タイのEdTech市場が急速に進化しています。政府主導のデジタル教育戦略と、革新的なスタートアップ企業の台頭により、学習の未来が大きく変わろうとしています。AIを活用した個別学習から、聴覚障害者向けの特殊なソリューションまで、タイのEdTech企業はどのような革新的なアプローチを取っているのでしょうか?
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タイのEdTech市場の現状
タイ政府の教育戦略と方針
タイでは、20年計画(2018-2037)の国の戦略と教育大臣の方針に基づき、経済・社会の変化に対応するための開発指針と目的が設定されている。これには、生涯にわたる潜在能力を引き出すことと同時に、重要な改革を実施することが強調されている。タイの人々が「道徳的な生活を送る」ことを目指し、生活できる社会を作り上げるための集団意識を高めるための価値観や文化の調整を行い、また、教育を幼児教育から生涯学習に至るまで変革することである。21世紀の変化に対応する学習システムを開発し、新しい学習システムを取り入れ、教師の役割を変化させ、教育管理・運営の効率を高め、卒業後も学び続けることができるような生涯学習の枠組み開発を目指している。学習者が自分のニーズに適した学習を追求できるように、学習を自己管理し指針を立てることを可能にし、さらに、技術とイノベーションを活用して国の才能を育成・促進・維持することを強調しており、知的成長を促進することを目指している。加えて、個人の健康リテラシーと意識を高め、後により高度な学習の段階に進むためのしっかりとした基盤を築くことのできる、快適な家庭を促進することにも焦点を当てている。
教育省が掲げる「Happy Learning: Anywhere Anytime」ポリシーは、タイの教育システムを変革し、さまざまな方法を通じて、学生をデジタル時代に対応できるよう準備している。2024年2月20日に開催された内閣会議において、教育省(MOE)の基礎教育委員会(OBEC)が、タイの全ての学生に適切な学習機器を提供する「Anywhere Anytime」(いつでもどこでも学べる)プロジェクトの第2フェーズを承認したと発表した。このプロジェクトは、タイの基礎教育委員会が運営する29,312の学校に、5年間(2025年から2029年)の期間で、学習機器やデジタルコンテンツの提供を行うもの。これには、データセキュリティのためのソフトウェア、データベースの連携、デジタルコンテンツの作成、クラウドベースの教育プラットフォームの利用が含まれる。また、遠隔地や過疎地域の生徒にも平等にアクセスできるよう、Tablet、Notebook、Chromebookなどの学習機器を607,655台提供。この取り組みは、タイ教育省の方針であり、教育大臣であるペームポーン・チットチャップ氏によって導入され、学生や教師の負担を軽減することを目指している。
出典:https://www.obec.go.th/archives/964628
https://13ased.moe.go.th/wp-content/uploads/2024/08/E-Book-Transforming-Education-in-the-Digital-Era.pdf
タイ政府によるデジタル教室の設置とデジタル人材育成の取り組み
タイ政府は、全国の大小さまざまな学校に1,500のデジタル教室を設置し、年間少なくとも10万人のデジタル人材を育成するという野心的な目標に取り組んでいる。デジタル経済社会省(DES)は、「Coding for Better Life: Building the Foundation for Thailand’s Future(より良い生活のためのコーディング:タイの未来の基盤を築く)」のタイトルの下にこの計画を発表し、これらの教室には、プログラミングスキルを学生に教えるためのコンピューターやソフトウェアなど、必要なツールが整備されると述べた。
現在、タイでは年間平均で10万人のデジタル人材が必要とされている一方、教育分野で毎年生み出されるのは約25,000人にとどまっていると指摘、この問題に対処するために、同省が短期的および長期的な戦略を策定した。短期的な計画として、「グローバル・デジタル・タレント・ビザ」の導入を提案し、優れたデジタル能力を持つ短期居住者向けの特別なカテゴリーを設けることを目指している。この提案は現在、内閣で審議中です。長期的な戦略については、デジタル経済推進機構(depa)が、タイのすべての市民に対してデジタル知識とスキルの向上を促進しており、特にコーディング教室が重要な役割を果たしている。depaは、パートナーネットワークから提供される専門的なコースと、カリキュラムで使用する学習・教育機器、例えばコンピューター、ノートパソコン、タブレット、コーディングやロボティクス用のツールなどを提供。この取り組みは、コーディングのインフラと関連するデジタルエコシステムの開発を支援し、学習準備を改善するためのものである。また少なくとも3,000人の教師が、基礎、初級、上級の3つのレベルでコーディングの教育を発展させるための20の教育スキルコースを受講することになる約700の学校がすでにこのプログラムに申請しており、depaは来年の第1四半期までに目標の1,500校を達成できると見込んでいる。タイの若者たちの間でコーディングスキルを持続的に育成するために、同機関は100万バーツ以上の賞金をかけた国際的なコーディングコンテストを開催する予定。この包括的なコーディングプログラムが、親や一般の人々の間で意識を高め、実践的な応用を促進する。デジタル経済社会省(DES)とパートナーとの協力により、業界の需要に応え、タイの経済的な機会を創出できるデジタルスキルを持った労働力を育成することが目的である。
出典:https://www.nationthailand.com/thailand/general/40033956
聴覚障害の学生へのEdTechの導入
タイでは、デジタルメディアが教育や仕事において日常生活に不可欠な存在となっている。王室の後援を受けたセッタチアン聴覚障害者学校は、聴覚障害のある学生が一般の人々と平等に学びにアクセスできるよう、さまざまなプログラムやアプリケーションを提供。ChromebookとGoogle Workspace for Educationを活用することで、聴覚障害の学生は効果的に知識を習得でき、さらに、手話によるコミュニケーションを可能にする高品質なビデオ通話プログラムで音声をテキストに変換したり、ライブキャプションや転写機能を提供することで、学生が教育コンテンツを視覚的に理解しやすくしている。これにより、学生たちは最大限に学び、自己成長を促進できるようになる。
また、DEALアプリケーションは、日常的な手話語彙を集めたオンライン辞書「Word Bank」が提供されており、タイ語と英語手話の語彙を簡単に学べる。学校は「Setsatianチャンネル」をYouTubeで開設し、聴覚障害のある学生のためのオンラインレッスンを提供、さらに、「DEK DEAF」YouTubeチャンネルでは、学生たちの成果を紹介する活動が行われている。これに加え、電子書籍(E-book)が提供されており、学生や興味のある人々が知識を蓄積するためのリソースとなっている。
タイの主要EdTech企業と分野別の最新動向
AI搭載プラットフォーム「aom-ai」は、タイ教育省と共同開発され、今年後半に提供予定
2024年7月24日、インターネットコミュニティ構築のグローバルリーダーであるNetDragon Websoft Holdings Limitedは、タイのローカルオペレーターであるEDA(Thailand)Co., Ltd.とともに、AI技術を駆使したグローバル教育プラットフォームの開発戦略を発表した。NetDragonは世界192か国で2百万以上の教室で教育サービスを提供し、1億5千万人以上のユーザーに利用されている。タイの潜在能力を認識し、初めてタイにこれらの先進的な教育技術と革新を提供するため、EDA(タイ)と提携した。AI搭載プラットフォーム「aom-ai」は、タイ教育省と共同開発され、今年後半に提供予定で、個々の学習ペースに適応し、ユーザーが効果的かつ効率的に知識を積み重ねることを可能にする。このプラットフォームの重要な特徴は、AI教師を導入すること。これにより、ユーザーはAI搭載の教師とコミュニケーションを取りながら、選択したコースに沿って学びを深めていく。このアプローチは学習体験をパーソナライズし、全体的な教育のジャーニーをより報酬的で充実したものにしていくと考えている。EDA(タイランド)は、MHESI(タイ高等教育・科学研究・イノベーション省)と提携し、全国で生涯学習プラットフォームを促進していき、このプラットフォームでは、学生の教育および研修履歴を記録し、政府機関やさまざまな教育機関から認定されたコースを提供することを目指している。
出典:https://www.learn.co.th/en/news_post-en/skooldio-%E0%B9%81%E0%B8%A5%E0%B8%B0-degree-plus/
2023年のトレンドを捉え、AI(人工知能)と 長寿とウェルビーイングに関する最新のスキルコースを提供
タイでは、デジタルメディアが教育や仕事において日常生活に不可欠な存在となっている。王室の後援を受けたセッタチアン聴覚障害者学校は、聴覚障害のある学生が一般の人々と平等に学びにアクセスできるよう、さまざまなプログラムやアプリケーションを提供。ChromebookとGoogle Workspace for Educationを活用することで、聴覚障害の学生は効果的に知識を習得でき、さらに、手話によるコミュニケーションを可能にする高品質なビデオ通話プログラムで音声をテキストに変換したり、ライブキャプションや転写機能を提供することで、学生が教育コンテンツを視覚的に理解しやすくしている。これにより、学生たちは最大限に学び、自己成長を促進できるようになる。また、DEALアプリケーションは、日常的な手話語彙を集めたオンライン辞書「Word Bank」が提供されており、タイ語と英語手話の語彙を簡単に学べる。学校は「Setsatianチャンネル」をYouTubeで開設し、聴覚障害のある学生のためのオンラインレッスンを提供、さらに、「DEK DEAF」YouTubeチャンネルでは、学生たちの成果を紹介する活動が行われている。これに加え、電子書籍(E-book)が提供されており、学生や興味のある人々が知識を蓄積するためのリソースとなっている。
Prime Minister Award 「Startup of the Year 2024」受賞
SkillLane は、タイのリーディング EdTech プラットフォームとして、タイの教育・科学・技術・研究省 (MHESI) と 国家革新機構 (NIA) が主催のPrime Minister Award: National Startup 2024 の Startup of the Year 部門で受賞したことを発表。Startup of the Year は、タイ国内で卓越した成果を上げたスタートアップ企業、機関、個人に贈られる賞で、タイのスタートアップ・イノベーションエコシステムを支援した功績を称えるものとしている。この名誉ある賞は、SkillLane がタイの EdTech 業界のリーダーとして、さまざまな学習ニーズに対応した多様なコースを提供し、現代の学習者に向けた質の高い教育を普及させていることを証明するものである。Skillaneの事業運営は、タイの第13次経済社会開発計画に沿ったものであり、この計画は「生涯学習」(Lifelong Learning)を推進、タイの人々がすべての年齢層においてその潜在能力を最大限に発揮し、必要な能力を身につけ、未来の世界で職を得るために発展できるようにすることを目指している。また、この取り組みはタイの人々が世界的な舞台で競争できるように支援することにもつながっていくと考えている。
タイのEdTechの主要企業
AIS Academy
AISが運営するテクノロジーやイノベーションに関する学習・育成のセンター。主な活動には、デジタルプラットフォームの提供により、社員がいつでもどこでも学習機会を確保できるようにしたり、THE EDUCATORS THAILANDの開催により、教師向けの新しい教育方法の開発を行ったり、LearnDiにより、国内外のコースの提供によるスキルアップ、LearnDi BusinessやIn-House Training Solutionsにより、企業向けのサービスの提供を行っている。また、LearnDi forThaisというデジタル学習プラットフォームを通じて、タイ社会に知識を広め、デジタルディスラプション(技術革新による変革)の波が人々や社会の行動に与える影響に対する理解を深め、意識を高めるために努力している。オンライン学習を通じて、タイ全体の人々がこの重要な変化に適応できるようサポートしている。国内外の教育機関や民間企業と連携し、コンテンツとプラットフォームを共に開発することで、企業のニーズに応じた学習体験を提供、この取り組みを通じて、タイの組織や企業が新しいテクノロジーや変化に適応し、成長できるよう支援して
出典:https://www.aisacademy.com/aboutus
SkillLane
2014年にバンコクにて設立されたタイのNo.1ワンストップオンライン学習プラットフォーム、ハイクオリティな技術システムを活用した総合的な学習ソリューション。日本のオンライン広告事業のCyber Agentのベンチャーキャピタルから投資を受けた後、IPOを発行予定の企業の1つである。現在130万人のユーザーを誇る。教える側と学ぶ側をつなげるマルチサイドプラットフォームとして機能している。講師は自分の動画やその他のマルチメディアファイルをアップロードすることでオンラインコースを作成できる。受講者はビジネス、言語、学問、音楽、テクノロジー、ソフトウエア開発、写真・グラフィックデザイン、料理、美容・健康、子育てのライフスタイル領域など、さまざまなカテゴリーのオンラインコースを学ぶことができる。100以上のカテゴリーと3900以上のコースが提供されている。例えば、タマサート大学の経営学修士のビジネスイノベーション、トランスフォーメンション理学修士のデータサイエンス、教育学修士の学習イノベーション、工学修士の応用AIも勉強することができる。学問以外にもスキルを向上するためのSkillLanceCPDでは、保険仲介業者、投資アドバイザー、投資プランナー、投資アナリスト向けにトレーニングコースも受講できる。
出典:https://investor.skilllane.com/en/home
https://www.skilllane.com/teach
Conicle
2014年にタイにて設立された企業学習のプラットフォームソリューションを開発するEdTechスタートアップ企業、2021年にIntouch Holdingsが主導するシリーズAラウンドで300万ドルの資金を調達し、企業向け学習ソリューションのリーダーとなった。学習管理ソリューション(LMS)を提供するプラットフォームでは、組織がコースを作成し、社員にコースを割り当て、社員との交流を促進し、データを分析して進捗を追跡できる。ConicleX – The Cloud Universityは、デジタル学習プラットフォームを採用したオンライン大学で、21世紀の知識とスキル(ビジネス、データ、人材、個人の成長など)を網羅した学習プログラムを提供。これにより、従業員はアップスキルとリスキルを進め、さまざまな分野での潜在能力を最大限に引き出すことができる。現在Conicleには、100万人以上のユーザー、内50万人のアクティブユーザー、15万のクラスとコースが登録されており、250以上の企業 ホンダ、コカ・コーラ、サンシリ、マクドナルド、PSIソリューション、ザ・モール、BSA、ユニリーバ、テスコロータスなどの企業が採用している。
Globish
2014年にバンコクにて設立、個人が英語を学ぶためのオンラインチュータリングプラットフォーム、主に、子供と大人向けのスピーキングに特化した1対1のライブクラスとオーディオチュートリアルを提供。学習は、ビデオ通話を通じて行われ、パソコン、タブレット、スマートフォンを使用して、リアルタイムで顔を見ながら、双方向で会話を行い、教室の外でも実際に使える英語を学べるようにしている。2022年、Globishは、タイのDEPA(経済振興庁)より、タイ政府機関として初めて9,000万バーツ以上の投資を受け、Series A+に格上げされた。現在 Globishには、5万人以上のタイ人が受講していおり、さまざまなタイの企業も採用し、従業員の英語スキル向上に取り組んでいる。過去には、デジタルスタートアップ部門の2020年首相デジタルアワード、タイのベストファウンダーオブザイヤー、ライスボウルスタートアップアワード2018、Pitch@Palaceで東南アジアの3つのスタートアップの1位、スイスイノベーションチャレンジ2016で1位、最新のグランドウィナー、HUAWEIによるSPARK Ignite 2022など、多くの国内および国際的な賞を受賞。
出典:https://www.globish.co.th/about
https://www.depa.or.th/th/article-view/20220929_01
Futureskill
2019年に設立され、金銭面と時間面で効率的な学びの場を提供したいという視点からスタート。現在、10,000人以上の受講者を抱え、400以上のコースを提供するオンライン学習プラットフォームとして、ハードスキルとソフトスキルの両方を網羅している。学習中には実践的な演習やプロジェクトを通じて実際に手を動かして学ぶことができ、修了証書(Certificate)を取得することが可能で、キャリアの信頼性向上にも役立つ。現在、11,000枚以上の修了証書が発行されている。2024年、タイの「Shark Tank Thailand」番組制作会社と提携し、「Shark Class」という新しいコースを設立し、様々な業界で活躍する事業家や政策決定者20名以上が参加し、彼らの知識、戦略、そして経験を参加者に伝授していく。新しいことを創造するためには、さまざまな知識、スキル、要素を組み合わせる必要があると考え、「Connecting the dots(点をつなぐ)」の重要性を認識している。毎日、50人以上のプロフェッショナルなチームが、新しい学習体験や高品質なコースの開発に取り組んでおり、現代と未来のニーズに応じた内容を提供、重要なスキルが人々の人生を変え、タイの未来をより良くする力を持っていると信じている。
出典:https://futureskill.co
https://shark.futureskill.co
バンコク在住のタイ人。タイにおける日系企業向け翻訳・通訳を6年間以上行う。経済、ビジネス、IT分野に興味があり、マーケティングや流通を含めた企業調査や、企業調査といった情報収集が得意。