タイの物流業界は急速な成長を遂げており、政府主導の革新的な取り組みが注目を集めています。「RESHAPE THE FUTURE」政策の導入により、ロジスティクス管理の改善と発展が加速。さらに、AISの先進的なデジタルソリューションが業界に変革をもたらしています。
これらの動向は、タイの物流セクターにどのような影響を与えるのでしょうか。
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タイにおけるロジスティックテクノロジーの概要
タイの物流産業
タイは6,600万人以上の住民を抱え、インドネシアに次いで東南アジアで2番目に大きな市場を有している。大陸部インドシナ半島の中心に位置する戦略的な立地は、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)のダイナミックに成長する近隣経済に囲まれており、タイの国境から1,000キロメートル以内に1億7,500万人以上の住民を擁している。ASEANコミュニティの重要なメンバーであるタイは、10カ国から成る政治・経済連合の約7億人の消費者と強力な貿易および投資のつながりを持っている。ASEANの中心という戦略的な立地を超えて、タイはインドと中国という2つの巨大経済への円滑なアクセスを提供。ビジネス、投資、国際貿易における経済取引は、港湾、高速道路、鉄道、空港といった優れた物流インフラを通じて効率的に行われている。これらの急成長する市場機会に加えて、タイは物流産業の高いパフォーマンスを支える強固なインフラを整備している。2023年の物流パフォーマンス指数(LPI)によれば、タイは税関手続きの効率化、世界クラスのインフラ、国際輸送、物流の品質と能力、追跡機能、そして貿易促進による時間短縮といった点で、ASEAN地域内でトップ3のパフォーマンスを誇る国にランクインした。2023年12月時点で、国内には40,000社以上の登録物流企業が存在しており、物流分野への外国投資額は410億バーツを超え、タイの物流産業の42.77%を占めている。
出典:https://www.boi.go.th/upload/ejournal/2024/Issue1/Mar/TIR_Newsletter_Mar2024.pdf
タイの物流業界を向上させるために欠かせないスマート&グリーン技術
物流業界はタイ政府が国の発展を牽引することを期待している新興産業の一つであり、すでに20年国家戦略および第13次国家経済社会開発計画に組み込まれている。政府は、インフラの整備、起業家の能力向上、物流ネットワークの構築に取り組み、国の競争力を高めることを目指している。これは、タイがパフォーマンスランキングで順位を上げるために必要となる取り組みであり、今年初め、世界銀行はタイの物流パフォーマンス指数(LPI)を139か国中34位と評価したが、2018年の32位から2ランク低下している。ASEANにおいて、タイはシンガポールとマレーシアに次ぐ第3位にランクされている。
タイの物流業界は、通関手続き、インフラ、輸送技術、追跡可能性において潜在能力を持っているが、国際基準を満たすためには、時間厳守の面で改善の余地がある。倉庫、港湾、技術などの物流施設が、タイが貿易で成功を収めるために不可欠であるが、物流業界は温室効果ガスの大きな排出源であるため、デジタルディスラプションや気候変動が発展への課題となっている。タイの物流事業者は、地球温暖化を緩和し、管理効率を向上させ、作業プロセスを簡略化し、顧客サービスを向上させ、サービス価値を高めることができるスマートかつグリーンな技術を探求し、取り入れる必要がある、タイがそのような技術の導入において海外の物流事業者に遅れをとっていると指摘されている。また、物流業者は、サービスソリューションを改善し、プラットフォームへの投資を増やし、特に自動化などの新技術を導入することで、顧客との接続性を向上させ、サービス効率を高めるが課題とされている。また、サプライチェーンファイナンスを導入することで、物流コストの上昇による負担を軽減するべきと考えられている。
出典:https://www.nationthailand.com/thailand/economy/40029943
タイ政府 工業振興局 (DEE Prom)「RESHAPE THE FUTURE」政策でタイのロジスティクスを推進
ロジスティクスは、タイ経済を牽引する重要な要素。タイがグローバル規模で競争できるようにするため、工業振興局(DEE Prom)は、産業分野におけるロジスティクス管理の改善と発展を目指した「RESHAPE THE FUTURE」政策を実施している。この政策では、コスト削減と管理効率の向上に重点を置き、タイの企業家が世界経済の変化に自信を持って適応できるよう支援している。工業振興局による「RESHAPE THE FUTURE」政策は、以下の4つの主要アプローチで構成されている:
- 企業のロジスティクスの向上:専門家が診断とコンサルティングを行い、管理システムの改善を支援。
- ロジスティクス人材の育成:国際基準を満たすために、ロジスティクス人材のスキル開発を促進。
- 付加価値の創出:サプライチェーンの安全基準を向上させ、事業継続性を管理。
- 情報技術の活用:倉庫の計画と効率的な管理を行う。技術の活用は、コスト削減を助けるだけでなく、ASEAN地域内の事業の連携を強化し、安定的かつ持続可能な形で進める。
工業振興局による「RESHAPE THE FUTURE」政策は、タイのロジスティクス能力を向上させるための重要な一歩。この政策は、コスト削減と管理効率の向上を通じて企業家がグローバル競争力を高めることを支援するとともに、急速に変化する世界に対応するための技術とイノベーションの活用を推進する。
出典:https://thailand.go.th/issue-focus-detail/dee-promreshape-the-future
物流効率を高める主要テクノロジーとその事例
AISの3つのデジタルソリューション:物流業界の持続可能性へ
テクノロジーと持続可能性について、多くの組織がすでに計画を立て、実行に移しているが、まだ多くの組織がニーズに対応するソリューションを模索している段階。統合型ソリューションは、少なくとも2つ以上の専門的なサービスを提供し、異なるサービスを組み合わせることで、1つの結果だけでなく、2つ以上の成果を得ることを目指している。
- スマート倉庫ソリューション :倉庫管理の分野で、テクノロジー、イノベーション、デジタルソリューションを活用することで、商品の受け入れ、移動、保管の過程を効率化し、ミスを減らし、精度を高めます。たとえば、5G通信技術とクラウドシステムを活用した自動商品配分と保管システムにより、ビジネスオペレーターはサイズを自由に調整でき、商品データの多様な管理が可能になる。また、無人運転車両による自動化された商品輸送システムも導入されており、日々繰り返される作業を削減し、効率的に商品を運搬できる
- 商品輸送管理ソリューション :商品を安全に送るだけでなく、タイムリーに配達するためのソリューション。事業者は、車両の位置情報をGPSと車載ビデオ録画システムで追跡し、5G通信技術を利用してリアルタイムでデータにアクセスできる。さらに、最適なルートを選定するシステムにより、エネルギーの消費を削減し、移動時間を短縮し、事前に分析されていない移動にかかるコストを節約できます。AIS Businessは、GPS追跡機能とともに車両ビデオ録画を提供するSmart Vehicle Managementを提供しており、DLT基準に準拠している。
- 企業資産管理ソリューション: 企業がリアルタイムで資産を管理できるようにするソリューション。このシステムは、トレーラー、コンテナ、パレット、冷蔵庫、配達用バイクなど、企業の資産に対応しており、安定したネットワークで作動する。たとえば、冷蔵食品の温度をリアルタイムで監視することで、食品の劣化を防ぎ、異常が発生した際には即座にアラートを送信し、事業者が速やかに対応できるようにする。
出典:https://www.ais.th/business/news-and-activity/articles/logistics-solution-2024-for-industry
ペプシコ、Dematicと提携し、生産・物流施設を自動化
ペプシコ (PepsiCo) は、便利な食品と飲料の分野で世界的リーダーであり、デジタル化された未来を目指すビジョンにおいて、最近、Dematic と提携し、タイ・ロジャナにある生産および物流施設を拡張する中で、自動化を中心的な機能として導入した。ペプシコのロジャナ施設は、さまざまな製品を生産する重要な地域拠点、タイ国内での製品需要が増加する中、ペプシコは生産と物流の両方で能力を強化する必要性があった。スペースの制約や労働力の課題に対応するため、Dematic はペプシコと緊密に連携し、物流業務における保管能力、スループット容量、生産性のニーズに応える自動化ソリューションを開発している。
このソリューションの中心は、生産エリアと注文履行エリアの両方に直接接続する自動保管・検索システム(AS/RS)である。AS/RSは、5列のダブルディープ高層ラックに16,520のパレット保管場所を備え、パレットコンベヤーとレールガイド車両(RGV) のネットワークにより、生産ラインの終端で自動的にパレットを受け取り、保管エリアに輸送する。その後、パレットは保管エリアから出荷ドックやフルケース注文のピック用に自動補充されるピックエリアへと移動される。このソリューションには、すべての自動化、物料フロー、在庫管理を制御し、すべてのトランザクションのリアルタイム追跡と可視性を提供するためのDematic Warehouse Control System (WCS) ソフトウェアが含まれている。AS/RS の導入により、当社の容量は2倍以上に増加、自動化によって以前の手動作業から脱却、顧客に、より効率的に商品を供給できるようになり、顧客満足度が非常に向上した。上記の利点に加え、Dematic の AS/RS ソリューションは、フォークリフトやパレットムーバーなどの資材運搬機器の使用を大幅に削減することで、倉庫作業員の安全性を向上させ、事故や損傷、人や設備の怪我を減少させている。
タイのLogiTechの主要企業
AIS
1986年に設立されたタイの主要な通信会社で、モバイル通信、ブロードバンド、デジタルサービス、ビジネスソリューションなど、幅広いサービスを提供。AISのビジネスソリューション事業では、大企業から中小企業(SMEs)まで、テクノロジーを組織に導入し、デジタル化を推進することで競争力を強化し、持続可能なビジネス運営を実現できるよう支援している。これにより、「Cognitive Tech-Co」としての目標を達成するため、価値のあるサービスを提供し、デジタルインフラと業界別の完全なデジタルプラットフォームを通じて、公共及び政府事業、中小企業、製造事業、輸送と物流事業、不動産業、小売業などさまざまな業界のビジネスをサポートしている。
輸送及び物流事業向けのソリューションでは、輸送と物流管理の効率を高める輸送管理システム、自動化されたスマート倉庫、陸運輸省のDLT基準を満たしているスマート車両管理、トレーラー、コンテナなどのビジネス組織向けのスマート資産追跡などへのさまざまなソリューションを提供している。デジタル技術とさまざまなソリューションを活用して、輸送および物流管理システムを向上させ、ビジネスおよび産業のサプライチェーンを効率的に管理、ビジネスの運営方法や消費者の行動の変化に適応した効果的なシステムが構築できるようなサービスを提供している。
出典:https://www.flashexpress.co.th/fle/about-us
Giztix
GizTixは、物流プロセスの不便さ、時間のかかる複雑さを解消するために2015年に設立されたオンライン物流マーケットプレイスである。このプラットフォームは、荷主と運送業者を直接つなぎ、フルトラックロード(FTL)サービス、輸出入に対応している。利用者はリアルタイムで料金確認や配送予約が可能であり、配送状況追跡システムも提供されている。
GizTixのサービスはオンデマンドで、いつでもどこからでもオンラインで配送を予約でき、100%のサービス保証を提供している。2021年には、WHA GroupからシリーズB資金調達ラウンドで2億6000万バーツ以上を調達した。この資金を活用し、4つの主要分野での事業開発を強化している。具体的には、高度な技術を用いたより包括的な輸送サービスと技術の開発、e-ロジスティクスを活用した全国的なサービス提供のための輸送ネットワークの拡大、マーケティングと販売への投資による全州の輸送事業者への収入分配、そして事業拡大と収益性維持のための管理と技術への投資である。
さらに、GizTixは2025年または今後4年以内にタイ証券取引所への上場を目指している。これらの取り組みにより、GizTixは物流業界に革新をもたらし、効率的で透明性の高いサービスを提供し続けている。
Scootar
オンライン配送のプロフェッショナルサービスとして2015年に設立、スタートアップ企業として始まり、iOSおよびAndroid対応のウェブサイトとモバイルアプリケーションを通じて、プロのメッセンジャーを呼び出すためのプラットフォームを開発。配送を必要とするユーザーと、徹底的なサービストレーニングを受けたプロフェッショナルドライバーのネットワークをつなぐ役割を果たしている。当社のプロフェッショナルで訓練を受けたドライバーは、犯罪履歴チェックを通過しており、小切手の集金、請求書の配達、官公庁書類の処理、会社登記事項証明書の取得、小切手や現金の預け入れなどのような書類の配送・手続きサービスを提供している。
さらに、1~2時間以内の迅速な荷物配送サービスや、複数箇所への配達が必要な場合の注文分配サービス、食品配送サービス、大型・重量物の配送サービス(ドライバーの特別なサポート付き)も行っており、これらのサービスは、軽トラックを使用して提供される。ユーザーが安心して利用できるサービスを提供することを重視しており、現在では18,000社以上の企業がスクーターを信頼し、利用している。配送効率をさらに向上させ、ビジネスニーズに応えるソリューションを継続的に開発することに取り組んでいる。
BEST Thailand / BEST Logistics (Thailand)
中国でトップ3に入るスマート物流およびサプライチェーンリーダーの1つである BEST Inc. の子会社。現在、BEST Thailandは、2つの主要事業ユニットのBEST Express(宅配サービス)とBEST Supply Chain(倉庫管理および国境を越えた物流サービス)を運営している。
独自のテクノロジープラットフォームと、タイ全国77県に広がる広範なネットワークを活用し、BESTは国内外の物流を問わず、包括的な物流および付加価値サービスをエコシステムに提供している。また、フランチャイズモデルを導入 しており、ネットワークパートナーを活用してピックアップおよびラストマイル配送サービスを提供し、エクスプレスデリバリーバリューチェーン内のラインホール輸送および仕分けネットワークの制御を維持することで、事業を拡大を目指している。BEST Express と BEST Software は、Lazada Thailand から 2023 年の Lazada Key Service Provider Award を受賞、またタイコンタクトセンター貿易協会が主催する全国的に優れたコンタクトセンターサービスを提供する組織を表彰するTCCTAコンタクトセンターアワード2024で、ベストテクノロジーイノベーションコンタクトセンター(ブロンズ賞)を受賞。
Flash Express
フラッシュ・エクスプレス(タイ)は、「Think of Delivery, In Mind, In Delivery(考えた瞬間に、すぐお届け)」というコンセプトのもと、Eコマースのワンストップサービスを提供する企業。2017年に、コムサン・セーリーCEOを中心とするタイ人経営チームおよびスタッフによって設立された。現在、従業員数は10,000人以上で、タイ全国77県を網羅するサービスを展開しており、2,500以上の荷物受け取り・発送拠点を有している。
フラッシュ・エクスプレスは、業界初の「初回から無料で荷物を引き取りに伺う」方針を掲げ、365日無休でサービスを提供している。現在、1日の配送件数は100万個以上に達してる。また、フラッシュ・グループの事業範囲は、急送サービス(フラッシュ・エクスプレス)にとどまらず、Eコマースのワンストップサービスを目指して幅広い事業を展開している。大型荷物の輸送を提供する物流サービス(フラッシュ・ロジスティクス)、商品の保管を行う倉庫管理サービス(フラッシュ・フルフィルメント)、および金融サービス(フラッシュ・マネー)など、多岐にわたるサービスを提供。
出典:https://www.flashexpress.co.th/fle/about-us
バンコク在住のタイ人。タイにおける日系企業向け翻訳・通訳を6年間以上行う。経済、ビジネス、IT分野に興味があり、マーケティングや流通を含めた企業調査や、企業調査といった情報収集が得意。