台湾のキャッシュレス市場は2023年に取引額約34兆円、2024年キャッシュレス決済比率68.7%と急成長中。政府目標の「2025年までに普及率90%」も目前。
本記事では、LINE Payや街口支付など台湾で人気の主要キャッシュレス決済8選を徹底解説します。
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台湾のキャッシュレス事情
台湾のキャッシュレス決済の市場規模
台湾のキャッシュレス決済市場は急速な成長を遂げており、2023年末時点でクレジットカードやプリペイドカードなどを含むキャッシュレス決済の取引金額は約7.27兆台湾ドル(約34.2兆円)に達し、前年比17.8%増の成長を記録した。
国際的な調査会社の分析によると、台湾のモバイル決済市場規模は2023年に5億3,190万米ドルと評価され、2024年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)18.9%で成長し、2030年には19億3,370万米ドルに達すると予測されている。
2024年の台湾におけるキャッシュレス決済比率は、現金決済31.3%に対し、キャッシュレス決済が68.7%を占めると予測されている。
キャッシュレスが普及した理由と背景
台湾政府は2017年に「2025年までにキャッシュレス決済の普及率を90%にする」という野心的な目標を発表し、国を挙げてキャッシュレス化を推進してきた。台湾政府の経済産業省にあたる「経済部」は120社以上の台湾企業に対してキャッシュレス普及のための補助を行った結果、8万9,000箇所でキャッシュレス決済が対応可能となり、7,000万人が利用した。
政府の具体的な施策として、中小企業にキャッシュレス決済の導入を促すため、統一インボイスの利用免除や、通常5%かかる営業税を1%に減免するなどの税制優遇措置を実施。2019年には小規模の個人商店に対しても税金優遇措置を行い、6,000軒以上の小規模店舗がキャッシュレスの申請を行った。
新型コロナウイルスの流行により、非接触の支払い方法が重視されるようになり、モバイル決済の利用意欲が高まった。2021年にはモバイル決済の利用率が初めて70%を超え、過去3年間の成長率は高く推移している。
「コロナ禍で最も利用した支払い方法」に関する調査では、「モバイル決済」が42.4%で最も多く、次いで「クレジットカード」が25.0%、「現金」が20.3%となっており、コロナ禍がキャッシュレス決済の普及を加速させたことが明らかになった。
また、台湾では5Gネットワークの整備が進んでおり、台湾のモバイルインターネットユーザーの62%以上が、可能であればデータプランを4Gから5Gにアップグレードすると回答している。スマートフォンの普及率の高さと、NFC、QRコード、生体認証などの決済技術の進歩が、キャッシュレス決済の利用拡大を支えている。
キャッシュレスでの決済額の推移や主流のキャッシュレス決済
台湾の金融監督管理委員会は、2023年のキャッシュレス決済回数を78億3,200万回(前年比50%増)、決済総額を6兆台湾元(約23兆円、前年比21%増)に高める目標を掲げている。人口で割ると1人当たり340.5回で、ほぼ毎日誰もがキャッシュレス決済を利用する計算になる。
2020年時点でのキャッシュレス決済回数は51億6,400万回で総額3兆8,800億台湾元、キャッシュレス決済比率は40.37%だったが、ATMでの振り込みを合わせると51.7%に達していた。
台湾のキャッシュレス決済市場は「LINE Pay」と「街口支付(JKOPAY)」の二強体制で、この2つで電子決済シェア全体の65%を占めている。
Apple PayやGoogle Payなどの国際的なサービスも一定のシェアを獲得しており、2024年時点ではLINE Payが65.7%、街口支付が30.2%、Apple Payが19.9%、Google Payが9.1%の利用率となっている。
交通系ICカードも重要な決済手段となっており、「悠遊卡(EasyCard)」や高雄市の「一卡通(iPASS)」が広く利用されてる。これらのカードは交通機関だけでなく、コンビニや小売店での支払いにも対応しており、台湾のキャッシュレス社会の基盤を支えている。
台湾のキャッシュレス決済:カード決済事情
クレジットカード
クレジットカードは、台湾で最も使用されているPOS支払い方法として地位を築いている。クレジットカードの優位性は市場シェアを見ると明らかである。デビットカードの3%とは対照的に、クレジットカードは店舗での支出額のほぼ半数を占めている。
2020年、台湾で流通しているクレジットカードの総数は 5,000万枚を超え、年々増加している。また同年の取引額は3兆台湾ドルを超えた。
台湾のカード決済の市場規模は、2022年には1,274億8000万ドルと予想され、2022年から2026年の間に7%以上の成長率を達成すると見込まれている。これは銀行口座を持つ人口が多いこと、金融意識が高いこと、銀行がさまざまな特典 (キャッシュバックや割引を含む) を通じて顧客にインセンティブを与えていること、金融当局がキャッシュレス決済を促進しようとしていることが後押ししている。
台湾高速鉄道では非接触型発券が利用でき、旅行者はクレジットカードを使用して、NFC対応の券売機で決済を行うことができる。また2020年1月には、Visa、Mastercard、UnionPay、および JCB が、桃園空港 MRTおよび高雄 MRT サービスを使用して通勤する消費者が非接触型決済カードを使用できるようにした。
デビットカード
2019年の台湾のカード決済取引総額は、消費者の総決済額の 40%を占めた。台湾のカード決済取引額の大部分はクレジットカードで行われ、デビットカードとICチャージカードによる取引額は非常に小さいものであった。市場シェアをみると、デビットカードのは約3%となっている。
台湾金融機関の国際接続ゲートウェイを運営するシステム事業者である台湾FISCは、非接触型およびQRコードスキャンによる現金引き出しが可能な「台湾ペイデビットカード」を運営している。
台湾モバイルペイメントをインストールし、指定されたアプリにATMカードをリンクすると、ユーザーはATMカードなしで指定されたATMで金融サービスを実行できる。
台湾のキャッシュレス決済:QRコード決済事情
LINE Pay
LINE Payは台湾において圧倒的なシェアを持つモバイル決済サービスであり、2024年9月時点で登録ユーザーは1,270万人を超え、台湾人口の半分以上が利用している。LINE PayはLINEアプリ内で利用でき、クレジットカードと連携することでQRコード決済が可能だ。台湾ではLINE Payマネーや銀行口座チャージによる残高決済は利用できず、決済時には必ずクレジットカードが紐付けられる仕組みとなっている。
LINE Payの利便性は、店舗や交通機関など57万カ所以上で利用できること、そしてLINEアプリの既存ユーザーが多いことから新規利用のハードルが低い点にある。また、LINE Payは「LINEポイント」の還元が人気で、2023年には約338億円相当のポイントが発行され、100%利用されている。さらに、台湾の大手銀行と提携したLINE Pay Co-brandクレジットカードの導入も成功し、発行枚数は700万枚を超えている。
台湾政府も2025年までにキャッシュレス決済普及率90%を目指す方針を打ち出しており、LINE Payはその中心的な役割を担っている。2023年末時点でキャッシュレス決済取引件数は約69.12億件、金額は約34.2兆円に達し、市場自体も急速に拡大している。
LINE Payの利用はLINEアプリの「ウォレット」タブから簡単に操作でき、店舗でのQRコードやバーコードの読み取りだけで決済が完了する。また、LINE Payアプリは決済コードの画面で左右にスワイプするだけで「マイメンバーズカード」や「電子請求書」などの機能を切り替えられるシンプルなUIが特徴だ。こうした利便性と、LINEアプリの高い普及率が相まって、台湾の日常生活や観光シーンでも不可欠な決済インフラとなっている。
JkoPay
JkoPay(街口支付、ジェイコペイ)は、2015年に設立、2018年2月に本格的に電子決済事業を開始した台湾発のモバイルウォレットアプリである。LINE Payのようなグローバル大手サービスと比べると資本規模は小さいが、現地市場に根差したローカリゼーション戦略を強みとし、オフラインのナイトマーケット(夜市)や個人経営の小規模店舗を中心に急速に普及した。
JkoPayはクレジットカードと連携した共同ブランドカードの発行、タクシー配車、フードデリバリー、寄付機能、さらにはオンラインでの保険購入サービスなど多様な機能を備えている。また、水道代や電気代、授業料、病院代といった公共料金の支払いも可能で、生活に密着した決済インフラとなっている。
モバイル決済の利点として、おつりを用意する必要がなく衛生的であり、偽造紙幣を受け取るリスクも減らせる点が挙げられる。こうした利便性から、JkoPayはオフライン決済市場を急速に席巻し、2018年時点で65,000カ所を超える加盟店に導入された。その後も拡大を続け、2023年時点ではユーザー数が600万人を超え、台湾のキャッシュレス決済市場で主要プレイヤーの一つとして確固たる地位を築いている。
JkoPayは銀行口座からのチャージや個人間送金も可能で、クレジットカードを持たない層にも広く利用されている。台湾の大手コンビニやATM、店舗で簡単にチャージできるため、現地生活者や観光客にも高い利便性を提供している。
Taiwan Pay
Taiwan Pay(台湾ペイ、台湾行動支付)は、台湾政府と32の銀行およびクレジットカード会社が共同出資して設立した政府主導の決済プラットフォームである。このサービスは、QRコード決済やNFCタッチ決済に対応しており、納税や一括払い、公共料金の支払いなど多様な機能を備えている。特に、国税や総合税など公的料金を直接支払える唯一のモバイル決済サービスであり、生活者の利便性向上に大きく寄与している。
Taiwan Payの大きな特徴は、送金手数料が無料となっている点である。2022年末まですべての送金で手数料が無料となる仕組みが導入されており、個人間の資金移動や家族への仕送り、店舗への支払いなど幅広い用途に活用されている。また、Taiwan Payは「QRコード共通決済規格」を採用し、各種銀行のオンラインバンキングアプリや「台湾モバイル決済」アプリなど複数の金融機関アプリで利用できる共用プラットフォームを提供している。
支払い方法としては、金融カード(デビットカードやキャッシュカード)との連携が基本となっており、クレジットカードやプリペイドカードも利用可能だ。このため、台湾の銀行口座を持つほとんどの利用者が利用できるという包括的なサポート体制を実現している。さらに、店舗側はQRコードを貼るだけで導入でき、ハードウェアの追加購入が不要なため、ナイトマーケットや小規模店舗でも急速に普及している。
台湾のキャッシュレス決済:キャリア決済/スマホ決済事情
Apple Pay
Apple Payは、iPhoneなどのAppleデバイスで利用できるモバイル決済サービスであり、クレジットカードやデビットカード情報をスマートフォンに登録することで、近距離無線通信(NFC)技術を活用し、端末をカードリーダーにかざすだけで決済が完了する仕組みだ。台湾ではApple Payの利用が年々拡大しており、2025年現在、台北富邦銀行や台新銀行など複数の主要銀行やカード会社がサービスに対応している。
台湾のスマートフォン市場において、Appleはシェアトップを維持しており、多くの消費者がiPhoneを利用している。Apple Payは決済速度が速く、端末をタッチするだけで支払いができる点が大きな利点だ。しかし、NFC対応端末を設置している店舗はコンビニや百貨店、スーパーマーケットなど一部に限られており、QRコード決済が主流となっている台湾のキャッシュレス市場では、LINE PayやJkoPayなどのQRコード決済サービスのほうがシェアや加盟店数で圧倒的に優勢である。
また、台湾政府は2025年までにキャッシュレス決済比率90%を目標に掲げており、Apple Payも公共交通機関や主要チェーン店で導入が進んでいる。例えば、台北MRTでは2025年以降、Apple Payやクレジットカード、QRコード決済に対応した新しい改札機の導入計画が進められており、観光客や現地利用者にとってさらなる利便性向上が期待されている。ただし、現時点ではQRコード決済が主流であり、Apple Payの普及は今後も拡大が見込まれるものの、シェア競争では引き続きLINE PayやJkoPayが先行している状況だ。
Samsung Pay
Samsung Payは、Samsung製スマートフォンで利用できるモバイル決済サービスであり、台湾市場ではAppleに次いでスマートフォンベンダーシェア2位のSamsungが展開している。台湾におけるSamsung Payの最大の特徴は、チャージ式交通系ICカード「EasyCard(悠遊カード)」との連携強化だ。Samsung Pay EasyCardは、EasyCard Corporationと台湾サムスン電子が共同で提供しており、公共交通機関やコンビニ、小売店など、悠遊カードが利用できるあらゆる場所で利用できる。
Samsung Wallet EasyCard/Samsung Pay EasyCardは、画面や端末のロックを解除しなくても、スマートフォンをセンサーにかざすだけで即座に決済が可能だ。このサービスは「大人用」と「学生用」の悠遊カードの両方に対応しており、学生証の登録もスマートフォン上で手続きできる。また、クレジットカードによるオンラインでのチャージや、オールパスチケット(定期券)の購入もアプリ内で簡単に完了する。
Google Pay
Google Payは、Androidスマートフォン端末で利用できるモバイル決済サービスであり、2018年に「Android Pay」から名称変更された。台湾では、Google Payはコンビニ(ファミリーマート)、スーパーマーケット(ウェルカム)、ドラッグストア(ワトソン)、スターバックス、台湾高速鉄道など幅広い店舗やサービスで利用できる。
台湾では約18以上の銀行や金融機関がGoogle Payに対応しており、VISAやMastercardのクレジットカードやデビットカードをアプリに登録することで、NFC機能を活用したタッチ決済が可能だ。また、Google Payは台湾高速鉄道のチケット購入やタクシー配車アプリ(TaxiGo)、インターネットショッピングサイト(momo購物網)など、さまざまなアプリ内決済でも利用されている。
台湾のスマートフォンOSシェアは、2023年2月時点でiOSが53.09%、Androidが44.51%となっていたが、近年はAndroid端末の比率も再び上昇傾向にあり、Google Payの利用者層も拡大している。ただし、LINE PayやJkoPayなどQRコード決済が主流の台湾市場において、Google PayはApple Payと並ぶNFC型決済の代表格として、主にコンビニやスーパー、百貨店などで普及している。
台北在住の台湾人。日本の東北大学で修士号取得後、7年以上IT企業でマーケティングを担当。デジタルマーケティングと市場分析の専門家として、製品の市場導入とブランド戦略を得意とする。