【ベトナムのEV】ベトナムの電気自動車の現状を、政府と企業の側面で解説

2021年1月、ベトナムの大手自動車メーカー(VinFast)が電気自動車の生産を正式発表し、ベトナムの電気自動車史上の歴史的なターニングポイントとなりました。充電ステーションなどインフラ課題が残りつつも、ベトナムの電気自動車史上は、2030年から2040年の間に急速成長すると予測されています。

今回はそんなベトナムの電気自動車事情について、詳しく解説します。

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目次

ベトナムのEV(電気自動車)事情

ベトナムのEV(電気自動車)の市場規模

ベトナム政府統計局のデータでは、現在のベトナム国内の電気自動車の登録台数は非常に少ない。2019年は140台、2020年は900台、2021年末に1,000台以上となった。2021年までにベトナム国内で登録された電気自動車は全て海外から輸入された電気自動車であるが、プラグインハイブリッド車なども含まれているため、ピュアなバッテリーだけで駆動する電気自動車の割合は非常に少ない状況である。

2021年1月、ベトナムの大手自動車メーカー(VinFast)は同社初の電気自動車を正式に発表した。同社の電気自動車はベトナム初の国内企業が生産した電気自動車であり、ベトナムの電気自動車史上の歴史的なターニングポイントとなった。

ベトナム自動車工業会(VAMA)は、ベトナム国内では2028年頃には100万台の電気自動車が登録され、2030年から2040年の間に電気自動車市場は急速に成長すると予測している。2040年までにベトナム国内では約350万台の電気自動車が登録されると予想されている。

ベトナム自動車工業会(VAMA)の3段階の普及計画

ベトナム国内の電気自動車用インフラは、公共部門及び民間部門共にバッテリー充電ステーションが非常に不足しているため、電気自動車を活用できる準備が十分できていない可能性が高い。また、電気自動車の充電に必要な電力を賄うために、ベトナムでは電力供給量を大幅に増やす必要がある。内燃機関車から電気自動車への開発~生産の移行により、ベトナム国内の自動車産業も大きな影響を受ける可能性が高く、移行期間を設けて移行期間中に電動化及び低炭素車両の開発~生産を進める計画である。ベトナム自動車工業会(VAMA)では先進国の事例及びベトナムの実状に基づき、ベトナムでの電気自動車普及の3段階の普及計画(第1段階、第2段階、第3段階)を2021年9月に提案した。

2021年から2030年までが第1段階であり、2028年にはベトナム国内で約100万台の自動車が登録されているが、内燃機関を搭載した自動車が大半を占めていると予想されている。電気自動車の登録台数も徐々に増加している。この段階では、VAMAは市場の需要を促進するために電気自動車に対するインセンティブ(特別消費税の適用等)を与えて市場を発展させるべきと提案している。また、同時に自動車登録料をHEVで50%、PHEVで70%、BEVで100%の登録料免除、駐車料金や環境税の減税/免税で消費者をサポートする事を提案している。また、充電ステーションに関する規制や基準の制定、電気自動車メーカーの工場建設や研究開発への投資支援も必要である。

2030年から2040年が第2段階で、電気自動車の市場占有率は100%に達し、登録台数は350万台に達する。VAMAはこの段階ではHEVに30%、PHEVに50%、BEVに70%の登録料免除を提案している。また、急速充電ステーションの生産及び運用に関する財政支援、電気自動車の生産に関する財政支援が必要である。

2040年から2050年までが第3段階で、安定した成長が続き、登録台数は400~450万台になって市場は飽和状態になると予想されている。この段階でも、引き続き電気自動車に対するインセンティブ(特別消費税の適用等)を提供し、BEVの登録料を50%免除し、急速充電ステーションの製造や運用に対する財政支援の提供が必要であるとみられている。

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ベトナムにおけるEV(電気自動車)政策

ベトナム政府がEV(電気自動車)政策を進める背景

ベトナム政府は「グリーン成長のための国家戦略2011-2020、2050年までのビジョン」を推進しており、2015年に開催された気候変動に関する国際連合枠組み条約(COP21)、第21回締約国会議のパリ協定も批准しているため、電気自動車を含む環境に優しい自動車の生産及び利用を促す政策を行っている。

具体的には、2007年にベトナム政府は電気自動車やその他の環境にやさしい自動車に関する税制度に対する特別消費税法の中に環境保護目標値を設定している。優遇政策の要件が正式に提起され、国会で承認された。

ベトナム国内の専門家は、ベトナム政府が電気自動車の自動車登録料を減額しているため、ベトナム国内の多くの消費者が電気自動車により興味を持つようになると予想している。また、消費者へのメリットに加えて、電気自動車の自動車登録料の減額により、より多くの自動車メーカーや電気自動車の流通・販売業者がベトナムの電気自動車市場に参入すると予想している。

また、ベトナム政府は「ベトナム国内の自動車産業を2025年まで発展させる戦略、2035年までのビジョン」を公表したが、その中で法規制の特に排出基準要件を満たすために電気自動車を含む環境に優しい自動車への投資と生産を奨励している。

ベトナムのEV(電気自動車)政策~特別消費税~

電気自動車に対する需要を刺激するために、ベトナムでも電気自動車に対する多くの優遇税制が国会により承認・施行されている。EV購入時の特別消費税の免税や減税は対象車両及び期間により、以下のように設定されている。

優遇税制の具体的な対象及び内容は、2022年3月1日から2027年2月末までは9席以下のバッテリー式電気自動車の税率が3%、2027年3月1日以降は11%に設定されている。乗客10人から16人未満の電気自動車の税率は2%、2027年3月1日以降は7%に設定されている。

また、16席から24席未満の電気自動車の税率は1%、2027年3月1日以降は4%に設定されており、人と物の両方を輸送する車両の税率は2%、2027年3月1日以降の税率は7%に設定されている。

その他の電気自動車は、タイプに応じて5〜15%の税率が設定されている。9席未満の自動車の税率は15%、人と物の両方を輸送するように設計された自動車は10%に設定されている。

ベトナムでは上記のような優遇税率が設定された事で、電気自動車を所有を考えているベトナム人ユーザーが電気自動車に注目をしている。

ベトナムのEV(電気自動車)政策~自動車登録料~

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたベトナム国内で自動車を生産している自動車メーカーへの支援等を目的に、政令103/2021/ND-CPにより、2021年12月1日から2022年5月31日までベトナム国内で生産及び組み立てられた自動車の自動車登録料を50%減額していた。

9席以下の自動車の初回の自動車登録料は一般的に5%、ハノイ市では6%であった。国内で生産及び組み立てられる電気自動車にも、上記と同じ水準の自動車登録料が適用されていた。2回目の自動車登録料は全国一律2%で、電気自動車及び内燃機関の自動車のいずれの場合も同じ条件が適用される。

電気自動車を含む様々な種類の製品の登録料を規定する政令10/2022によると、二次バッテリー式電気自動車は、2022年3月1日から3年以内は初回登録料が0%に設定されている。今後2年間は同じ座席数のガソリン車やディーゼル車と比較すると税率は50%減額になる。

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ベトナムの主要なEV(電気自動車)メーカーとその特徴

ビンファスト

2017年設立。同社はベトナム最大のコングロマリット(Vingroup)のメンバーであるVinFast LLCが展開しているベトナム初の自動車ブランド。同社はベトナムの電気自動車および電動バイクメーカーのマーケットを生み出し、世界中の電気自動車産業に貢献する事を目標として掲げている。同社は2018年以降、世界最大級の自動車ショー(ニューヨーク国際オートショー、パリモーターショー等)に出展しており、それらのイベントに出品した最初のベトナムの自動車メーカーである。

現在、同社は電気自動車(VFe34、VF8、VF9)、内燃機関モデル(Fadil、Lux A2.0、LuxSA2.0)、複数の電動バイクをベトナム市場で販売している。同社初の電気自動車であるVfe34は販売開始から24時間で3000台以上の注文を記録した。

2021年には、Fadil(24,128台)、Lux A2.0(6,330台)、Lux SA2.0(5,180台)、VFe34(85台)を含む35,723台の自動車を販売した。また、2022年1月にアメリカのラスベガスで開催された世界最大のテクノロジーイベント(CES2022)にて「2022年末までに内燃機関の自動車生産を終了し、2022年末にEV専門の自動車メーカーになる」と発表した。同イベントに合わせて予約受付を開始した新型電気自動車(VF8、VF9)は予約開始から48時間で24,000台以上の注文を記録した。

現在、同社の主力工場は約35億USD以上を投資したベトナム北部のハイフォン工場であるが、今後ベトナム中部(ハティン省)に1兆円以上を投資してEV及び自動車部品工場を建設予定。さらに、アメリカのノースカロライナ州にも最大20億USD以上を投資してEV工場を建設する準備を進めている。さらに、アメリカ国内での株式上場等も計画している。

チュオンハイ自動車(タコ)

1997年設立の、自動車製造及び組み立て分野でベトナムを代表する大手企業。自動車関連の研究開発や自動車用スペアパーツの製造、自動車の組み立て、物流事業、自動車の小売まで幅広い事業を展開している。同社では、トラックやバス、乗用車、特殊車両まで幅広く展開しており、価格帯もミッドレンジからハイエンドまでフルセグメントの製品を展開している。同社はベトナムの自動車市場で高いシェアを長年維持している。

同社の2021年の販売台数は合計で86,500台以上に達し、ベトナム国内の自動車市場シェアの37%を獲得している。自動車及び機械部品の生産・販売等による2021年の年間売上は57,000億VND以上(2020年比+30%)に達している。

同社は2022年上半期に、テクノロジーやスマート技術の研究開発に重点的に取り組み、電気乗用車や環境に優しい自動車の開発を行うと発表した。また、同社が提携している韓国の大手自動車メーカー(KIA Motor)の新型電気自動車(EV6など)をベトナム国内で販売すると発表した。

同社は主に海外の有名自動車メーカー(KIA、Mazda、Peugeot、BMW、Foton、Mitsubishi Fuso、Mercedes-Benz等)と提携し、ベトナム国内で各ブランドの自動車生産及び販売を幅広く手掛けている。本社はホーチミン市。

Mercedes-Benz Vietnam

1995年設立。ドイツ系の大手自動車メーカー(Mercedes-Benz)のベトナム法人。同社はホーチミン市内に本社及び105,000㎡の面積を誇る完成車生産工場を置いている。ホーチミン市内の完成車生産工場での年間生産台数は6,000台程度。

ホーチミン市内にある自社工場ではドイツ本国から最先端の技術や設備を移転し、海外から輸入した部品を使って完成車を製造している。主な生産車種はSUVやセダン、AMGモデル、マイバッハモデルなど。

同社は2022年第3四半期(10月)からベトナム国内の正規ディーラーにて電気自動車モデル(EQS)の販売を開始すると発表した。2022年10月26日(水)~30日(日)にホーチミン市内のサイゴンエキシビション&コンベンションセンター(SECC)で開催される国内最大の自動車ショー(Vietnam Motor Show 2022)で同モデルを正式に発表する予定。また、発表と同時に購入者への引き渡しも開始する予定。電気自動車専用の充電スタンドに関しては購入者の自宅への設置に加えて、ショールームにも設置する予定。

ベトナム国内におけるメルセデスベンツブランドの自動車販売に関しては、上場企業を含むローカルの複数の大手企業がベトナム全土で正規販売店を展開している。

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ベトナムのEV(電気自動車)の今後に向けた課題

生産コストと政策の課題

ベトナム国内の一般消費者層に対しては、現在国内で流通している電気自動車はあまり人気がない。また、ベトナムの電気自動車市場には多くのチャンスがあると評価されている反面、電気自動車市場にチャレンジする投資家からは多くの課題に直面する可能性が高いと言われている状況である。

ベトナム政府は自国の電気自動車産業を発展させるための取り組みを続けているが、電気自動車に対する政策はタイやマレーシア、インドネシアなどの周辺諸国と比較すると整備が遅れており、ベトナムの電気自動車市場の発展の足かせになっている。

また、電気自動車は内燃機関の自動車と比較するとかなり割高である。初期コスト及びランニングコストが高く、ベトナムでは同クラスのガソリン車の2倍のコストがかかる可能性がある。将来的には内燃機関とのコスト差は縮小すると予想されているが、電気自動車を販売している自動車メーカーの懸念事項である。

ベトナム自動車工業会(VAMA)によると、現時点でベトナムには環境に優しい自動車の開発やメンテナンスに関する明確なロードマップが存在しない。また、ベトナムでは電気自動車はまだ珍しく、ベトナム国内の自動車メーカー/販売会社でもVinFastを除くと、電気自動車分野に実際に多額の投資を検討している自動車メーカー/販売会社はほとんどない状況である。

充電ステーションなどのインフラ課題

電気自動車の研究開発には3つの重要なポイントがあると言われている。1つ目に「法的枠組み、国の政策支援」、2つ目に「電気自動車の販売を促進するインセンティブ制度」、3つ目に「電気自動車のモデル数を増やし、バッテリーの価格を下げる」である。上記3項目の中で政策が最も重要な役割を果たす。

ベトナムでは電気自動車に関する政策やインフラ、一貫性のない規制や基準に関する課題に加えて、電気自動車開発に影響を与えるそれ以外の課題もある。具体的には電気自動車用の充電ステーションの環境整備が十分ではないことが挙げられる。現在はVinfast社の親会社(Vingroup)が中心になって充電インフラの開発・整備に取り組んでいる。

このように電気自動車関連のインフラは十分ではなく、公共の充電スタンドの数は非常に限られており、新たな充電設備の設置が遅れている。また、ベトナム国内の電力需要は年間平均9%の割合で増加しており、今後公共の電気自動車用有料充電ステーションが多数稼動稼働した場合は、ベトナム国内の一部の送電網には3〜32%程度の過負荷が発生する可能性があると予想されている。

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