タイでは2015年より政府主導でキャッシュレスが促進されており、現金の利用率は年々減少しています。現在は、マレーシアやベトナム、カンボジアなどの周辺諸国と連携したQRコード決済も開発されており、ますます利便性が向上しています。
今回はそんなタイのキャッシュレス事情について、実際の活用シーンや主要サービスを中心に解説します。
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タイのキャッシュレス事情
タイでキャッシュレスが普及した理由と背景
キャッシュレス・電子決済を促進する為のタイ政府の取り組みである「国家電子決済マスタープラン(National e-Payment Master Plan)」が、2015年に閣議決定、推進されており、現金決済の割合は徐々に低下している。2016年から2018年にかけては、タイのキャッシュレス決済は83%に増加した。
国家電子決済マスタープラン(National e-Payment Master Plan)は、以下の5大プロジェクトで構成されている。
➀PromptPay(電子決済システムインフラ)
➁プラスチックカード利用の拡大
➂e-Tax(付加価値税、源泉徴収税、タックス・インボイスの電子化)
④政府給付金支払いの電子化(国民ID・電子カード使用による給付金送金 、社会保障情報の統合・公共福祉における一元化されたデータベース開発、公共部門による資金の受け取り・支払いの電子化)
➄電子決済の促進(国民への啓蒙活動 、公共部門による現金・小切手に代わる電子決済利用促進の為のインセンティブ付与)
2017年に電子決済システムであるPromptPayのサービスが開始された後、主要銀行や大手クレジットカード会社で規格が統一された標準化QRコードも導入された。これに伴いQRコード支払いが可能なポイントが増えると共に、QRコードを利用をした電子決済が急速に普及した。また、コロナ禍の影響による現金使用率の減少、オンライン購入の利用増加もキャッシュレス決済普及の後押しとなっている。
タイにおけるキャッシュレスの決済額の推移
タイの電子決済額は、2017年に339兆3940億バーツ、2018年に374兆9710億バーツ、2019年に408兆1990億バーツ、2020年に443兆2040億バーツ、2021年に459兆3740億バーツであった。また、電子決済取引件数については、2017年に41億9986万7千、2018年に60億8401万1千、2019年に89億8492万、2020年に133億9342万8千、2021年に206億6032万3千であった。
タイにおけるキャッシュレスのサービス形態
電子決済は、タイ中央銀行の管理下にあり、以下8種類のサービス・形態がある。
➀ATM(現金自動預け払い機)
➁EDC・EFTPOS(クレジットカードやデビットカードの決済端末機・システム)
➂モバイル決済
④オンライン決済
➄ATMカード
⑥デビットカード
⑦クレジットカード
⑧電子マネー
タイの小売業界最大手のセントラルグループ傘化のスーパーマーケットチェーンTopsとコンビニFamily Martにおいて、電子決済は60%を占め、電子決済を多く利用する年齢層の順は➀35〜44歳➁45〜54歳➂25〜34歳となっている。また、2023年以降、消費者の電子決済の利用率は80%になると見込まれている。
タイのキャッシュレス決済~カード決済事情~
クレジットカード
タイのクレジットカード発行枚数は、2017年20,334,780枚、2018年2,105,472枚、2019年23,998,653枚、2020年24,603,787枚、2021年25,145,787枚であった。
加盟している商店やオンラインショップ等での購買に利用されるクレジットカードであるが、タイにおける主なブランドは、VISA・Master Card・American Express・ JCB・Union Payである。また、発行については、バンコク銀行・カシコン銀行・サイアムコマーシャル銀行などの主な商業銀行の他、AEONのタイ法人であるAEON Thana Sinsap (Thailand)がサービスを提供している。
クレジットカードの決済手数料として、EDCを介しての決済は、例として、カシコン銀行の場合、Non-Premiumカードは1.80%・Premiumカードは2.40%となっている。また、オンライン決済については、銀行のPayment Gatewayでは3~5%、ノンバンクのPayment Gateway経由では、業者毎に異なり、例として、タイのオンライン決済サービスPay Solutionの場合は3.60%となっている。
デビットカード
タイのデビットカード発行枚数は、2017年54,329,727枚、2018年57,408,209枚、2019年64,772,849枚、2020年64,051,972枚、2021年64,846,431枚であった。
クレジットカードと同様にショッピングや預金の引き出し等に利用されるデビットカードであるが、バンコク銀行・カシコン銀行・サイアムコマーシャル銀行などの主な商業銀行が発行サービスを提供している。
国家電子決済マスタープラン(National e-Payment Master Plan)によるデビットカードの利用普及の為の政策により、EDCを介しての決済は、1.5~2.5%から 0.55%に引き下げられている。また、オンライン決済の場合、銀行のPayment Gatewayでは3~5%、ノンバンクのPayment Gateway経由では、業者毎に異なり、例として、タイ発祥の大手決済プラットフォーム2C2Pの場合は2.75%となっている。
タイのキャッシュレス決済~QRコード決済事情~
Prompt pay
PromptPayは、国家電子決済マスタープラン(National e-Payment Master Plan)の一環として開発が進められた電子決済・送金システムで、2017年よりサービスを開始した。覚えにくい銀行口座番号の代わりに、銀行口座と紐付けられた携帯電話番号・国民ID番号・法人番号・e-Wallet IDで登録・利用が可能。また、税金還付や政府の給付金支払いにも利用されている。
送金・支払いだけの利用なら登録せずとも利用可能であるが、送金の受け取りには登録が必要であり、各取り扱い銀行のモバイルバンキング、インターネットバンキング、ATM、支店窓口のいずれかを通じての登録が必要。
5000Bまでの送金は無料で、最大でも10Bの手数料で送金可能。法人間の送金の場合は、最大15Bの手数料となっている。
2021年12月末の時点で、6,800万の登録数があり、1日あたりの最大取引件数が約4,200万件に達しており、利用は拡大している。
PromptPayを利用した諸外国間とのQRコード決済は、日本・カンボジア・ベトナム・インドネシア・シンガポール・マレーシアとの間で可能となっている。また、シンガポールとは、携帯電話番号を使用した国際送金も可能となっている。
Rabbit LINE Pay
lモバイル送金・決済サービスの「LINE Pay」とバンコクのスカイトレインの IC乗車カードである「Rabbit card」が提携して、2016年からタイで始まったサービス。オンラインとオフラインの両方で様々なキャッシュレス支払いが可能な、LINEユーザー向けのモバイル送金・決済サービスである。
l店舗での支払いは、QRコード・バーコードの読み取りで可能。また、オンラインショッピングでの支払いにも利用可能。
l公共料金の支払い、Rabbit card、携帯電話会社AIS・Dtac、高速道路自動料金システムEasy Pass等のトップアップやMajor Cineplex・SF Cinemaの映画館チケット購入などが可能。また、加盟店・連携サービスでの割り引き・優待、キャッシュバックがある。
l利用者数は、880万人以上で、利用可能なオンラインストア・オフラインストアの加盟店数は30万となっている。
lLINE SHOPPINGの購入における、Rabbit LINE Payによる支払いに対して、出店側の決済手数料は2.5%となっている。
TrueMoney Wallet
タイ最大財閥の「Charoen Pokphand Group (CP Group)」傘下のAscend Money Groupが、2013年に立ち上げ、運営しており、非銀行系では、タイ最大手モバイル決済・送金サービスである。
店舗での支払いは、QRコード・バーコードの読み取りで可能。また、クレジットカード機能を持つバーチャルカード「WeCard」がオンラインショッピングでの支払いに利用可能。なお、店舗でのQRコード決済の際、店側の手数料は発生しない。
同じくCP Group傘下のタイのコンビニ最大手である7-Eleven全店で支払い・チャージ、通信キャリアTrueの携帯電話・インターネット料金の支払い、その他CP Group系列店をはじめとして、国内の多くのメジャーな店での支払いが可能となっており、プロモーションも多い。また、公共料金の支払い、地下鉄MRTの乗車カードのトップアップ等も行える。
利用者数は、2021年度末に2400万人となった。また、国内の支払いが可能なオフラインポイントは700万を超え、130万を超える国内外のオンラインストアでも支払いが可能となっている。
タイのキャッシュレスの課題
犯罪への利用
オンライン取引が拡大する中で、様々な犯罪・詐欺も非常に増えているが、直近の知らない間に銀行口座から引き出しされるケースの要因について、タイ中央銀行とタイ銀行協会の調査の結果、不正引き出しアプリによるものではなく、海外で登録された商品の支払いやオンラインストアのサービスによる事が判明した。
不正に引き出しされる問題について、タイ中央銀行とタイ銀行協会は、共同で以下の問題の防止・解決策を打ち出した。
➀異常な取引が確認された場合、銀行は直ちにカードの使用を停止、あらゆる経路で顧客に通知すると共に特に外国からの取引に注意を払う
➁モバイルバンキング・E-mail・SMS等の様々な経路による、全取引における顧客への通知
➂不正な引出しに関して、デビットカードの場合は、5営業日以内に返金、クレジットカードの場合は、銀行は該当取引をキャンセルし、顧客の支払いは不要で利息の請求もされない
④カード使用時の追加認証の必要性などについて、タイ中央銀行とタイ銀行協会は、カード事業者と協議をする
使いやすさの課題
スアンドゥシット大学の世論調査センター(Suan Dusit Poll)が行った、テーマが「タイ人のネット決済」のオンライン調査によると、ネット決済に関して、ユーザーの60.65%はセキュリティを非常に信頼しているとのこと。
ネット決済の際に発生する問題のTOP5は下記の通り。
➀システム不具合(64.28%)
➁銀行毎にシステムが異なり、使いにくく、多くのステップがある(47.98%)
➂立てた計画を超える金額の使用(43.82%)
④個人情報がハッキングされて無断使用された(27.40%)
➄間違った支払い・振り込み(22.43%)
また、不便であると感じること、使いこなせないとの理由で、 50歳以上のユーザーが最もネット決済を使用した事がないグループである事が分かった。タイ政府が推進するキャッシュレス社会・電子マネーの使用は、年齢の違いを考慮に入れ、国民全てのグループに対して促進すると共にシステムのセキュリティ面の信頼を高める必要がある。
タイのキャッシュレスの今後の展望
電子決済の利用促進に向けた更なる取り組み
タイのリアルタイムペイメント(即時支払い)の取引件数は、2019年は25.7億件、2020年は52.4億件で、2021年においては、97億件となり、インド(486億件)・中国(185億件)に次ぐ世界第3位となった。
タイにおけるリアルタイムペイメントは、急激に成長しており、各年齢層・あらゆる規模の事業家の間で、益々人気が高まっているが、2015年以降の国家電子決済マスタープラン(National e-Payment Master Plan)の推進とコロナ禍の影響が、リアルタイムペイメントの取引件数の増加をもたらした。
プラユット首相は、デジタル経済に向けた国の変革を非常に重要視しており、キャッシュレス社会の準備と共に、タイ政府は多くの取り組みを推進・実施してきた。国民・企業の様々な金融取引や経済活動を促進する為、タイ政府は、国家電子決済マスタープランを継続的に推進する事を決意・表明している。
他国とのキャッシュレスサービスの連携
Visa Thailandは、タイの完全なキャッシュレス社会突入について、当初は2030年頃であることを予測した。しかし、コロナ禍の影響により2027年迄にキャッシュレス社会に突入すると予測している。
国内消費者の89%が、キャッシュレス決済システムの更なる利用を計画していると推測されており、誰もが電子取引、様々な形態の電子サービス、Eコマース、デジタルバンキングを利用出来るようにする必要がある。また、テクノロジー犯罪防止の奨励において、政府・タイ中央銀行・金融機関・民間部門が協力している。さらに、オンラインプラットフォーム経済の為の法律の起草も用意されている。
タイと日本・カンボジア・ベトナム・インドネシア・シンガポール・マレーシアとの間のQRコード決済は既に始まっているが、2022年内にタイと該当国間での多くの銀行のQRコード決済サービスが開始される予定となっている。
タイとシンガポール間では、アプリ経由の携帯電話番号使用による国際送金が可能になっているが、将来的には、他国間とのサービスも開始され、サービスプロバイダー数も増える予定である。
バンコク在住のタイ人。タイにおける日系企業向け翻訳・通訳を6年間以上行う。経済、ビジネス、IT分野に興味があり、マーケティングや流通を含めた企業調査や、企業調査といった情報収集が得意。