タイのアグリテック市場は急速に成長し、政府の支援と民間投資により、革新的な技術が農業分野に導入されています。AIやロボティクス、バイオテクノロジーを活用したスタートアップが台頭し、農業の効率化と持続可能性の向上に貢献しています。これらの技術は、タイの農業をどのように変革し、世界市場での競争力を高めていくのでしょうか?
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タイにおけるAgirTech(アグリルテック)の市場
タイの農業系スタートアップをディープテックで支援する新しいプラットフォームを発表
タイ国立イノベーション庁(NIA)は、農業産業における3つの注目すべき新興技術として、人工知能(AI)、ロボティクスと自動化、バイオテクノロジーを特定、ディープテック農業系スタートアップの成長を加速し、大手農業企業とのパートナーシップを促進するために、AGROWTHプラットフォームを立ち上げている。現在、タイには81の農業系スタートアップが存在しており、そのうち15未満がディープテクノロジーに特化、また、アグリテック業界への投資額は1.7兆バーツを超えている。今年、NIAはAGROWTHプロジェクトを通じて、農業におけるディープテクノロジーを活用し、製品やサービスを開発、実際の使用状況をテストし、ビジネスモデルを農業部門のニーズに適応させる可能性を持つスタートアップの募集を進め、農業分野のトップ企業との連携も目指している。データに基づくと、タイの農業系スタートアップは国内外の投資家から約25億バーツを調達、この金額は比較的控えめであるが、緩やかで安定した成長を示している。
出典:https://www.nia.or.th/AgTech-Startups-DeepTech-Investment-2023
https://www.nationthailand.com/blogs/business/tech/40037296
ビッグデータを活用した新しい農業技術が推進
デジタル経済社会省(DES)は、タイの農業の近代化を推進し、ビッグデータの活用を目指した取り組みを進めている。特に「One Tambon, One Digital (Otod)」コミュニティドローンプロジェクトは、初年度で2,000億バーツ以上の経済価値を創出し、農家のコスト削減、収入増加、雇用創出に寄与した。このプロジェクトは、デジタル経済促進機構(Depa)が運営し、ドローン技術の訓練や修理技術者の育成を全国5カ所で実施。1,500人以上の操縦者と100人の修理技術者を育成し、500の利用者コミュニティを形成、また、新たなイニシアチブとして「Otod Smart Living」と「Otod Digital Durian」が発表され、安全技術や環境技術を活用したコミュニティ支援や、6,000以上のドリアン農家へのデジタル技術導入が進められている。これらの取り組みは、農業分野のデジタル化を通じて地域社会の自立を支援し、国の競争力向上を目指している。さらに、Depaは農業のeコマース化やGood Agricultural Practices(GAP)認証の取得支援を行い、タイの農業部門の質的向上を図っている。これらのプロジェクトは、農家の生活向上に寄与するとともに、将来的には農業ビッグデータの確立を目指す重要な基盤となっている。
出典:https://www.depa.or.th/th/article-view/one-tambon-one-digital-durian-2567
https://www.bangkokpost.com/business/general/2918215/new-farm-technologies-promoted
ゲノム編集規制を承認
タイの農業・協同組合大臣であるタマナット・プロムポー大尉は、ゲノム編集生物に関する画期的な法律に署名した。この新しい規制は、「農業利用のためのゲノム編集技術による生物の認証、B.E. 2567(2024年)」と題され、タイをアメリカ、日本、オーストラリアと並ぶ農業イノベーションの世界的リーダーとして位置づけることを目的としている。この発表は、2024年7月11日に農業局のラピバット・チャンダラシリウォング局長によって行われた。チャンダラシリウォング氏は、この動きがセッター・タウィーシン首相の「農業ハブの活性化」イニシアチブと一致していると強調。この技術は、4年間でタイの農家の収入を実質的に3倍にする助けとなると考えている。また、この新法が急速に進化する新しい育種技術、特に農業分野での利用を目的とした生物の改良に大きな可能性を持つゲノム編集技術にとって重要な一歩であることを付け加えた。この法律は、農業におけるゲノム編集植物、動物、微生物の安全な開発と商業利用への道を切り開き、官報に掲載されてから30日後に発効する予定。
出典:https://www.isaaa.org/kc/cropbiotechupdate/article/default.asp?ID=20936
AgriTech導入事例
人工知能(AI)の農業への活用
大規模な農業データを活用して予測を行い、新たな基準を構築することにより、水や肥料の使用を最適化し、温室効果ガス排出量を削減できます。この技術は、2028年までに約1.55兆バーツに成長すると見込まれている。タイの農業系スタートアップの中には、この技術で投資を得た例がある。その一つがEasy Riceで、AIシステムを使って米の品種や粒の品質を検査している。同社はこれまでに600万トン以上の米を評価し、カンボジアやベトナムなどの近隣諸国の生産者にも技術を展開している。この成果により、Easy RiceはAI and Robotics Ventures Co., Ltd (ARV)、Yip In Tsoi & Jacks Co Ltd、Innospace (Thailand) Ltdなどから6,600万バーツ以上の投資を獲得した。
出典:https://www.nia.or.th/AgTech-Startups-DeepTech-Investment-2023
農業におけるロボットと自動化技術
労働力不足が進む中、農業におけるロボットと自動化技術の需要が高まり、効率向上と化学物質の使用削減を通じてコスト削減と生産性の向上が図られている。例えば、ドローンを使用して農薬や肥料を散布することで、手作業を代替し、大きなコスト削減が実現されている。農業ロボット分野で政府や民間セクターの支援、主要な投資家や企業からの投資を受けているスタートアップには、HGロボティクスが含まれている。HGロボティクスはロボットと自動化管理システムの開発を行っており、True Digital Groupからの投資を受けている。これは、農業ドローンとロボットの製造において世界基準を満たした初のタイ企業。さらに、HGロボティクスは「タイガードローン」という、タイ語での自動飛行ソフトウェアを開発しており、安全で正確なデータ収集を確保している。
出典:https://www.nia.or.th/AgTech-Startups-DeepTech-Investment-2023
農業分野におけるバイオテクノロジー
環境保護と食品安全の必要性から、先端バイオテクノロジーは農業分野で欠かせないツールとなっている。例えば、害虫や干ばつへの対応、新しい植物品種の作出などに非常に有効である。バイオテクノロジーを適用した農業系スタートアップの世界投資価値は約858億バーツと推定されている。タイの農業スタートアップでは、UniFAHSが注目されている。同社のSalmoGuardは、家禽の消化器系内のサルモネラ菌を除去し、抗生物質や化学物質を置き換える技術を提供。同社はフェージ技術(特定の細菌を標的とする技術)で15年以上の経験を持ち、タイおよび海外の養鶏業界の問題に取り組んでいる。また、2022年の世界最大のスタートアップコンペティションであるGlobal Finalistsでバイオテックイノベーション賞を受賞し、ADB VenturesやInnospace (Thailand) Limited、Innovation One Fundから5,300万バーツの投資を受け、養殖業にも進出している。
出典:https://www.nia.or.th/AgTech-Startups-DeepTech-Investment-2023
タイのAgriTechの主要企業
EASYRICE
2019年に設立、デジタルベンチャーズ株式会社から、U.REKAディープテックディスカバリープロジェクトにて3,500,000バーツの投資を獲得、米研究を通じて「稲の品種混入」と「非効率的な米品質検査」の問題を発見、米の検査には専門家による目視が必要で、誤差や不正確さが生じていたため、価格交渉やタイ米の基準、農家の収入に影響を与えていた。EASYRICEは、AI技術を活用して検査レベルを標準化し、精度を向上させ、データ保存を支援することを目指し、その結果、稲品種検査のための「EASYRICE MP」と、米品質検査のための「EASYRICE M0」の技術を開発、急速な成長を遂げた。同社はこれまでに600万トン以上の米を評価し、カンボジアやベトナムなどの近隣諸国の生産者にも技術を展開している。この成果により、Easy RiceはAI and Robotics Ventures Co., Ltd (ARV)、Yip In Tsoi & Jacks Co Ltd、Innospace (Thailand) Ltdなどから6,600万バーツ以上の投資を獲得した。
出典:https://easyrice.ai/about-us
https://www.nia.or.th/AgTech-Startups-DeepTech-Investment-2023
Add Ventures – HG Robotic
産業および農業分野の問題を解決する無人航空機、無人ボート、潜水ロボット、肥料散布用の無人農業ドローンなど、さまざまな形態のロボットの開発に注力し、自動化および正確な動作が可能な管理システムを提供している。True Digital Groupからの投資を受け、タイ初の世界基準に準拠した農業用ドローンとロボットの製造工場を開設した。また、タイのスタートアップによって設計・組み立てられた「タイガードローン」を製造し、タイ語のソフトウェアを搭載、すべての飛行エリアで安全に使用できるようにしている。このドローンは自動飛行システムを備え、データを正確に収集し、安全に保存することができ、農家の生産性の向上と肥料コストの最適化なども含めて、タイの農業をスマート農業へと進化させることを目指している。最近では、日本で開催されたGood Design Award 2023(Gマーク)を受賞し、見た目の美しさだけでなく、社会や未来に対する革新性を評価されました。また、タイ商務省の国際貿易振興局が主催するDesign Excellence Award 2023(DEmark)で優秀デザイン賞を受賞した。
出典:https://addventures.co.th/hg-robotics/
https://www.nia.or.th/AgTech-Startups-DeepTech-Investment-2023
UniFAHS
15年以上のフェージ技術(Phage)に関する経験と専門知識を活かし、国内外の市場やユーザーに迅速に適した農業用動物飼育産業向け技術を設計することを可能にしている。最初に開発した製品「SalmoGuard」は、家禽の腸内および消化管内のサルモネラ菌を破壊し、抗生物質や化学物質の使用を代替する効果がある。この技術は、世界最大のスタートアップ競技会「Global Finalists 2022」でバイオテクノロジー分野のイノベーション賞を受賞し、さらにInno4Farmers 2022で「The Best Performance Award」と「The Popular Award」を受賞した。これにより、産業のニーズに応じたビジネスの成長が持続可能であると確信。そして、2024年1月には、アジア開発銀行ベンチャーズ(ADB Ventures)とインノスペース(InnoSpace Thailand)から140万ドルの共同投資を受け、他の農業関連製品、例えば水産業などへの技術適用を拡大し、環境に優しく持続可能な方法で農業の未来を変革することを目指している。
出典:https://unifahs.com
https://www.nia.or.th/AgTech-Startups-DeepTech-Investment-2023
FreshKet
2017年に設立され、消費者や食品関連事業者に対して、地元の農家や供給業者から調達した多種多様な農産物や新鮮な食材を提供することを目的として、テクノロジーを活用した食品供給チェーンプラットフォームを展開、2022年には、シリーズBラウンドで2,350万米ドルの資金調達を完了した。このラウンドは、タイ証券取引所(SET)に上場しているPTTオイル&リテールビジネス(OR)が主導し、Openspace、Betagro Holding(Betagro Public Company Limitedの株主であるテーパイシットポンセス家が所有する企業)、ORZON Ventures(ORZON)、Volta Circleが参加した。この資金調達ラウンドにより、サプライチェーン技術の開発を通じてオペレーションシステムを強化し、サービス効率を向上させ、新しい製品カテゴリーに進出し、需要の高いサービスを他の県にも拡大することを可能にした。また、需要予測技術の開発に注力し、すべての関係者に透明性を提供するとともに、食品廃棄物を削減し、生産者の生活の質を向上させる取り組みを行なった。2024年、CPフードと手を組み、直接発送される高品質で、安全、また新鮮な魚をFreshKetの生鮮市場で取り扱っている。
出典:https://freshket.co/en/about-us
https://thaipublica.org/2024/01/cp-freshket-pr-13012024/
Advanced GreenFarm
奇跡の植物に関する豊富な知識を最先端の技術を活用した農場に反映させ、2019年に設立。この農場では、プレミアムなウォルフィアを大規模に生産。AGFでは、タイに存在する多くの在来ウォルフィア品種をスクリーニングすることからスタートし、最適な品種を選び出した。その後、植物生理学者のチームが、ウォルフィアを成長と栄養価を最大化し、廃棄物と環境負荷を最小限に抑えるために、最適かつ正確に管理された条件下で栽培することを保証した。また、定期的かつ厳格なラボ分析により、ウォルフィアが微生物や有害物質から安全で新鮮であることを保証し、安心してこの素晴らしいスーパーフードを健康的な料理で楽しんでもらえるように提供している。さらに、ウォルフィアを新鮮、冷凍、ペースト、または粉末の形で提供できるよう、大規模な栽培施設と食品加工の研究開発にも投資し、産業パートナーが必要とする形態でウォルフィアを安定的に供給できるようにしている。新鮮、冷凍、ペースト、乾燥粉末などの形態で提供し、「Phum」をベストセラーの食品や化粧品に取り入れることを可能にしている。
出典:https://www.advancedgreenfarm.com/home-en
バンコク在住のタイ人。タイにおける日系企業向け翻訳・通訳を6年間以上行う。経済、ビジネス、IT分野に興味があり、マーケティングや流通を含めた企業調査や、企業調査といった情報収集が得意。