世界銀行によると、2030年、メタバースのGDPへの貢献は全世界で3兆米ドルになると予想されています。アメリカ企業のMeta(旧FACEBOOK)やMicrosoftなどはゲーム業界だけではなく、既にビジネスの世界でもメタバースを取り入れています。今回はそんなアメリカのメタバース業界について詳しく解説します。
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アメリカのメタバース事情
メタバースとは?
メタバースとは、アメリカのSF作家・ニール・スティーヴンスンが1992年に発表したSF小説「スノウ・クラッシュ」に登場する言葉である。語源としては「Meta=超越」「Universe=世界」の二語を合成した造語である。
一般に、メタバースは「仮想空間」と訳される。様々な仮想空間の中で、自分の分身のアバターを使って活動する世界観を意味する。これは専用の機材が必要な点で、VR(Virtual Reality:仮想現実)とは異なるとは言われているが、両方ともまだ黎明期であることから混同されて使用されていることも多々見られる。
コンピューターゲームの世界でのメタバース理論は2000年ごろには取り入れられ、アメリカから流行が始まった「フォートナイト」や日本で大ヒットした「あつまれどうぶつの森」などではメタバースを利用して現実社会と仮想社会を混ぜた世界を構築している。
アメリカにおけるメタバースの市場規模
2022年4月、アメリカ金融大手のシティーグループはメタバースの市場規模は2030年までに最大で13兆米ドルにも成長する可能性があると報じた。この報告でのメタバースは、スマホなどでも利用できる視聴型で没入感を重視しないものを中心に、物理的世界とデジタル世界を持続的かつ没入的に融合させる次世代のインターネットと定義している。
シティーグループの意味するメタバースに対して多くの市場調査機関や投資機関は、ゲームやバーチャル会議などの延長線としか感じておらず、メタバース市場は2兆米ドル程度としか予測していない。
市場拡大の動きに敏感なのがアメリカであり、Meta(旧FACEBOOK)やMicrosoftなどはゲーム界だけではなくビジネス界にも既にメタバースを取り入れている。中でもMetaはメタバースに特化した体制に切り替えた。
世界銀行の計算によると、2030年のメタバースのGDPへの貢献は3兆米ドルになると予想されている。このうち、アメリカは0.56兆米ドルで、アジア太平洋地区の1.04兆米ドルに次ぐ2位に位置すると予想されている。
これらを現実のものにするためには今まで以上の技術の発達はもちろんのこと、仮想空間内での法整備などがカギとなっている。
アメリカ政府のメタバースに対する姿勢
メタバースは、まだまだ黎明期にあるといえる。言葉の定義だけではなく、仮想通貨制度などの為替などを含む法体系が未整備である。メタバース業界関係者と市場関係者だけではなく、今後は政府機関も協力関係を築いていかなければならない。メタバース以前のSNSに対しても、アメリカ連邦議会は例えばFACEBOOKやtwitterの情報規制に関していまだに議論を続けている。
メタバースは、インターネットの次の進化系である。それは、これまでリアル店舗とネット商店とをメタバースという仮想空間で統合させることを意味する。そうなれば新しい法体系は必須となり、政府が関与せざるを得ない。
政府はギャンブルや社会福祉や税務コンプライアンスなどを監視し、幅広い分野で既存の法体系を更新する必要がある。すでにアメリカ連邦議会では、メタバースの進化に対しては慎重な態度をとっている。
2022年1月、Metaで計画していた仮想通貨が規制当局による厳しい審査に通らず、結局は中止となっている。課税方法やマネーロンダリング防止法案など、メタバース内における法規制は政府抜きには成立しない。
アメリカ政府が「政府のお墨付き」という保証にもなりえるので、積極的に介入すべきだという議論も連邦議会で出されている。
アメリカのメタバースのビジネスへの活用状況
広告
メタバースを利用した広告活動は、すでに定着し始めている。メタバースを利用すればストーリー性のある広告が作れる。テレビ広告では制限時間があったりするため限界があったが、自由度が高いメタバース内であれば無限にできる。
既に博報堂などがメタバースを利用した広告を作成している。メタバース上にカスタマイズされた広告を表示することも、インフルエンサーが商品をPRすることも、仮想商店で商品販売することも可能になっている。
メタバース上の仮想空間内はデジタルコントロールされているので、人間のインフルエンサーと違って炎上することもない。また参加者データに基づく広告となるため、効果的な広告が打ち出せる点が最大の特徴といえる。
ただし、過剰広告になりやすい点がデメリットとされる。また非現実的すぎる演出は敬遠されやすいことにも留意すべきである。また、これまで以上に参加者のデータ保護などの、法規制を改定していく必要もある。
NFT
NFTとはNon-Fungible Tokenの頭文字を取ったもので、日本語訳では「代替え不可能なトークン」となる。ここでいうトークンとは唯一無二の暗号資産や現実世界の資産の所有権を表す。仮想通貨だけにとどまらない。
これまでのデジタルデータは、デジタルであるがゆえに複製が簡単であった。これに対してNFTはコピーが不可能である。類似物が出回らないことは希少性を確保でき、商品価値を高めることが可能となった。代表例に、NFTを利用したオンラインゲームのひとつで「クリプト・キティ」がある。
クリプト・キティは様々な種類の仮想猫を購入・販売・収集・繁殖できるオンラインゲームである。この仮想猫自体がNFTとなっている。このクリプト・キティによってNFT理論が一般化されたといえる。
他にも、日本の小学生が作ったNFTアートが時価80万円相当で取引されたことがある。NFTを利用した仮想空間内での商品は、メタバース内の仮想商店で取り扱うことが簡単であり、今後はさらに活性化されることが予測されている。
デジタルランド
現実の不動産扱いと、メタバース内での不動産扱いは非常によく似ている。現在、メタバース空間内で最も人気のあるビジネスといって良い。特にオンラインゲーム「Second Life」では多くの取引が成立している。
メタバース内の土地であれば、土地の投機は現実の投機と比較して短時間で成立する。他にもメタバース内であれば、すぐに建物を建てられることや土地を開発し販売することなども瞬時に可能となる。
メタバース内の仮想不動産会社や仮想土地ブローカーと協力して、不動産財産のリストを作り、管理し、開発したりすることが人気となっている。メタバース内の島を買い、そこで店舗を構えて商売するといったことも人気となっている。
メタバース内でのデジタルランド関係ビジネスは、これまでのオンラインビジネスモデルに似ている点が多いので、抵抗感なくメタバース内で展開している例が多い。例えばメタバース内のスペースに対して月額レントを支払っている点なども、現実での制度が仮想世界にも引き続き使われている点と同じである。
観光
今後のメタバース発展の大きなカギになっているのが、現実空間と仮想空間の織り交ぜ方の割合である。仮想空間色を強く出しすぎると陳腐化され、不人気コンテンツとなりやすい。かといって、現実空間の再現だけであれば、飽きられる。
この割合をうまく調合できたのが、メタバース観光である。コロナ禍により非接触型が求められたこともあり、メタバースを取り入れたバーチャル旅行が人気となった。京都や沖縄などの観光局がリリースしたり、ANAがバーチャル観光旅行を提供している。
メタバース内に再現された観光地で買い物をし、購入した商品が後日自宅に届けられるといった商法も確立されている。観光地での拝観料徴収などだけでなく、今後は様々なビジネス展開が期待されている。
リアルでは年に一度しか拝むことができない仏像が、メタバース内の観光地であれば、いつでも見ることができたり、物理的には行くことができない断崖絶壁の場所であっても、メタバースであれば行くことができる。まだまだ可能性を秘めたメタバースビジネスである。
アメリカのメタバース関連の主要企業
Meta
マーク・ザッカーバーグがハーバード大学在学時の2004年に設立した、世界的なSNSであるFACEBOOKが、2021年10月にMetaと社名変更した。理由のひとつとして、FACEBOOKの業績が悪化してきたためといわれている。
ザッカーバーグCEOは、Metaを「つながり、働き、遊び、学び、買い物をする場所」と表現している。MetaではVR(ヴァーチャルリアリティ)技術・装置を使ったメタバース仮想空間内で、マルチプレイヤーゲーム、音楽、スポーツ、映画などを提供する。さらにアバターを利用して対面でのオフィス空間を模したワークルームやコンサートやスポーツなどの会場もメタバース化している。
MetaのホームページにはMetaの将来の使用例のいくつかとして、仮想空間内での買い物や没入型の教育ツールなどをあげている。これらが実現するには、高速インターネット環境とVR機器の一般化が必須となる。
Google, Apple, Microsoft, AmazonとMetaをあわせて、アメリカ情報技術産業のトップ5とされている。Metaは、世界で最も価値のあるブランドのひとつとされている。
セカンドライフ
セカンドライフは2003年に開始されたオンラインゲームを含む3DCGによる仮想空間である。セカンドライフはメタバースの先駆け・パイオニアともいわれている。セカンドライフのタイトル通り、この仮想空間内で現実と見間違えるような行動をすることが可能となっている。
運営はサンフランシスコに本社を置くリンデン・ラボ社が行っている。通常のゲームと異なり、規約に反しない限り何をしても自由という仮想空間である。このため、セカンドライフ自体が企業とみなされることがある。
ピーク時の2013年にはバーチャル商品の取引は一日に120万米ドルであり、開始からの10年間での総取引額は32億米ドルに上ったと発表された。その後、徐々にブームが去っていったが今でも運営は続いており、同時ログインは一日に4万人ほどとされている。
最盛期には企業も進出するほどの人気メタバース空間になったことがあったが、メタバース黎明期だったがゆえに、インフラ整備が間に合わず徐々に人気が低迷してしまった。それでも2023年1月現在、毎日2000万円の仮想取引が行われている老舗メタバース空間である。
ロブロックス
ロブロックスは、オンラインゲームを作成したり、共有したり、ほかのユーザーが作成したゲームなどに参加することができる、オンラインゲームプラットフォームと定義されるメタバース空間を提供する企業である。
2004年にカリフォルニア州で設立されたが、広報活動に力を入れず、また同時期に似たようなゲームに埋もれていたため、非常に小さな経営規模で細々と続けてきた。ところが2010年後半に人気に火が付き、コロナ禍がさらに後押しをしたため、一躍人気メタバース空間となった。
ゲームは無料でプレイできる点が人気の秘密とされている。また、メタバース空間内でアバターに装備するアイテムには仮想通貨が使用される。アイテムを作成し売買したり、転売するなどにより利益を作り出すことが可能である。
コロナ禍で人気となった一番の理由は、メタバース空間内での誕生会の開催だった。アメリカの16歳以下の子供の半数が、ロブロックスを利用してメタバース仮想空間内で友人のアバターと遊ぶ経験をしている。
ユニティ
2004年にデンマークの会社であるOTEE社が開発し、翌年に公開されたゲーム開発ツールである。2007年にUnity Technologiesに社名変更した。メタバース開発やVR開発をするのに、特に初心者には適していると評価される。
ユニティは主にモバイルゲームで利用されており、メタバース空間を利用したゲーム開発と相性が良いとされている。また、直感的な操作性などが汎用性を高くしており、建築・自動車デザイン・映画製作など、様々な業界・産業でのアプリケーションやテクノロジーなどに応用利用されている。
現在のUnity Technologies社はサンフランシスコに本社を置き、月間アクティブユーザーは前年比44%増の約39億人とされている。
ユニティを利用して得られた利益が10万米ドル以下であれば無料で利用できる点が特徴である。iOSやアンドロイドだけではなく、PCなどへの利用も可能なため、幅広い開発者を抱えることができている。
マイクロソフト
マイクロソフトもメタバースに取り組んでいる。2022年10月、メタバース仮想空間に取り組んでいたMetaと連携を発表している。すでにマイクロソフトでは、メタバース空間であるMeshをリリースしている。
Meshは他のメタバース空間と同様に、アバターを利用して仮想空間内で、例えば出会い、イベント、会議などに参加することが可能である。また他の仮想空間と同様に、仮想空間内での商業取引も可能となっている。
マイクロソフトのメタバース仮想空間の強みは、エクセルやパワーポイントなど、様々な業界で標準化されたオフィスツールが、仮想空間内で利用できる点にある。2016年にリリースしたオンラインコミュニケーションツールのTeamsのノウハウが生かされている。
Meshではホログラムなどを利用して、没入感を高めるメタバース空間を提供している。さらにグローバル プロフェッショナル サービス企業の Accenture とコラボして作り上げた仮想空間キャンパスは、プレゼンテーションなどに利用されるほか、パーティーや交流会などのイベントに利用されている。
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。