2026年までに中国本土のクラウドインフラの市場規模は850億米ドルに達し、5年間の複合年間成長率は25%になると予測されています。世界的にはAWSやAzureなどのクラウドが存在する中、近年は中国のクラウドの存在感も増しています。
今回はそんな中国のクラウド市場について、詳しく解説します。
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中国のクラウド市場
中国のクラウドの市場規模
Canalysによると、2021年の中国のクラウドインフラサービス市場は274億米ドルになる。2021年第4四半期は、前年同期比33%増の77億米ドルとなった。2026年までに中国本土のクラウドインフラ市場規模は850億米ドルに達し、5年間の複合年間成長率は25%になると予測される。
IDCによると、2020年、世界のパブリッククラウドサービス(IAA/PAAS/SaaS)の全体市場規模は3124億2000万米ドルに達し、前年比成長率は24.1%となった。中国のパブリッククラウドサービス全体の市場規模は193億8000万米ドルに達し、前年比成長率は49.7%で、世界の全地域の中で最も高い成長率となった。中国のパブリッククラウドサービス市場の世界シェアは、2020年の6.5%から2024年には10.5%以上に拡大すると予想されている。
2021年のクラウド市場では、Alibaba Cloudが37%のシェアを獲得して首位を維持し、Huawei CloudとTencent Cloudがそれぞれ2位と3位、Baidu AI cloudが4位にランクイン。2021年には、上記クラウド事業者4社で市場シェアの80%を占めた。
中国のクラウドのトレンド
中国のパブリッククラウドサービス(IaaS/PaaS/SaaS)全体の市場規模は、2021年下半期に151億3000万米ドルに達し、IaaS市場は前年同期比40.1%増、PaaS市場は前年同期比55.7%増で成長した。
IaaS+PaaS市場については、2021年下期の前年同期比成長率は43.0%と、2021年上期の成長率(48.8%)に比べて6%近く減少している。今後5年間、中国のパブリッククラウド市場は年平均成長率30.9%と高い成長を続け、2026年には1,057億6,000万米ドルに達すると予想される。パブリッククラウドサービス市場における中国の世界シェアは2021年の6.7%から9.9%に上昇する見込み。
クラウドによるデジタル変革の加速と深化により、特に伝統産業や官公庁、エンタープライズ業界では、クラウドに対する需要が伸びている。単にクラウドに移行するのではなく、より深くクラウドを利用することを選択する企業が増え、クラウドインフラリソースやクラウドプラットフォーム製品の消費量が増加している。
2020年に世界最大のCO2排出量である中国は脱炭層政策(ダブルカーボン政策)を打ち出した。2030年までにCO2排出量を減少に転じさせ(カーボンピークアウト)、2060年までにCO2排出量ゼロ(カーボンニュートラル)を目指す予定である。最近中国系企業は、ダブルカーボン政策を加速するように、IDC(インターネットデータセンター)等からクラウドに乗り換えている。
データセキュリティ規制の対応は、クラウドへの変更を促進し、従来の古いデータセンター装置を交換して、より安全で自然環境に優しいクラウドコンピューティングインフラを選択することになっている。
中国のクラウド関連の規制
サイバー三法
2016年11月7日に、「中華人民共和国サイバーセキュリティー法」(以下「サイバーセキュリティー法」)が公布され、2017 年 6 月 1 日から正式に施行された。当該法においては、サイバーセキュリティー等級保護制度、重要情報インフラセキュリティー保護制度、個人情報および重要データの越境に対する監督管理などの一連の法律制度が確立されている。
2021年8月20日には、「中華人民共和国個人情報保護法」(以下「個人情報保護法」)が公布され、2021年11月1日から施行されている。「サイバーセキュリティー法」「データセキュリティー法」および「個人情報保護法」の三法を核とするネットワーク法が確立された。これらは、デジタル化時代におけるサイバーセキュリティー、データセキュリティー、および個人情報権益の保護を行う。
「サイバーセキュリティー法」はサイバー空間セキュリティーに対する全体的な管理の責務を担っている。「データセキュリティー法」はデータの分野における基礎的な法律として、データ処理活動のセキュリティー、開発および利用の責務を担っている。「個人情報保護法」は個人情報の権益を保障する基礎的な法律として、個人情報に対する保護の責務を担っている。
個人情報保護法
2021年8月に「中華人民共和国個人情報保護法」が公布された。中華人民共和国は、企業がデータを中国国内に保存することを義務付け、すべてのデータを第三国に転送することを禁止している司法管轄区と見なされている。
また、個人データの保護やデータのセキュリティに関する他の規則もまだ残っており、中国におけるデータセキュリティ法のいくつかの事項は重層的でかなり複雑なものとなっている。
サイバーセキュリティとデータプライバシー保護に対応する最初の国家レベルの法律は、2017年6月1日に施行された「中国サイバーセキュリティ法」が該当する。この後、中国サイバーセキュリティ法で導入された要点や考え方を精緻化するために、数多くの施行規則やガイドラインが提案、発表、改訂されていた。
サイバーセキュリティ法
サイバーセキュリティー法は以下の行為に対して、罰金また営業許可証の取り消しとなる。
a.サイバーセキュリティー等級保護義務を履行しないとき
b.サイバーセキュリティー事件の緊急対応プランを制定しないとき
c.実名制義務を履行しないとき
d.違法にサイバーセキュリティー認証を実施したとき
e.違法に検査等の活動を実施したとき、またはシステムのバグ、インターネット攻撃等のサイバーセキュリティー情報を対外的に公布しないとき
f.個人情報を侵害したとき
g.ユーザー発布情報に対する管理を強化しなかったとき
h. 法執行協力義務を履行せず、またはその履行を拒否したとき
i. サイバーセキュリティー保護義務を履行しないとき
j.データ現地化の要求に違反したとき
k. 国の安全審査規定に違反したとき
l. 製品およびサービスの安全に関する義務に違反したとき
m. サイバーセキュリティーに危害を及ぼす活動に従事したとき
n. データセキュリティー保護義務を履行しなかったとき
o. 国家核心データ管理制度に違反したとき
p. データの越境移転規制に違反したとき
q.データ取引仲介サービスを行う機構が義務に違反したとき
r. 中国国外の公的機関へのデータ提供規制に違反したとき
s. 個人情報を違法に取扱ったとき
t.個人情報の取扱時における法定の個人情報の保護義務を履行しなかったとき。
中国の主要クラウドと特徴
中国の主要クラウド~阿里(アリ)クラウド~
アリババクラウド(Alibaba Cloud)は中国最大のECサイト「淘宝(Taobao)」や電子決済ツール「Alipay」の親会社であるアリババグループが提供するパブリッククラウドサービス。既に世界21ヵ国、63ヶ所で運営し、大企業、中小企業、個人のディベロッパー、200 以上の国や地域の公共部門にクラウドコンピューティングサービスを提供している。
アリババクラウドは中国に8つのデータセンターを持ち、複数回線のBGPバックボーンネットワークで接続されている 1,500 以上の CDNノードがある。さらに、アジア、北米、ヨーロッパ、ドバイ、オーストラリアなどで19のデータセンターを提供している。コンピュート、ネットワーク、ストレージ、データベースの他、DevOps、ピックデータ、アプリケーション、モニタリング&セキュリティなど、200を超えるプロダクトが提供されている。
アリババクラウドは、アジア太平洋地域において戦略的にリソースの投入を増強している。2021年にはインドネシアとフィリピンのデータセンターが稼働を開始し、2022年3月には韓国で初のデータセンターを開設した。 2021年にアジア太平洋地域におけるデジタル人材の育成を支援するアリババクラウドのプログラム「Project Asia Forward」を立ち上げ、10万人の開発者育成と10万社のテクノロジー・スタートアップの成長を促進する10億米ドルの投資を発表した。
中国の主要クラウド~華為(ファーウェイ)クラウド~
Huawei Cloudは現在、シンガポール、バンコク、ヨハネスブルグ、メキシコシティ、サンパウロ、サンチャゴに6つのインターナショナルリージョンを展開している。アメリカの制裁により5Gとスマートフォン事業が封じ込められているが、創業者の任正非氏はクラウドコンピューティングを優先事業として見据えているとのこと。
アルゼンチンの主要医療サービス会社であるEmergenciasは、HUAWEI Cloudを遠隔診断および遠隔治療に導入した。中国の白酒の有名ブランドである五粮液は、HUAWEI Cloudにより、醸造、流通、販売に至るまでの完全なデジタル変革を実現した。また、Conch CementはHUAWEI Cloudに自社のITシステムを導入し、5G、クラウド、AIなどの技術革新の連携により、スマート工場と環境に優しい産業を築いた。
インターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)の「金融クラウド半期追跡(2021 H2)」レポートで、Huawei Cloudは中国の金融クラウドインフラ市場で1位となった。同時に、Huawei Cloud Stackは中国の自作金融クラウドインフラ市場で4年連続1位となった。中国のビッグ6銀行、12の商業銀行、トップ5の保険会社のインテリジェントな変革をサポートし、これまでに世界中の300を超える金融機関にソリューションを展開している。
中国の主要クラウド~騰訊(テンセント)クラウド~
Tencent Cloudは、中国を代表するパブリッククラウドサービスプロバイダー(CSP)。Tencent Cloudは、Tencentのインフラ構築能力と、巨大なユーザープラットフォームとエコシステムの利点を統合した、安全で信頼性の高いハイパフォーマンスなパブリックCSP。
Tencent Cloudは、中国での成長後、急速にビジネスを拡大し、日本、アジア太平洋、アメリカ、ヨーロッパとグローバルに展開している。
中国の主要クラウド~AWS(外資)~
アマゾンウェブサービス (AWS) は、世界で最も包括的に採用されているクラウドプラットフォーム。世界中のデータセンターから 200以上のフル機能のサービスを提供している。クラウドサービスの市場シェアを見ると、2022年第1四半期、クラウドインフラストラクチャーの上位3社は、AWS(シェア33%)、Microsoft Azure(21%)、Google Cloud(8%)であった。クラウドサービス全体の支出額を見ると、2022年第1四半期の全世界のクラウドインフラサービス支出は559億ドルに達し、2021年第1四半期と比較して34%増となった。
ビッグ3のCSPであるAWS、Azure、Google Cloudは、2022年第1四半期に前年比42%増の成長を記録した。AWSはAWS中国(北京)リージョンとAWS中国(寧夏)リージョン内でクラウドサービスを提供するための適切な通信ライセンスを持つ中国のローカルパートナーと協力している。
2019年4月には新しいAWSアジアパシフィック(香港)リージョンが開始された。中国本土におけるAWSのサービスは、現地の有資格者2社によって運営されている。2016年に中国の顧客に一般提供されたAWS中国(北京)リージョンは、Beijing Sinnet Technology Co. Ltd.が担当している。
中国の主要クラウド~Azure(外資)~
Microsoft Azureは、マイクロソフトのパブリッククラウドコンピューティングプラットフォーム。コンピュート、アナリティクス、ストレージ、ネットワーキングなど、さまざまなクラウドサービスを提供している。
ユーザーは、これらのサービスから選択して、新しいアプリケーションを開発・拡張したり、既存のアプリケーションをパブリッククラウド上で実行したりすることができる。Azureプラットフォームは、企業の課題を管理し、組織の目標達成を支援することを目的としている。Eコマース、金融、フォーチュン500の様々な企業を含むあらゆる業界をサポートするツールを提供し、オープンソーステクノロジーとの互換性を持っている。また、オープンソーステクノロジーとの互換性も備えており、ユーザーは好みのツールやテクノロジーを柔軟に利用することができる。さらに、Azureは、IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)、サーバーレスという4種類のクラウドコンピューティングを提供している。
IaaS市場におけるアマゾンのシェアは2020年に40.8%から2021年には38.9%に低下し、ライバルのマイクロソフトAzureのシェアは19.7%から21.1%に上昇した。2022年3月1日以降、中国北部の新しいAzureリージョンが顧客から無制限にアクセスできるようになり、中国市場に5番目のAzureリージョンが追加された。その結果、中国におけるマイクロソフトのインテリジェントクラウドポートフォリオの容量は2倍になった。
中国のクラウドの今後の動向
クラウド導入が進む分野
市場構造から見ると、現在のパブリッククラウドの市場シェアは、プライベートクラウドよりも低いものの、成長率は速く、2021年の同市場は1486億元に達すると予想される。
今後3年間、地域構造の全体的なパターンは基本的に変化せず、華北、華東、華南の3地域が最大のシェアを占め、これらの地域の企業のクラウド化レベルはさらに向上すると思われる。ビッグデータやIoTなどの新しいアプリケーションの開発もこれらの地域に集中することになる。
今後3年間、ネットワークサービス産業は、成長が鈍化するものの、最大のクラウドコンピューティング・アプリケーション分野であることに変わりはない。 しかし、製造業、金融 教育、医療、運輸、行政などの分野では、着実にクラウド化が進むと思われる。中国の大規模な産業デジタル変革の結果、製造業では今後3年間でクラウドの導入が最も急速に進む分野になると予想される。
プライベートクラウド市場の成長
今後、ビッグデータ、人工知能、産業用アプリケーションの普及が進む中で、IaaSは急速な成長の勢いを見せると思われる。特にPaaSの成長率は最も高く、2021年の市場規模は133.4億人民元に達すると予想されている。
中国ではプライベートクラウドが大きなシェアを占めており、今後3年間は20%以上の成長率を維持すると予想される。2021年のプライベートクラウドの市場規模は1,342億1,000万元に達する見込みである。
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。