アメリカのキャッシュレス決済市場は年平均成長率17.74%で急拡大中。
2024年の決済比率84%を支える主要企業の戦略と、Apple Pay、PayPal、Venmoなど注目プレイヤー8選の最新動向を詳しく解説。
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アメリカのキャッシュレス事情
アメリカのキャッシュレス決済の市場規模
アメリカのキャッシュレス決済市場は急速な成長を続けており、その規模は非常に大きなものとなっている。2024年の米国デジタル決済市場規模は約360億7000万ドルと推定されており、2034年までに約1847億2000万ドルに達すると予測され、年平均成長率(CAGR)は17.74%になる見込みである。
北米の決済市場全体を見ると、2024年には3890億ドルと推定され、2029年までに6393億3000万ドルに達し、予測期間中(2024~2029年)に10.45%の年平均成長率で成長すると予測されている。さらに、グローバルなデジタル決済市場は2024年の10兆1800億ドルから2033年には32兆700億ドルに達すると予想され、2025年から2033年にかけて13.59%のCAGRで成長する見込みである。
アメリカでキャッシュレスが普及した理由と背景
アメリカでキャッシュレス決済が普及した背景には、いくつかの重要な要因がある。まず、アメリカは広大な土地を持つため、定期的にATMで現金を引き出す必要がないキャッシュレス決済の利便性が際立っている。また、キャッシュレス決済では使用したお金の流れが記録されるため、不正利用を防ぐことができ、現金のような紛失や盗難のリスクも軽減される。
歴史的背景を見ると、アメリカではクレジットカードの原型が1950年代に誕生し、1970年代にはATMと磁気カード、暗証番号による現金引き出しシステムが普及した。さらに、クレジットカードよりも前から小切手による決済が企業間取引で広く利用されており、これがキャッシュレス化の基盤となった。
スマートフォンとeコマースの急速な普及も市場を牽引する重要な要因となっている。デジタル決済体験の向上とともに、消費者がオンラインショッピングをより快適に利用するようになり、モバイル機器や携帯機器の利用が増加したことが成長を後押ししている。
アメリカのキャッシュレス決済額の推移
アメリカのキャッシュレス決済比率は2016年時点で46%だったが、着実に成長を続けている。2023年には米国の全体的なキャッシュレス決済比率は84%に達しており、現金使用は大幅に減少している。
2024年の調査では、消費者の現金での支払いが前30日間で使用した割合は83%まで減少し、2023年の87%から4ポイント低下した。決済額全体に占める現金の割合も、2023年の16%から2024年には14%まで減少している。
消費者1人当たりの月間決済回数は2024年に平均48回となり、2023年から約2回(6%)増加した。月間決済額も5382ドルから6867ドルへと28%増加し、平均決済額は142ドルとなり、前年から21%増加している。
アメリカのキャッシュレス決済:カード決済事情
アメリカのクレジットカード決済
クレジットカードはアメリカで最も広く利用されているキャッシュレス決済手段である。2019年の調査では、調査対象者の80%がクレジットカードを利用しており、アメリカ人の80%以上が日々の買い物にクレジットカードを使用している。
2024年には全国のクレジットカード取引件数は推定562億件に達し、1日平均1億5390万件、1秒当たり1781件の取引が行われている。アメリカの消費者は年間257回のクレジットカード取引を行い、約1.5日に1回の頻度で使用している。
クレジットカードによる購入総額は2024年に5兆5100億ドルに達し、1日平均151億ドルの取引が行われており、平均取引額は98.31ドルである。クレジットカードは全決済の3分の1を占め、決済額ベースでは5分の1を占めている。
小売店の99%、レストランの95%がクレジットカード決済に対応しており、公共交通機関、駐車場、自動販売機への導入も進んでいる。Apple Payなどの非接触型決済システムの普及により、米国の上位100社の小売業者のうち74社がApple Payをサポートし、全小売業者の65%が対応している。
アメリカのデビットカード決済
デビットカードもアメリカで非常に重要な決済手段となっている。TSYSの2018年の調査によると、アメリカ人の約54%がデビットカードの使用を好む一方で、クレジットカードを好むのはわずか26%となっている。
2023年の統計では、アクティブなデビットカード保有者は月間34.6回の取引を行い、そのうち30.7回が店頭での利用、2回が口座間送金、1.9回がATM取引だった。デビットカード保有者の年間支出額は平均17,274ドルで、2018年から2023年にかけて年平均8.1%の成長を示している。
デビットカードの普及率は80.5%に達し、2018年から2023年にかけて年平均0.6%ずつ改善している。平均取引額は46.89ドルで、年平均3.4%の増加を示している。
カード非提示取引(オンライン決済など)がデビットカード支出の45%を占め、デビットカードの38%がモバイルウォレットに登録されている。これにより、デビットカードは小売銀行の顧客体験の要となっており、年間400回以上の取引により、消費者と金融機関の関係価値を日々思い起こさせる役割を果たしている。
アメリカのキャッシュレス決済:主要プリペイド決済5選
Bluebird by American Express
Bluebird by American Expressは、アメリカン・エキスプレスとウォルマートが提携して提供するプリペイドデビットカードサービスであり、2025年5月現在、アメリカ国内で多くのユーザーに利用されてきた。このサービスは、メタバンク(MetaBank®, N.A.)が親会社となるBluebird Bankが発行元となっているが、実際にはアメリカン・エキスプレスがブランド名とネットワークを提供し、ウォルマートが流通や店舗サービスを担っていた。
Bluebirdカードは、アメリカン・エキスプレスが利用できる場所であれば、オンライン・オフライン問わず支払いが可能だ。また、ウォルマートや全国24,000カ所以上の「MoneyPass」ATMネットワークで現金の無料引き出しができるのが大きな特徴である。年会費や外貨手数料が無料で、審査も通りやすいため、銀行口座を持たない層や若年層、留学生など幅広いユーザーに利用されてきた。
「Bluebird2Walmart Money Transfer Powered by Ria」という独自の送金サービスも提供されており、Bluebirdの口座から誰でもウォルマート店舗で現金を受け取れる仕組みが整っている。送金手数料は、$50以下で$4、$50.01~$1,000で$8、$1,000~$2,500で$16と設定されており、現地の金融サービスとしては比較的安価な水準だ。
ただし、2025年5月時点でアメリカン・エキスプレスは2026年6月3日をもってBluebirdおよびServeの全口座を閉鎖する方針を発表しており、今後は段階的にサービスが終了する予定となっている。利用者は、2026年6月3日までアカウントを利用できるが、同年5月5日以降は新規入金ができなくなるため、他の金融サービスへの移行が求められている。
Walmart MoneyCard
Walmart MoneyCardは、ウォルマートとGreen Dot Bankの提携により2007年に導入されたプリペイドデビットカードだが、現在はデマンドデポジットアカウント(DDA、要求払い預金口座)として提供されている。このカードはアメリカ国内で最大規模の小売ブランド型デビットカードであり、2025年5月時点で100万人以上のユーザーがいる。
Walmart MoneyCardの主な特徴は、ウォルマートでの買い物で最大3%のキャッシュバック(Walmart.comで3%、給油所で2%、店舗で1%、年間最大$75まで)、2%の高金利付き貯蓄口座、オーバードラフト保護(最大$200、条件付き)、早期直接入金(給料や給付金の入金が最大2日早くなる)、そして家族4人分の追加カードが無料で発行できる点だ。月額利用料は$5.94だが、月に$500以上の直接入金があれば無料となる。
カードの資金補充は、ウォルマート店舗やGreen Dotの提携店舗、直接入金、他銀行からの振込など多様な方法がある。現金の出金はウォルマートMoneyCenterやCustomer Serviceで無料で可能だが、ATM利用時は$2.50の手数料がかかる。
Walmart MoneyCardは、クレジットチェックなしで利用でき、オンラインやモバイルアプリで資金管理ができる。2024年以降はGreen Dot Bankのデジタルバンキングプラットフォームが利用でき、従来の銀行口座と同様の機能を備えている。ウォルマートの4,500店舗以上、Green Dotのネットワーク店舗9万店舗以上で現金の入出金や資金管理ができる。
今後もウォルマートとGreen Dotの提携は継続され、2025年5月に契約が2033年まで延長されたことも発表されている。Walmart MoneyCardは、銀行口座を持たない層やウォルマートをよく利用する消費者にとって、安全かつ便利な現金管理ツールとして定着している。
NetSpend Visa Prepaid Card
NetSpend Visa Prepaid Cardは、アメリカ国内で広く利用されているリローダブル(再チャージ可能)なプリペイドデビットカードであり、銀行口座やクレジットチェックが不要な点が大きな特徴だ。このカードはVisaのネットワークを利用し、Visaカードが使える場所ならどこでも購入や現金引き出しが可能である。NetSpendカードはオンラインショッピングや店舗、ATM、電話注文など多様なシーンで利用でき、全米13万カ所以上のリロード拠点で資金補充ができる。
NetSpend Visa Prepaid Cardは、主に銀行口座を持たない層やクレジットヒストリーがない人、若年層や留学生、ギグワーカーなど幅広いユーザーに利用されている。直接入金(ダイレクトデポジット)を設定すれば、給与や給付金を最大2日早く受け取れる利便性がある。また、PayPalやWestern Unionとも連携しており、家族や友人への送金や口座間の資金移動も可能だ。
カードの取得や利用には年齢や住所などの本人確認が必要だが、クレジットチェックは不要であり、ほぼすべての人が利用資格を得られる。カードには複数の料金プランがあり、利用頻度に応じて「Pay-As-You-Go」プラン(都度課金)や「Monthly Plan」(月額課金)を選択できる。カード購入時やリロード時に手数料が発生する場合があるが、オンライン申し込みなら初期費用無料のケースもある。
NetSpend Visa Prepaid Cardは、FDIC(連邦預金保険公社)による預金保険も付帯しており、資金の安全性も確保されている。ただし、ATM利用や現金リロード、一部の取引には手数料がかかるため、利用前に料金体系を確認することが推奨される。また、NetSpendの場合は高金利の貯蓄口座(最大年利6% APY、上限2,000ドルまで)も選択できる。
FamZoo Prepaid Card
FamZoo Prepaid Cardは、家族向けに特化したプリペイドデビットカードであり、2013年からサービスが開始されている。アメリカの親が子供やティーンエイジャーに金銭管理を教えるためのツールとして高い評価を得ており、利用者の資金はFDIC(連邦預金保険公社)による保険とMastercardのゼロリスクポリシーによって保護されている。
FamZooの大きな特徴は、家族全員がアカウントを共有できる点だ。親がアカウント全体を管理し、子供は自分のカードや資金状況のみを確認できる。親はアプリやウェブサイトから現金の送金や振込、チャージ、カードのロック・アンロック、リアルタイムの利用通知、目標設定、家事手伝いへの報酬設定など柔軟な機能を利用できる。また、FamZooはスマートフォンがなくてもPCやタブレット、テキストメッセージから利用可能で、家族の規模やニーズに応じて柔軟に対応できる。
料金体系は家族単位で設定されており、月額プランは$5.99、6か月前払いで$25.99、12か月前払いで$39.99、24か月前払いで$59.99と選択肢があり、家族が大きいほどコストパフォーマンスが高い。カードは月額プランで最大4枚まで無料で発行でき、それ以上は1枚あたり$3の追加料金がかかる。
FamZooカードはMastercard加盟店ならどこでも利用でき、オンライン・オフライン問わず支払いや現金引き出しが可能だ。ただし、ATM利用時はFamZoo側の手数料はないものの、ATM運営会社の手数料が発生する場合がある。現金チャージは提携小売店で可能だが、店舗によって$5程度の手数料がかかる場合もある。
Cash App Card
Cash App Cardは、Sutton Bank発行のVisaプリペイドデビットカードであり、2025年現在、アメリカで非常に高い人気を誇るデジタル決済ツールの一つだ。このカードはCash Appのアカウント残高と連動しており、オンライン・オフライン問わずVisaが利用できる場所ならどこでも即座に支払いや現金引き出しができる。
カード自体は色や絵文字、カスタムデザインで自由にパーソナライズできる点が特徴で、ユーザーは日常の買い物や食事、ATM利用、さらにはQRコード決済にも活用できる。Cash App Cardの利用者は2023年第3四半期時点で1,500万人以上に達し、年率30%の成長を記録している。ユーザーの多くは18~29歳の若年層が占め、平均月間支出は約500ドルに上る。
Cash App Cardには「Boosts」と呼ばれる特典があり、DoorDashやStarbucksなどの有名ブランドで限定割引を受けられる。このBoostsは利用状況に応じて切り替えることができ、従来のカードリワードよりも実用的な節約が可能だ。また、月間300ドル以上のダイレクトデポジットを受けることで、無料のオーバードラフト保護やATM手数料の還元対象となる。
Cash App Cardの利用には月額料金はかからず、アカウント認証を済ませれば1日最大7,000ドルまでの送金や決済が可能だ。さらに、2025年にはCash App Metal Cardも登場し、すべての購入で5%のキャッシュバックが受けられる革新的なサービスも提供されている。
Cash Appは2023年時点で全米5,000万人以上の月間アクティブユーザーを抱え、特にZ世代やミレニアル世代を中心に幅広い層に支持されている。
アメリカのキャッシュレス決済:主要モバイル決済3選
Apple Pay
アメリカにおけるApple Payは、2014年にサービスを開始して以来、着実に利用者を拡大している。2024年時点でアメリカのApple Payユーザー数は約6,020万人、2025年には6,390万人、2026年には6,700万人に到達すると予測されており、今後も成長が続くと見込まれている。2022年のユーザー数は5,080万人であり、予測値と若干異なるものの、全体として利用者数は年々増加している。
利用者層ではZ世代(1996~2015年生まれ)が最も高い利用率を示しており、特にデジタルウォレット利用者の73.1%がApple Payを少なくとも週1回利用しているという調査結果もある。また、アメリカの小売店の85%以上がApple Payに対応しており、加盟店数は実質100万店舗を超えている。オンラインストアやアプリ内決済でも利用可能で、対応店舗やサービスは今後も拡大傾向にある。
Apple Payの利用方法は、iPhoneやApple WatchなどのWalletアプリにクレジットカード、デビットカード、プリペイドカードを登録し、店舗のレジやオンライン決済時に認証を行うだけだ。Apple Payを通じてApple Cardを利用すると、Apple Pay経由での支払いで2%のキャッシュバックが得られる特典があり、Apple製品や提携先での支払いでは最大3%のキャッシュバックも受けられる。
なお、店舗や消費者がApple Pay利用時にApple側に追加で手数料を支払うことはないが、カード発行会社や決済ネットワークがAppleに支払う手数料は存在する。アメリカではクレジットカード利用時に購入金額の0.15%、デビットカード利用時に1回あたり0.5セント(約0.6円)の手数料が発生し、これがAppleの収益源となっている。消費者や加盟店が直接Appleに手数料を支払うことはないため、実質的に利用者・出店側ともに追加コストはほぼ発生しない形だ。
Paypal
PayPalは1998年にオンライン小売業者の決済サービス「Confinity」として設立され、2002年にeBayに買収された後、2015年に独立企業「PayPal Holdings, Inc.」となった。2025年時点でPayPalは200ヵ国以上の国と地域で利用可能であり、世界中で3,500万社以上の企業が利用している。利用者数は2021年に4億2,600万人、2024年には約4億2,900万~4億3,400万のアクティブアカウントに拡大し、年間取引回数は2024年に約263億回、取引総額は1兆6,800億ドルに達している。
PayPalはオンラインショッピング、モバイル決済、ピアツーピア送金、請求書作成、さらには最近では「Pay Later」などの後払い決済や暗号資産取引にも対応している。米国ではPayPalが最大のeコマース決済ブランドと認識されており、オンライン決済の採用率も非常に高い。
利用者層は25~34歳のミレニアル世代が最も多く、全体では男性が55.1%、女性が44.9%を占める。また、米国ではどの世代でも71~85%がPayPalを利用したことがあると回答しており、幅広い年齢層に浸透している。PayPalの「Pay Later」サービスではミレニアル世代とZ世代が全体の約51%を占め、後払い決済の普及も進んでいる。
店舗側の決済手数料は標準で3.49%+固定手数料(例:米国では$0.49)となっており、消費者側の手数料は基本的に無料である。米国ではディスカバーを含む主要決済ネットワークの非接触型決済端末が設置されている店舗であれば、PayPalアプリを利用したコンタクトレス決済も可能だ。
venmo
Venmoは2009年にサービスを開始し、2013年にモバイル送金・決済サービスの「PayPal」の傘下に入った。主にアメリカ国内で利用されることを前提に開発され、家族や友人同士の金銭のやり取りを円滑に行うための送金・決済サービスとして高い人気を誇る。PayPalが利用可能なほぼ全てのアプリやオンラインショッピングで利用でき、近年は店舗でのQRコード読み込みによる決済も急速に普及している。
店舗側には標準で2.9%の決済手数料がかかる場合があるが、実際にはVenmo Businessプロファイル利用時の手数料は1.9%+$0.10が主流となっている。一方で、利用者が友人や家族に送金する場合、銀行口座やデビットカードからの送金は無料だが、クレジットカード利用時は3%の手数料が発生する。また、利用者が送金されたお金を即座に銀行口座に引き出す場合は即時振込手数料として1.5~1.75%(最低$0.25、上限$25)がかかる場合があるが、通常の1~3日かかる引き出しは手数料無料だ。
2022年にはアメリカ国内で約7,700万人のユーザーを獲得し、2024年には約8,500万~9,200万人、2025年には推計で9,700万人、2026年には1億人を超えると予測されている。ユーザーの大部分はミレニアル世代(1980~1995年生まれ)が占めるが、近年はZ世代(1996~2015年生まれ)や若年層の利用も拡大しており、特に18~34歳が利用者の中心層となっている。

ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。

