シンガポールの建設業界は政府主導のConTech導入で急成長中!BIMやPPVC工法で生産性40%向上を実現し、Punggol Digital Districtでは自律ロボットとAIを駆使した次世代スマートシティが2024年稼働予定。
Panasonicや大林組など日系企業もロボット検査技術や3Dプリントで市場をリードしていますが、持続可能な建設を実現する「ある意外な課題」が業界を揺るがしているのはご存知ですか?
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シンガポールのConTech・建設業界の現状
ConTechがシンガポール経済とビジネスに与える影響
Enterprise Singaporeが推進する建設・建築環境ソリューションは、持続可能な都市開発を実現する多角的なアプローチを特徴としている。持続可能な建築資材の採用では、天然資源の使用量削減と廃棄物抑制を目的に、再生可能素材の活用や製品の再利用性向上に注力している。手頃な価格の住宅ソリューションにおいては、革新的な土木工学技術を駆使し、高品質かつ低コストな住宅供給を可能にするシンガポール固有の専門知識が核となっている。高度な建設技術の分野では、現地企業が開発した先進的な施工能力を活用することで、建設品質と生産性の向上を両立させている。デジタル建設の推進では、クラウドベースのインテリジェントソフトウェアを導入し、プロジェクトの透明性向上や資源最適化、建設ライフサイクル全体にわたる精密な進捗管理を実現している。熱帯気候に適応したグリーンデータセンターの構築では、エネルギー効率に優れた環境配慮型施設の設計・運用に重点を置く。接続インフラストラクチャーの整備においては、大規模プロジェクト向けの冗長インフラ評価システムを構築し、建設パフォーマンスと環境影響を定量的に測定する指標を確立している。これらの包括的な施策は、シンガポールの社会経済構造に持続可能な成長をもたらす基盤として機能している。
出典:https://www.enterprisesg.gov.sg/grow-your-business/partner-with-singapore/infrastructure/construction
政府主導のConTech導入施策
Enterprise Singaporeは建設に関して、環境への悪影響を軽減し、資源と資産の使用を最適化する革新的な建設ソリューションを開発したシンガポールの企業と協力することを謳っている。具体的な建設の再構築のための取組として、①エステート:世界クラスのインフラで知られるシンガポールは、都市計画、開発、建設に関する深い専門知識を持っているため住みやすく持続可能な都市を構築する。②ロボット:革新的なテクノロジーで建設を変革する。モノのインターネットネットワークやデジタルツールなどのテクノロジーは、労働集約型のプロセスをデジタル化し、人材、機器、材料の使用を最適化するのに役立つ。③持続可能な建築環境の未来を推進:より環境に優しい建築材料は二酸化炭素排出量を最小限に抑える。建設現場のIoTネットワークとデジタル ツールは、ワークフローを調整し、コラボレーションを可能にする。ということを挙げている。これらを実現するためにシンガポール政府は民間企業と協力しながらConTechの推進を図っている。民間の建設会社Woh Hup(WH)とシンガポールの国立大学SIT(シンガポール工科大学)が共同で設立したWH× SIT Construction Technology Innovation Laboratory(CTIL)もその事例である。
出典:https://www.enterprisesg.gov.sg/grow-your-business/partner-with-singapore/infrastructure/construction
https://www.singaporetech.edu.sg/innovate/ctil
Built Environment Industry Transformation Map(BEITM)
2022年9月6日(火)シンガポールのBCA(建築建設庁)がBuilt Environment Industry Transformation Map(BEITM)を発表。世界クラスの回復力のあるセクターを構築することを目的とした建設環境産業変革マップである。ポイントは3つ。① 統合計画と設計:バリュー チェーン全体でのコラボレーションを推進し、最初からより良い計画を可能にし、下流の建設とメンテナンスのための建物設計を最適化する。プロジェクトのライフサイクル全体で使用されるデータが豊富なBuilding Information Modelling modelを使用して、共通のデータ標準を通じてコラボレーションと規制申請に適した環境を作成する。② 高度な製造と組み立て:工場での製造を自動化し、生産性、品質、作業環境を改善。相乗効果のある建設活動(骨材貯蔵庫、バッチ処理工場、プレキャスト工場など)の共同配置を推進し、土地利用を最適化し、物流プロセスを合理化する。③ 持続可能な都市システム:脱炭素化の取り組みを加速してネット ゼロの目標をサポートし、より持続可能で住みやすい建築環境を作成する。統合、集約、スマート施設管理によって、建物の運用を合理化し、メンテナンスを改善する。というもの。
出典:https://www1.bca.gov.sg/docs/default-source/docs-industry-corp/be-itm-infographic.pdf?sfvrsn=548c2bf8_2
https://www1.bca.gov.sg/about-us/news-and-publications/media-releases/2022/09/06/built-environment-industry-transformation-map-to-facilitate-integration-and-collaborative-breakthrough-across-the-entire-value-chain
ConTechを支える主要技術と主要プロジェクト事例
BIM(Building Information Modeling)の活用
政府機関であるHDB(シンガポール住宅開発委員会)がBuilding Information Modelling (BIM)を使用し始めたのは2009年で設計プロジェクトの1つとして実施された。HDBは設計を仮想的に視覚化し、プロジェクトのさまざまな関係者間のコラボレーションを促進するテクノロジーによってもたらされる計り知れない可能性を認識。BIMロードマップを開発するためにBIMワークグループを設立。ロードマップに基づく主要な取り組みには、2013 年以降のすべての新規開発プロジェクトに対する BIM 義務化や新規公共住宅開発におけるBIM導入のベストプラクティスを共有するためHDBプロジェクト向けステップバイステップ BIMガイドが発行された。HDB BIMロードマップは2014年にHDB BIM フレームワークに名称変更され、2015 年には選択された新規開発プロジェクトに仮想設計および建設 (VDC) 手法が導入され、PBUおよびPPVCコンポーネントを直接製造するため、コンサルタントと請負業者によりBIMモデルが体系的に使用されている。今後、HDB は、計画、設計、建設、施設管理に至る建築環境バリューチェーン全体にBIMモデルに埋め込まれた豊富な情報を活用し統合デジタル配信の実現を検討している。
出典:https://www.hdb.gov.sg/about-us/research-and-innovation/construction-productivity/construction-technology
PPVC(Prefabricated Prefinished Volumetric Construction)の活用
プレハブ・モジュール工法 (PPVC) は、自立型3次元モジュールがオフサイトの製造施設で内部仕上げ、固定具、継手を備えて完成した後、現場に納品して設置する工法。PPVCを使用する理由は3つ。①生産性の向上:プロジェクトの複雑さに応じて、人的資源と時間の節約で生産性を最大40%向上。②より良い建設環境:粉塵や騒音による汚染が最小限に抑えられ、現場の安全性が向上。③品質管理の向上:工場環境でのオフサイト製造により、より高品質の最終製品を生産できる。一方で、建築建設用に提案されているPPVCシステムの設計、建設、設置は、BCA、陸運局 (LTA)、労働省 (MOM)、国家環境庁( NEA)、PUB、国家水道局、シンガポール民間防衛軍 (SCDF)、都市再開発庁 (URA)、住宅開発局 (HDB)、および JTC コーポレーションなどの要件に準拠する必要がある。また、使用されているさまざまなPPVCシステムの信頼性と耐久性を確保するため、BCAは建築規制当局と業界の専門家で構成される PPVC 受け入れフレームワークを設定し、使用されている設計と材料を評価。義務付けられた開発現場で使用されるPPVCシステムを供給する予定の PPVC サプライヤーおよび製造業者は、受け入れを申請する必要がある。
出典:https://www1.bca.gov.sg/buildsg/productivity/design-for-manufacturing-and-assembly-dfma/prefabricated-prefinished-volumetric-construction-ppvc/
PDD(Punggol Digital District )
Punggol Digital District (PDD)はシンガポールで最も期待されているスマート地区で、規模は50ヘクタールに及ぶ。オープン デジタル プラットフォームを使用して、持続可能でスマートなビジネス パークの未来を実現する。顔認識技術から自律型配送ロボットまでが導入され、ビジネス パーク地区は、最も高密度のグリーン マーク スーパー ロー エネルギー ビルを備えたシンガポール初の最大の複合用途スマート ビジネス パークになる。21ヘクタールをカバーする PDDの第 1フェーズは、2024 年第 3 四半期から段階的にオープン。仕事、学習、遊び方を変えるために設計された地区全体のスマートイノベーションとして、学生、学術界、企業が発明を試すためのプラグ アンド プレイ テストの場であるオープン デジタル プラットフォーム (ODP)が提供される。OCBCが5億ドル投資し、新しいイノベーション ハブとシンガポール工科大学 (SIT) との戦略的パートナーシップの形で行われ、業界、学界、政府が統合されたエコシステム内で融合する。シンガポール工科大学 (SIT) は、6 つのサテライト キャンパスを統合し、2024 年 9 月に 3,800 人の学生からプンゴル デジタル地区に段階的に移転する予定。
出典:https://estates.jtc.gov.sg/pdd
シンガポールのConTechの主要企業
Obayashi Construction-Tech Lab Singapore(OCLS)
大林組はシンガポールに研究開発拠点「Obayashi Construction-Tech Lab Singapore(OCLS)」を設立。アジアの大学等の研究機関、建設会社、スタートアップ企業との共同研究開発拠点である。アジア地域で開発・応用が盛んに行われている建設ロボット技術に焦点を当て、アジアの建設現場への適用を支援する。OCLSは建築建設庁 (BCA) のBraddell CampusのブロックEにあり、建築環境イノベーションハブ (BEIH) エコシステムの一部となっている。 OCLSは、中国のロボットメーカーFang Shi Technologyのロボットをシンガポールに導入するため、BCAの生産性イノベーションプロジェクト奨励制度から資金援助を受けている。コンクリートレベリングおよびコテ塗りロボットは、必要な手作業を大幅に削減できる。また、OCLSは、シンガポールの南洋理工大学 (NTU シンガポール) 内にある SC3DP と協力して、建設業界における3Dプリンティング技術の応用を検討するため、SC3DPに共同研究室を立ち上げる予定。さらに、OCLSはSUTD(シンガポール工科デザイン大学)と共同研究を実施し、ロボットソリューションと人工知能(AI)の設計、開発、応用の分野での協力を模索することを計画している。
出典:https://www.obayashi.co.jp/en/news/detail/news20240719_1_en.html
Construction Technology Innovation Laboratory(CTIL)
2022年7月13日、Woh Hup(WH)はSIT(シンガポール工科大学)と共同で、WH× SIT Construction Technology Innovation Laboratory(CTIL)の最初の研究プロジェクト活動をスタートさせた。プロジェクトは、SEN SG Pte Ltd、TTJ Design & Engineering Pte Ltd、NatSteel Holdings Pte Ltd と協力して「深部基礎および掘削のための革新的な建設技術」の研究開発が実施される。建築環境技術 (BETA) Catalyst Funding を通じたBCA(建築建設庁)からの支援と資金提供を受ける。このプロジェクトは、深層基礎および掘削作業のシステムレベルで生産性を向上させるための地下建設技術のアンサンブルを開発することを目指している。SITはシンガポール初の応用学習大学で、卒業生が即戦力となる専門家となるための専門学位プログラムを提供している。CTILでは、シンガポールを拠点とする建設会社と SIT 研究者が応用研究を実施し、社会的および経済的に影響を与える構造物および下部構造物の革新的な技術を開発するためのプラットフォームを提供、応用研究を通じて革新的で破壊的な建設技術の開発に取り組み、革新的な技術を研究所から現場に移し、専門的なトレーニングを提供し、人材育成をサポートする。
出典:https://www.singaporetech.edu.sg/innovate/ctil
https://www.wohhup.com/ctil-research-project-agreement-signing-ceremony%ef%bf%bc%ef%bf%bc%ef%bf%bc/
Panasonic R&D Center Singapore
Panasonic R&D Center Singaporeは、ロボット統合スマート建築環境検査(RISE)ソリューションの開発に取り組んでいる。建設業界は自動化が最も進んでいない業界の一つであるとともに人口の高齢化と労働力の減少により、多くの先進国の建設業界に共通する問題は労働力不足。労働力不足の問題を軽減し、品質の需要を満たすことを目指して、建物の品質検査と評価の生産性を向上させるロボット統合スマート建築環境検査(RISE)プロジェクトに取り組んでいる。RISEプロジェクトは、Panasonicのロボット工学、AI コンピューター ビジョン、3D、ソフトウェア開発のコア技術を進化させ、統合することで、「正確な建設品質と進捗の監視」と「効果的な職場の安全検査」のための「ロボット ソリューション」を「データ管理システム」で提供することを目的としている。RISE プロジェクトは、シンガポール政府の建設庁 (BCA) と国家ロボットプログラム (NRP) によって資金提供されている。所有者に高品質の建物を提供するために、建物の品質評価は常にBCAのレーダー上にあり、完成した建物のTOP (一時使用許可) 検査やCONQUAS (建設品質評価システム) などの基準が策定されている。
ConcreteAI
2022年に設立されたConcreteAIは、シンガポールに本社を置くConTech企業で、元土木技術者によって設立された。ConcreteAIは、堅牢で信頼性の高い一連のテクノロジーを活用して、付加価値エンジニアリングを強化し、時間と労力を削減してコスト削減を実現し、材料の利用を最適化するプロジェクトを支援している。ConcreteAI システムは、現場コンクリートの初期強度と温度の発達をリアルタイムで監視、視覚化、検証し、構造サイクル時間を短縮して炭素排出量を削減する。すべての建設業者は、打ちたてのコンクリートが次の建設段階に進むために必要な強度に達したかどうかを判断するという重要な問題に直面している。通常、強度を測定するために標準養生サンプルに依存しているが、温度と体積の違いにより、現場の状況を正確に反映していない可能性がある。実際には、現場打ちコンクリートは初期段階で標準サンプルよりも急速に強度を獲得することが多く、プロジェクトを早期に開始してより迅速に進めることができる。ConcreteAIのシステムにより、現場のコンクリートの正確な強度データを取得し、より迅速で環境に優しく、高品質の建設計画とスケジュールを立てることができる。
出典:https://www.concreteai.io/about
HILTI
HILTI Asia Pacific Pte Ltd は、リヒテンシュタインのシャーンに本社を置くHILTIグループのシンガポール現地法人で、建設作業の生産性、安全性、持続可能性の向上をハードウェア、ソフトウェア、サービスの提供を通じて行っている。デジタル化はすでに建設業界に影響を与えており、シンガポール建設庁(BCA)が策定した建設業界変革マップ(ITM)に沿って、業界のプレーヤーは現在、デジタル実装を加速し、革新的なソリューションを採用して建築環境セクターの能力と生産性を高めている。Building Information Modelling (BIM)のおかげで、自動化および半自動化技術も浸透している。掘削ポイントやアンカーチャネルなどの鋳込みコンポーネントをレイアウトするHilti BIM-to-fieldソリューションなどのBIMのデジタル化されたワークフローは、ロボットがアクセスして利用できる建設データを作り出す。BIMプロセスに従うだけで、ロボットに優しい現場ができる。自動化および半自動化されたマシンは、正確性や速度が求められ、人間の合理的な限界を超える日常的な反復作業や危険な作業を実行するときに最も役立つ。ロボット技術を導入することで、現場の効率、精度、安全性が向上する。
2017年よりシンガポール在住の日本人。元客室乗務員。大学ではマーケティングと経済を学び、卒業後は海外での生活と旅行を重ね、さまざまな国の文化や人々、食に関する豊富な知識を身につける。シンガポール人の旦那との結婚を機にシンガポールに移住し、現地で就労。現在はライター業と翻訳業を行っている。