アメリカの法律業界は、テクノロジーの進化や規制の変化により急速に変化しています。特に、AIとデータ分析の導入が進み、契約書のレビューや法的リサーチの効率が向上しています。また、プライバシー保護やサイバーセキュリティ関連の法律が強化され、企業はこれに対応するための法的措置を講じています。さらに、リモートワークの普及に伴い、法律事務所の運営方法も変化しており、オンラインでの相談や裁判が増加しています。
今回は、そんなアメリカの法律事務所業界に焦点を当て、最新の業界情報をお届けしていきます!
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2023年 アメリカの法律事務所(金融・法人サービス)業界
ベーカー・マッケンジー 国連グローバル・コンパクトのイニシアチブに参加〜法律事務所業界動向〜
2023年7月、国連グローバル・コンパクト(UNGC)は、国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けたイニシアティブ「Forward Faster・より速い前進」を開始し、企業に賛同表明を呼びかけた。この呼びかけに、いち早く参加したのがベイカーマッケンジー法律事務所である。
同事務所は、SDGsのうちのひとつである、経営陣のあらゆるレベルで平等な男女の平等を推進することを、2030年までに達成するよう努力している。すでに同法律事務所は2019年に「2025年夏までには男女の多様性が2:1となるようにする」と明言していた。
同法律事務所のサイステナビリティ最高責任者アリッサ・オーベルジェ氏は、「もとよりSDGsは弊社の信念と一致しており、価値観の一部といえる」と語っている。国連発表によると、SDGsが軌道に乗っている企業は15%、48%は不十分であり、37%は停滞していたり逆戻りしているという。
出典:https://www.bakermckenzie.com/en/newsroom/2023/09/un-global-compacts-forward-faster-initiative
DLAパイパー 13年連続で世界のM&Aをリード〜法律事務所業界動向〜
アメリカ最大手の法律事務所であるDLAパイパー法律事務所は、M&A取引額において13年連続で世界最高位の法律事務所となっている。同事務所は2022年に、世界中で1131件のM&A取引に関与し、1376億米ドルに達した。
同法律事務所コーポレートプラクティスのグローバル共同議長ベン・パラメスワラン氏は、「当法律事務所のクライアントは、不安定な経済状況に直面しても回復力を保持しており、私たちはこの不確実な海域をクライアントが安心して航海できるよう支援する」と語っている。
同法律事務所会長のアンドリュー・ギルバート氏は、「クライアントに優れた結果を提供するという、当社のM&Aチームの取り組み強さの証しである」と付け加えた。また東南アジア取引額第1となり、初めてランキングされた。またアメリカでは4位、日本を除くアジア太平洋地域で4位であった。
出典:https://www.dlapiper.com/en-us/news/2023/01/dla-piper-leads-global-ma-for-13th-consecutive-year
レイサム&ワトキンス Vaxcyte の株式公開についてアドバイス〜法律事務所業界動向〜
アメリカ法律事務所最大手のレイサム&ワトキンス法律事務所は、細菌性疾患ワクチン開発のVaxcyte社の、普通株式および事前資金提供型新株予約権の引受公募価格の発表を代行した。
Vaxcyte社は普通株式11200000株を売却し、事前資金ワラントを1株当たり40.999米ドルの公募価格で販売する。これによりVaxcyte社の総収益は約5億米ドルになると予想されている。また、 Vaxcyte社は引受会社に対し、引受割引と手数料を差し引いた1株当たりの公開価格で普通株式を最大183万株まで追加購入できる30日間のオプションを付与した。
今回の株式公開に関しては、同法律事務所所属の弁護士シェイン・ケネディ氏とリチャード・キム氏がチームとなり、 Vaxcyte社の株式公開において引き受け会社を代表している。さらに規制問題・知財問題・税務問題の専門弁護士10人がチームに加わっている。
出典: https://www.lw.com/en/news/2023/04/latham-watkins-advises-on-vaxcyte-us500-million-public-offering
ノートン・ローズ・フルブライト太陽光発電プロジェクトへの資金調達を通じてEDPRを指導〜法律事務所業界動向〜
アメリカ大手法律事務所のノートン・ローズ・フルブライトは、アメリカの再生可能エネルギー開発会社EDPR NA DG社の分散型太陽光発電プロジェクトに関するセール・リース取引において、同社の代理をし、そのうちの最新取引が9月27日に終了したと発表した。
ミネソタ州のウォルマートとYMCAに合計25以上、またNJ州・NY州・RI州・CA州などの様々な太陽光発電プロジェクトに、同社の技術が使われている。このプロジェクトは2021年に開始され、EDPR NA DG社にとって初の米国税額控除取引となった。
同社に代わって設備金融会社のVerdant Commercial Capital社が資金調達元のFlagstar Financial & Leasing社と取引手配をし、それらの中核にノートン・ローズ・フルブライト法律事務所のディールチームが参画している。広範囲のポートフォリオなので、同法律事務所所属弁護士は総勢20名を超すチームを組んだ。
出典: https://www.nortonrosefulbright.com/en-us/news/73b353b5/new-york-team-guides-edpr-through-financing-of-solar-projects
ホワイト&ケース シティグループとウェルズファーゴ証券にネイバーズの3億500万米ドルのIPOについてアドバイス〜法律事務所業界動向〜
アメリカ最大手の法律事務所であるホワイト&ケース法律事務所は、シティグループ・グローバル・マーケッツ社とウェルズ・ファーゴ証券会社に対し、共同幹事者として、ネイバーズ・エナジー・トランジション・コーポレーションII社(以下ネイバーズ社)の新規株式公開についてアドバイスした。
この新規株式公開によるネイバーズ社の総収益は3億500万米ドルになる見込み。ネイバーズ社は、いわゆる「ブランクチェックカンパニー」である。上場されているが、事業計画などを持たない発展段階の会社のこと。通常は、非公開企業を買収または合併する目的で設立される。
ネイバース社は、世界で増大するエネルギー消費を満たしながら、炭素や温室効果ガスの排出削減を同時にできるようなシステムを構築していくことを目指す企業である。
出典:https://www.whitecase.com/news/press-release/white-case-advises-citigroup-global-markets-inc-and-wells-fargo-securities
2021-2022年 アメリカの法律事務所(金融・法人サービス)業界
ホーガン・ロベルズ、全国の拠点へのドローンインフラ展開を許可するFAA免除を確保〜法律事務所業界動向〜
自律型ドローン技術開発会社であるPercepto社は、アメリカ連邦航空局(FAA)からの目視外(BVLOS)運用に対する全国的な利用許可を取得するよう、ホーガン・ラベルズ法律事務所からアドバイスを受けていた。そして本日、Percepto社はFAAから安全性・効率性・操作性の向上を目的とし、アメリカ全土の適格施設において遠隔操作することを許可した。
Percepto社の「ドローン・イン・ア・ボックス」と呼ばれる技術は、すでに電力会社・石油やガスや太陽光などの発電所・鉱山事業などで使用されている。これまではBVLOSをFAAに承認してもらうには長時間の大気が必要であったが、許可を取得した今後は自動ドローン検査や自動ドローン監視などの拡張が可能になった。
ホーガン・ロベル図法律事務所の弁護士であるリサ・エルマン弁護士は「この許可取得が業界全体にとって重要な一歩であることに加え、次世代へのインフラ整備の兆候になることを願う」と述べた。
出典:https://www.hoganlovells.com/en/news/hogan-lovells-assists-percepto-to-secure-groundbreaking-faa-waiver-authorizing-drone-infrastructure-deployment-at-sites-nationwide
ベイカー・マッケンジー、青少年の公正な判決を求めるキャンペーン〜法律事務所業界動向〜
ベイカー・マッケンジー法律事務所が長年無償で法律相談にのっている団体The Campaign for the Fair Sentencing of Youth(青少年の公正な判決を求めるキャンペーン・以下CFSYと記す)は、近年目立つようになってきたアメリカ国内での青少年の人種的格差と社会的不公平を解消するために行われている取り組みについて、意見交換するプログラムを開始した。
CFSYは、青少年の仮釈放なしの終身刑や極端な懲役刑を禁止する取り組みを主導する非営利団体である。子供たちだけでなく、その家族や地域社会も支援している。
この意見交換プログラムでは、若者の判決法学・権利擁護の取り組みと成功・刑務所からの社会復帰によってもたらされる課題などが取り上げられた。同法律事務所からはヴィヴェク・パテル弁護士が、CFSYスタッフからはドネル・ドリンクス氏・クリスタル・カーペンター氏・ヘザー・レンウィック氏らが参加した。
出典: https://www.bakermckenzie.com/en/newsroom/2022/05/childrens-rights-efforts
レイサム&ワトキンス、プロボノ和解により公正な米国国勢調査への道を確保〜法律事務所業界動向〜
レイサム&ワトキンス法律事務所が無償で訴訟代理人となったアメリカ国勢調査結果の見直し訴訟について、国勢調査局との和解が成立した。その結果、国勢調査局は2020年の調査結果は慎重に分析したのち公表することが保証された。
コロナ禍において、トランプ政権は国勢調査データ収集と処理作業のスケジュールを大幅に短縮しようとした。これを不正とみなした原告側は2020年8月に訴訟を起こした。トランプ政権の行動は連邦行政手続法と合衆国憲法に違反し、さまざまな形で長期的な損害を与える恐れがあると主張した。
慌てて行った国勢調査で見逃される可能性が高いのは有色人種、低所得者、不法移民、精神障害者、身体障害者などのコミュニティであり、このことに対して同法律事務所のサディク・フセニー弁護士とメリッサ・アーバス・シェリー弁護士は「すべての人は、数えられることに値する」と声を強めた。
出典: https://www.lw.com/en/news/2021/04/2021-us-census-historic-settlement
ホワイト&ケース、グローバル独占禁止法合併StatPakを開始〜法律事務所業界動向〜
ホワイト&ケース法律事務所は、White & Case Global Antitrust Merger StatPak(グローバル反トラスト合併統計パック・以下WAMSと記す)を開始した。この調査結果から、企業の合併届出は2021年に過去5年間の平均と比べて35%増加していることが分かった。
同法律事務所のグローバル独占禁止/競争実務部門の責任者であるJ・マーク・ギドリー弁護士は「世界中の合併規制制度の数は、過去10年間でほぼ2倍に増加した。その結果、一部の法域は合併活動の評価方法を再調整することになった。こうした市場の現実の変化と世界的な独禁法執行の潮流により、WAMSは不可欠なツールとなるだろう」と述べた。
アメリカでの企業合併は2021年に急増し、2020年比192%であった。このことは過去20年で歴史的な数となっている。「この結果、アメリカ独占禁止法規制当局はこれまで以上に多忙になっている。」と、ギドリー弁護士は付け加えた。
出典 : https://www.whitecase.com/news/press-release/white-case-launches-global-antitrust-merger-statpak-finds-massive-global-surge
ホニグマン、新規株式公開の価格設定に関連する特許問題についてプライム・メディシンに助言〜法律事務所業界動向〜
バイオテクノロジー企業のプライム・メディシン社は、2022年10月19日に増額新規株式公開価格を発表した。翌日、株式はナスダック・グローバル市場でティッカーシンボル「PRME」で取引が開始された。これによる同社の総収益は1億7500万米ドルになる模様。この取引に関連する「特許問題」について、特許問題に詳しいホニグマン法律事務所が同社にアドバイスしている。
プライム・メディシン社は最も広範囲の疾患に対処するための、一度の治癒的遺伝子治療で感知できる技術確立に取り組むバイオテクノロジー企業である。同社の技術で理論上は、遺伝子変異の90%以上が修復できる可能性があるという。この技術を使った医薬品が承認されると、幅広い患者に一度の治療で、根治的遺伝子治療ができる可能性がある。この技術の特許について、ホニグマン法律事務所は同社に複雑ではあるが、重要な助言を与えている。
弁護チームにはリシェル・カトラー博士などの遺伝子工学専門家が複数名含まれている。
出典: https://www.honigman.com/pressrelease-2245
まとめ:アメリカの法律事務所業界
2023年のアメリカの法律事務所業界では、ベーカー・マッケンジーがSDGs推進に取り組み、DLAパイパーがM&A取引で13年連続のトップに立ちました。レイサム&ワトキンスはVaxcyteのIPOを支援し、ノートン・ローズ・フルブライトは再生可能エネルギープロジェクトの資金調達をサポート。ホワイト&ケースはグローバルな独占禁止法に対応した新ツールを導入し、業界全体での革新が進んでいます。
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。