今回はそんなアメリカのAI業界について、主要企業を取り上げながら、最新の動向や各産業界での実際の活用例を解説します。
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アメリカのAI業界の概要
アメリカのAI業界の市場規模
世界的規模の人工知能(AI)ムーブメントは、今回が第三次といわれている。1950年代に第一次があった。当時は技術が追いつかず、理論だけにとどまっていた。これに続く1980年代の第二次では、理論が具体的になった。それでもまだ実用的ではなく、また価格面でも一般化するには無理があった。現在の第三次で、飛躍的な技術の向上により、AIは身近なものになりつつある。
アメリカでのAI業界市場規模はCAGR42.15%と驚異の数値を記録し、2030年には2234億米ドルに達するだろうと予想されている。AIはハードウェア・ソフトウェア・サービスなどの製品と、機械学習・自然言語処理などのテクノロジー、エンドユーザー産業としてヘルスケア・製造・自動車・農業などに分類されている。
アメリカ経済がAIソフト技術によって大きく再形成されたことは事実である。AIによるビッグデータアルゴリズムの適用は、意思決定の制度を新しいレベルにまで引き上げたといっても過言ではない。結果、効率を高めコストを節約し、新しい解決策を講じることにも役立っている。
アメリカではAIと機械学習の両方の需要が高まっている。アメリカは長年にわたりAI業界の牽引車となっており、高度なスキルを備えた人材の確保を重視している企業が多い。AI企業の上位20社合計で、2017年に6億米ドルの経費をかけて人材を確保したという。
アメリカのAI業界の動向①オープンソース化
AIの開発には高額な費用が必要となる。その資金が調達できるのは、ごく一部の企業に限られてしまう。ChatGPTの最新モデルであるGPT-4の基礎開発費用は1億米ドル以上のコストがかかったという。ここで考えられる問題点は、資金を調達できた限られた企業が、その企業の商業目的に合った方向にしか開発が進まないという点にある。
一般的に、ソフトウェアには専用のものとオープンソースの両方がある。アメリカAI業界では特に、技術の更なる民主化を進めるべく、学習済みのモデルがオープンソース化される傾向にある。ゼロから学習させる必要がないため、経費を抑えて進化させ始めることが可能となる。
技術の透明化を軸に、AIの信頼性が育まれることが期待される。また、AI研究者たちは、オープンソース化されたモデルを利用して、潜在的なリスクを特定し、予防措置の開発に役立てることもできる。既にStability AIは、自由に商用利用可能なオープンソース化されたLLM「StableML」をリリースしている。
AIの今後は、オープンソースモデルが標準となると考えられている。AIが複雑性に対応し、それを効率的に実行できるようになるには、オープンソース化による研究者の迅速な対応が必須となるからである。
アメリカのAI業界の動向②政府による投資
2023年5月、アメリカ政府がAI技術革新を促進するとともに、人々の権利や安全を守るための新たな取り組みについて発表した。アメリカ国立科学財団を通じ、1億4000万米ドルの資金提供を実施。新たに国立のAI研究機関を設立すると発表している。
これによってアメリカ国内のAI研究機関数は25機関となり、関連組織を含めたネットワークはアメリカ全州に拡張されることになる。AIが企業だけの利用にとどまらず、政府機関や高等教育機関などと共に、倫理的で信頼性が高く、公共の利益になるようなAI技術の変革を進めていくとのこと。
Anthropic、Google、Hugging Face、Microsoft、NVIDIA、OpenAI、Stability AIといった主要なAI開発企業が、既存のAIシステムの公開評価会に参加することが決定。政府を中心として最先端のAI企業が終結し、アメリカは国を挙げてのAI技術革新段階に入っていく。
AI技術のオープンソース化も、目先の利益だけに先走らないという姿勢を表している。アメリカは、国が先導して人と資金を基礎研究に投資している。AI革命においても、アメリカがリーダーシップをとっていくのは間違いないであろう。
アメリカのAI業界の主要企業
Google Cloud
クラウドAIとは、膨大なデータをクラウド上に蓄積し、インターネットを通して分析結果・推測結果を提供するビジネスサービスである。大規模データを利用した複雑な処理にも対応できるクラウドAIには、低いコストですぐに活用できるメリットがある。このクラウドAI企業でアメリカトップ、世界トップといえるのがGoogleである。
AI開発とデータ分析サービスの国際的リーダーであるGoogleは、2023年現在、AI関連企業の買収を急いでいる。GoogleはAIの機能向上に多大な投資を行っている。Googleクラウドというブランドでは、90以上の製品を提供している。ビッグデータを活用した高速分散処理や自然学習言語などの提供がある。
Googleが開発した機械学習に用いるためのソフトウェアであるTensorFlowをオープンソースで公開している。TensorFlowはAI業界をリードしているともいわれており、このプロジェクトの発展開発とGoogle独自のTensor AIチップの開発プロジェクトをも進めている。
認定資格も提供されている。オンラインまたは世界中のテストセンターで受験が可能。2008年から始動したGoogleのクラウドAIサービス事業は、202年にマネージド機械学習プラットフォームのVertex AIの一般提供開始まで進化した。
Tempus
ヘルスケアAIは、病気の初期症状を分析することで、どの薬が患者に最も効果的なのかを膨大なデータから選択し医師に伝える。AIは、症例をデータベース化し、例えばワクチンの作成と作成プロセスを迅速化することに役立っている。
データ駆動型精密医療を専門とするTempus Labsは、Grouponの共同創設者である Eric Lefkosky によって2015 年にイリノイ州シカゴ市に設立された。設立のきっかけは同氏の妻が乳がんと診断されたことからだったという。このため、同社は特にがん患者のための、新しい治療計画を開発することを目標としたAIヘルスケア企業である。
同社のAIアプリは、分子レベルで患者の主要を解析し、治療オプションを特定する。また、コロナウイルス診断用のアプリを開発。50000人の感染者のデータを構造化する研究に取り組んだ。データは、参加機関には制限なく共有される。
シカゴ本社のほか、ニューヨークとサンフランシスコにオフィスを持つ。また、シカゴ・アトランタ・ノースカロライナに研究所がある。AIを利用したアプリケーションには、神経学、精神医学、腫瘍学に対応したものがある。
Anduril Industries
AI利用の例として、道路・鉄道・航空の安全な行程構築の支援が挙げられる。これらに対応したAIアプリは、主に自動車会社や運送会社によって使用されている。車両・交通関係のAI企業の一例として、Anduril社が挙げられる。ただし、世間一般には、同社は軍事企業と見られている。
シリコンバレーの企業は、AIやロボット工学が軍事利用されることに抵抗感を持っていた。これに対し同社は、積極的に技術を国防省に提供している。同社の主な製品には無人航空システムや自立型監視システムなどがある。
他のドローンを排除するために設計された無人戦闘航空機のAnvilは、アメリカ軍とイギリス軍に採用されている。また、広い空間を監視するために、石油会社やガス会社にも売り込んでいるといわれている。
現在カリフォルニア州コスタメサ市に本社がある。サテライトオフィスはボストン、シアトル、DC、ロンドン、シドニーにある。2021年には400人のスタッフを抱えていると報じられている。
CrowdStrike
テクノロジーの発達とともに大きな障害になったのはサイバーアタックである。企業は、サイバーアタックの特定・予測・対応に自社ソフトウェアを開発しているが、そこにAIを組み込んでいる。多くのAIセキュリティ製品は、過去の脅威に基づいて脆弱性を検出するように作られている。
CrowdStrike Holdings, Inc.はテキサス州オースティン市に本社がある、サイバーセキュリティーテクノロジー企業である。2011年創業。2023年の従業員数は7273名と大所帯である。同社は2014年のソニーピクチャーズへのハッキングや2015年の民主党全国委員会に対するサイバー攻撃、eメール漏洩事件などの操作に関与してきた。
同社はエンドポイントセキュリティに重点を置いている。AIを活用することで、実際に攻撃が始まる前に悪意のある行動を検知し、末端機器を制御する。ネットワーク管理者にデータを提供することで、必要な行動が瞬時にとれるようになっている。
同社の開発したシステムのひとつはFalconという製品である。この製品はAIを利用してエンドポイントの保護、脅威に対するインテリジェンス、および脅威の属性を提供する製品であった。
OpenAI
より高速でより安全に生産量を増やすために、AIが製造工場にも役立っている。製造およびエンジニアリングAIのトップ企業のひとつにOpenAI社が挙げられる。2015年の設立時には、テスラ社のイーロンマスクも役員のひとりだった。
同社の目標は人類全体に利益をもたらす汎用人工知能の普及と発展である。本社はカリフォルニア州サンフランシスコ市にある。2022年の対話型人工知能であるChatGPTが代表的。最新作はGPT-4。
他の機関や研究者が自由に協力できるように、オープンソース化している。同社の特許と研究は一般公開されている。その他、自然言語の記述からデジタル画像を生成する深層学習モデルのDALL・Eや音声認識と機械翻訳のサービスであるWhisperなどがある。
正確には営利法人であるOpenAI LPと、その親会社である非営利法人のOpenAI Inc. をあわせてOpenAI社としている。ChatGPTなどは、利用料を徴収しているので営利法人のOpenAI LPが取り扱っている。
Microsoft
Microsoft社は消費者向けのAIプロジェクトとビジネス向けのAIプロジェクトの二本柱を持っている。Microsoftが提供しているAzure クラウドサービスは、自動会話サービスや機械学習、AIやデータサイエンスの知識が無くてもアプリを構築できるクラウドベースのAIサービスなどを販売している。
OpenAI社とパートナーシップを結び、例えば個人でも企業でも利用されているオフィススイートMicrosoft365にChatGPTやDALL-Eを組み込んだと発表している。パワーポイントで欲しい画像はAIが生成したり、アウトルックで言いたいことを伝わる形で書いてくれるなど、AIがユーザーをサポートする。
Microsoft Azureは合計で100を超すサービスを提供している。そのうち特にAI技術を利用しているものはテキスト読解支援のImmersive Readerなどをはじめとする27のサービスである。またIoTなども10以上のサービスを用意している。
世界中にあるMicrosoft社のデータセンターにおいて、 Microsoft Azureは大規模な仮想化を行っている。
アメリカの産業界におけるAIの活用事例
農業でのAI活用
農業における世界のAI市場は、2020年に7億米ドル以上と評価された。2021年から2026年の予測期間で、CAGRで21.52%、24億6000万米ドルに達すると予測されている。最大の市場は北米であり、最も急成長しているのはヨーロッパである。
AIを利用している代表例のひとつは、トラクターである。GPSベースの無人機にすることで収益が10%以上向上し、人件費の節減につながるという。また、ドローンの利用は、AIの発達によりさらに進化し、熱画像処理を伴った家畜の監視や顔認識プログラムによる牛の個別の体調スコアや給餌などにも利用されている。
農業のAI市場は、農業用ロボットによって牽引されているともいえる。消費量の増加と作物の収量向上への要求の高まりによって、ロボットの需要が高まっている。最新農機具の約80%には、何らかのAIを搭載しているという。
AIロボットによる列作物の除草の精度が上がり、除草剤の使用量が20分の1に減ったとの報告もある。またクラウドやAIなどを組み合わせたシステムを使って、合理的な作成・販売ルートを作成し新鮮な農産物を栽培・配達している。
法曹界でのAI活用
法曹界におけるAI活用例のひとつには、契約書や提出書類などの文面校正が挙げられる。既に導入している事務所も多く、本来ならば膨大な書類のために人手を要するところが、AIを利用すると瞬時に作業が終わってしまうという。
賠償金の算出なども、AIを利用すると正確に、また素早くできる。AI登場以前は、弁護士たちが過去の判例や法律を参照に複雑な計算をしていた。自然言語処理AIシステムを利用すれば、短い時間で正確な賠償金請求が可能になっている。
アメリカ大手法律事務所のBakerHostetlerは、AI弁護士ともいわれるROSSを導入している。ROSSはIBM社の自然言語解析システムであるWatsonをベースにしたAIであり、相談内容に対して訴訟に必要な判例などの情報を迅速に提供するシステムである。
専門分野のデータベースを備えたAI自動翻訳機も法曹界で重宝されている。国内外の公的文書やガイドライン、ユーザーの社内文書などをデータベース化し、社内表現や言い回しを含め、AIが学習する。これまでの機械翻訳とは違い、精度が抜群に向上し、情のある文章が作成できているという。
医療・ヘルスケア分野でのAI利用
すでに多くの病院でロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)が取り入れられている。ヘルスケア市場におけるRPAの市場規模は2022年には約29億米ドルだったが、2030年までには62億米ドルに達するとされている。
オンライン医師相談アプリで使用される感情AIは、音声分析を利用して鬱病や認知症、ダウン症などの診断が可能。ウェアラブルデバイスを利用してデータを作成しクラウドにデータを飛ばすことで、パーソナライズされた食事と運動の指導が提供される。
慢性疾患へのAIの利用も注目されている。WHOの調査では毎年1700万人が慢性疾患で死亡している。しかも慢性疾患の死亡率は70%に達するといわれている。こうした慢性疾患に対して、例えばAIを活用した心臓モニターシステムで心不全に対応できる。AIによる癌や糖尿病にビックデータの活用がされている。
既にAIは医療アプローチを改善するために動き出しており、これまで困難だった状況を解決している。さらにAIの学習機能によって、精度レベルはさらに向上する。医師や看護の負担の減少は間違いない。
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。