ベトナムのMaaSとライドシェア市場が急成長し、都市交通が変革期を迎えています。MaaSは異なる交通手段を統合し、シームレスな移動体験を提供することで、都市の交通効率を向上させる革新的なサービスです。一方で、 規制やインフラの課題も依然残っています。
この新たな潮流は、ベトナム社会にどのような変化をもたらすのでしょうか?
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ベトナムのMaaSとライドシェア市場の現状
ベトナムのMaaS市場の概要
ベトナムにおけるMaaS(Mobility as a Service)の概念は、近年注目を集め、特に都市部において急速に成長している。MaaSとは、異なる交通手段を統合し、ユーザーにシームレスな移動体験を提供するサービスであり、デジタル技術の発展とともに普及が進んでいる。
ベトナムの都市部では、慢性的な交通渋滞や大気汚染が社会問題となって、政府は公共交通の利用促進を図っている。しかし、鉄道やバスなどの公共交通網が未発達な地域も多く、タクシーやバイクタクシーといった民間の移動手段が主流となっている。そこで、MaaSの導入が交通の効率化を図る手段として期待されている。 日本の高速バス大手であるWILLER株式会社は、ベトナムのVTI Joint Stock Companyと共同で、MaaSアプリの開発を目的とした合弁会社「WILLER VTI Company」を2021年に設立した。
このプロジェクトでは、日本やASEAN地域で共通利用可能なモビリティサービスの実現を目指し、スマートフォンアプリを活用した統合型移動サービスの提供が計画されている。 また、ベトナム国内では、スマートシティの推進とともに、MaaS技術の活用が加速している。
例えば、ハノイ市やホーチミン市では、バス・鉄道・ライドシェアを一元化するデジタルプラットフォームの構築が検討されている。これにより、市民は1つのアプリで複数の移動手段をスムーズに利用できるようになる。
ただし、MaaSの発展にはインフラ整備が不可欠であり、特に地方都市ではデジタル決済の導入や交通データの統合が課題となっている。政府と民間企業の連携が進めば、MaaS市場のさらなる成長が見込まれる。
出典:https://tiny.bizlab.sg/2p84sk8p
https://willertrip.com/vn/vn/company/profile/
https://sgtvt.hochiminhcity.gov.vn/Tin-tuc/Chi-tiet-bai-viet/tin/f979b2ef-df27-4c89-9d7c-e5012dc4905a
https://tiny.bizlab.sg/2s3ry7tc
ベトナムのライドシェア市場の概要
ライドシェア市場は、ベトナムにおいて急速に拡大している分野の一つである。特に、都市部での移動手段としてライドシェアの利用が増加して、タクシー業界との競争が激化している。
ベトナムのライドシェア市場は、東南アジア最大の配車アプリであるGrabが市場の約6割を占めて、最大手として圧倒的なシェアを誇っている。Grabは、タクシーやバイクタクシーの配車サービスだけでなく、フードデリバリーやデジタル決済などの多様なサービスを提供しており、ユーザーの利便性を向上させている。
国内企業のBeも、2018年にサービスを開始し、ベトナム市場での存在感を高めている。Beは、ライドシェアサービスに加え、物流や金融サービスにも進出しており、ローカルプレイヤーとしての強みを活かしている。また、インドネシア発のGojekもベトナム市場に参入し、配車サービスのほか、フードデリバリーや決済サービスを展開していたが、2024年9月にベトナム市場から撤退すると宣告した。
ライドシェア市場は拡大を続けて、2024年には約11.7億米ドル、2029年には約31.9億米ドルに達すると予測されている。成長の要因として、都市化の進行、スマートフォンの普及、そしてキャッシュレス決済の拡大が挙げられる。
政府は、ライドシェアサービスに対する規制整備を進めて、ドライバーの資格要件や運賃設定に関するルールを明確化しようとしている。しかし、伝統的なタクシー業界との軋轢もあり、政策の方向性は今後も注視する必要がある。
ライドシェアの発展に伴い、新たなサービス形態も登場している。例えば、サブスクリプション型の定額制ライドシェアサービスや、電動バイクを活用した環境負荷の低い移動手段の提供が進んでいる。また、電気自動車(EV)の導入も進んみ、VinFastが展開するEVタクシーサービス「XANH SM」は、環境配慮型の新たなモビリティサービスとして注目されている。
出典:https://baodautu.vn/nong-ray-cuoc-dua-gianh-thi-phan-goi-xe-cong-nghe-d218529.html https://cafef.vn/cuoc-dua-thi-truong-xe-cong-nghe-ai-la-nguoi-chien-thang-188250128221154597.chn
政府の施策と規制
ベトナム政府は、都市部の交通問題を解決するため、公共交通の利用促進やインフラ整備を積極的に進めている。例えば、ハノイ市では「2030年までの首都ハノイ市交通運輸計画及び2050年までのビジョン」において、公共交通の利用率を向上させる目標を掲げ、バス路線の拡充やメトロの整備を進めている。 また、ライドシェア市場に対しては、規制枠組みの整備が進められている。政府は、タクシー業界との公平な競争環境を確保するため、ライドシェア企業に対し、事業登録や運賃設定の透明性を求める政策を導入している。特に、ドライバーの登録制度や保険加入の義務化が検討されており、乗客の安全確保に向けた規制が強化されつつある。 さらに、環境負荷の低減を目的とし、電気自動車(EV)や電動バイクの普及を促進するための補助金制度も導入されている。VinFastが展開するEVタクシーサービス「XANH SM」もこの政策の一環として成長しており、環境に配慮したモビリティサービスの発展が期待されている。 今後、政府の政策がどのように変化するかにより、MaaSやライドシェア市場の成長スピードが左右される可能性がある。しかし、デジタル技術の進化と消費者のニーズの多様化により、この市場は引き続き拡大すると見られている。
出典:https://chinhphu.vn/?pageid=27160&docid=184101&tagid=1&type=1
https://tiny.bizlab.sg/mv4rc78d
ベトナムにおけるビジネスチャンスと課題
市場の将来予測と拡大トレンド
MaaSがベトナムの交通・都市計画にもたらす可能性 ベトナムにおけるMaaS(Mobility as a Service)の普及は、都市部の交通環境を大きく変革する可能性を秘めている。MaaSの導入は公共交通機関、ライドシェア、自転車シェアなどの多様な移動手段を統合し、効率的な都市交通を実現する手段となる。 例えば、スマートフォンアプリを活用したMaaSプラットフォームが整備されれば、ユーザーは1つのアプリで最適なルート検索、交通手段の予約・決済を一括して行うことが可能になる。これにより、移動の利便性が向上し、車両の利用効率も高まるため、都市部の交通渋滞の軽減に貢献できると考えられる。
ライドシェアの拡大と新たなサービスとの連携
ライドシェア市場は、今後も成長を続ける見込みである。現在、市場の大半を占めるGrabやBeに加え、新興企業が次々と参入し、競争が激化している。特に、サブスクリプションモデルの導入が進むことで、消費者の利便性が向上し、ライドシェアの利用率がさらに高まる可能性がある。
たとえば、一定料金で月額利用できる定額制ライドシェアプランが普及すれば、利用者はコストを抑えながら安定的にサービスを受けられる。また、電動バイクやEV車両を活用したエコフレンドリーな移動手段の提供も、新たなビジネスチャンスとして注目されている。
出典:https://baodautu.vn/nong-ray-cuoc-dua-gianh-thi-phan-goi-xe-cong-nghe-d218529.html
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技術的側面とイノベーション
・アプリと決済の高度化
MaaSとライドシェアの拡大に伴い、アプリと決済システムの高度化が進んでいる。特に、キャッシュレス決済の導入が市場拡大の鍵を握って、電子ウォレットやQRコード決済の普及が進んでいる。政府もデジタル決済の導入を推奨し、ライドシェア企業はこの流れに対応したサービスを強化している。
また、アプリの機能向上により、リアルタイムでの混雑状況把握や、利用者の好みに応じたルート提案などのパーソナライズサービスが提供されるようになっている。
・データ解析とAI ビッグデータとAIの活用も、MaaSやライドシェア市場の発展に不可欠な要素である。AIを活用した需要予測や最適ルート選定により、配車の効率が向上し、運営コストの削減が可能となる。また、ユーザーの移動データを分析することで、より精度の高いマーケティング戦略の立案が可能となる。 さらに、AIによる自動運転技術の開発が進められており、将来的には自動運転車両を活用したライドシェアサービスの導入が期待されている。
・自動運転やEVの可能性
環境問題への対応として、EVの導入が進んでいる。VinFastをはじめとする企業がEV市場に積極的に参入して、EVライドシェアやEVタクシーサービスの提供が拡大している。政府もEVの普及を支援するための補助金制度を導入し、今後さらにEVの利用率が向上する可能性がある。
また、自動運転技術の進歩により、運転手不要のライドシェアサービスが実現すれば、人件費削減やサービスの安定化につながると期待されている。
出典:https://tiny.bizlab.sg/ycy3tcv8
https://tiny.bizlab.sg/2p8wfdur
課題・問題点
MaaSとライドシェア市場の発展には、多くの課題が存在する。
まず、法規制の整備が進んでいない点が挙げられる。ライドシェアに関する明確な法的枠組みがまだ確立されておらず、特に伝統的なタクシー業界との対立がまだ続いている。政府はライドシェアの合法化と適正な規制を進めているが、その過程で事業者と規制当局の間で調整が必要となる。
また、地方都市におけるインフラ整備の遅れも課題の一つである。都市部ではMaaSやライドシェアの利用が進んでいるが、地方では交通手段が限られて、デジタル技術の導入が遅れている。そのため、政府と企業が協力し、全国的な交通インフラの整備を進める必要がある。
さらに、データセキュリティとプライバシー保護の問題も無視できない。MaaSやライドシェアアプリは膨大な量の個人データを収集して、不適切なデータ管理による個人情報の漏洩リスクが存在する。このため、企業はセキュリティ対策を強化し、ユーザーの信頼を得る必要がある。
今後、政府の政策動向や市場の競争環境に応じて、MaaSとライドシェア市場の発展スピードが変わる可能性がある。しかし、技術革新や環境意識の高まりを背景に、これらの市場は引き続き拡大していくと予想される。
出典:https://tiny.bizlab.sg/mr44k78d
https://tiny.bizlab.sg/57bbzkfm
主要企業
Grab
企業概要:シンガポール発のGrabは、東南アジア全域でサービスを展開する総合モビリティプラットフォームである。ベトナム市場においても、タクシーやバイクの配車サービス、フードデリバリー、金融サービスなど、多岐にわたるサービスを提供している。
強み:広範なサービス展開と強力なブランド力により、ベトナムのライドシェア市場で約7割のシェアを占めている。また、ヒュンダイとのパートナーシップを強化し、電気自動車(EV)の導入を推進している。
対象顧客層:都市部の若年層やビジネスパーソンを中心に、幅広いユーザー層をターゲットとしている。特に、スマートフォンを活用したサービスに慣れ親しんだユーザーに支持されている。 将来性:EVの導入やMaaSの普及を通じて、持続可能なモビリティの提供を目指して、今後も市場でのリーダーシップを維持することが期待される。
出典:https://www.grab.com/vn/
XanhSM
企業概要:ベトナムの大手自動車メーカーであり、電気自動車(EV)の開発・製造に注力している。EVタクシーサービス「XANH SM」を展開し、環境に配慮したモビリティサービスを提供している。
強み:自社でEVを製造・供給できる体制を持ち、環境意識の高いユーザーにアピールしている。また、ベトナム国内でのブランド力と資金力を背景に、インフラ整備やサービス展開を迅速に行うことが可能である。
対象顧客層:環境意識の高いユーザーや、新しい技術・サービスに関心を持つユーザーを主なターゲットとしている。特に、都市部の中高所得層に支持されている。
将来性:政府の環境政策やEV普及の流れを受け、今後も成長が期待される。また、技術革新やサービスの拡充を通じて、市場での地位を強化することが見込まれる。
出典:https://www.xanhsm.com/
PhenikaMaaS
企業概要: Phenikaa MaaSは、2019年に設立されたベトナムのテクノロジー企業である。当初は公共交通利用者向けのアプリ「BusMap」としてスタートし、その後、地図、アプリケーション、IoT、AI、ビッグデータを活用したスマートモビリティソリューションを提供する企業へと成長した。
強み: 同社の強みは、ベトナム国内で開発された「Make in Vietnam」の技術を活用し、企業や組織が交通運営を効果的に管理できる包括的なソリューションを提供している点である。特に、地図技術、IoTデバイス、アプリケーション、AIおよびビッグデータ解析の分野で独自の技術を持ち、これらを組み合わせたソリューションを提供している。
対象顧客層: Phenikaa MaaSの主な顧客は、交通運営を最適化したいと考える企業や組織である。具体的には、公共交通機関、物流企業、スマートシティプロジェクトを推進する自治体などが含まれる。同社のソリューションは、交通管理の効率化やサービス向上を目指す多様な業界で活用されている。
将来性: ベトナムにおけるスマートシティ化やデジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、Phenikaa MaaSの提供するスマートモビリティソリューションの需要は今後も増加すると予想される。特に、AIやビッグデータを活用した交通管理の高度化や、IoTデバイスによるリアルタイムモニタリングのニーズが高まる中、同社の技術と経験は市場での競争力を高める要因となる。さらに、ベトナム国内外のパートナーシップや新技術の導入を通じて、事業の拡大とサービスの多様化が期待される。
出典:https://phenikaamaas.com/
Willer
企業概要:WILLER VTIは、日本の高速バス大手であるWILLER株式会社と、ベトナムのVTI Joint Stock Companyが共同で設立した合弁会社である。2021年に設立され、ベトナムにおけるMaaS(Mobility as a Service)の推進を目的としている。特に、都市部の公共交通やライドシェアサービスを統合するデジタルプラットフォームの開発を進めている。
強み:WILLER VTIの最大の強みは、日本の高度なモビリティ管理技術と、ベトナム市場に精通したVTIのIT開発力を融合している点である。両社のノウハウを活かし、ユーザーがスマートフォンアプリを通じてシームレスに移動手段を選択・決済できる統合型モビリティサービスの開発を進めている。また、公共交通のデータ連携や交通最適化のためのAI活用にも力を入れている。
対象顧客層:都市部に住むビジネスパーソンや観光客を主なターゲットとしている。特に、利便性を求める若年層や、デジタル決済に慣れたユーザー層を想定している。また、ベトナム政府や公共交通機関との協力を通じて、交通インフラのデジタル化を推進し、幅広い市民に利用されることを目指している。
将来性:WILLER VTIは、ベトナムのスマートシティ化の流れに乗り、MaaSの実用化を加速させる可能性を持つ。特に、政府の公共交通政策と連携し、持続可能な交通インフラの構築に貢献できる点が強みである。今後は、都市部の交通網への統合や、新たな移動手段(EVバスや自動運転車)の導入を視野に入れたサービス展開が期待される。
出典:https://econtract.efy.com.vn/hddt/chung-thuc-hop-dong-dien-tu-efy-ceca.html
https://willertrip.com/
ハノイ在住のベトナム人。名古屋大学で文部科学省奨学金の日研生として留学経験有り。日越の翻訳、通訳などが得意で、日本語教師の経験有り。ハノイで日系IT企業に入社後、主に総務・人事、日本親会社との取引業務を約3年経験し、その後長野県で日本企業で勤務。