【インドネシアのハラル】大規模なハラル市場とハラルビジネス事情を解説

人口の87%をイスラム教徒が占めるインドネシアは、大規模なハラル市場が存在します。世界最大のハラル製品の生産国および輸出国になるチャンスがある一方で、インドネシアのハラル製品の輸出は世界市場の約3.8%とまだまだ伸びしろが大きい状況です。今回はそんなインドネシアのハラル市場と、ハラルビジネスの実態を解説します。

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インドネシアでビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

インドネシアのハラル事情

インドネシアのハラル市場規模

インドネシア国家開発計画省が中心となり作成している「インドネシアのシャリア経済マスタープラン 2019-2024」の中で、まず、インドネシアは人口の87%をイスラム教徒が占める国であり、非常に大規模なイスラム経済に基づく製品とサービスの市場であることを紹介している。

全体として、2017年のインドネシアのハラル産業の消費は 2,000億米ドル以上であった。これは、世帯および世帯にサービスを提供する非営利団体の総消費量の36%以上、インドネシアの総GDPの20%以上に達する。

インドネシアのハラル産業の消費によってもたらされた 2,000億米ドルのうち、1,697 億米ドル (84.9%) がハラル食品の消費による。ハラル産業の主なものには、ハラル食品、イスラム金融、ハラル旅行、モデストファッション、ハラルメディアとレクリエーション、ハラル医薬品と化粧品の6つのセクターがある。

l 一方、インドネシアでは国内需要を満たすためにハラル製品を輸入しており、赤字が拡大しているインドネシアの貿易収支に間接的に影響を及ぼしている。インドネシアのハラル産業の生産を増やすことで貿易赤字の削減を図るため、ハラル製品保証に関する2014年33号法律は、ハラル産業の国内生産規模を拡大するための取り組みの1つとして発布された。

インドネシアのハラル認証

一般社団法人ハラル・ジャパン協会によると、インドネシアのハラル認証はインドネシア・ウラマー評議会(MUI)によって書かれたファトワ(イスラム法学に基づいて発令される勧告、布告、見解、裁断のこと)である。

現状のインドネシアのハラル認証は、インドネシア・ウラマー評議会食料・薬品・化粧品研究所(LPPOM-MUI)の査定及び監査をもとに発行されるもので、イスラム法に従い、製品がハラルであることを保証するものである。ハラル認証を取得すると製品のパッケージにハラルラベルを添付することを要求される。

ハラル認証を取得するには、STEP 1:BPJPH(宗教省)にハラル認証申請、STEP 2:書類審査・製造施設監査、STEP 3:BPJPHがハラル認証証明書発行、STEP 4:インドネシア税関や関連機関で書類審査・輸入許可となる。

また、生産者により継続的なハラル生産工程が保証されるために、生産者自身により用意されLPPOM-MUIによって承認されたハラル保証制度(HAS)を履行する必要がある。

HAS規格には、HAS23000:「ハラル認証要件」、HAS23000-1:「認証要件・ハラル保証制度」、HAS23000-2:「ハラル認証政策と手順」、HAS23201:「ハラル食品原料要件」、HAS23103:「食肉加工に関するHAS基準のガイドライン」などがある。

インドネシアのハラルの特徴

インドネシア食品飲料協会(GAPMMI)によると、インドネシアの人口2億7,630万人の87.2%はイスラム教徒。これは世界のイスラム教徒人口の12.7%に相当する。そのため、イスラム製品の大きな市場であり、世界最大のハラル製品の生産国および輸出国になるチャンスがある。

2019年、食品、金融サービス、イスラム教徒に優しい旅行、イスラムファッション、医薬品と化粧品、メディアとレクリエーションの6つのセクターで測定されたグローバルイスラム経済指標によるシャリア経済ランキングに基づき、インドネシアはマレーシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦に次いで世界第4位にランクされた。

一方、世界的に比較すると、現在、インドネシアのハラル製品の輸出はハラル製品の世界市場全体の約3.8%に過ぎない。

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インドネシアのハラル認証新制度(ハラル製品保証法)

ハラル製品保証法とは?

第2章で「ハラル製品保証(JPH)」が宗教大臣の下で運用されることが規定されている。第3章はハラル工程の場所と設備の規定。第4章はハラル審査機関(LPH)とハラルオーディターの規定で、LPHは官公庁、地方政府、国公立大学、国有企業、イスラム宗教機関によって設立でき、審査処理能力が拡大する。

第5章は事業体の責任と義務の規定で、中小零細企業では社内に監督者を置かなくてもよい負担軽減策が盛り込まれている。第6章は申請書の提出とハラル証明書の延長の規定で、条件を満たす中小零細企業は政府の財政が許す範囲で申請費用の負担を課されない。第7章はハラルラベルと非ハラルの説明の規定。第8章はハラル製品保証の監督(定期検査)。

第9章はハラル製品保証実施への協力。第10章は製品認証と海外ハラル認証の登録。輸入する外国製品にもハラル認証を義務付け。第11章は製品タイプに対するハラル認証義務の段階の規定で、対象商品区分は、食品、飲料品、医薬品、化粧品、化学製品、生物学的製品、遺伝子組み換え製品、および動物由来の成分を含む製品。対象サービスは、食肉処理、加工、保管、包装、配送、販売、給仕。

第12章はコミュニティーへの参加。第13章は電子ベースのサービス。第14章では行政処分。第15章は経過規定。第16章は結びである。審査期間の短縮と中小零細企業が申請・管理しやすいような環境整備が行われている。

ハラル製品保証法ができた背景

インドネシア共和国内閣官房の2021年2月21日付ニュースによるとインドネシア政府は雇用創出に関する2020年第11号法律を実施するために45本の政府規則を発表した。そのうちの一つが、「ハラル商品保証の実施」に関する2021年第39号インドシア共和国政府規則である。

雇用創出法は、地域社会に多くの雇用をもたらす国家経済の改善と成長のための積極的な刺激となるように制定された。雇用創出法はまた、許可を簡素化し、官僚機構を削減することにより、政府が海外からの投資機会をつかむためのチャンスを生み出す突破口であり、わかりやすく効果的な方法でもある。

雇用創出法に関する「ハラル商品保証の実施」を含む45本の派生的な規制の実施により、Covid-19 パンデミックで減速したインドネシア経済ができるだけ早く回復することが期待されている。

また、インドネシアは国民の87%がイスラム教徒で2億4千万人以上の巨大なハラル市場である一方で輸入への依存度も大きい。

中小零細企業のハラル対応力を強化しハラル生産力を増やすことで、輸入を国産に置き換え、さらに輸出を拡大することで、雇用が創出され、地域社会に多くの雇用をもたらすことになると期待されていることも背景にある。

ハラル製品保証法の実際の運用状況

インドネシア共和国内閣官房の2022年3月21日付けニュースによると、ハラル製品保証(JPH)を所轄する宗教省が中小零細企業向けの無料ハラル認証25,000件の取り扱いを3月~12月で行うことを明らかにした。

2021年に開始されたこのプログラムは、宗教省と多くの中央省庁、地方政府、民間機関、デジタルプラットフォーム、銀行との間の共同プログラムである。2022年の宗教省の割り当て数は25,000件だが、他の省庁、地方政府機関、銀行、民間機関からも無料の支援が受けられる。

2021年は中小零細企業のためにハラル認証費用を提供する112の機関/ファシリテーターがあり、総予算は IDR 165億ルピアに達し、7,160件の中小零細企業の無料ハラル承認が行われた。

2022年のハラル認証目標は、認証されたハラル製品が1000万個に達することである。そのため、宗教省のハラル製品保証担当部署(BPJPH)では、より多くの中小零細企業に無料でハラル認証を取得してもらえるよう資金集めのために経済調整省、財務省、協同組合および中小企業省、工業省、内務省、大統領府 (KSP)、KNEKS、カディン、企業団体、知事と銀行と緊密に連携している。

2022年9月14日のニュースでは、すでに10,164 件の無料ハラル認証が行われたとのこと。

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インドネシア産業別のハラル認証事情

食品業界のハラル認証

インドネシアでは食品医薬品監督庁(BPOM)が食品医薬品の所轄官庁として流通許可を管理している。BPOMが公開している統計によると、食品飲料の申請件数は、2017年:37,481件、2018年:44,187件、2019年:45,227件、2020年:55,206件、2021年:60,108件とCAGR12.5%で増加している。

「ハラル商品保証の実施に関するインドネシア共和国政府の規則2021年第 39号」の中では第135条にハラル認証が必要な品物としてa.食品、b.飲料と規定されている。また、第140条には、食品・飲料と屠殺製品(食肉)および屠殺サービスに対するハラル認証義務化への段階的移行期間が2019年10月17日から2024年10月17日までと規定されている。

なお、法令でハラルが義務つけられているもの、「ハラル商品保証」に関する2014年第33号法律制定前および制定後にハラル認証を受けているものは対象外とされている。

医薬品・伝統的医薬品・サプリメント業界のハラル認証

インドネシアでは食品医薬品監督庁(BPOM)が食品医薬品の所轄官庁として流通許可を管理している。BPOMが公開している統計によると、医薬品・伝統的医薬品とサプリメントの申請件数は、2017年:7,500件、2018年:9,882件、2019年:10,675件、2020年:11,339件、2021年:10,592件とCAGR9%で増加している。

「ハラル商品保証の実施に関するインドネシア共和国政府の規則2021年第 39号」の中では第135条にハラル認証が必要な品物としてc.薬と規定されている。

また、第141条には、伝統医薬、医薬部外品、サプリメントに対するハラル認証義務化への段階的移行期間が2021年10月17日から2026年10月17日まで、市販薬が2021年10月17日から2029年10月17日まで、処方箋医薬品は2021年10月17日から2034年10月17日までと規定されている。

アパレル業界のハラル認証

インドネシアの情報サイトkumparan.comによると、2021年、イスラム教徒のハラルファッションは 6%から9%に増加したとのこと。イスラム教徒の女性がヒジャブを着用する意識も高まっている。さらに、デジタル時代の技術の進歩によりオンラインプラットフォームで容易に欲しいハラルの服を見つけることができるようになったことも増加の要因と分析している。

「ハラル商品保証の実施に関するインドネシア共和国政府の規則2021年第 39号」の中では第141条のe.項に「衣類、頭にかぶるもの、アクセサリーのカテゴリーで使用される消費財」に対するハラル認証義務化への段階的移行期間が2021年10月17日から2026年10月17日までと規定されている。”

化粧品業界のハラル認証

インドネシアでは食品医薬品監督庁(BPOM)が食品医薬品の所轄官庁として流通許可を管理している。BPOMが公開している統計によると、化粧品の申請件数は、2017年:53881件、2018年:54,124件、2019年:78,262件、2020年:71,186件、2021年:87,389件とCAGR12.8%で増加している。

「ハラル商品保証の実施に関するインドネシア共和国政府の規則2021年第 39号」の中では第135条にハラル認証が必要な品物としてd.化粧品と規定されている。また、第141条には、化粧品、化学製品、遺伝子工学製品に対するハラル認証義務化への段階的移行期間が2021年10月17日から2026年10月17日までと規定されている。

インドネシアではWardah、Martha tilaar、La Tulipe、Mustika Ratuなど現地の大手化粧品メーカーが差別化要素としてハラルを推進してきた背景がある。

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インドネシアのハラル認証のトレンド

ハラル経済拡大に向けた4つの主要戦略

インドネシアでは今後シャリア経済を拡大させていくために、4つの主要な戦略がある。

第1はハラル食品産業、ハラル観光産業、ムスリムファッション産業、ハラルメディアおよびレクリエーション産業、ハラル医薬品および化粧品産業、再生可能エネルギー産業からなるハラルバリューチェーンを強化すること。第2はスラム金融セクターを強化すること。第3は中小零細企業を強化すること。第4はデジタル経済の活用を強化すること。である。

この流れの中でハラル承認の果たす役割が大きいのは、戦略1のハラルバリューチェーンの強化と戦略3の中小零細企業の強化である。とりわけハラル認証の取得で中小零細企業が生産拡大することに注力されると思われる。

ハラル認証の国際協力化

今回発布された「ハラル商品保証の実施に関するインドネシア共和国政府の規則2021年第 39号」の第9章:「ハラル製品保証実施への協力」の第6部:「ハラル商品保証国際協力」に国際協力についての規定が盛り込まれており、第122条にはハラル証明書の相互承認が謳われている。

さらに第10章第127条ではBPJPH とのハラル証明書の相互承認に合意した外国のハラル機関が発行するハラル証明書のあるハラル製品はインドネシアでのハラル証明書の申請を行う必要がないことが明記されている。

今後、中小零細企業にハラル認証の普及が進み、ハラル製品製造業界の輸出拡大へのニーズが高まると本格的にハラル認証についても政府主導で国際協力が進んでいくと考えられる。

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