インドネシアでは今でも「Arisan(アリサン)」というイスラム教由来の相互扶助制度が残っており、銀行口座を使う習慣がない人も一定数います。一方で、2010年頃からGojek、Tokopediaといったユニコーン企業が出現し、バーコード決済の導入も進んでいます。
そんなインドネシアのキャッシュレス事情について詳しく解説します。
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インドネシアのキャッシュレス事情
キャッシュレス決済の浸透状況
インドネシアでは今でも「Arisan(アリサン)」というイスラム教由来の相互扶助制度が残っている。職場や近所でグループを作り、毎月一定額のお金を出し合う。冠婚葬祭などまとまったお金が必要な際に掛け金が戻ってくる仕組み。
そのため、銀行を使う習慣がなく、今でも人口の半分近くが銀行口座を持っていないと言われている。デビッドカードやクレジットカードなど既存のキャッシュレス決済システムが普及しにくい環境にある。
一方、2010年初頭からGojek、Tokopediaといったユニコーン企業が出現し、政府も産業のIT化を図るため、2016年に「1,000 Start-up Digital運動」を立ち上げ、目論見通り現在Digital start-upが1,000社を超えている。
社会のデジタル化が進む中、独自の電子マネーを発行する企業が増え、Gojekなどの民間企業が主導してバーコード決済の導入が始まった。
2019年にインドネシア銀行が「インドネシア標準バーコードシステム(QRIS)」を制定、サーバーベースの決済サービス「LinkAja」が国有企業の出資によるPT Fintek Karya Nusantara (Finarya)によって導入され、官による主導が始まった。「LinkAja」は銀行口座を持たない人でもスマホがあれば使え,単一のバーコードシステムでキャッシュレス決済ができるので中小の自営業者でも簡単に導入できるため、急速な普及が期待されている。
キャッシュレス決済額の推移と利用シーン
インドネシア銀行の統計によると、電子マネーの媒体の発行件数は、10年前の2012年に21.9百万件であったものが2021年には575.3百万件へと約26倍に増加している。なんと平均年率44%という驚異的な伸びである。2021年の575.3百万件のうちサーバーベースが495.8百万件で86%を占める。パソコンやスマホのアプリである。
電子マネーによる買い物の決済金額は、2012年の1兆9,720億ルピアから2021年には305兆4,360億ルピアに増加している。平均年率75%の増加である。
インドネシアでは携帯電話が市場導入された時からプリペイドが普及していった。現在でも圧倒的にプリペイド電話が多い。携帯電話シェアNo.1のTelkomselでは1億7,598万回線のうちプリペイドが1億6,878万回線で96%を占める。
プリペイド携帯電話では「トップアップ」という方法でデポジットを事前に追加する。携帯電話で慣れたトップアップという方法が電子マネーシステムでも使われている。2021年にトップアップされた総額は386兆6,800億ルピアであった。
また、2019年にインドネシア銀行が制定したインドネシア標準QRコード(QRIS)を使ったPT Fintek Karya Nusantara (Finarya) のサーバーベースの決済サービス「LinkAja」が市場導入された。「LinkAja」の普及に伴いキャッシュレス決済がさらに進むと期待されている。
インドネシアのキャッシュレス決済:カード決済事情
インドネシアのクレジットカード利用事情
インドネシア銀行の統計資料によると、インドネシアで保有されているクレジットカード枚数は10年前の2012年14.8百万枚であったものが2021年には16.5万枚と増加しているものの、平均年率にすると1.2%とわずかな増加である。
ちなみに、カードを発行する金融機関数は、2012年が20社で2021年が27社なので、1社あたりの平均枚数は低下している。
一方、買い物に使われた決済金額は、2012年の2,018億ルピアから2021年は2,445億ルピアへ増えているが、平均年率にすると2.2%とわずかな増加である。電子マネーによる買い物の決済金額の伸びの平均年率75%と比べるとクレジットカードの普及がいかに進んでいないかがよくわかる。インドネシアではクレジットカードを使う文化が育たないことを示している。
インドネシアのデビットカード利用事情
インドネシア銀行の統計資料によると、インドネシアで発行されている銀行ATMカードのほとんどはデビットカード機能付きである。ちなみに2021年のATMカード保有枚数226百万枚に対してデビッド機能付きが221百万枚と全体の98%を占めている。
また、デビッド機能付きATMカードの保有枚数は10年前の2012年と比較すると約3倍になっている。ちなみに、カードを発行する銀行数は、2012年が102行で2021年が108行なので、単純に1行あたりの平均的保有枚数が3倍になっているという結果である。
一方、買い物に使われたデビッド機能による決済金額は、2012年の1,107億ルピアから2021年は3,361億ルピアに増えている。カード保有枚数が3倍になっているのと同じように決済金額も約3倍になっている。
インドネシアのキャッシュレス決済:QRコード決済事情
各銀行によるQRコード決済
インドネシアで初めてQRコード決済システムに取り組んだ銀行はBNI銀行で、デジタルウォレットモバイルアプリケーション「YAP!」を導入した。BNI銀行に続いてQRコード決済システムを導入したのはBCA銀行で、システム名は「QRku」である。次に導入したのはBRI銀行でシステム名は「MYQR 」である。そして4つ目は「Mandiri Pay」を導入したマンディリ銀行である。
金融テクノロジーに携わるスタートアップ企業Cermatiが2019年1月22日に、コンシューマービジネスをしている企業が中心となって普及を図ってきたQRコード決済システムを、取り残されることを望まないインドネシアの大手銀行も顧客に最大のサービスと利便性を提供するため、導入を図っていることをブログで紹介した。
主要QR QRコード決済:GoPay
QRコードを使った決済をインドネシアで積極的に進めてきた「GoPay」は、2019年8月にインドネシア銀行がGoPay、OVO、Linkaja、DanaなどすべてのQRコードベースの決済システムサービスプロバイダー向けに提供した QRIS (Quick Response Code Indonesian Standard:インドネシア標準QRコード)の利用を始めたことを2020年1月22日にブログに掲載した。
店舗ではQRISを導入すると、一度登録するだけでどのアプリからでも決済できるようになる。同様に消費者は、すべてのアプリを持たなくても、1 つのQRコードを通じてすべてのアプリケーションからの支払いを受け入れることができる。
QRISはインドネシアの人々の非現金取引を容易にすることが期待されており、多くの小売業者がQRISのビジネスパートナーに登録されている。
主要QR QRコード決済:QRku
2022年10月25日、BCA銀行は2022年11月1日をもってBCA 口座間の「QRku」スキャンコード転送サービスを廃止することを通知した。「QRku」はBCA銀行が開発したQRコード決済システムで、QRコードをスキャンするだけで、BCAモバイルバンキングアプリケーションを持っている他のBCA顧客に直接送金できることが特徴である。
QRコードを使った決済そのものは、インドネシア標準のQRコードシステムであるQRISを使って行える。BCA mobileを介したBCAアカウント間の転送は、BCA mobile アプリのm-Transferメニューから引き続き実行できるということ。
BCA mobile アプリにはこの他カードレス入出金やオンラインデビット機能などがある。銀行の決済システムがQRISに移行することでQRISの普及がさらに進むことが期待されている。
インドネシアのキャッシュレスの現状課題
安全性の課題
インドネシアの決済手段は近年、現金での支払いから、小切手やbilyet giroなどの紙ベースの非現金支払い手段へと進化し、電子送金などのペーパーレス決済手段やATMカード、クレジットカード、デビットカード、プリペイドカードやカード型やサーバー型の電子マネーなど決済手段が急速に多様化し、ウェブ、モバイルなどのさまざまなプラットフォームを通じた高速かつ安全な支払いが求められている。
さらに、通貨当局以外の者が発行した電子マネーとしてマイニング、ギフトの購入・譲渡によって取得される仮想通貨が登場したが、金融システムの安定性に影響を与え、国民に害を及ぼす可能性があるため、仮想通貨の販売、購入、または取引を行わないよう警告している。
急激な変化への金融技術対応と安全性の確保が課題である。
技術的な課題
資金を迅速、安全かつ効率的に送金するため、支払い技術の革新はますます急速に進んでおり、決済システムの整備は情報技術の進展を踏まえたインフラの強化やシステム開発への取り組みにつながっている。銀行と非銀行機関の両方が関与する決済業界は決済システムの開発にしのぎを削っている。
BI-RTGS、SKNBI、BI-SSSSを通じたトランザクション決済の主催者としてのBank Indonesiaも引き続き既存のシステムメカニズムを常に効率的かつ安全で、技術の進歩と進化し続ける社会のニーズに合わせて改善更新する必要がある。
将来の決済取引はますます無限になる傾向があり、グローバルな金融商品のさまざまなデリバティブの出現や、MEAを通じて開始された地域経済境界の消失など、経済主体のより高い流動性ニーズが発生する。このような将来への備えが課題である。
インドネシアのキャッシュレスの今後の動向
インドネシア銀行の方針
インドネシア銀行が示している2025年のビジョンは以下の5つ。
①デジタル金融経済の統合を支援し、金融システム安定化における中央銀行の機能を確保し、金融包摂をサポートする。
②デジタル技術とデータの利用だけでなく、オープンバンキングを通じて銀行業務のデジタル化を支援する。
③Fintechと銀行間の相互リンクの保証、デジタル技術の取り決め、ビジネス協力、会社の所有権を通じてシャドーバンキングのリスクを回避する。
④資金洗浄防止/金融テロとの闘いを通じ、技術革新と消費者保護、完全性と安定性、公正なビジネス競争のバランスを確保し、データ/情報/監督上の義務におけるreg-tech/sup-techを適用する。
⑤相互主義の原則に基づく国内取引を処理する義務と国内外の事業者の協力を通じて国家間のデジタル金融経済における国益を保証する。
SPI2025実現のための5つのイニシアチブ
SPI2025実現のための5つのイニシアチブは、
①銀行とフィンテックの財務情報を第三者に安全に開示できるようにするオープンAPIの標準化でオープンバンキングと銀行とフィンテックの相互リンクを図る。
②24時間年中無休のリアルタイムオペレーションにつながる小売決済を開発しセキュリティと効率を向上する。
③ホールセール決済と金融市場インフラを開発する。そのうちの 1つがRTGSの開発である。
④データに関して、共同で統合された全国データを開発して、その利用を最適化できるようにする。
⑤デジタル金融経済 (EKD) の加速のための規制、監督、ライセンス供与、および報告を行う。
これらによって、8,310万人の銀行口座を持たない人口と6,290万の中小企業へのアクセスを開くことができるようになる。
ジャカルタ在住のインドネシア人。観光ガイドと通訳者を務め、インドネシアの観光地を日本語で案内している。日本語学科の大学を卒業し、邦人対応観光ガイド・国際イベントでの日本代表団担当連絡係員・通訳者・日本領事事務所長の地元アシスタントを経験。