると解決できるが…99.9%はテクノロジーを完成させるのに十分ではない。」と述べている。
ステアリングホイールやブレーキペダルのない自動運転車は、スケーリングが遅く、多くの人から目新しいものと見なされている。技術的な不具合を解決するには、追加の路上テストが必要である。自動運転車を許可する規制は、都市、州、国によってまだ進化している。一方で、自動運転を搭載した自動車は10万ドルと値段が高く、購入者のほとんどにとって懸念材料である。
また2018年3月にアリゾナ州テンペでUberの車両の1台が衝突した事故は、テスラが自動運転モードで運転していたものだったということもあり、安全上の懸念が残っている。
サイバーセキュリティの課題
自動運転車は、生産性と安全性を大幅に向上させ、自動運転車用に開発された技術は、商業的(潜在的には軍事的)な意味合いを持っている。自動運転車は、ドライバーが積極的に操作したり監視したりすることなくナビゲートできる車両である。自動運転技術の発達は、長い目で見ると軍事的な優位性を持つことにもつながる。
また、自動運転車は新しいサイバーセキュリティのリスクと脆弱性を生み出すともいわれている。車は複雑なソフトウェアで操作されており、インターネットに接続し、場所や速度、ドライバーのコミュニケーション(テキスト、電子メール、音声など)に関する情報を収集する。そのデータの一部は、場所と地理的特徴を参照できる。機密情報が収集されている場合、国境を越えたデータ送信は問題になる可能性がある。
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。