タイのHealthTech(ヘルステック)業界が急速に進化している中、2024年は技術革新と新たな課題への対応が加速すると予測されています。オンライン医療サービスの急成長、高齢化社会への移行、民間医療サービスの拡大、そして深刻な医師不足という4つの主要トレンドが業界を形作っています。これらの変化に対応するため、政府や企業は革新的なソリューションを模索し、デジタルヘルスの発展に注力しています。
では、タイのHealthTech(ヘルステック)業界はどのように変革され、どのような企業が主導的役割を果たしているのでしょうか?
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タイのヘルスケアテック業界の概要
タイにおける医療業界とヘルスケアテックのトレンド
2024年、タイの医療業界は技術の大幅な進展と新たな課題に対応するための医療サービスの拡充が大きく進むと予測されている。これには、4つの主要な成長トレンドが反映されている。
- オンライン医療サービスの急成長がみられ、2023年と比較してテレメディスンの利用が30%以上増加したという統計がある。病院はアプリやオンラインプラットフォームを活用し、対面診察の必要を減らし、市民の利便性を高めるためにデジタル技術を導入している。
- タイは完全に高齢社会へと移行しており、60歳以上の人口の割合が5人に1人、つまり総人口の約20%に達することが予想されている。この人口動態の変化は、高齢者向け医療サービスの需要を高めており、医療インフラへの投資や公的・私的病院ネットワークの拡充を促している。また、既存の医療保障は急激なコスト上昇に対応する必要がある。
- 民間医療サービスの拡大は、国内外の需要により15%成長する見込みである。2024年までにこのセクターは3220億バーツの収益を生み出すと予想されている。この成長は医療ITへの投資を推進し、複雑な疾患の治療能力を強化する。また、政府との協力により、さまざまな医療基金の枠組みの中で複雑な健康状態の管理やケアの可能性を広げ、一般市民へのサービスアクセスを向上させる。
- 特に公的セクターにおける医師不足は約25%に達しており、医療機関はサービス提供の向上と内部管理の効率化のために技術を取り入れる必要がある。この対策は部分的には問題を軽減するかもしれないが、医師不足は特に公的医療機関において依然として重要な構造的問題として残っている。
出典:https://www.backyard.in.th/post/pr-healthcare-trend-2024
タイ政府の取り組み
世界保健機関(WHO)とタイ保健省は、様々な利害関係者とパートナーとともに、2022年から2026年にかけての国別協力戦略(CCS)を策定中で、優先的な関与分野を特定し、焦点を当てている。デジタルヘルスと健康情報システムは、WHO-CCS(2022-26)の優先分野の一つとして認識されている。WHOの技術支援とアドボカシーを通じて、タイのデジタルヘルスと統合健康情報システムの発展を支援するために、全国レベルの協働デジタルヘルスガバナンスメカニズムを構築することを目的としている。
以下の5つの重点分野に焦点を当てている
1.タイにおけるデジタルヘルスと健康情報システムの状況分析
2.移民労働者のデータセットの標準と相互運用性
3.健康データ管理とデータ共有のためのフレームワーク(データ保護を含む)
4.タイにおける研究と政策支援のためのオープンデータ触媒イニシアティブ
5.タイにおけるバーチャル病院と遠隔医療
出典:https://www.hitap.net/en/research/190663
タイの主要なヘルスケアテクノロジー企業とトレンド
テレメディスン(遠隔医療)の成長
A-MED Care Pharmaプラットフォームは、薬局をつなぎ、データを記録し、プライマリヘルス保険カードに基づいて医療費を処理するために国立科学技術開発庁 (NSTDA)、国家健康安全局 (NHSO)、タイ薬局協会、および参加薬局により、開発された。これにより、軽度の症状を持つ患者は薬局で薬を受け取ることができ、薬剤師が処方し、アドバイスを提供できる。
2023年には、プログラムに参加する薬局サービスを利用する患者の数が増加し、病院サービスの負担が軽減され、公共の医療サービスへのアクセスが向上したことが反映されている。さらに、軽度の症状を持つ患者が近くの薬局で薬を受け取ることができる能力は、政府や社会、そして患者自身にとってもコストを節約する助けとなっている。このコストは1回の訪問で201バーツから927バーツに及ぶ、テレメディスンサービスは、医療施設の混雑を減少させるための重要な手段であり、COVID-19パンデミック中には公衆衛生システムの管理において重要な役割を果たした。テレメディスンサービスを利用することで、軽度の症状を持つ患者は自宅や地域で隔離を選択し、病院に行かなくても医療スタッフにアクセスでき、これにより、危機時にフロントラインのスタッフへの負担を軽減するだけでなく、自宅や地域に留まることでコストも削減できる。2022年のデータによれば、地域および自宅での隔離サービスの提供コストはそれぞれ4,532バーツと6,039バーツで、入院のコスト(ケースあたり62,033バーツ)に比べてはるかに低いことがわった。
出典:https://ipsr.mahidol.ac.th/wp-content/uploads/2024/07/603-ThaiHealthReport-2024-ENG.pdf
タイの医療保険
生命保険の流通チャネルは依然として伝統的であり、顧客は保険商品の比較にオンラインチャネルを活用していない。保険代理店のネットワークや大手商業銀行を通じた流通は国内で依然として主流であるが、新たな参入者や取り組み、規制条件によってこれらの流通チャネルは変革される可能性がある。デジタル技術は、TPA(サードパーティ管理者)医療保険市場にとっても重要である。TPAは、医療管理、請求処理、インテリジェントシステム、報告などを提供。現在、タイで運営されているTPA企業はわずかで、ブルーヴェンチャーTPAが市場シェアを占めている。一部の国では、TPAがテレヘルスなどのマネージドケアサービスを提供。例えば、シンガポールでは、TPAサービスの請求フォーマットを調整する規制が導入され、TPA市場の魅力を微妙に変える可能性がある。タイ政府が同様の政策を採用すれば、TPA市場は一時的な減少を経験するかもしれない。
出典:https://www.abeam.com/th/en/news/2024/1023/
タイの公共ヘルスの変革
総合的な通信とデジタルソリューションを提供する企業向けリーダーのTrueBusinessと、グローバルなテクノロジーリーダーであるIntelとの戦略的なコラボレーションが、タイの医療業界を完全なデジタルエコシステムに変革することが期待されている。
この取り組みは、Trueの強力な5Gネットワークの能力とIntelの先進的なAI技術を活用し、タイの病院や医療機関における診断、治療、リハビリテーション、患者データ管理を改善するための7つの新しいスマート医療ソリューションを導入、そのスマート医療ソリューションの機能を統合し推進することに焦点を当て、タイの医療業界を向上させるとともに、全国の病院で医師や医療従事者がより正確で迅速かつ高品質な医療サービスを提供できるようにする。同時に、この取り組みは、全国の患者が公的健康サービスに包括的にアクセスできるようにし、タイ国民に持続可能な生活の質と健康を提供するための体験を向上させることに繋げる。
その結果、TrueBusinessとIntelは、AIの倫理的、安全、かつ透明な利用に基づいて、科学的発見を促進し、医療サービスの効果を高め、タイを東南アジアの競争力ある医療ハブとして位置づけることを目指す。
出典:https://trueblog.dtac.co.th/blog/en/truebusiness-2/
タイのヘルスケアテックの主要企業
Backyard
2014から20215年までわずか6人の従業員で始まり、ソフトウェアハウスとして、公共部門と民間部門の両方のニーズに合わせた専門ソフトスウェアを開発。2018年に医療業界向けのソフトウェアソリューションに特化した子会社であるMEDcury Co., Ltd.も立ち上げた。Backyard Groupは、Principal Capital(PRINC)と提携し、患者および医療データの管理と分析のための高度なシステムを開発、このコラボレーションは、プリンシパルヘルスケアネットワーク内の病院全体のデータセキュリティと効率性を向上させることを目的としている。2024年10月に、オープンソースのオールインワンビジネスソフトウェアのグローバルリーダーであるOdooと正式に提携し、ヘルスケアセクターやその他のさまざまな業界向けのエンタープライズリソースプランニング(ERP)システムを開発。Backyardのヘルスケア向けERPソリューションは、病院、診療所、その他の医療施設全体で内部リソースを効率的に管理するように設計、病院情報システム(HIS)とシームレスに統合され、リソース管理が強化される。
出典:https://www.backyard.in.th/en/who-are-we
Ooca
2017年にタイのバンコクを拠点とし、スタートアップとして設立、医療分野でメンタルヘルス相談サービスを提供するタイ最大のオンラインプラットフォーム。同社は、精神科医や心理学者へのビデオ通話相談へのアクセスを提供し、メンタルヘルスサポートを求めるユーザーの機密性と利便性を確保している。
Oocaは、医薬品配送サービス、組織向けのワークショップ、若者のメンタルヘルスを支援するための特別プログラムも提供している。現在、100人以上の専門家がおり、13万人の登録ユーザー、15万人以上のストレステストが行われている。各コンサルタントの手数料は異なるが、相談料は30分あたり450バーツからとなっている。30分または60分のカウンセリング時間を選択できる。セッションを30分(最初の30分以降)延長したい場合は、現在のセッションが終了する前に、追加料金について支払う必要がある。
これまでに、Oocaはバンコク・ドゥシット医療サービス(BDMS)とエクスパラ・タイランドからの2回の資金調達で合計320,000米ドルを調達。BDMSとのパートナーシップにより、オンラインおよびオフラインでの患者へのアクセスを向上させ、メンタルヘルスサービスの提供者としての目標を達成しようとしている。
出典:https://ooca.co/en/about-us/
Doctor Anywhere/strong>
シンガポールに本拠を置く「Doctor Anywhere」は、2021年にタイのテレメディスンプラットフォーム「Doktor Raksa」を6570万米ドルで買収。買収の目的は、Doctor Anywhereがタイ国内での業務をローカライズし、その後多くの州にサービスを拡大すること。Doctor Anywhereは、ユーザーが医療を受けたり、治療を受けたり、無料で処方箋を配送したりするためのアプリを提供、また、雇用者や健康保険会社とのパートナーシップを結び、従業員にテレヘルスサービスを提供している。
これまでに、同社はNovo Holdings、IHH Healthcare Berhad、Asia Partners Fund Management、OSK-SBI Venture Partners、EDBI、Kamet Capital Partnersなどから4回の資金調達で合計1億3560万米ドルを調達している。現在、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの6カ国に展開し、250万人のユーザー、3000以上のGPと専門医が登録、1000以上の企業が採用している。
出典:https://www.doctoranywhere.co.th/about-us
Arincare
2016年に設立、Arincareは、在庫管理、電子処方箋、患者の医療記録、医薬品のマーケットプレイス、POSソリューションを提供するデジタルファーマシープラットフォーム。国内に3,000以上の薬局ネットワークを持っている。Arincareは、Chularat Hospital Group(CHG)およびPTG Energy Plcから400万米ドルのシリーズB資金調達を行い、この資金は、タイのコミュニティレベルでのテレヘルスエコシステムを強化し、より多くの患者が治療を受けられるようにするために使用。
2024年グローバルパートナーであるZoomと提携し、国内初のテレメディスンソリューション「MedCare Telehealth Powered by Zoom」を導入。この取り組みは、リアルタイムのオンライン健康プラットフォームを通じて、病院、クリニック、薬局、患者をつなぎ、全国の医療ギャップを埋めることを目指している。 アプリのダウンロードなしで柔軟性とカスタマイズを提供するこのプラットフォームは、今年中に50,000ユーザーをターゲットにしている。ArincareのZoomとの協力は、ビデオ会議プラットフォームを活用し、タイの公衆衛生セクターを世界水準の通信技術で向上させることを目的としている。
https://explore.zoom.us/en/customer_stories/arincare/
HonestDocs (HD) Thailand
東南アジアの健康とウェルネスを向上させるための健康情報、製品、サービスを提供するデジタルヘルスプラットフォーム。2017年にスタートアップのベテランチームによって設立され、タイとインドネシアで最も急成長しているデジタルヘルスプラットフォームの一つである。
HDは、健康コンテンツとコミュニティドリブンなアプローチを通じて顧客を獲得し、収益化はヘルスケアのeコマースを通じて行う。具体的には、
1) 健康、歯科、医療美容パッケージ(オンラインで購入し、病院やクリニックで利用)
2) 薬の配達
3) テレヘルスの相談
4) マイクロ保険を提供しています。
また、病院、クリニック、大手製薬会社、保険会社向けにヘルスケア分析などの付加価値サービスも提供している。今後、ベトナムやミャンマーへの展開を計画している。2024年、東南アジアで「ヘルスケアのためのSierra AI」を構築するために560万ドルを調達、東南アジアのヘルスケア業界におけるカスタマージャーニーを強化するAIの変革の可能性を認識、生成型AIの力を活用することで、プロセスを合理化し、スタッフの生産性を高め、最終的には医療体験を回復することを目指している。
出典:https://hd.co.th
https://techcrunch.com/2024/04/02/hd-mall-southeast-asia-ai-healthcare/
バンコク在住のタイ人。タイにおける日系企業向け翻訳・通訳を6年間以上行う。経済、ビジネス、IT分野に興味があり、マーケティングや流通を含めた企業調査や、企業調査といった情報収集が得意。