2030年の韓国のメタバース関連の市場規模は300兆から最大500兆ウォン規模までになると推定されています。韓国政府は国内のメタバース企業を支援しており、既に仮想アイドルやファンミーティングといった身近なところから、選挙といった政治の世界まで韓国のメタバースは浸透してきています。
今回はそんな韓国のメタバース事情について詳しく解説していきます。
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韓国のメタバース市場
メタバースとは?
メタバースとは、超越を意味するメタ(Meta)と宇宙(Universe)を意味するユニバースを合わせた言葉だ。単語からわかる通り、超越的な世界という意味である。ニール・スティーヴンスン(Neal Stephenson)が1992年に発表した小説スノウクラッシュ(Snow Crash)で初めて登場したとされている。
メタバースに対して決まった定義はない。人や企業によってメタバースの認識は異なる。その為メタバースは難しいが、拡張性が大きい概念である。
メタバースの代表的な企業であるフェイスブックから社名を変えたメタは、メタバースについて次のように主張している。
メタバースとは、物理的な空間に一緒にいない異なる人々と一緒に創造して、探検することのできる仮想空間の集合体である。また、この場所は友達同士で一緒に遊び、仕事をし、勉強し、買い物をする事、創造する事ができる空間である。このようにオンライン上にて意味のある時間を使うことのできる所だ。
韓国におけるメタバースの市場規模
グローバル金融社のシティーグループは経済展望リポートにおいて、2030年までに全世界のメタバース市場規模は8兆から13兆USDになると推定した。これを基準に韓国の全世界産業寄与度などを勘案してみると、2030年の韓国のメタバース関連の市場規模は300兆から最大500兆ウォン規模までになると推定される。
また、メタバース産業関連効果の総雇用誘発は200万人を超えるものと見られる。現在の韓国国内のゲーム産業規模が15兆ウォン程度として、2030年メタバース市場規模を400兆ウォンと推定する場合、現在のゲーム業界は今後、20倍以上の成長が見込まれる。
また、グローバル市場とシティグループレポートなどを総合分析した潜在最大売上(TAM)基準、メタバース内需市場パイは257兆ウォン程度と評価された。コンピューターや化学通信などの既存産業と連結すれば2030年には407兆ウォンに拡張するだろうという考えである。
これらから、メタバースは今後の雇用創出において肯定的な影響を及ぼすと分析される。産業関連分析の結果、約40万人の雇用創出効果と輸出約60兆ウォン、輸入50兆ウォンに近い黒字効果が予想される。さらに以前の産業群と連結したシナジー効果をはじめ、メタバースが新たに作り出す新産業でさらなる貿易黒字を生み出すと見通した。
韓国政府のメタバースに対する姿勢と見解
韓国政府は、メタバースの活用によって、デジタル資産の生産と流通、他人と協力し疎通するなど、全ての活動を没入感を持って楽しめる世界になると見解している。政府は民間協力基盤の持続可能なメタバース生態系造成に重点をおき、企業が新しい形態のプラットホーム事業に挑戦し、世界的企業と競争できるよう積極的に支援していく計画だ。
具体的には、メタバースを実現するための専門開発者とメタバースで遊ぶ力量のあるクリエイターを養成し、企業成長を支援する総合インフラも拡充していく予定だ。また、社会的合意に基づき法制度や倫理的争点に対応し、情報格差解消、社会問題解決などメタバースを通じた共同体価値実現も積極的に後押ししていく予定である。
デジタル新大陸メタバースに跳躍する大韓民国をビジョンにし、2026年までにグローバルメタバース市場シェア5位、メタバース専門家4万人養成、売上高50億ウォン以上の専門企業220社の育成、メタバース模範事例の50件発掘を目標に4大推進戦略と24の重点推進課題をまとめ、移行していきたいと考えている。
技術競争力確保のために広域メタ空間やデジタルヒューマンなど5大核心技術分野を中心に中長期メタバスR&Dロードマップを用意するとともに、すでに創作されたコンテンツIPをメタバースで活用し、高品質仮想公演を提供するための技術開発を進めている。
韓国のメタバースの活用状況
ファンミーティング
メタバースは直接経験を重視するZ世代の好みを狙撃し、デジタルの遊び場として位置付けられている。その中でも、ネイバーのZEPETOがキャラクター知的財産権(IP)ファンミーティングを通じて消費者に新しいコンテンツ体験を提供した。
全世界3千万ファンダムを保有したキャラクターであり、BTSが直接参加して誕生したグローバル人気キャラクターIPであるBT21の5周年記念初のメタバースファンミーティングをゼペットで進行した。
BT21はゼペット内のBT21ワールドを通じて、いつどこでも空間制約なしに全世界のファンと会って疎通し、共に遊ぶデジタル遊び場を提供するだけでなく、メタバース内のデジタルアイテムまで披露するなどしZ世代の好感を得ている。
ゼペット内のBT21ワールドテーマパークで進行される今回のファンミーティングでは、ユーザーがBT21メンバーたちに直接会ってサインを受け取ることができ、野外ステージの電光掲示板で独占公開されるBT21メンバー別のビデオレターを見ることができた。
仮想アイドル
「ショー!音楽の中心」に出演した4人組仮想ガールズグループのメイプ(MAVE:)は、3分を超える時間の間、強烈なパフォーマンスを披露しても汗一滴流さない新人ガールズグループだ。
彼らの音楽番組の舞台映像は「ショー!音楽の中心」の全舞台映像の中で最も高い再生数を記録し、 再生回数は149万回を超えた。ミュージックビデオの再生回数は640万回、パフォーマンスは50万回再生を記録した。
ただ、このような指標が実質的なコアファン層流入につながり、ファンの財布を開かせるかは未知数だ。通常アルバム、音源、公演、グッズなど多様なファンダムビジネスに拡張が可能であるが、仮想の人物に対する進入障壁が依然として高いためだ。 Kポップの強みと思われていたストーリーテリング付与過程が省略されたままファンダムを増やしていけるかもカギである。
メイブの他にもカカオエンターテインメントは、バーチャルガールズグループデビューサバイバルの「少女リバー ス」を披露している。 実際に、ガールズグループのメンバーたちが正体を隠したまま仮想キャラクターを通じて競争を繰り広げ、それを通じて最終選抜されたキャラクターたちがチームを結成するやり方である。
洋服の新作発表会
ネイバーZは、ゼペットと協業する企業が1000社を超えたと明らかにした。 2018年のナイキ、ディズニー、ラインフレンズの3社で始まり、協業企業が急速に増えた。サムスン、現代自動車、農心など国内大企業だけでなく、ラルフローレン、グッチ、ディオールビューティーのようなグローバル企業も合流した。
ウールブーツブランドのUGGは、2022年11月から12月までゼペットで「アグワールド」を運営し、1日平均6000個のアイテムを販売した。オフライン売り場の主要靴、衣類売上はアグワールドオープン前よりそれぞれ60%、30%増えた。ゼペットでアイテムとして着用した商品が、現実世界の表品購入まで繋がるということが明らかになった。
グッチは2022年12月、冬のコレクションの一部をゼペットアイテムとして限定販売したが、45分で売り切れた。またオフライン展示会をメタバースに移した「グッチガーデンエキタイプ」では、1ヶ月間で75万人の訪問客を集めた。訪問客に販売した衣類、ハンドバッグなどのアイテムは11万個に上った。
政治利用
新型コロナウイルス感染症の大流行で、韓国の大統領選候補とマスコミは市民のデジタル参加を高めるために努力し、結果として人工知能からNFTを活用した募金まで多様な新技術が活用された。その中でメタバースも活用された。
SBSやKBSなどの主要放送局は、ゼペットにて選挙をテーマにしたデジタル世界を制作した。この空間で利用者は、過去と現在の選挙情報が記載されている展示物を見学し、クイズに参加することができ、投票過程案内を見ることも可能である。また、自分のアバターが登場する写真を撮影すつ事も可能だ。
しかし、 ゼペットは利用者が「開かれた空間」で自由に自身を表現できることに重点を置いている為、選挙自体において積極的な役割を果たさなかった。
政治家たちが活用したのはゼペットだけではなかった。 2021年8月、民主党は不動産アプリ「ジクバン」のデジタルプラットフォーム「メトロポリス」で予備選挙討論会を開催した。
韓国のメタバース関連の主要企業
NAVER Z
韓国で有名は検索エンジンであるNAVERはメタバース事業を展開している。2018年にZEPETOアプリのサービスを開始し、2019年4月にSticker.lyアプリの配信を開始、2019年12月にbuild itサービスを開始した。2020年3月にはZEPETO Studioのサービスを開始し、2020年5月にはNAVER Z株式会社を設立した。
代表的なサービスはゼペットだ。加入者数は3億人、スタジオクリエイター数は230万人、スタジオアイテムの販売量は6800万個だ。
ファッションアイテムを制作し販売、収益を生み出す事も可能だ。また、ゼペットの世界の中に自分のアイディアを詰め込んだワールドを作る事も出来る。そして、全世界のユーザー達とライブ配信をする事も可能である。
2018年8月に発売されたゼペットは、ARコンテンツとゲーム、SNS機能を全て盛り込んでおり、特に10代など若年層を中心に人気を集めている。ゼペットは利用者とそっくりな3次元(3D)アバターを作った後、AR技術で実際の写真や仮想背景に自然に合成する方式で行われている。
SKテレコム
通信事業などで有名なSKテレコムのメタバース事業にはiflandや、Jump、Jump studioがある。SKテレコムは2013年からAR、VR分野で独自の技術を開発している。2021年メタバースサービスiflandのサービス開始をした。SKテレコムは、iflandをグローバルオープンサービスに進化、発展させる一方で国内MR(Mixed Reality)生態系の構築に取り組んでいる。
中でもIflandは、様々な顔の形、ヘアスタイル、衣装、アクセサリーなどを組み合わせて自分だけのキャラクターを作り、仮想現実の世界の中でまた別の自分として変身する事ができるサービスだ。
iflandでは、リアルタイムで行われている様々な内容のコンテンツとプログラムを楽しむことが出来る。参加したい集まりがあれば、事前に通知登録をする事で開始10分前に通知を受け取ることが出来る。また、1対1のメッセージ機能も充実している。
HanbitSoft
ハンビットソフトは強い挑戦意識を基に、様々なジャンルのPCオンラインゲームやモバイルゲームを展開する韓国ゲーム業界を代表するパブリッシング企業だ。
ハンビットソフトは、ジャンルやプラットフォームを問わず、新しい領域を柔軟かつ情熱的に開拓し、先導するために集中している。長い間多様なサービスを通じて蓄積された数多くの経験と資産を土台に、ユーザーに差別化されたゲーム経験を提供する一方、ゲームIP活用による収益多角化も推進している。
現在、同社が提供するPC・オンラインゲームラインナップとしては、全世界7億人の累積利用者を記録したスタイリッシュリズムダンスゲーム「オーディション」そして、差別化されたゲーム性で大韓民国ゲーム大賞を受賞した長寿MMORPG「グラナド·エスパダ」と「エイカ」、全世界に確固たるファン層を保有している「ヘルゲート:ロンドン」などがある。
2017年よりメタバースに進出し、メタバース(Metaverse、AR、VR)の融合を通じて新しい跳躍を準備している。
HYBE
HYBEはBTS(防弾少年団)やトゥモローバイトゥギャザーなどが所属する事務所だ。
HYBEは、ドゥナムと手を組んでアーティストIP(知的財産権)を活用したNFT(代替不可能トークン)プラットフォームを開発し、ファンコミュニティプラットフォーム、ウェブトゥーン、ゲーム、映画などを作る予定である。 エンターテインメント事業を越えてプラットフォーム、NFTまで領域を拡張する計画だ。
ハナ金融投資のイギフン研究員は「ハイブに所属した数多くのアーティストと多様なストーリー、コンテンツをデジタル資産化して販売するNFTは、価値を作り出し、多様な参加者、企画会社、アーティスト、ファンダムに対して正当な補償が回るようにする」と説明した。
HYBEは、メタバースプラットフォーム構築のために子会社スーパーブを吸収合併しIM(インタラクティブメディア、Interactive Media)本部を発足した。 IM本部ではリズムハイブなどのゲーム2つを開発している。 開発費用は資産化せず、すべて費用として反映している。 この他にメタバース関連で多様なパートナーと事業を議論中だ。
sunicシステム
sunicシステムはメタバースを具現化するのに使われる有機発光ダイオード(OLED)の蒸着・封止装置の研究開発を行う企業である。Sunicシステムは、次世代IT用OLED蒸着量産設備開発と量産化など、OLEDディスプレイの国産化に力点を置いている。また、2021年7月から10月の3ヶ月間で50%ほど株価を引き上げ、コスダック市場のライジングスターに生まれ変わった企業である。
中長期的には、中核保有技術である高精度真空蒸着設備技術を活用したグリーンエネルギーやモノのインターネット(IoT)などの分野の新事業へと拡大し、メタバースとスマート製造をリードするグローバル企業へと成長する計画である。
sunicシステムは、中小型パネル用OLED素材が核心事業で、主要顧客会社はサムスンディスプレイやLGディスプレイなどのパネル会社とメルクパフォーマンスマテリアルズ、SFCなどのOLED素材会社である。 特に証券街ではマイクロOLEDパネルの主な使用先がAR/VRであるだけに、今後浸透可能な市場規模はさらに拡大するものと推定される。
ソウル在住の韓国人。日本での在住経験は12年。日本の有名大学を卒業し、大手シンクタンクの正社員及び経営コンサルタントとして勤務。ビジネス戦略とイノベーションの分野で活躍。