【2025年最新】シンガポールのAgriTech（アグリテック）企業5選！革新的な技術で農業の未来を切り拓く

シンガポールは食料自給率向上を目指し、2030年までに必要な栄養の30%を国内生産で賄う「30 by 30」目標を掲げています。狭い国土と資源不足という課題に直面する中、政府は革新的な農業技術の導入を積極的に支援しています。では、この野心的な目標に向けて、シンガポールはどのような具体的な取り組みを行っているのでしょうか？

読了時間の目安：5分

シンガポールにおけるAgriTech（アグリテック）の背景と成長要因

狭い国土と天然資源の不足により、シンガポールは歴史を通じて外圧と資源不足を克服する必要が常にあった。また、COVID-19パンデミックにより世界のサプライチェーンに大きな混乱が生じ、自国の食料の強靭な供給源の確保の必要性が浮き彫りになった。さらに、地球温暖化の嵐が迫る中、世界中の国々は洪水、干ばつ、急激な気温の変化によって引き起こされるさまざまな食糧不足に見舞われている。シンガポールは現在、食糧の90%以上を180を超える国や地域から輸入している。国内の生産能力を構築することで、国の潜在能力をフルに活用し、食卓に食糧がこれからも確実に並ぶようにするための重要なステップを踏みださなければならない。国内生産は輸入への依存を減らし、海外の食糧供給の混乱の影響を緩和することができる。2019年、シンガポールは、2030年までに栄養必要量の30%を国内で生産するという野心的な新たな目標「30 by 30」を掲げた。野菜、卵、魚など国内で生産されている農産物は現在、シンガポールの全食糧の10%未満しかなく、国内の農家は鶏卵の約26%、野菜の14%、魚の10%を生産しているに過ぎない。将来の世代のために食糧を確保するためにも重要な取り組みである。

出典：https://www.sfa.gov.sg/fromsgtosg/our-sg-food-story

「30 by 30」実現のための政府の支援策は、①現在農場の多くが位置するリム・チュー・カン地区の再開発を進め活気のあるハイテク農産物クラスターに変える。②適切なスキルと才能を備えた労働力を供給するため、高等教育機関と業界と提携して人材のパイプラインを構築。農業、水産養殖科学、工学、情報通信技術のスキルに焦点を当て学生を訓練。③官民パートナーシップで新技術の導入を促進。シンガポールとオランダの官民パートナーシップから生まれた概念実証農場GroGraceでは、多層農場構造により、限られたスペースを最適化してより多くの栽培を実現。④農業食品クラスター変革（ACT）基金を拡大し、より多くの種類の食品と技術を対象にし、農家の能力、持続可能性を強化。ACT基金の総額は6,000万SGD。⑤持続可能な都市の食料生産、未来の食料、食品安全の科学とイノベーションの分野における研究プロジェクトを通じてイノベーションを奨励。1億4,400万SGDがシンガポールフードストーリー研究開発プログラムを通じて提供される。⑥2020 年、農場の生産の迅速化を支援する30X30 Express助成金を開始。Genesis One Tech Farm (GoFarm) は、成果を上げ始めた受益者の1つ。

出典：https://www.sfa.gov.sg/food-for-thought/article/detail/a-sustainable-food-system-for-singapore-and-beyond

2024年11月19日～21日 Sands Expo & Convention Centre で開催された Agri-Food Tech Expo Asia 2024（AFTEA）はアジアを代表する農業食品技術および農業食品業界のイベント。会期中約10,000名が参加、約300社が出展、国際＆産業関連パビリオンが20ブース出展、スタートアップ企業の参加は約100社であった。最先端の農業食品および農業技術ソリューションに特化した調達プラットフォームである AFTEA では、世界中の出展者による農業食品技術および農業食品ソリューションが紹介された。斬新で持続可能な食品、代替タンパク質、スマート農業および都市農業のアプリケーションとシステムから、最先端の技術、細胞農業、養殖、食品の安全性、持続可能性管理まで、AFTEA はアジアおよびそれ以外の地域の食品業界の最新のトレンドと機会に関する包括的な視点を提供。AFTEA はSFA（シンガポール食糧庁）が主催するシンガポール国際農業食品週間 (SIAW) の参加イベント。このイベントには、政府代表、ビジネスリーダー、ベンチャーキャピタリスト、投資家など、世界のリーダーが集まり、知識の交換を促進し、アジアの農業食品分野の最新のソリューションに触れる機会が提供された。

出典：https://www.agrifoodtechexpo.com/

シンガポールのAgriTech（アグリテック）導入事例

シンガポール政府は、2020年、新型コロナウイルスのパンデミックによる供給混乱に対応して、国内の農場の生産の迅速化を支援するため「30X30 Express 助成金」を開始。Genesis One Tech Farm (GoFarm) は、テクノロジーの力を利用して生産性と持続可能性を向上させることで成果を上げ始めた「30X30 Express 助成金」の受益者の1つ。この垂直農場は高さ 6.8 メートルの 14 段の栽培ラックを運営しており、1,000 平方メートル未満の面積で毎日 5 ～ 600 キログラムの新鮮な野菜を生産できる。栄養フィルム技術とシステムを通じて水ベースの栄養素を再循環させる灌漑システムの採用により、この農場は従来の深層水ベースの水耕栽培よりも95%少ない水の使用を可能にした。また、第5世代 LED ライトの使用により、農場の電力消費量も70%削減。この農場は特別に設計された空調および機械換気システムを利用しており、種子から収穫まで28～35日というより速い成長サイクルを可能にしている。効率をさらに高めるために、GoFarm は自動化された梱包および種蒔き機の導入を検討している。GoFarm のような革新的なプロジェクトがシンガポールの食料安全保障に貢献することが期待されている。

出典：https://www.sfa.gov.sg/food-for-thought/article/detail/a-sustainable-food-system-for-singapore-and-beyond

シンガポールで最も愛されている農場の1つであるSeng Choonは、1989年以来シンガポール国民に新鮮な卵を提供してきた。サッカー場27個分の敷地のSeng Choonでは、85万羽の鶏が1日あたり625,000 個の卵を産む。Seng Choon は、わずか100人の従業員で 1 日に 625,000 個の卵を生産している。自動化は少ない従業員数で運営するための重要な要素であり、農場のプロセスの多くは機械によって自動的に実行されるか、最小限の操作で実行される。多くのプロセスは自動化できるが、動物の取り扱いや飼育には依然として人間の手が必要であり、農場運営の中で最も労働集約的な部分の1つ。まだ小さなヒナは世話をする必要があり、とりわけ、ワクチン接種は非常に重要。テクノロジーの主な利点の1つは、環境を制御できることで、鶏にストレスを与えないようにすることができ、鶏の潜在能力を最大限に発揮できるようになる。ストレスのない環境だけでなく、鶏に適切な範囲の栄養素を十分に与えるため、コンピューターシステムでトウモロコシや大豆など、鶏の餌に使用される農産物の割合を計算し、餌と消化用の石灰岩を自動で与える。また、アコースティックシグネチャーで卵のヘアライン亀裂を自動検出する。

出典：https://www.sfa.gov.sg/fromSGtoSG/farms/farm/Detail/seng-choon

シンガポールのAgriTechの主要企業

2009 年に設立されたBlue Aqua Internationalは、シンガポールのエビ養殖のリーダーの1 つ。多くの種類の養殖魚（透き通った水を必要とする）とは異なり、Blue Aquaのエビは、より複雑な組成の水の中で成長する。Blue Aquaの MixotropicTM システムは、植物プランクトンとバクテリアの混合物をエビを飼育している水槽に導入。エビが成長して市販の餌を食べ始めると、老廃物の蓄積を減らすためにプロバイオティクス細菌が水槽に導入される。エビに栄養を与える以外にも、エビを飼育する際には考慮すべき要素が多数ある。MixotropicTM システム内の植物プランクトンは、エビに摂取できる動物プランクトンを提供すると同時に、日光や捕食者からエビを守る。人間や魚とは異なり、エビには外骨格があり、成長の段階で脱皮して新しい殻を生成する。新しい殻は初期段階では柔らかく傷つきやすいため、エビは共食いしやすくなる。透明な水を使用するとエビが見えやすくなり、脱皮中の共食いが増えるため、緑のシステムは共食いも防止する。Blue Aquaは、完全に成長したエビのほかに、年間1億匹を超える幼生後のエビを飼育。エビの種類は2,000種類以上あるが、Blue Aquaで見られるのは、シロエビ、車エビなど。

出典：https://www.sfa.gov.sg/fromSGtoSG/farms/farm/Detail/blue-aqua-international

Prime Aqua Sea Farmの養殖場は、2018年、テコン島の海岸沿いにある2つの伝統的な養殖場を買収。インフラの見直しと技術のアップグレードという大きな変化を起こし、現在、199 個の完全に備蓄された生簀を備え、2021 年までに年間 1,000 トンの魚を生産するという目標を掲げている。養殖場は、他の養殖場との相互汚染や都市住民からのバイオセキュリティを防げ、水路が最も広く、最高の海水が得られる場所に設置。最大の潜在的課題は、より多くの若者を水産養殖と海簀養殖に参加させること。環境保全はPrime Aqua Sea Farmの価値観の核心部分で、シンガポール国立大学の熱帯海洋科学研究所と協力して周囲環境への影響を最小限に抑えることに加えて、養殖場のエネルギー消費の70%を416枚のソーラーパネルで賄っている。魚の飼育に生簀を利用しているが、生産性の向上、働きやすい職場環境を実現するため、最新のテクノロジーも活用している。水中網洗浄機、輸送用電気自動車、網の状態を調査して魚の行動を観察できる遠隔自動ビークルなどである。養殖場では、シーバス、ハイブリッドグルーパー、ゴールデンテレバリー、シルバーグランター、レッドスナッパーをはじめとする9種の魚が養殖されている。

出典：https://www.sfa.gov.sg/fromSGtoSG/farms/farm/Detail/prime-aqua-sea-farm

1997 年に設立されたKin Yan Agrotechは、シンガポール最大のキノコとウィートグラス農場で、年間にキノコ150トンとウィートグラス100トンを生産。最高級のオーガニック農産物を生産するため、農薬、化学薬品、人工肥料を一切使用しない。ウィートグラスは植えてから約7日で収穫できる成長が早い作物なので害虫は最小限で、農薬を使う必要がない。キノコは、胞子が挿入される前に120度で加熱殺菌されたトウモロコシ、木の粉、もみ殻、サトウキビを詰めた菌床袋で栽培される。この農場では、アワビ茸、黄金ヒラタケ、ピンクヒラタケ、黄金春キノコ、黒キノコの5種類のキノコを栽培している。Kin Yanの作物はすべて、緑地で垂直に積み重ねて栽培されているため、スペースを節約でき、植物に水をやるためにミストシステムを使用し、害虫の侵入を防いでいる。また、ウィートグラスを育てるのに土の代わりに堆肥を使用することで、害虫の侵入を最小限に抑えている。ウィートグラスやキノコのほか、食用サボテン、アロエベラ、ローゼル、冬瓜などの作物も栽培している。ウィートグラスには、ビタミン A、C、E、K、B 複合体のほかに、17種類のアミノ酸が含まれている。

出典：https://www.sfa.gov.sg/fromSGtoSG/farms/farm/Detail/kin-yan-agrotech

MEOD Pte Ltdは、安全で新鮮で持続可能な緑を提供する都市型農場。2023年に6ヘクタールの農場を拡張し、生産量を最大20倍に増加。MEODは無農薬栽培を行うため、生物防除法の専門家が、害虫の天敵であるてんとう虫やカマキリなどの昆虫をアブラムシや蛾などの害虫を食べるために使用している。MEDOは、野菜の生産をローカライズすることで、サプライチェーンを短縮し、新鮮であるだけでなく、輸送中の食品ロスを防いでいる。世界中の食料の約14%が収穫中や小売店に届く前に失われている。シンガポールでの農業は主にスペースの問題を克服することを目指しており、気候管理や植物に水と栄養素を供給する垂直エアロポニックスシステムなど様々なハイテクソリューションを駆使している。また、農場では、時間の約30%が多くの試験に費やされている。MEOD の拡大に伴い、植物のライフサイクル全体を通じて自動化と正確な入力制御を通じて農場がより高い収量を達成できる持続可能な技術である高度な水耕栽培システムのMobile Gulley Systemの導入を開始。また、水のリサイクルと雨水の利用で従来の水の使用量は1%未満に低減。作物の互換性を知るcompanion plantingにも取り組んでいる。

出典：https://www.sfa.gov.sg/fromSGtoSG/farms/farm/Detail/meod

Hay Dairiesは1988年に設立されたシンガポールで唯一のヤギ農場。現在約700頭のヤギを飼育、2025年までにその数を4倍に増やす計画。農場では毎日900～1,000リットルの乳を生産。ヤギの飼育は本質的に総合的なもので、ヤギに乳を生産させるためには、ヤギを幸せに保つことが不可欠。飼料の品質、快適さ、安全な環境は、幸せで生産的なヤギに必要な要素で、生活空間や環境によっても違いが生じることがある。Hay Dairiesには放牧する十分なスペースはないが、ヤギが毎日運動できるように、納屋の各階に屋内トラックを設け、毎日ヤギを連れて走らせている。Hay Dairiesは、乳を得るためにヤギを育てることに加えて、シンガポールの次世代に畜産の教育をすることにも取り組んでおり、一般の人々が動物を間近で見ることができるよう教育的な農場ツアーも毎日開催している。ヤギの飼育の難しさは、ヤギは、独身者、搾乳者、妊娠中の者という3つの異なるグループに対応しなければならず、それぞれに特有のニーズがある。また、ヤギとウシはどちらも乳を出すが、ウシは草食動物として知られ、ヤギはbrowsers（若葉を食べる動物）として知られており、ウシより食べるものについてもっとうるさいということ。

出典：https://www.sfa.gov.sg/fromSGtoSG/farms/farm/Detail/hay-dairies