アメリカの銀行業界では、デジタル化がさらに進展しています。2022年には78%の人々がモバイルアプリやウェブサイトで銀行取引を行い、非接触型決済の利用も増加中です。コロナ禍を経て、現金利用が一層減少し、デジタル決済手段が主流となっています。仮想通貨は依然として一般には普及していないものの、話題性は高いです。また、低所得者層では銀行口座の開設が難しく、郵便貯金制度の復活を求める声もあります。
今回は、そんなアメリカの銀行業界に焦点を当て、最新の業界情報をお届けしていきます!
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2023年 アメリカの銀行(金融・法人サービス)業界
バンク・オブ・アメリカ EV普及を促進するためのリソースセンターをたちあげ〜銀行業界動向〜
バンク・オブ・アメリカは、電気自動車(EV)を購入する際に役立つ、リソースセンターを立ち上げた。このサイトには、各EVの走行可能距離・メンテナンスコスト・税制上の優遇措置などがまとめられており、購入の際に力を発揮する便利なツールに仕上がっている。
さらにサイトには、充電ステーション地図や自動車購入ローン申請などへのリンク集も貼られている。消費者のEVへの関心は増えているものの、様々な不安はぬぐえていないのが現状。同行は、消費者が正しい情報に基づいた意思決定を行えるようにするために、このリソースセンターを立ち上げたという。
また同行は2019年にカーボンニュートラルをすでに達成し、さらに環境の持続可能性と顧客の二酸化炭素排出量削減を支援に取り組んでいる。今回のEV普及へのサポート体制も、持続可能な環境問題への一環として取り組まれた。
出典:https://newsroom.bankofamerica.com/content/newsroom/press-releases/2023/04/bofa-launches-electric-vehicle-resource-center-to-power-ev-adopt.html
シティバンク リテールバンキングを簡素化〜銀行業界動向〜
アメリカでの銀行口座開設は、意外と煩雑なものである。様々なプランがあったり、加えて航空会社やホテルの特典プログラムと連携しているとなおさらである。2024年を目指し、シティバンクはこうした複雑なアカウントパッケージを廃止し、シンプルな業務に転換していく。
オンラインバンキングの一般化により、銀行窓口での業務が減少している。またPayPalなどを代表とするオンライン手形のようなものやピアツーピア支払いのようなものが定着している。同行としてはそれらの存在を拒絶するのではなく、それらを利用する方向に舵を切っている。
同行は2022年からいくつかの手数料を撤廃しており、さらに簡素化されたサービスで、よりシンプルに、より便利にしていく方針を発表している。家族共有ファミリーリンクを実現することで、家族共同名義の口座を開設することなく、情報を共有できるなど、オンラインを利用した便利な銀行へと成長している。
出典:https://www.citigroup.com/global/news/press-release/2023/citi-simplifies-retail-banking-to-help-customers-achieve-their-financial-potential
HSBC AWSを使用してAIを活用した株式インデックスを開始〜銀行業界動向〜
HSBC は、Amazon Web Services(AWS)による機械学習を株式投資と組み合わせて使用するHSBC AI Global Tactical Indexの立ち上げを発表した。
このサービスはAIを利用して人間よりも数千倍早くデータを分析学習し、市場力学の変化や新しい情報入手に応じてインデックスアプローチを自動的に対応できるようにしたものである。
同行のデイブ・オデナス氏は「このインデックスは、複雑化する市場に追いつき成長するように設計されており、体系的な投資戦略が作成できるはずだ」と、述べている。さらに「投資戦略を成功させるには、増大するデータを分析し、そこから学び、変化する市場状況に迅速に対応する能力が必要でした。それがこのシステムで簡単に行えるようになったのです」とも述べている。
出典: https://www.about.us.hsbc.com/newsroom/press-releases/hsbc-launches-ai-powered-equity-index-using-aws
M&T銀行 カーバー連邦貯蓄銀行と提携してハーレム中小企業イノベーションラボを発表〜銀行業界動向〜
M&T銀行とカーバー連邦貯蓄銀行が、ハーレム多文化中小企業イノベーションラボを開催した。地元の起業家に事業の立ち上げと成長を支援する6週間のプログラムである。この中でのコンテストでは1位に賞金16000米ドルがM&T銀行から与えられる。
このプログラムに参加する起業家がビジネスの専門知識を深め、ビジネスプランの作成方法やネットワーキングなどについて新たな知識を深められることが最大の目的であると、同行ニューヨーク地域責任者のブレア・リッダー氏が述べている。
2021年にNY州バッファロー市で第1回を開催してから、様々な都市でこのプログラムを開催している。同行多文化銀行業務責任者のデビッド・フェミ氏は「多文化起業家への投資は、地域がより強く成長するための最も有意義な行動のひとつだ」と述べている。
出典: https://newsroom.mtb.com/2023-02-28-M-T-Bank-Announces-Harlem-Small-Business-Innovation-Lab-in-Partnership-with-Carver-Federal-Savings-Bank
リージョンズ銀行 黒人経営のビジネスを成長させる取り組みを開始〜銀行業界動向〜
最近の調査で、アラバマ州バーミンガム市が、アメリカ国内の大都市圏の中で黒人企業が最も少ないと分かった。同地域に本社があるリージョンズ銀行は、地域とのかかわりをさらに強化するためにも、黒人経営のビジネスを支援し、向上させるための新しい取り組みを開始すると発表した。
全米では2019年以降、黒人地域での新規事業立ち上げが大幅に増大している。全国に遅れているバーミンガム市の黒人企業に、より多くのトレーニング・情報・資金・コミュニティへのアクセスをリージョンズ銀行が橋渡しをするという。
アメリカ国内各地で有色人種の企業立ち上げを支援する動きは高まっている。支援自体が企業の中立性をアピールすることにつながり、ジェンダー問題などについても「公平さ」をアピールできることになっている。長らく白人主体であったビジネス界も、多種多様化していくことが必須である。それに先んじて、同行は地域から「マジックシティ」の誕生・存続へ意欲を示している。
出典:https://ir.regions.com/news-events/press-releases/news-details/2023/Regions-Bank-Launches-Initiative-to-Grow-Black-Owned-Businesses-in-Its-Headquarters-City/default.aspx
2021-2022年 アメリカの銀行(金融・法人サービス)業界
HSBC、持続可能サプライチェーンファイナンスプログラムでPVH Corpと提携〜銀行業界動向〜
世界40か国で展開する「カルバンクライン」「トミーヒルフィガー」などで有名なファッション企業のPVH社と世界有数の貿易銀行であるHSBCが、科学に基づいた二酸化炭素排出ゼロを目指す環境目標と健康で安全な労働環境や報酬や福利厚生などを含む社会目標のとの2つに着目した、初の持続可能なサプライチェーン金融プログラムを発表した。
PVH社はサプライヤーの人権及び環境の基準を業界と連携したツールをって測定する。これらのデータをHSBCが利用し、融資基準を正確に算出するという。これはHSBCにとっても、アパレル業界の専門知識を構築するうえで重要なデータになるという。
「この業界の脱炭素化にかかる総コストは2050年までに1兆米ドルと見積もっており、その大部分は設備投資に充てられると考えている」と、アパレル・インパクト・インスティチュート所長のルイス・パーキンス氏が述べている。
出典:https://www.about.us.hsbc.com/newsroom/press-releases/hsbc-and-pvh-corp-partner-on-first-sustainable-supply-chain
バンク・オブ・アメリカ、Z世代の80%が経済的目標の達成に向けて行動〜銀行業界動向〜
バンク・オブ・アメリカは2021年8月から9月にかけて、635人のZ世代成人(18歳以上)を調査した。その結果、パンデミックなどの障害があったにもかかわらず、80%が経済的目標の達成に向けて、様々な前向きの一歩を踏み出していることが分かった。
70%は貯蓄を増やし、26%は退職金口座を開設し、26%は市場に投資をしている。また、黒人/アフリカ系アメリカ人のZ世代は、経済的に自立している可能性が高く、彼らの持つ「成功」という言葉の意味は「起業してそれが成功すること」を意味することが分かった。
またZ世代の女性は投資についての知識がないと感じており、市場に投資もしていない。借金の管理や退職後の貯金についての知識も、男性に比べると低い数値が出ている。同行エグゼクティブのアルベルト・ガロファ氏は「若者たちへ対処することが重要だ」と述べた。
出典:https://newsroom.bankofamerica.com/content/newsroom/press-releases/2021/10/bank-of-america-better-money-habits-research-finds-that–despite.html
連邦預金保険公社、米国世帯の 96% が銀行口座を利用していたことを記録〜銀行業界動向〜
アメリカの中央銀行の役割を果たしている連邦預金保険公社the Federal Deposit Insurance Corporation (FDIC)が発表した全国調査によると、2021年にはアメリカ人世帯の96%近くが銀行口座を開設していたという。2009年に調査が始まって以来、口座を持たない率は最低率になったという。
口座を持たない理由としては「最低残高を満たすお金がない」というものが多い。また人種的には黒人世帯の11%が銀行口座を利用しておらず、白人の2%と比較すると高い。
PaypalやVenmoなどのノンバンクのオンライン決済サービスが普及し始め、46%が利用している。それでも銀行に預貯金をしてほしいFDICとしては、様々な啓もう活動をし続けている。FDICはオンラインでも銀行口座を開設できる方法を案内しており、より多くの人が銀行システムに参加できるよう支援している。
出典:https://www.fdic.gov/news/press-releases/2022/pr22075.html
SMBC、米国で新たなデジタルコンシューマーバンキング事業 Jenius Bankを開始〜銀行業界動向〜
SMBCグループ完全子会社である、カリフォルニア州公認銀行であるマニュファクチャラーズバンクが、Jenius Bankを新部門として立ち上げることを発表した。
同行は顧客からの直接の意見をもとに製品設計を推進する。個人向けのローンの提供、貯蓄商品や当座預金商品など、提供商品の拡大を計画している。デジタルファースト戦略に傾倒する同行は、顧客の意見をに応じるために大手テクノロジープロバイダーと提携している。銀行業界での差別化は従業員にも及んでおり、例えば遠隔地の従業員もオンラインで活用している。
多くの銀行で支払われている「手数料」なども、同行では廃止した。また、紙を使うことや手作業も最小限にする。物理的な支店は持たない。その効率化を顧客に還元していくという。
出典:https://www.smbcgroup.com/news/smbc-group-to-launch-jenius-banktm,-a-new-digital-consumer-banking-business-in-the-u-s
バンク・オブ・ニューヨーク・メロンデジタルアセット部門を設立〜銀行業界動向〜
「デジタル資産向けの統合サービスを提供する最初の世界銀行であることを誇りに思う」とCEO兼デジタル部門責任者のローマン・レーゲルマン氏は述べた。デジタルアセットは、例えば暗号通貨なども含む。
アドバンスト・ソリューションズ責任者であるマイク・デミッシー氏が率いる業界初のマルチアセットデジタル保管管理プラットフォームが、従来の資産とデジタル資産を安全なインフラストラクチャとして提供できるようにするという。
顧客の金融資産の管理・支援することに専念する、世界的な投資会社であるBNYメロン社は、デジタル資産の背後にある技術のブロックチェーンなどの高度なソリューションを活用することで、保管サービスやその他の投資サービスを向上させている。同行カストディ責任者のキャロライン・バトラー氏は「カストディの未来を改革するうえで、極めて重要な部門の設立である」と述べた。
出典:https://www.bnymellon.com/us/en/about-us/newsroom/press-release/bny-mellon-forms-new-digital-assets-unit-to-build-industrypercent27s-first-multi-asset-digital-platform-130169.html
まとめ:アメリカの銀行業界
アメリカの銀行業界は、デジタル化が急速に進んでおり、顧客のニーズに応じたサービスの多様化が進展しています。シティバンクはリテールバンキングを簡素化し、HSBCはAIを活用した投資インデックスを導入するなど、各銀行がデジタル技術を活用した新たな取り組みを展開中です。M&T銀行やリージョンズ銀行は、地域コミュニティの支援を通じて社会的課題にも取り組んでおり、より包括的なサービスを提供しています。これらの動向は、デジタル時代における顧客体験の向上と社会的責任の両立を目指すものです。
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。