アメリカの保育業界が直面する人材・施設不足と高騰する保育料が、多くの家庭に重くのしかかっています。バイデン政権は支援策を次々と打ち出していますが、根本的な解決には程遠いのが現状です。質の高い保育を手頃な価格で提供する持続可能な仕組みづくりが急務となる中、業界の最新動向と課題、そして将来の展望に迫ります。
今回は、そんなアメリカの保育業界に焦点を当て、最新の業界情報をお届けしていきます!
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2023-2024年 アメリカの保育業界
チャイルドケア・アウェア 保育所を開設しているが、何千人もの子供たちが待機リストに残っている
保育リソースを提供する非営利団体チャイルドケア・アウェアのプレスリリース記事によると、軍関係者用の保育所が問題になっているという。その原因は、人員不足と施設不足にあるという。例えばカリフォルニア州サンディエゴ市の海軍基地周辺には、軍関係家庭の児童が2600人待機リストされている。そのうち1100人は生後12か月未満の乳児であるという。
10年前までは保育所に入る順番待ちが最大の課題だった。ところが今は、スタッフ確保と施設の確保が最大に問題だと、チャイルドケア・アウェアのフランシスコ・ジェイミソン氏が語った。手ごろな料金の保育所は軍人家庭に重要な課題であり、軍の提供する保育所か、より高価な民間保育所が唯一の選択肢だという。
来年の国防権限法にスタッフの給与と福利厚生を増やす文言を加えたことにより、人員不足解消に期待が寄せられる。施設拡充も急ピッチで進められている。
出典:https://info.childcareaware.org/media/the-military-is-opening-more-childcare-centers-but-thousands-of-kids-remain-on-waitlists
ホワイトハウス 保育コストの削減と保育提供者への支援に向けた措置を発表
4月に署名した大統領令の中で、保険社会福祉省に対して、家庭の保育コストを削減し、保育市場を強化するための 政策推進を検討するよう指示した。
それによると、毎月150万人の子供を支援する保育開発ブロック助成金を強化し、新たに政府からの通知を発表。具体的には「育児自己負担額を世帯収入の7%以下に制限」「連邦貧困レベル150%以下の世帯の自己負担金免除」「プログラムの登録に基づいて予定通りに支払われる保証」「簡単なオンライン申請」などの実現を、州関係各所に通達した。
調査によると2005年から2021年の間に保育料は20%近く増加したという。ハリス副大統領の名の元に発表されたこれらの通知は、即日各州の関係各所に通達され、すでに補助金を受けている場合でも、さらに簡単に申請・受け取りが できるように改定するよう指示されている。
実現すれば、初期負担を軽減できると期待されている。
出典:https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2023/07/11/fact-sheet-vice-president-harris-announces-actions-to-lower-child-care-costs-and-support-child-care-providers/
アメリカ保険福祉省 保育へのアクセス、手頃な価格、安定性を改善するために提案された新しい規則
アメリカ保険福祉省は、児童家族局を通じて、より多くの家庭が必要な保育を受けられるように、保育所に対しての サポートを強化する新しい規制案を発表した。150万人の保育費用を補助し、23万の保育所には保育開発基金を強化する。
児童家族局の保育局ディレクターであるルース・フリードマン氏は「これらの規制案はより良い育児補助金プログラムを構築するだろう」と期待を寄せた。
規制案によると、親が必要な時に、必要な場所で保育所を見つけられるように、保育コストを削減することや、保育所の選択肢を増やし、保育所側の経営的安定性を改善するための案が盛り込まれている。
「我が国は、強力な保育制度なしに、機能しない」と、保険省のザビエル・ベセラ長官は声を大にして語った。
出典:https://www.hhs.gov/about/news/2023/07/11/new-rule-proposed-improve-child-care-access-affordability-stability.html
アメリカ国防総省 自宅保育プログラムを拡大
アメリカ国防総省は、自宅保育プログラムを拡大した。フルタイム在宅保育者に料金補助を提供。5か所だったプログラムは11か所に拡大され、合法であれば、永住権保持者でも利用できるようになった。
このプログラムは、軍人の自宅で提供される。週最低30時間から最大60時間のフルタイム保育をカバーする。新たに 加わった6つの施設がある対象地域は待機リストが長い地域から選出された。
パトリシア・モンテス・バロン国防副次官補は「国防総省は、質の高い保育の実現に取り組んでいる」と述べた。 また、軍人家族準備政策局ディレクターのステイシー・ヤング氏は「軍人家族には独特の保育ニーズがあり、同省は選択肢の多様性を増やしている」とも述べた。
ヤング氏は続けて「補助が受けられる民間保育所を拡張している。検索も簡単にできるよう改善している」と加えた。
出典:https://www.defense.gov/News/Releases/Release/Article/3468278/defense-department-expands-child-care-in-your-home-program/
アメリカ教育省 学生の親の保育利用改善に1,300万ドル以上を助成
バイデン・ハリス政権は、低所得の学生結婚カップルに対して、34の高等教育機関で1300万米ドルの助成金を用意すると発表した。現在のアメリカ社会では、大学生の20%が子供を持ち、そのうちの42%はコミュニティカレッジに通っているという。
34の高等教育機関のうちの26の教育機関は、子どもを持つ学生を支援するシステムが整っているという。さらに、アメリカ教育省は、7500万米ドル以上の助成金も発表。アジア系アメリカ先住民太平洋諸島サービス機関プログラムなども含まれるという。
これらの助成金プログラムは、中等教育以降の教育機関に入学を希望する低所得者に対して、より良い社会環境の実現を助けるきっかけを与えるとされている。
それら以外にも、同省は教育機関強化プログラムに基づき、107の教育機関に4600万米ドル以上の補助をしている。
出典:https://www.ed.gov/news/press-releases/biden-harris-administration-awards-more-13-million-improve-access-child-care-student-parents
2022-2023年 アメリカの保育業界
アメリカ財務省 保育制度が家族に過剰な負担を与え、供給不足を引き起こしていることを示す報告書を発表
アメリカ財務省が、保育市場の現状に関する報告書を発表した。報告書では、保育所不足が全米各地で発生している 原因と、保育所不足が社会に与える影響を明らかにした。
ジャネット・L・イエレン財務長官は「保育を経済成長への貢献が不可欠な要素として扱うのは、もう過ぎた」とし、高騰する保育料を放置するのは間違っていると指摘した。経済政策次官補代理のキャサリン・ウルフラム氏の報告書によると、現在のアメリカの保育制度がいかに民間資金に依存しているかがわかるという。
5歳未満の子供が少なくとも一人はいる、平均的な過程においては、世帯収入の約13%を保育料に充てている。経済 学者が流動性制約委する典型的な市場失敗の一例となっており、改革が必要といわれる。
バイデン政権の3歳と4歳児に対しての就学前教育の提供や低所得者家庭の子供への保育補助が結局は、親が国の経済に貢献することにつながるのだと、財務省は報告書でまとめている。
出典:https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy0354
全米幼児教育協会 アメリカの保育所の5つのうち4つは人員不足
全米幼児教育協会(NAEYC)が7500人の幼児教育者を対象に行った調査によると、保育事業者は人員不足と財政的安定を維持することに苦労していることが分かった。NAEYC最高経営責任者のリアン・エヴァンス・オールビン氏は「幼児教育における、根本的な経済状況は修正されていない」と語気を強めた。
「回答者の5人のうち4人は人員不足を嘆いた」「15%は6から15人少ないと報告」「回答者の78%は、人員不足の原因は低賃金とした」「81%が回答者が辞職する理由は資金不足とした」「回答者の三分の一が、辞めるか中断するかを検討している」「誰でも参加できる保育プログラムには認定定員の71%でしか運営されていない」「しかも登録された子供の48%しか一日保育に参加していない」などが報告された。
オールビン氏は「州と連邦の政策立案者は、持続可能な資金提供に目を向けてほしい。私たちは、子供たちと経済を 確実に成長させたい」と述べた。
出典:https://www.naeyc.org/about-us/news/press-releases/survey-childcare-centers-understaffed
民主党上院議員ウォーレン氏 普遍的保育及び早期学習法を再導入、7000億ドルを投資するよう国に求めた
上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(民主党・マサチューセッツ州) と下院議員のモンデア・ジョーンズ氏(民主党・ニューヨーク州)が、すべての家族がアクセスできることを保証する、普遍的保育および早期学習法を盛り込んだ法案を再提出した。
近年の調査で、質の高い保育を手ごろな価格で提供することが実現すれば、フルタイムで働く女性が17%増加すると見込まれている。ウォーレン氏は「崩壊した保育制度を修復し、女性と家族が復興から取り残されないようにするためには、7000億米ドルの投資が必要」と述べた。
「アメリカの半分以上の州では、1年間の保育料金と大学の授業料の1年間分とが同額」とジョーンズ氏は指摘した。1971年、超党派の包括的児童開発法案に対して、ニクソン大統領は拒否権を発動した。今回の法案は、連邦政府のヘッドスタートプログラムとアメリカ国防総省の、軍人家庭保育プログラムが成功したことにより、再検討された。
出典:https://www.warren.senate.gov/newsroom/press-releases/warren-jones-and-colleagues-reintroduce-universal-child-care-and-early-learning-act-and-call-for-president-biden-to-invest-700-billion-in-child-care
カリフォルニア保育リソースおよび紹介ネットワーク 新しい保育所検索サイトを立ち上げ
非営利団体カリフォルニア・チャイルドケア・リソース&紹介ネットワークは、新しいWebサイトMyChildCarePlan.org」を立ち上げた。
この新しいサイトを使うと、近所にどのような保育所があるか、スペースや空き状況、保育所へのコンタクトの仕方、使用される言語、医療や特別なニーズへの対応の経験などを知ることができる。データは州の記録や地元の保育専門家によって収集されており、サイト上の情報は信頼でき、偏りがなく、保護者と保育者の両方が無料で使用できる。
同社のエグゼクティブディレクターであるリンダ・アサト氏は、このサイトが育児検索を劇的に変えることができるのではないかと期待しているという。「このサイトが他のリソースとは異なるのは、家族の手に権限が委ねられているからだ」と、アサト氏は続けた。「家庭は最新の情報を入手でき、保育所はサービスを宣伝することができ、ウィンウィンの関係を構築できている」と熱く語った。
出典:https://rrnetwork.org/updates/california-child-care-resource-referral-network-launches-mychildcareplan-org-to-help-families-find-child-care
チャイルドケア・アウェア 保育料の値上がりがインフレ率を超え続けていることが判明
非営利団体であるチャイルドケア・アウェアが、アメリカ全土で継続的に上昇している保育料金の概要をまとめた「Price of Care: 2021 Child Care Affordability」を発表した。それによると、全米平均保育料金は3年連続でインフレを上回っているという。2021年の平均年間インフレ率は4.7%で例年より高かったが、さらに保育料は2020年と比較 するとインフレ率を上回る平均5%の上昇がみられた。
「全米平均保育料は年間約10600ドル。この価格は共稼ぎ家庭の年収の10%に相当し、ひとり親の場合ならば35%に 相当する」「ほとんどの州で、子供二人分の保育料金は家賃や住宅ローンの28%から100%に相当」「ほぼ全米各地において、保育所に子ども2人を預けると、その保育料金は住宅費医療費などの家計費を上回る」などが判明した。
同団体の最高経営責任者リネット・M・フラガ博士は「強力で長期的な公的支援が必要だ」と指摘した。パティ・ マレー上院議員(民主党・ワシントン州)も「保育危機が家族と経済全体を足かせになっている」と指摘し、改善の ために日々戦っていると強調した。
出典:https://info.childcareaware.org/media/price-of-care
まとめ:アメリカの保育業界
アメリカの保育業界は、人材・施設不足と高騰する保育料に直面していますが、テクノロジーの導入や柔軟なサービス提供で成長が期待されています。政府や企業の支援策により、質と価格のバランスを取る努力が続いていますが、根本的な解決には至っていません。今後はデジタル化や早期教育の重要性が高まる中、持続可能な保育システムの構築が 急務です。
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。