【タイの半導体】自動車産業への影響大!投資が進む半導体産業を解説

半導体は、スマート家電やEV等の製品に使用されており、世界的な需要が高まっています。タイにおいても、政府が電気自動車産業に注力していますが、部品として必要な半導体は輸入に頼っている状況です。そんな中、政府や企業がどのようにタイの半導体産業への投資を進めているか、詳しく解説していきます。

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タイでビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

タイの半導体事情

世界の半導体事情

半導体市場調査会社IC Insightsのデータによると、2021年の世界の半導体売上高は、景気回復とシステム・製品・電子機器のメーカー需要の増加に伴い、前年比25%増の6,140億ドルとなり、売上が最も伸びた半導体の種類は、26%増となった集積回路(IC)であった。

非IC半導体(O-S-D:オプトエレクトロニクス、センサ/アクチュエータ、ディスクリート半導体)は、18%増となった。尚、販売数量における10年間の年平均成長率については、集積回路(IC)の販売量は年平均7.4%で成長し、非IC半導体(O-S-D)の販売量は年平均4.7%の成長となっている。

また、半導体業界の売上高上位10社について、2021年の総売上高は、3,891億9,400万ドルで、世界の半導体業界の63.4%を占めており、上位10社の売上高において、米国企業が50%、韓国企業が30.9%、台湾企業が19.1%を占め、売上高ランキング上位3社は、韓国のSamsungが8,300億ドルで1位(前年度2位)、アメリカのIntelが7,560億ドルで2位(前年度1位) 、台湾のTSMCが5,660億ドルで3位(前年度3位)であった。

タイの半導体市場

過去5年間(2017年~2021年)のタイの半導体貿易額は、年間平均244億9,000万ドル、年平均5.7%の成長であった。(年間平均輸出額は、101億6,600ドル・年平均2.2%の成長、年間平均輸入額は、143億2,400万ドル・年平均8.2%の成長)

2021年のタイの半導体貿易額は、総貿易額の5.6%を占める288億8,500万ドル(前年比21.1%増)であった。尚、輸出額は、総輸出額の4.1%を占める111億9,500万ドル(前年比15.4%増)で、輸入額は、総輸入額の7.3%を占める176億8,900万米ドル(前年比24.9%増)であった。また、2021年のタイの半導体輸出額は、世界の半導体輸出額全体の0.7%を占める第14位で、ASEAN内においては、シンガポール(7.8%)・マレーシア(4.3%)・ベトナム(1.2%)に次ぐ、第4位であった。

フルで半導体の生産稼働をしているも国内生産量が、タイ国内産業向けの需要を満たすには不十分である事などから、タイは依然として、半導体の種類によっては、海外からの輸入に依存している。また、タイの殆どの電子製品は受託生産である為、研究開発が限られており、製品の技術的な部分も、輸入に頼る要因となっている。半導体は、スマート家電やEV等のほぼ全ての新しい製品に使用されており、国内外の半導体需要の増加などにも対応する為に、タイは国内の半導体産業のレベルアップを加速する必要がある。

タイの半導体不足による製造業への影響

タイは世界第16位の自動車輸出国(2020年)であるが、ここ数年、自動車への高度なテクノロジー導入により、自動車産業における半導体需要が増している。自動車産業は、電化製品産業に匹敵する半導体を使用する産業となっており、EV生産の促進も半導体の使用を加速している。コロナ禍になり半導体不足が始まり、様々な産業に影響を与えたが、特に自動車産業に大打撃を与えた。

多くの半導体メーカーは、工場を拡張し、生産能力を増強する計画を立てており、半導体不足の状況が落ち着き始める可能性があるが、半導体製造おいて重要なネオンガス・パラジウムの主要輸出国であるウクライナとロシアの戦争は、更なる半導体不足を招くとともに、タイからの両国への自動車輸出は2万台以上減少した。

2022年4月~5月の大手半導体工場がある上海のロックダウンも部品や半導体の不足に影響を与え、ミャンマーの自動車輸入禁止政策により、2022年7月末に自動車輸出が、2,000台以上減少した事などから、2022年8月にタイ工業連盟(FTI)は、2022年の自動車生産目標について、輸出向けを100万台から90万台に削減、国内販売向けを80万台から85万台に増やし、当初の180万台から175万台に調整、5万台削減した事を発表した。

他国のタイの半導体産業への投資状況

ソニーグループの半導体メーカーのソニーセミコンダクタソリューションズは、生産コストの削減と緊急時における回復力のあるサプライチェーン構築の為、タイに100億円を投資して、タイ中部の拠点に自動車用の障害物を識別する画像センサーを製造する半導体工場を新設する。竣工時には、ソニーのタイでの生産規模は70%アップし、同新工場に追加で2,000人を雇用する予定。コロナ禍の影響により世界の半導体生産が停止し、電子部品・自動車の生産が減少した為、ソニーの国際労働部門は、緊急時でも顧客に継続的に製品を供給できる体制を構築する必要もあったが、市場シェアの半分以上を占める世界有数のイメージセンサーメーカーと見なされているソニーは、機械操作をする多くの人員を必要としており、比較的人件費が安いタイへの投資は、ソニーの競争力向上に役立つ。

外国投資を誘致して、タイを半導体の生産拠点にする事は、供給ショックや地政学的リスク等による半導体サプライチェーンへのリスクからのタイ経済への影響を軽減する為の役立つ戦略の1つであるが、『➀タイの人材の質と能力ある人材を惹き付けるタイの能力が低い➁ビジネス法と知的財産保護におけるタイの弱点』の2項目が障害になり、タイが半導体製造部門に投資を誘致する事は容易ではない。政府が半導体への投資を誘致するには、該当2項目に注意を払い、開発を加速する必要がある。

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政府の半導体生産の政策

半導体産業への投資奨励措置

2021年6月30日に、タイ投資委員会(BOI)とプラユット首相を議長とする投資委員会の会議で、競争力向上の為に幾つかの項目でメリットによる追加恩典(Merit-based Incentives)を改定し、半導体・デジタル・パッケージング産業への投資を促進する為に恩典を追加した。半導体産業への投資奨励措置として、以下内容を承認した。

➀前工程の資本と技術集約型の製造業には10年間の法人税免除措置が適用される。これには、エレクトロニクス設計・シリコンウェーハ・ウェハーファブ等の前工程半導体投資が含まれる。➁ウェハーソート・ダイバンク・アセンブリ・ICテスト等の後工程半導体投資は、最低15億バーツの機械投資で8年間の法人税免除の対象となり、15億バーツ未満の機械投資の場合は5年間の法人税免除措置が適用される。➂プリント基板(PCB)製造において最低15億バーツの機械投資の場合は、8年間の法人税免除の対象となり、15億バーツ未満の機械投資の場合は5年間の法人税免除措置が適用される。④プリント回路基板アセンブリ (PCBA)の製造において最低5億バーツの機械投資の場合は、5年間の法人税免除の対象となり、5億バーツ未満の機械投資の場合は3年間の法人税免除措置が適用される。

電気自動車産業と半導体産業への投資拡大

タイ工業連盟(FTI)は、中国・台湾間の政治的緊張の中で、半導体ビジネスに関してタイにプラスになる事を模索しているが、世界最大の台湾の半導体受託製造メーカーTSMCは、シンガポールやその他ASEAN諸国への投資を拡大しようとしており、FTIは、タイ政府は、同社にタイへの投資を誘致するべきであり、TSMCが、半導体事業をタイに拡大した場合、多くの地元産業、特に電気自動車(EV)製造が利益を得るであろうとの見解を示している。

FTIによると、メーカーは、電気自動車を製造する為に約7,000の半導体・センサー・その他電子部品を必要としている。また、タイ政府は、電気自動車産業の開発に非常に力を入れている。2021年、国家電気自動車政策委員会は、タイを地域の電気自動車生産拠点にする計画の一環として、2030年迄に自動車生産全体の30%を電気自動車にするという目標を発表した。

電気自動車産業は、経済特区のチャチュンサオ・チョンブリ・ラヨーンの3県にまたがるEEC(東部経済回廊)における12の重点産業の内の一つでもあり、タイ政府は、EECに外国人投資家を引き付ける為の投資インセンティブを提供しているが、例として、中国のハイテク大手Xiaomiも、タイでの電気自動車用半導体工場設立・EECに投資した場合の恩典に関心を示している。

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タイの半導体主要メーカーの概要と特徴

Toshiba Semiconductor(Thailand)

東芝の100%子会社で、1990年に設立。東芝は小信号デバイス・オプトデバイス・パワーデバイスの3つのカテゴリーのディスクリート半導体を供給しているが、TSTは、小信号デバイスとオプトデバイス製造の後工程にあたる組み立てと試験を行っている。

タイ経済に大きな打撃を与えた2011年の大洪水の際、TSTの製造施設も完全に浸水し、操業停止を余儀なくされ、東芝は、日本とマレーシアの生産拠点に業務を移管し、アウトソーシングを活用する事で対応した。TSTは、この危機を最先端の生産ラインへの投資を行う好機とみなし、2012年にバンコクの北東約 140kmのプラーチーンブリー県に工場の移転を決定、生産ラインのレイアウトを改良した新工場の着工を開始し2013年から、新工場による量産を開始した。

また、TSTでは、30年以上取り組んできた小信号およびオプトデバイスの生産に加えて、省エネルギー化に重要な役割を果たすパワーデバイスについても、東芝グループ内から生産を移管し、需要増加に対応している。

HANA Microelectronics

ASEANの大手半導体メーカーである同社は、タイに本拠地を置く多国籍電子製造サービス企業。1978年に小さな電子組立会社として設立され、1993年2月にタイ証券取引所に上場した。

コンポーネント・サブアセンブリ・小型の電子完成品を製造しており、主な製品グループは、プリント回路基板アセンブリ(PCBA)、集積回路(IC)のアセンブリとテスト、ICウェハデバイス、RFID・ LCOSのデバイスで、現在、親会社である同社ならびに5つの子会社を含めて、製造施設は、タイのランプーン県に2ヶ所(同社)、タイのアユタヤ県(Hana Semiconductor (Ayutthaya))、中国(Hana Microelectronics (Jiaxing))、アメリカ(Hana Technologies)、カンボジア(Hana Microelectronics (Cambodia))、韓国(Power Master Semiconductor )の計7ヶ所ある。

2011年にタイで起きた大規模な洪水の際、本社とアユタヤの主要工場は、3ヶ月間浸水し、アユタヤの工場は、大量の需要がなくなった、長きにわたり生産してきた時代遅れの標準パッケージ生産を削減する必要に迫られ、会社は大打撃を受けたが、その後、費用対効果の高い小型のカスタマイズされたICパッケージの設計などのより付加価値の高い事業へのシフトを決定する事となり、結果的にプラスに転じた。

EIC SEMICONDUCTOR

1984年設立のディスクリート半導体のメーカー・サプライヤー。本拠地のタイの他にアメリカ・香港・中国にも拠点を持っている。15,000を超す部品と50を上回るパッケージタイプを持つ、同社の製品は、➀整流ダイオード➁高速スイッチング/小信号ダイオード➂定電圧ダイオード④過渡電圧サプレッサダイオード➄トランジスタの5つの主要なカテゴリに分類され、専用の半導体前工程工場およびアセンブリ工場で、エンド・ツー・エンドの生産を行っている。2006年にガラス不導態処理ウェハーとオープン接合ウェハーを生産するウェーハ工場を開設した際には、国内でシリコンウェハーの内製を開始した最初の半導体メーカーとなった。

2019年からリスク分散の為に、食品事業にも投資、焦点を当てるようになり、 Eastern Cuisine (Thailand)、Crepes & Co. Developmentという子会社を持ち、 6つのブランド「Bake Cheese Tart・ZakuZaku・Rapl・Kagonoya・Crepe and Co.・Le Boeuf 」を展開し、レストラン・スイーツ店を運営している。

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タイの半導体産業の今後の動向

半導体産業の発展に向けた課題

タイは、半導体産業の強化・レベルアップに取り組んでおり、半導体産業の発展は、将来のタイ経済の原動力となる重要対象産業の一つと見なされているスマートエレクトロニクス産業の発展の一部でもあるが、タイの半導体生産と貿易を強化・レベルアップする為には、以下の点を重視すべきである。

➀外国からの投資の促進・誘致➁半導体の設計・開発を行う外国人研究者の誘致の為のインセンティブ措置➂国内半導体メーカーのポテンシャル開発の促進④事業家に対する将来的に主要プレーヤーが変わり、サプライチェーンが変化する可能性の啓発➄半導体業界の事業者と半導体を部品に使用する製品の製造業者間における対話の促進⑥輸出先国と輸入元国の拡大

米中関係の影響  

世界経済の減速により、主な消費市場であるコンピュータ産業と電子産業の需要が減少傾向にあり、2023年には半導体不足の状況が緩和する可能性が高いと予測されている。半導体不足問題の緩和は、半導体を主要部品として依存する必要があるタイの産業にとってプラスの要因であり、特に自動車産業・電気器具産業において、継続した生産が可能となるが、タイの実業家は、減速傾向にある経済成長・世界的なテクノロジーサプライチェーンの変化に対応しなければならない。

中国へのハイテク半導体の輸出阻止における米国の措置の影響から、中国のハイテク川下製品は、高まるタイの実業家の需要に応じられない可能性があり、タイの製造部門は、サプライチェーン、製造・マーケティング・テクノロジーのリスクカバーについて、更なる管理をする必要がある。

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