【アメリカの宇宙産業】宇宙ビジネスの主要企業を解説

宇宙産業には世界で130を超える国家機関が参加している中、アメリカは2021年度に546億米ドルを投資しており、世界トップを走っています。地球上での経済活動に限界が生じている現在、宇宙産業は第四次産業革命の中心として期待されています。今回はそんなアメリカの宇宙ビジネスについて、主要企業を取り上げながら解説します。

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アメリカでビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

アメリカの宇宙産業の概要

宇宙産業とは?

IT産業の後に続く成長市場として、宇宙が注目されている。かつて宇宙産業といえば国家規模の打ち上げに関する事業だけだったものが、現代では様々なセグメントに分かれ、「宇宙経済」「宇宙利用ビジネス」などとも呼ばれている。

人や物を高頻度に「輸送するセグメント」は、今後は民間企業が主導することが期待されている。既に多くの企業が参画しているのは「衛星関連のセグメント」である。例えばGPSや衛星インターネットなどがこれにあたる。

近年もっとも注目されたのは「旅行関連のセグメント」である。日本以外の国では人気であり、2028年ごろには140億米ドルの市場になると期待されている。他には「探査や資源開発関係のセグメント」は高い技術が要求され、今後の発展に期待が寄せられている。

裏方となる「衛星インフラ関係のセグメント」は地上からの衛星管理や軌道上でのメンテナンスなどを含む。その他には「宇宙保険」「宇宙空間利用」「宇宙ゴミ回収」「宇宙食」など、様々なセグメントが既に動き出している。

世界の宇宙産業は130を超える国家機関が参画している。その国々の中でもアメリカは2021年度に546億米ドルを投資しており、首位を独走している。地球上での経済活動に限界点を感じている現在、宇宙産業は第四次産業革命の中心として期待されている。

アメリカの宇宙産業の市場規模

世界の宇宙産業は、2019年に売り上げ額ベースで4200億米ドルと評価された。その大半は衛星サービスと地上機器製造で占められていた。これまでの宇宙開発の中心であった衛星やロケットの製造は6%程度に過ぎない。

打ち上げにかかるコストが、技術改革によって大幅に下がった。これをきっかけに、ベンチャー企業が参入し、市場は活性化した。特にアメリカではその勢いが強く見られ、例え倒産などにあったとしても引き継ぐ企業には事欠かない。

アメリカでの宇宙経済といえばNASAだけが注目されがちだが、国防省なども大きく関与している。国家機関の予算は潤沢であり、2020年のNASAの予算は225億米ドル。欧州宇宙機関や中国宇宙局の予算はNASAの半分以下しかない。

ところがアメリカの宇宙産業への投資が激減。近年の高金利と銀行破綻などが原因とされている。打ち上げ会社は勢いを無くしたが、それ以外の宇宙関連セグメントにはまだ関心が寄せられており、依然として世界の宇宙産業市場ではアメリカが独走状態にある。

2021年に打ち上げられた人工衛星の数は世界で1448機。そのうちアメリカは1027機と圧倒的な数を占める。今後もアメリカは、宇宙産業市場のリーダーであり続けることは間違いない。

アメリカでビジネスをするなら知っておきたい10のこと

アメリカの宇宙産業の主要企業

輸送関連:Space X

宇宙空間において経済活動をするとき、何らかの物資が必要になってくる。同社は2002年にイーロン・マスクによって「火星の植民地化のための宇宙輸送のコスト削減」を目的に設立された、宇宙輸送サービス会社である。

2020年12月現在までに、同社はNASAとの契約の元、国際宇宙ステーションへの貨物補給を20回実施している。同社の短期的目標である貨物及び宇宙飛行士の供給に関しては既に目標達成済といえよう。次なる目標は100人乗りの宇宙船と大量輸送に耐えられる大型ロケットの完成である。

同社は世界で初めて商業用ロケットの再使用を成功させた。これにより、従来の半分以下のコストでの打ち上げが実現されている。最終的な計画では1000人以上の人間を乗せ26か月ごとに火星に輸送し、50年から100年以内に100万人都市を建設することとしている。

輸送関連:Blue Origin

創業者はAmazon創設者のジェフ・ベソス。同社はNASAと「宇宙飛行士や貨物に地球低軌道への高頻度アクセスを提供する新しい宇宙輸送方法」の開発に協力すると発表している。既に6回以上の打ち上げをし、30人以上の飛行士と貨物を宇宙に飛ばし、帰還させている。

2011年のベソスのインタビューに「同社の目的のひとつには、民間企業が主体となって輸送費用を低減し、有人宇宙飛行の安全性を高めることがあげられる」と語っている。さらに輸送だけではなく、最終的には宇宙旅行を大幅に安くして誰でも宇宙へ行くことを手伝うことも目的のひとつだ、と語った。

2021年7月20日には乗客を乗せた世界初の宇宙旅行を成功させている。ただし、同年9月に発生した無人調査飛行中の事故以来、連邦航空宇宙局の調査が続いており、計画は中断している。

衛星データ・技術関連:Amazon Web Service

2006年に開始されたAmazonのクラウドコンピューティングサービスは、2021年現在世界シェア39%で首位である。Amazonなどの衛星通信サービスにより、地球上のどこからでもインターネット接続が可能になった。AWS(Amazon Web Service)が提供しているものの中に、宇宙データセットと呼ばれるサービスがある。

人工衛星から得られたデータや様々な宇宙関連技術は、煩雑な管理プロセスなどを考えると、そのままの状態では経済利用しにくい場合が多い。AWS宇宙データソリューションは、AWSによって解析された宇宙データを公開・販売し、企業や研究者がこれらを利用するように作られている。

AWSは宇宙産業が経済成長の起爆剤になると考えている。Space Acceleratorは、宇宙関連のスタートアップ企業を支援するサービスで、衛星業界の技術革新を支援することを目的としている。

衛星データ・技術関連:Orbital Insight

カリフォルニア州バロアルト市に拠点をおく、Geospatial Analytics(一般的に日本国内ではGIS・Geographic Information Systemとされることが多い)地理空間分析会社である。簡単な例を挙げればGPSやグーグルマップなどに利用されているリアルタイム位置情報などの情報源を提供している。

インフルエンザの流行状況を視覚化したり、道路の渋滞情報をもとに最短迂回路を瞬時に提供することなど、衛星データを使って地図上に情報を可視化させ、さらに複数の情報を重ね合わせた情報を提供している。

例えば、2018年にはアメリカ政府に緊急洪水マッピングサービスを提供している。他には衛星からショッピングモールの駐車場の車の台数を調べることで小売り収益の推定を可能にした。また、自然災害の衛星データを使って保険会社が被害規模を推定したりなど、同社の販売しているデータは、さまざまな分野に利用されている。

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宇宙旅行関連:Virgin Galactic

2004年に実業家のリチャード・ブランソンによって設立された民間宇宙旅行会社である。1960年から2007年まで、地球の上空100㎞以上に到達した飛行士は448人しかいない。この歴史的事実に対して、同社は年間500人の観光客を、ひとりあたり25万ドル程度の料金で宇宙へ送る計画を立てている。

2018年12月、史上初めて民間の乗客を乗せるために作られた有人宇宙船がアメリカ空軍が定める高度80㎞以上の宇宙空間に達したと発表された。またその後の2021年には、同社創業者ら6人が搭乗した宇宙船が高度80㎞に達し、3分間の無重力体験を行い、約60分後に無事に地球に帰還している。

同社のホームページでは、現在も宇宙旅行者を募集している。2019年現在で約700人が予約販売済みとなっている。現段階での費用は45万米ドルと、計画より高めに設定されているが、それでも予約の数は徐々に増えているという。

宇宙旅行関連:Axiom Space

2016年創業本社はテキサス州ヒューストン市。創業者の一人は国際宇宙ステーションのプログラムマネージャーであったマイケル・サフレディーである。2022年、同社は国際宇宙ステーションへ商用民間宇宙飛行を成功させた。

同社の短期目標は、2025年に世界初の商業宇宙ステーションを所有・運用することとしている。その他、宇宙研究・宇宙製造・宇宙探査などに従事する、政府資金の民間宇宙飛行士の育成も計画している。

同社のホームページには「どこにでも行けるとしたら、どこにいきますか?」というキャッチコピーが見られる。「民間宇宙飛行士」と題しているページには、宇宙旅行を現実のものにする「ミッション予約ページ」が作られている。

探査・資源開発関連:Astrobotic

Astrobotic Technology社は、航空宇宙およびロボットを専門とする企業である。2007年にペンシルバニア州ピッツバーグ市にて創業。人類の宇宙探査の次の段階、特に月や他の惑星へのミッションに向けた、探査や資源開発に必要な技術を提供することを企業理念としている。

宇宙でも繫栄していく人類が、地球軌道を超えた宇宙を探索できるように、ロボット工学で支援したい。宇宙ミッションを実現可能にし、科学や探査などが経済活動として成立し、しかも手ごろな価格になるようにしたい。公式ホームページには、こうしたことが書かれている。

今後のミッションとして月面探査機のポラリス、さらに小型のムーンレンジャーなどが発案・開発発注されている。さらに着陸や危険検出のセンサー、コンパクトな耐宇宙仕様のカメラ、ロボットナビゲーションなど、多くの技術が用意されている。

探査・資源開発関連:Intuitive Machines

Intuitive Machines, Inc. は、NASAの「月」への商用ペイロード(貨物輸送)サービスプログラムに入札する権利を与えられた9社のうちの1社である。同社の月面着陸機は、月の天然資源の探査目的とするものとして、NASAに提案される予定である。

既に同社は、民間企業の開発したロボット宇宙船を利用して月面へ科学機器などのペイロードのためのNASAとの契約を3件締結している。その中のひとつは、世界初の商業的な月面探査ミッションとなる。

もとはテキサス州ヒューストン市に本社があったが、2023年2月にデラウエア州にて法人化した。同社は今後も月面を中心とした探査・資源開発・周回軌道ペーロード・通信回路などを提供していく。

衛星インフラ関連 :OneWeb

衛星インフラセグメントは、宇宙産業セグメントのうち、現在の経済活動で最も活発かつ歴史を持つセグメントである。それは例えば、通信衛星や気象衛星などの管理・運営のことである。現在の技術では、複数の人工衛星からの情報を得ることで、30㎝四方の物体までリアル単位で測定できる。

イーロン・マスクのstarlink社などは、人工衛星を使って地球上のどこからでもインターネット接続が可能としている。OneWeb社とstarlink社の大きな違いは、OneWeb社の顧客が一般客ではなく、企業や政府や既存の通信会社ということである。

現在のOneWeb社はイギリス政府が買収し、インドの企業が投資して管理している。もとはアフリカのルワンダでインターネット接続会社を起業した経験を持つ、グレッグ・ワイラーが起業した会社である。

衛星インフラ関連:Spire

バージニア州ヴィエナ市やカリフォルニア州サンフランシスコ市などに拠点をもつ、衛星インフラ構築・管理運用会社である。同社は衛星軌道上に100基以上の人工衛星を持ち、世界各地にある30以上の地上基地を利用して、様々なデータを企業に提供する。

ビジネスモデルはアマゾンのAWSと似ており、Spire社が構築しているサービスについて、利用企業が使用した分だけ費用を支払うという「サブスクライブ」方式で運用されている。インフラ自体は様々な企業と共有するために費用が抑えられ、Spire社にとっても利用企業にとっても、コスト削減が可能となっている。

国際宇宙大学卒業生による「宇宙へのアクセスの民主化」を目的としたプロジェクトの一環として立ち上げられたベンチャー企業である。現在も海洋・航空・気象などのデータ追跡を、自社研究開発された衛星インフラを使って提供する。

宇宙保険:AXA XL

フランスのパリ市に本部を置く、世界規模保険会社であるAxa社の、アメリカ子会社がAxa XL社である。コネチカット州スタンフォード市に本部を置き、6大陸に100以上の事務所を構える。もとは、1986年にケイマン諸島で設立したEXEL Limited社が、2018年にAxa社に買収されたことによる。

同社が手掛けているのは、開発で起こる事故などに対する保険や打ち上げ前後に起こるリスクに対する保険などをカバーする。さらには、宇宙ビジネスで発生する損失の補償や各ミッションに特化した保険開発なども手掛ける。

現在、同社は宇宙保険業界の最大手保険会社といわれている。リスクコンサルタントも手掛けており、同社のクライアントには人工衛星の所有者やメーカーやユーザーだけではなく、政府機関なども含まれている。

宇宙空間レンタル:Nanoracks

既に宇宙ビジネスには様々な業種が存在している。特に現段階での宇宙空間においては、限られた条件の中での活動を余儀なくされている。地球上であっても、レンタル機材やリサイクル専門の企業が存在しているように、Nanoracks社は、宇宙空間で使用する施設機材や実験室を貸し出したり、宇宙空間内に浮遊する機材を回収しリサイクルしてニーズに合わせて改良し、ユーザーに提供している。

同社は地球低軌道への商用アクセスを提供するために、2009年に設立した。現在までに、1300個を超える研究用ペイロード・小型衛星などを国際宇宙ステーションに運んだ。宇宙空間での研究・小型衛星の配備なども手掛けている。

同社が独自に保有する商業宇宙ステーション「Starlab」の開発・建設を急いでいる。また宇宙空間内で廃棄された機材を利用した「アウトポスト」と名付けられた自立型宇宙プラットフォームが開発中である。

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