【ベトナムの都市鉄道】開通後の変化と現状課題を解説

ベトナム 都市鉄道

ベトナムでは、交通渋滞の改善などを目的に都市鉄道の建設が進められています。今回は、中国が手掛けるハノイ都市鉄道と、日本が手掛けるホーチミン市地下鉄に関して、開通後の変化や現状課題について詳しく解説します。

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目次

ベトナムの都市鉄道計画の概要

都市鉄道を計画することになった背景

ハノイ市の都市鉄道システムは、ハノイ市都市圏で生活している住民を効果的に接続する鉄道ネットワークに関する都市開発計画の一環として計画された。計画自体がハノイ市が都市化する前に計画されたため、現在は用地収用資金に関する課題を抱えている。土地収用資金が不足する中で計画を実行するために、ハノイ市内の都市鉄道の路線及び駅は、幹線道路上に高架で設置する又は地下への建設が計画されている。

ハノイ市の都市鉄道ネットワークは既存の都市圏(旧市街など)だけではなく、今後開発が予定されているエリアでも建設が予定されている。ハノイ市は面積が大きく、市内中心部は道路のインフラが弱く、通行量が制限されているが、市内中心部は人口密度や建物の密度が高いため、これ以上自動車用道路等を建設するのが難しい状況である。そのため、都市鉄道の建設が求められている。

また、国内最大の人口を抱えるホーチミン市では以前から交通システムが弱く、公共交通が過負荷になるなどの交通インフラに関する多くの問題を抱えている。そのため、地下鉄を含めた都市交通インフラは交通インフラ開発の機会であり、ホーチミン市の交通インフラに大きな変化を起こす機会として期待されている。

ホーチミン市及び周辺エリアは都市化途上にあり、導入される都市交通はベトナムの都市交通システムのモデルケースになる可能性がある。

ベトナムの都市鉄道の開発計画概要

ハノイ市及びホーチミン市の都市鉄道ネットワークには長年、多額の投資や開発計画の策定が行われてきたが、多くのプロジェクトはまだ計画途上にある。ハノイ市では都市鉄道が8路線の建設が予定されており、ホーチミン市でも8路線の建設が予定されている。

ベトナム政府は交通運輸省に対して2つの路線(1号線:イエンヴィエン~ゴクホイ間、 2A号線:カットリン~ハドン間)に投資するよう指示している。また、ハノイ市人民委員会に2つの路線( 3号線:ニョン~ハノイ駅間、 2号線:ナムタンロン~チャンフンダオ間)へ必要な投資を行うように指示をしている。

ホーチミン市内のプロジェクトに関しては、政府はホーチミン市人民委員会に2つの路線(1号線:ベンタイン市場~スオイティエン間、 2号線:ベンタイン市場~タムルオン間)へ必要な投資を行うように指示をしている。

都市鉄道計画に従い都市鉄道網を建設し、大都市での交通渋滞の緩和に貢献するように、ベトナム政府はハノイ市及びホーチミン市の人民委員会に都市鉄道建設プロジェクトを迅速に進めるように指示をしている。

ハノイ市の2号線(ナムタンロン~チャンフンダオ間) の投資総額は35兆6,790億VND、3号線(ニョン~ハノイ駅間)の投資総額は11億7,600万EUR、ホーチミン市では、1号線(ベンタイン市場~スオイティエン間) の投資総額は43兆7,570億VND、2号線(ベンタイン~タムルオン間) の投資総額は47兆8,900億VNDを予定。

ベトナムの都市鉄道計画の進捗状況

ハノイ市及びホーチミン市では、6つの都市鉄道へ投資が行われている。6つのプロジェクトに関しては、中央政府(交通運輸省)が2つのプロジェクト、ハノイ市人民委員会が2つのプロジェクト、ホーチミン市人民委員会が2つのプロジェクトを担当している。

6つの都市鉄道のプロジェクトは、ハノイ都市鉄道の建設プロジェクト、1号線(イエンヴィエン駅~ゴクホイ駅)、2A号線(カットリン駅~ハドン駅)、ハノイ市のパイロット都市鉄道プロジェクト(ニョン駅~ハノイ駅)、 2号線(ナムタンロン~チャンフンダオ)。ホーチミン市の都市鉄道の建設プロジェクトは、ホーチミン市の都市鉄道1号線(ベンタイン駅~スオイティエン駅)、 2号線(ベンタイン駅~タムルオン駅)の計画が進められている。

ハノイ市では、都市鉄道2A号線(カットリン駅~ハドン間)は2021年11月6日に完成し、運行を開始した。ハノイ市内の他の都市鉄道プロジェクトは全体的に計画より遅れている。都市鉄道3号線(ニョン駅~ハノイ駅)は74.36%の全体的な進歩を達成した。

ホーチミン市では、都市鉄道地下鉄1号線の建設は88.61%まで完了している。また、地下鉄2号線は地上部分の建設は完了しており、地下部分を含めた進捗率は83%である。

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ベトナムの都市鉄道〜ハノイ都市鉄道〜

ハノイ都市鉄道の概要

ハノイ市内の都市鉄道は8路線の建設が予定されている。現在はベトナム政府(交通運輸省)とハノイ人民委員会が4つの路線(1号線:イエンヴィエン駅~ゴクホイ駅、2A号線:カットリン駅~ハドン、3号線:ニョン駅~ハノイ駅、2号線:ナムタンロン駅~チャンフンダオ駅)の建設をした。

2A号線の建設が完了し、2021年11月6日に正式に運用を開始した。同路線では毎日午前5時~午後11時まで運行している。同路線(カットリン駅~イエンギア駅)の所用時間は約25.5分で、路線の長さは13.05km、12の駅及び13両の車両が運航されている。同路線の最高速度は80km/h、通常運行速度は35km/hである。

メトロ2A号線は中国政府及びベトナム国内で調達した資金で建設された。投資総額は18兆150億VNDに達し、当初の計画と比較して9兆2,310億VND以上増加した。内訳は中国の政府開発援助(ODA)が13兆8,670億VND、ベトナム国内での資金調達が4兆1,340億VNDである。

メトロ2A号線の運賃は、短距離が8,000VND、長距離が15,000VNDに設定されている。また、1日乗車券は30,000VND、1か月の定期券は200,000VNDに設定されている。学生や工業団地内で働く労働者が定期券を購入した場合50%割引となる。

ハノイ都市鉄道の開業後の変化

2021年に運航を開始した都市鉄道2A号線では、運行開始後に多くの人々にメリットが提供されると言われてきた。例えば、車やバイクにより引き起こされるほこりや大気汚染を抑制するだけでなく、人々の移動をより便利にし、特に時間やお金を節約できると言われている。

開業2か月後、カットリン駅~ハドン駅を結ぶ2A号線及び同路線に接続しているバス路線は乗客から利便性を高く評価されている。具体的な効果としては都市鉄道の利用客の20%が定期を購入し、使用している。2A号線の駅には両方向にバス停が配置されており、乗客がアクセスしやすくなっている。

商業的に運転開始後は、メトロ2A号線の鉄道運賃を安価に抑えるためにハノイ市が支援を行っている。ハノイ市ではバスと同様にハノイ市の住民が気軽に都市鉄道が利用できるように都市鉄道運航会社(Hanoi Metro)に対して補助金を支給している。

2A号線の電車内や駅舎は常に清掃が行き届いており、施設内にはエアコンも効いている。トイレやエレベータ等も完備されている。また、車両は全て高架を走行するため、渋滞や遅延も発生しない。

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ベトナムの都市鉄道〜ホーチミン市地下鉄〜

ホーチミン市地下鉄の概要

ホーチミン市内の都市鉄道路線は、8路線の都市鉄道、1本の路面電車、2本のモノレール線が計画されている。ホーチミン市内の都市鉄道路線の総延長距離は約220kmで、列車の保守・メンテナンスに使用される10箇所の工場も設置される。ベンタン中央駅には、1号線及び2号線、3A号線、4号線の路線が接続される。各路線の駅間の距離は平均500〜1,000mに設定されている。

2つの路線(1号線:ベンタイン駅~スオイティエン駅、2号線:ベンタイン駅~タムルオン駅)は建設が進められている。また、5号線(バイヒエン駅~サイゴン橋駅)は資金調達を行う予定。残りの路線に関しては計画段階にある。

2012年に建設が開始された1号線の当初の投資総額は約17兆3,880億VNDであったが、現時点で43兆7,000億VNDまで増加している。また、2号線(第一期:ベンタイン駅~タムルオン駅間)の投資総額は約47兆9,000億VND、5号線(バイヒエン駅~サイゴン橋駅)に関しては、第1期の投資総額は38兆7,000億VND、第2期の投資総額は約21億USDと見積もられている。

また、3A号線(ベンタン駅~タンキエン駅)の投資総額は28億USD以上、3B線(コンホア6区駅~ヒエップビンフオック駅間)の投資総額は約18.7億USD、4号線(タンスアン駅~Hiep Phuoc市街地駅)の投資総額は約45.7億USD、4B線(ザーディン公園駅~Lang Cha Ca駅)の投資総額は約11億USD、6号線(バケオ駅~ Phú Lâm)の投資総額は約13億3000万USDが予定されている。

ホーチミン市地下鉄の建設状況

1号線(ベンタン駅~スオイティエン駅)は2007年に着工したが、本格的な建設は2012年に開始され、現在までに約88,61%の路線が完成している。

2020年10月に初めて本路線で使用される日立製の車両が日本からホーチミン市に輸入され、現在までに17編成中11編成の引き渡しが完了している。1号線の建設は2023年末から2024年初頭頃に完了予定で、2022年末までに試運転を開始する予定。

建設工事遅延の理由としては以下の①~④がある。

①ホーチミン市都市鉄道管理委員会によると用地買収が遅れ、2号線及び3A号線、4号線が乗り入れるベンタン駅の設計が何度もやり直しが必要になり、計画が大幅に遅延した。②プロジェクトに関する各種調整をホーチミン市人民委員会が規定の手順及び権限を遵守せずに行っていた。③コンサルティング部門が請負業者に対してしっかりと指示を出しておらず、支払の遅延により地下鉄の運転手のトレーニング中断など様々な作業が中断した。④コロナの流行による建設作業の遅れ。

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ベトナムの都市鉄道の課題

資金、人材、プロジェクト管理の課題

ホーチミン市内の都市鉄道建設プロジェクトは、合計数十億USDの予算が必要になり、予算確保を含めて数多くの問題に直面している。しっかりした計画、強い決意、柔軟性がなければプロジェクトを完成させるのは難しいと考えらている。現在、ホーチミン市内の都市鉄道建設に関してはスケジュールや用地買収、資金調達、人材不足等の課題を抱えている。

ホーチミン市都市鉄道建設プロジェクトでは、プロジェクトの計画及びベトナム政府の政策の欠如等により多くの課題に直面している。例えばホーチミン市の都市整備計画や都市交通網計画、都市鉄道計画はかなり前に作成された計画であるため、現在では計画の修正や調整が必要であるが必要な修正や調整が行われていない。

また、鉄道建設用地の収用に関して規制や制約は無いが、土地所有者との交渉や手続きに想定以上に時間がかかっており、プロジェクトの進捗に重大な影響を及ぼしている。

現在、ホーチミン市内の都市鉄道建設に関する最大の課題は、資金不足及びプロジェクトの管理能力、鉄道運航に関する分野での専門かつ優秀な人材不足が挙げられる。

新型コロナウイルスによる建設遅延

ホーチミン市内では新型コロナウイルスの感染拡大により、鉄道施設の引き渡しや建設スケジュールに大きな影響が出ている。また、建設作業に参加できる作業員の人数等にも制約等があり、プロジェクトの進捗に影響が出ている。

ホーチミン都市鉄道管理委員会の副局長は、今後ホーチミン市内の地下鉄建設のスピードを加速し、ホーチミン市内の都市鉄道網計画を完了させるためには、①計画、②用地買収、③資金調達、④人材育成の4つに課題にしっかりと対応しなければならないと説明している。

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ベトナムの都市鉄道の今後の展望

交通渋滞や大気汚染の改善

ハノイ市内の都市鉄道網が完成後、公共交通機関の利用率は35〜45%に増加すると予想されており、自家用車を使用する割合は30%程度減少すると予想されている。その結果、交通渋滞や大気汚染が減少し、経済発展や都市環境の改善に繋がると期待されている。

ハノイ都市鉄道の2A号線(カットリン駅~ハドン線)又は3号線(ニョン駅~ハノイ駅)のプロジェクトで得られた経験・知見は、ハノイ市内の他の公共交通システムの建設などで積極的に活用・応用するとハノイ市当局は発表している。

ホーチミン市内の都市鉄道プロジェクトは、特に公共交通インフラ環境を改善し、ホーチミン市内の目覚ましい経済発展に貢献することが期待されている。

2030年までの首都交通計画

ハノイ都市鉄道2A号線(カットリン駅~ハドン駅) は、ハノイ市内の公共交通機関の近代化計画の最初のマイルストーンとして評価されている。ベトナム国内の多くの交通分野の専門家によると、都市鉄道路線は大量輸送による移動効率の改善、数千人の観光客の輸送、他の様々な公共交通機関の輸送容量増加にも貢献すると予想されている。

都市鉄道建設を通じて徐々にハノイ市内の交通インフラは改善しており、交通渋滞の緩和等にも貢献している。2030年までのハノイ市の首都交通計画では、2050年に向けたビジョンに加えて、ハノイ市内の都市鉄道網を含む公共交通を完全な形で構築し、経済面・文化面・政治面で発展する機会が創出されると期待されている。

まとめ

既に開通したハノイ市の都市鉄道では、交通渋滞や大気汚染の緩和といった効用が生まれています。新型コロナウイルスや人材不足といった課題はありますが、現在建設中の都市鉄道が開通すればベトナム経済にも大きく貢献するのではないでしょうか。

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