中国では、IoTやAI、VRなどの進行技術の発展を受け、データの収集・処理・保存の需要が急増しています。そんな中、政府は中国東部に集中するデジタルデータを、資源が豊富な中国西部で保存・計算する「東数西算プロジェクト」が2021年に発足しました。
各地で進むデータセンターの建設・投資事例を中心に、中国のデータセンターの今を解説します。
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中国のデータセンターの現状
データセンターとは?
データセンターとは、組織のIT機器(サーバーなど)を保管する施設である。データセンターは、企業のシステムやネットワークに影響を与える最も重要な業務が行われる場所でもある。そのため、セキュリティ、安全性、機密性、信頼性が、すべてのデータセンター事業者の最優先事項となっている。
データセンターには様々な種類があり、一般的には大きく2種類に分類される。1つ目はインターネット向けデータセンターで、ブラウザベースのアプリケーションをサポートする。2つ目は企業データセンターで、企業のITシステム、ネットワーク、インフラをサポートする。
上記以外にもデータセンターを分類する方法がある。標準化の度合い、サポートするアプリケーションの数、ワークロード規模、マルチテナンシーや物理的規模によって分類される。
中国のデータセンターの市場規模
中国では、モバイル接続、モノのインターネット(IoT)、クラウド、モバイルデバイス、ビッグデータ、バーチャルリアリティ(VR)、人工知能(AI)などの新興技術の普及を受け、同国のインターネットデータセンター(IDC)市場は近年、着実に成長してきた。
「2019-2020 China Internet Data Centre Industry Development Research Report」によると、2019年の中国のIDC事業の市場規模は前年比27.2%増の1562億5000万人民元に達し、総額で見ると2018年に300億人民元の増加に相当する。
中国でCOVID-19が発生した当初は、それまで以上にインターネットが活用された。国内の何百万人もの人々が自宅で仕事をし、会議、トレーニングセッション、ウェビナーをオンラインで行った。その結果、何百万人もの生徒がオンラインで学校に通うことになった。このような活動により、膨大な量のオンライントラフィックデータと情報が生成され、それらを収集、処理、保存、配信する必要が発生した。そのため、IDCのデータおよび情報の収集、処理、保存、配信に対する中国での需要が急増した。
Synergy Research Groupによると、ハイパースケールIDC(サポートする企業が所有・運営し、堅牢で拡張性の高いアプリケーションとストレージのポートフォリオサービスを個人または企業に提供する施設)の中国の世界シェアは米国に次ぐ第2位となっており、10%のシェアを持っている。
中国のエリア別にIDCシェアを見ると、2018年は広東省が最も高く、20.8%を占めた。広東省に続くのは上海と北京で、2018年の総市場シェアはそれぞれ12.8%と9.6%であった。この3カ所では、IDCのレンタル価格も中国で最も高い部類に入る。
中国のデータセンターの市場動向
現在、中国のデータセンター業界には、基礎事業者、サードパーティデータセンターサービスプロバイダー、自営企業の3種類の市場競争者が存在する。
基本事業者(3大事業者)は、コアネットワークリソース、十分な帯域幅リソース、国家リソース、企業顧客とパートナーとの豊かなエコシステムを有している。5Gの登場により、自社センターのセントラルデータを積極的に増やす投資を行っているが、ほとんどの場合、IDCサービスは外部には提供されない。
現在、中国の主なサードパーティIDC事業者には、世紀維網(VNET)、万国データ、後朗新網、宝信軟件、データポート、博士鵬、Aofiデータ等がある。また、3つの通信事業者が市場の約62%を占め、全国各地にコンピュータールームを持っている。
中核都市のIDCリソースはあまり配備されておらず、顧客も比較的分散している。残りの市場はサードパーティデータセンターベンダーが占めており、主にクラウドコンピューティングやインターネットなど、中核都市におけるIDCのニーズに応えている。
中国のデータセンターに関する政策
東数西算プロジェクト
2021年5月、中国の国家発展改革委員会(NDRC)、中国サイバー空間管理局(CAC)、工業情報化部(MIIT)、国家エネルギー局(NEA)は共同で「国家統合ビッグデータセンター共同革新システムにおけるコンピューティングハブの実施計画」を発表した。
この計画は、データセンター、クラウドコンピューティング、ビッグデータを統合した新しいコンピューティングネットワークシステムと、高品質でグリーンなデータセンターを実現することを目的としている。
中国のデジタル経済が加速するにつれ、中国の東部と西部でコンピューティング設備の配分が不均衡であることが問題になっていた。中国東部はコンピューティングアプリケーションの需要が高く、イノベーション能力が高いが、土地や水力発電などの補助的な資源が不足している。
中国西側は気候に恵まれ、エネルギー源も豊富だが、デジタル産業は遅れている。このプロジェクトは、コンピューティングパワーとアプリケーションの配分を最適化し、オンデマンドで割り当てられる全国市場の形成に貢献することが期待される。
今後は、中国東部の北京・天津・河北都市圏、長江デルタ、広東・香港・マカオ湾岸地域、中国中西部の成都・重慶・貴州・内モンゴル・甘粛・寧夏地域にハブノードを配備・構築する予定。
新しいデータセンターの開発のための3カ年行動計画(2021-2023)
2021年7月、中国工業・情報化部は「新型データセンター発展3カ年行動計画(2021−23年)」に関する通知を発表した。今後3年をかけてグリーンかつ低炭素で、計算力の規模がデジタル経済成長と釣り合う新型データセンターを形成する。
データセンターの配置を最適化し、ハブノード、省内データセンター、エッジデータセンターを段状に配置する。技術力を向上させ、産業チェーンの整備を続け、国際的な競争力を着実に強化する。計算力及び計算効果の水準を大幅に上げ、ネットワークの質を大幅に最適化し、デジタルネットワーク・デジタルクラウド・クラウドエッジを協同発展させる。エネルギー効率を着実に高め、電力使用効率(PUE)を徐々に引き下げ、再生可能エネルギー利用率を徐々に高める。
また、本計画の前身である2018年〜2020年の計画は全て達成されたとした。産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の更なる推進のため、2018年より進めてきた 「産業用インターネット標識解析システム(ネット上におけるウェブページのみならず、物理的な製品など様々な資源や情報を管理及び解析させるシステム)」をより発展させ、AIやIoT、ブロックチェーン、ビッグデータなどの技術的融合と応用を可能にするプラットフォームを増やすと記している。西部地区の奨励類産業リストによれば、一部の地域では投資企業に対して 15%の法人減税等の優遇措置がある(2030年まで)。
中国のデータセンターの建設事例・投資状況
中国のデータセンター建設事例~貴州~
気候が冷涼で、電力や人件費が安い南西部の貴州では、中国政府がデータセンターの誘致を積極的に推し進めている。省内の開発区では、Appleが10億ドルを投じてiCloudを提供するためのデータセンターを建設した。
さらに、中国移動、中国聯通、中国電信の三大通信キャリアはもちろん、騰訊、阿アリババ、HUAWEI等の大手 IT 企業らも続々とデータセンターの新規建設を進めている。
中国のデータセンター建設事例~天津開発区~
2018年6月には、天津開発区に位置するテンセントの騰訊天津データセンターが、単独のデータセンターとして中国で初めてサーバー収容台数10万台を突破した。同データセンターは2010年11月に運用開始され、総面積は9万平米。主にインスタントメッセンジャーアプリの「微信(WeChat)」やクラウドサービスの「騰訊雲」等のサービスで利用されている。
また、2020年に天津浜海ハイテク産業開発区の渤竜湖ハイテクパークに290ムー(約19ヘクタール)の用地を取得した。同社はインターネットデータセンター(IDC)を建設する計画で、総投資額は約100億元に及ぶ。最終的に30万台のサーバー設置が可能となり、年間売上高は38億元と見込まれている。
中国のデータセンター建設事例~浙江省~
2018年6月20日、中国移動は浙江省(浙中)情報通信産業パークに総工費40億元を投じて、超大型データセンターをオープンした。敷地面積は約19ヘクタールで、華東地域で最大規模となるサーバー20万台を収容している。
データセンター棟のほか、ビッグデータクラウドコンピューティングセンター、イノベーション研究開発センター、付加価値サービス研究開発センター、物流倉庫なども併設されている。すでに検索大手の百度(Baidu)、華為のクラウドサービス「華為雲」、ニュースキュレーションサービスの「今日頭条」といった大手 IT サービスが契約している。
また、アリババグループ傘下のアリババクラウドも浙江省にクラウドコンピューティングのスーパーデータセンターを建設した。同施設は2020年7月31日に完成し、合計100万台以上のサーバーが稼働する予定となっている。
中国のデータセンター建設事例~内モンゴル自治区~
内モンゴル自治区フフホト市南部のホリンゴル県にある産業パーク内において、データセンターが建設されている。同施設は2012年5月より2期に分けて建設が進められている。
総投資予定額は173億元で、敷地面積は100 ヘクタール。最終的に42のデータセンター棟に10万台以上のラックを収容する計画で、完成すればアジア最大規模の データセンターとなる。2015年までに6棟が完成し、約14,000台のラックと、約30万台のサーバーが収容されている。
百度(Baidu)、捜狗(Sougo)、騰訊(Tencent)、阿里巴巴(Alibaba)等の大手IT企業のほか、国家教育部や各地の市政府、金融機関等の50社以上が契約している。
2018年6月からは2.4億元が投じられて新たに2棟が着工されており、完成後のラック収容数は4,000台余りを予定している。現在データセンターのサーバー容量は100万台をこえて全国首位となり、設備は35万台以上で総合利用率は40%を超えている。2018年、同自治区ではアリババ、中国電信、ファーウェイ、亜信数據港、優刻得、億利科技などのデータセンター建設、アップル中国北方データセンター、同舟滙通データセンターや国家デジタル政務クラウドデータセンター北方拠点などの建設も進められる予定だ。
中国のデータセンター建設事例~福建省~
福建省福州市の福州濱海新城産業パーク内に位置し、敷地面積は4へクタール、総投資額は約30億元のデータセンターがある。データセンター棟は4棟で、このうち 2 棟は東南健康医療ビッグデータセンター、1 棟は先端コンピューティングセンター、残り 1 棟は映像レンダリングセンターとなっている。
同施設は2018年6 月末に着工したばかりで、2019年第3四半期に第1期分として5,000ラックの稼働を予定している。完成後のラック収容数は15,000で、最終的に大量の医療データを保存し、電子カルテや遠隔医療サービスのほか、臨床研究、新薬開発、ヘルスケア管理等のビッグデータ解析で利用される予定。
中国のデータセンターに関する今後の課題
中国のデータセンターの課題~電力問題~
データセンターによる電力消費量は、2020年には社会全体の約2.7%を占めるようになった。この割合はデータセンターの受託規模が大きくなるにつれて増加の一途をたどると予想されている。
データセンターのエネルギー消費は、IT機器、冷却システム、給配電システム、照明の4つの要素から構成されている。IT機器のエネルギー消費量に対する総エネルギー消費量の割合がPUE値である。同じ技術を使っていても、データセンターのエネルギー消費量は場所によって異なり、年間平均気温が低い地域ほど冷却システムのエネルギー消費量が著しく少なく、PUEも低くなっている。また、PUEの要件は場所によって異なり、一級都市や東部地域はより厳しくなっている。
PUEだけでなく、電力価格も地域によって異なる。データセンターにとって最も制約となるのは、電力消費量の指標である。Tier1都市で新たに計画されたデータセンターでは、いくらPUEが低く、電力価格が高くても、電力の入手が困難な場合が多い。そのため、電力という単一要素で考えると、データセンターは一流都市の周辺部や遠隔地で開発される傾向にある。
そんな中、2020年以降は再生可能エネルギー発電所への投資や、再生可能エネルギー発電事業者から直接電力を購入するなど「再生可能エネルギー(使用)100%」の目標に向けて動き出している。2018年時点では、中国のデータセンター業界で使用される電力のうち、再生可能エネルギーが占める割合は23%で、社会全体の再生可能エネルギー消費量の26.5%を下回っている。今後の動向に注目が集まる。
中国のデータセンターの今後の課題~各種コストの課題~
中国国内のIDC(インターネットデータセンター)企業の総合資金調達コスト(5%~8%)は、米国企業(3%~4%)に比べて依然高い。
2020年以降、新インフラや公共REITパイロットなどの支援政策が開始され、中国国内のIDC企業が直面する資金調達上の制約や資金調達コストは、改善されると考えられる。今後も高い資金調達力と資金調達効率を有する企業が恩恵を受けると予想される。
データセンターは固定資産が多く、投資と建設のサイクルが1~2年であるため、収益の伸びが著しく遅れるというシナリオが多くみられる。成熟した米国IDC企業は、高額の減価償却費控除前の実際の収益性を復元するためにEV/EBITDA法を用いて評価される。投資時期のピークにあるIDC企業は、EBITDAの成長を実証するためにさらに1~2年を必要とする場合があり、収益許容度を与えることができる。
中国国内のIDC資産の全体的なバリュエーションレベルは、米国株式市場の類似企業と同程度になった。今後も金利低下を背景に、堅調な成長実績を持つIDC企業には、まだバリュエーション改善の余地があると思われる。
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。