【アメリカのヘルステック】ビジネス事例4選と主要企業5選を解説

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コロナ禍により大きく成長を遂げたヘルステック市場は、健康志向の高まりと合わさり、さらなる拡大を続けています。この傾向は、仮にコロナが収束しても失速しないと予想され、アメリカ国内のヘルステック市場は2024年までに1520億米ドル規模にまで成長すると予測されています。

今回はそんなアメリカのヘルステック市場について、主要企業や実際のビジネス例を挙げながら詳しく解説します。

読了時間の目安:5分

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アメリカでビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

アメリカのヘルステック事情

ヘルステックとは?

ヘルステックとは健康(health)とテクノロジー(technology)をかけ合わせた造語である。世界保健機関(WHO)によると、「健康問題を解決し、生活の質を向上させるために開発された機器、医薬品、ワクチン、技術、情報など」を指すとされる。また「デジタルヘルス」とも表現されることもある。

家電などに対してのインターネット技術の導入などは、比較的早い段階で取り入れられている。これに対して、医療現場でのデジタル技術の導入は始まったばかりといわれている。ここ10年で、その遅れを取り戻すべく、飛躍的な技術向上がみられる。

アップルウォッチに代表されるような個人の健康管理から、AIを使った肺がん診断用医療ソフトまで、ヘルステックの利用が散見される。このように、健康に関する幅広い活動へのデジタル技術導入が、ヘルステックの根幹をなす。

アメリカのヘルステックの市場規模

アメリカにおけるヘルステックの市場規模は、緩やかに成長していた。ところがコロナ禍によって、ヘルステック関係の技術や意識改革が急激に加速した。その中でもコロナ禍において重要であった非接触型のヘルステックは急成長した。

アメリカのヘルステック市場は世界のヘルステックを牽引している。マイクロソフトやグーグルなどの老舗ハイテク産業の参入はもちろんのこと、若い世代によるベンチャー企業の活躍なども活発になっている。

ヘルステックやデジタルヘルスという言葉が新しい言葉であるため、明確にヘルステックによる市場規模を明記した資料は見当たらない。それでも京都府立医科大学の資料では、アメリカにおける医療産業の市場規模は2021年2月現在で3兆米ドルとされている。

3兆米ドルのうち、アメリカ国内ヘルステック市場は2024年までには1520億米ドル規模にまで成長すると予測されている。これに対して富士経済プレスリリース第19009号では日本国内市場規模は2017年で2055億円だった。

コロナ禍により大きく成長を遂げたヘルステックが、健康志向のさらなる高まりなどとあわさり、市場拡大傾向が続いている。この傾向は、仮にコロナが収束しても失速しないだろうと市場はにらんでいる。

アメリカのヘルステック業界への投資・資金調達動向

世界のヘルステック市場はCAGRで17.9%の割合で成長を続けている。特にヘルステックは遠隔医療や予防医療に対して期待され、若手のベンチャーが参入することで活性化している。このため投資家たちのヘルステックへの期待がさらに資金を調達し続けている。

特に投資家たちの興味は、革新的な製品開発戦略に焦点を当てている。通信技術の向上・IoT(Internet of Thingsの略。日本語ではモノのインターネットとされる、電化製品のインターネット化のこと。)・AI(人工知能)などのさらなる発展がヘルステックへの投資に際して重要視されている。

ヘルステックの利用は年々増加しており、例えばzoomなどのオンラインを使った問診などの利用者はコロナの影響が後押ししたために、2016年の13%から2020年には28%にまで伸びている。

このように、ヘルステック業界への投資は、医療業界の動向だけではなく、It業界の動向をもつかんでいく必要がある。ヘルステックが進化していくのに重要なカギの一つがインターネットの発展があげられる。

アメリカ国内のヘルステック関連2021年の資金調達291億米ドルは、前年2020年度の二倍近い資金調達を記録している。2021年資金調達件数は729件、1件当たりの平均額は約4000万米ドルであった。

アメリカでビジネスをするなら知っておきたい10のこと

アメリカのヘルステック産業のビジネス事例

遠隔医療

アメリカではコロナ以降、遠隔医療の普及が加速している。2019年の遠隔医療数は140万件であったが、2020年には3500万件に達している。米国内の病院で遠隔医療を利用した病院は2010年には全体の35%程度であったが、2017年には76%にまで達している。

スマホやタブレットに入れた遠隔医療モバイルアプリを使えば、急な発病であっても医師や専門家の相談を受けることが可能である。反面、外科処置が必要な緊急医療や痛みをうったえている患者のかかりつけ医などでは、8割以上の患者が実際に医療機関を訪問している。緊急に対応できる医療機器が、自宅には無いため診断ができたとしても遠隔では治療ができないためである。

遠隔治療の中ではライザップのような減量管理や職場の精神衛生管理、カウンセリングなどを中心としたサービスが急成長している。また、遠隔での処方箋の作成やバーチャル環境での薬剤師からの指導など、遠隔薬局といわれるヘルステックビジネスが成長している。

医師法があるため、遠隔医療が医師の権限を越えることは考えられない。しかし、これまで様々な解決策を講じてきた無医村問題や離島医療などへの解決策の一つとして、ヘルステックビジネスのうちの遠隔医療は注目されている。

健康経営

アップルウォッチが登場したことで、ウエラブル医療機器の発展が加速した。予防ケアのモデルでは、ウエラブル医療機器などを通して収集されるデータの活用が重要となる。これまでの紙ベースのデータ作成と比較して、年間70億米ドルの削減につながる可能性があるとされている。

アメリカのいくつかの企業では、職場環境における健康状態の改善のために、労働衛生に関する投資を増やしている。リモート出社の社員であっても遠隔健康診断を提供したり健康管理コーチングを提供する企業が増えている。

アメリカはもちろんのこと、日本でも企業が社員の健康維持増進に取り組むことは法律によって義務化されてきた。このため、それをサポートするサービスや市場は存在していた。それがヘルステックにより、格段と進化した。

年に一度の集団健康診断実施や個人の健康診断結果の報告義務だけでは、例えばメンタルヘルスや長時間労働の負担などは発見できない。ヘルステックによる、ウエラブル医療機器を利用することで、ワークライフバランスの取れた企業であると、世間にアピールすることができる。またそれが生産性の向上にもつながるという、ヘルステックによる健康経営は企業にも社員にもwin-winな関係へとつなげられる。

介護支援

マッチングサービスを応用したヘルステックビジネスもある。アプリで簡単にプロの介護人と連絡を取ることが可能であり、必要となれば最短2時間で自宅に呼ぶことが可能という。サービスのなかには、介護者にとっては重要な薬服用のリマインドや入浴補助、また簡単な家事などのサービスが利用可能である。

ヘルステックの介護支援は介護版のウーバーとも表現されるサービスで、料金体系はフレキシブルであり、時間制であり、長期の契約が必要ない。この手軽さがヘルステック介護支援の特徴といえる。

介護ロボットの活用も、ヘルステックビジネスの一環として扱われる。女性介護士が入浴補助の際にパワードスーツを利用することも、その一例である。また高齢者の話し相手を介護ロボットにさせることも実践されている。

介護支援や自立支援、コミュニケーションの各分野では慢性的な人員不足がみられる。この解決策の一つにヘルステックが利用され始めている。少子高齢化によって、これらの市場は今後、今の数倍のレベルになると予測される。そのためヘルステック介護支援に期待が寄せられている。

地域医療連携

遠隔医療と同様に、特に無医村などの地域医療にヘルステックビジネスが期待されている。人口が少ない地域での臨床医療データは限られ、しかも地域ごとの独立したシステム内でしか役割が果たせなかった。それが地域医療連携のヘルステックビジネスにより、大きく改善されている。

例えばオフィスワークにはすでに常識化されたともいえるクラウドサービスを利用することで、地域医療連携が格段に向上する。地域ごとの医療機関が、クラウド型の共通プラットフォームを利用すれば、手間やコストが削減できることも期待できる。

アメリカでは他の医師を紹介することは普通である。専門医ごとに、患者が医師を訪ねなければならない。医師が他の医師を紹介する時、医師の公開論文をAIで分析し、より患者に適切な医師を紹介できる医師用のツールがすでに開発されている。

地域医療連携はデジタル情報を与えるだけで完結するのではない。地域医療関係者がデジタル情報を使いこなし、デジタルとリアルを融合させた次世代地域医療システムの構築の早期完成が期待されている。

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アメリカのヘルステック関連の主要企業

NOVARTIS

1996年に設立されたスイス・バーゼルに本社を置く国際的な製薬・バイオテクノロジー企業である。もとは、スイスに拠点を置いていた製薬会社のチバガイギー社とサンド社の2社が合併してできた企業である。

世界最大の製薬会社の一つといわれ、革新的な医療改革を提供している。世界中の従業員を合わせると125000人を雇用しているといわれている。抗がん剤など、最先端製薬もさることながら、薬局で販売される一般医療薬品の開発・製造もしている。

主に研究部門・医療製品の開発部門・製造とマーケッティング部門の3部門で構成されている。スイス証券取引所・ニューヨーク証券取引所における上場企業である。フォーチュン誌の「世界で最も称賛される企業」の医薬品企業部門で3年連続1位に選ばれている。

ヘルステックには早い段階から導入し、遠隔地への医療品提供などに貢献している。国際情勢が不安定な昨今にも関わらず、国際的な評価を得ている企業といえる。日本法人はノバルティスホールィングジャパン株式会社である。

Stryker

ミシガン州カラマズーに本社を置く医療技術企業である。設立は1941年と古く、他の多くのヘルステック企業と同じく、多国籍企業である。世界の100か国以上にある病院や介護施設に、販売している。特にアメリカ国内では、製品のほとんどを直接販売している。

主な製品としては関節置換手術に使われるインプラントがあげられる。また、手術器具やナビゲーションシステムなども主な製品の一つである。脳神経外科用のデバイスや神経血管デバイスなどは近年画期的な進歩を遂げていると評価され、早い段階からヘルステック業界に参入している企業といえる。

2021年には世界中で46000人を超える従業員を抱え、売上高が170億米ドルを超えたと報告されている。社名は創業者である整形外科医だったストライカー医師からつけられた。医療機器業界において、アメリカでは長年首位企業である。

職場環境が良いと評判であり、フォーチュン誌における世界最高の職場リストに5年連続で選出されたこともある。最近のニュースとしては、インド・ニューデリーに広大なグローバルテクノロジーセンターを立ち上げたことがあげられる。

Edwards Lifesciences

カリフォルニア州アーバインに本社を置く医療技術企業である。特に人工心臓弁と血行動態モニタリングを専門としている。もともとはエンジニアだったマイルス・ローウェル・エドワーズによって1958年に設立された。

現在、構造的心疾患および救命医療モニタリングのためのヘルステック分野においては、医療イノベーションの世界的リーダーだと評価されている。これまで開発した製品の多くは、いまでは業界標準とされるものが多いという。

2020年現在で世界中に14000人の従業員を擁し、北米・欧州・シンガポール・カリブの各地で製造業務を行っている。さらに、2014年にエドワーズ・ライフサイエンス財団を設立した。

財団は米国の主に黒人で十分なサービスを受けられない人々に対しての治療を目的として設立された。モットーとしてEvery Heartbeat Mattersをかかげ、目標の100万人の患者を助けるとしたところを、実際には170万人の患者を治療したといわれている。

Centura Health

コロラド州イングルウッドに本部を置く、全国的な非営利団体のカトリック医療システムである。18の州で運営され、104の病院と約6000人の医師からなるネットワークは、アメリカ国内で最大の医療システムの一つと言われている。

ルーツは1882年に設立された献身的なカトリックの修道会である。現在のシステムのスタートは1996年で、その翌年から宗教系の医療施設などと提携を広げてきた。提携医療施設第1号は、決して裕福な地域ではないケンタッキー州ナザレの健康保険システムであった。

カトリック精神に基づいた非営利団体組織にふさわしく、発足当初から地域社会の支援者としての評判を高めた。その中でも食糧安全保障・精神的および行動上の健康・農村地域のケアを最新ヘルステックを利用しながら促進させている。

世界7か国の地域病院と、主に遠隔地域医療が必要とされる農村地域の支援のために、ヘルステックを中心とした新たな技術投資をしている。

HOLOGIC

設立は1985年、マサチューセッツ州マールボロに本社を置く。主に女性の健康に焦点を当てた医療技術企業である。2021年の従業員数は6700人であり、営業利益は24億8000万米ドルにも達するとされる。

現在は100か国以上の国で、その地域の医療事情改善に貢献している。また、必要医療機器の開発で3000以上の特許を保有するまでに成長した企業でもある。特に女性特有の乳がんに関する医療機器の開発・販売では世界有数の企業にまで成長している。

2020年にはFDAからコロナ関係の医療検査技術を世界に提供し、アメリカ保健社会福祉省と国防総省から大口の契約を獲得した。これまでの医療機関を訪れる必要があった検査が、自宅で使う検査キットに変わった。

乳がんなどの診断や婦人科手術に関してのヘルステック導入が特に顕著であり、医療技術とテクノロジーの融合が随所にみられる。また診断・手術・医療用画像機器などは質の高いものとして世界中で評価されている。

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