中国政府は自動車メーカーに対し、2030年までに全売上高の40%をEV車が占めるよう義務付けるなど、EV車の普及に積極的です。今回は、中国のEV政策に焦点を当てて政府の動向や今後の課題などについて解説します。
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中国政府によるEV政策の概要
EV政策の背景と目的
中央政府のEV政策には、2020年までに中国で500万台の電気自動車(EV)販売を目標とすること、自動車メーカーと輸入業者のEV割り当て、製造補助金、免税、電気自動車充電ステーションの建設支援などがある。
政策の主要目標は以下3点である。
①中国の都市の空気を清浄化すること
②中国の石油輸入量を削減すること
③戦略的産業における世界的リーダーシップをとる国として中国を位置づけること
中国の急速な経済成長により、ここ数十年で多くの消費者が自分の車を購入できるようになった。その結果、世界最大の自動車市場が生まれたが、深刻な大気汚染が問題となった。また温室効果ガスの排出量も多く、石油輸入への依存度が高まっている。これらを解決するため、中国政府は電気自動車(EV)の採用を奨励する政策を進めた。EVの購入は従来のガソリン車よりも費用がかかるため、2009年、政府はEVの購入に対して、多額の補助金提供を開始した。しかし、価格差と購入者数の両方が大きかったため、補助金の支払いは政府にとって非常に高額になった。
その結果、中国政府は2020年末までに補助金を段階的に廃止し、代わりに自動車メーカーに義務を課すことになる。政府は自動車メーカーに対し、電気自動車(EV)が2030年までに全売上高の40%を占めることを義務付けた。
新エネルギー車産業発展計画
2020年10月、中国の国務院は、新エネルギー自動車産業においてさらなる課題の解決と、質の高い発展を促進し、自動車強国の構築を加速するために「新エネルギー車産業発展計画(2021-2035)」を発表した。
2025年までに新車販売における新エネルギー車の割合を20%前後に引き上げ、2035年までには新車販売の主流を純電気自動車(EV)とすることなど目標としている。
技術イノベーションの向上において、「三縦三横」を提起した。EV、PHEV(航続距離延長型電気自動車を含む)、燃料電池自動車(FCV)を「三つの縦」とする完成車技術革新チェーンを構築する。また、駆動用電池・制御システム、駆動用モーター・電力電子、ネット接続型・インテリジェント型といった技術を「三つの横」とするコア部品・技術の供給システムを構築する。
インフラ施設の最適化を行うのと同時に、新エネルギー車に関する税収優遇政策を実施し、分類交通管理や金融サービス等措置を区分けすることで最適化を図るほか、充電・バッテリー交換、スマート化した道路網、水素添加等インフラ施設の建設を速める。また、バッテリー交換モデルを勧め、秩序ある充電・高電力充電・ワイヤレス充電などの新しい充電技術の研究開発を強める。
中国のEVの市場規模
中国自動車工業協会によると、2021年の新エネルギー車の年間販売台数は350万台を超え、国内シェアは13.4%に達した。新エネルギー車市場が政策主導から市場主導へとシフトしていることを示している。国際市場の回復などもあり、2021年の年間輸出台数は初めて200万台に達し、輸出市場シェアは44%を超えた。それまでの輸出台数は、新型コロナウイルスの影響などもあり、いずれも100万台であったが、ブレークスルーを達した。
中国は現在、電気自動車(EV)における世界最大の市場である。 アメリカのピュー研究所によると、全世界の電気自動車生産台数1,020万台のうち、450万台以上が中国で生産されている。 これは世界のEV市場の44%を占める規模であり、欧州(31%)や米国(17%)を大きく上回っている。中国の新エネルギー車メーカーBYDの創業者であるWang Chuanfu氏は、2030年には中国の新車販売台数の70%をEVが占めるようになると予測している。
中国は二酸化炭素排出量の大幅な削減を目指しており、電気自動車の増加はこの目標の達成に不可欠であると考えられている。政府の政策もあり、今後も市場は伸びていくと考えられる。
中国のEVの補助金事情
中国で電気自動車が急速に普及している主な要因は、政府が2009年に開始した購入者への補助金政策にある。この補助金は2020年に終了する予定であったが、新型コロナウイルスの流行により、政府は2022年までの延長を決定した。
Fastmarkets社によると、航続距離300〜400kmのEVには13,000元(約2,000米ドル)、航続距離400km以上のEVには18,000元(2,778米ドル)の補助金が割り当てられている。
2022年1月、中国財務省はウェブサイトで、2022年に電気自動車などの新エネルギー車(NEV)への補助金を30%削減し、年末に完全に撤回すると発表した。2020年4月には、NEV補助金は2020年から2022年にかけてそれぞれ10%、20%、30%削減されると発表されていた。
中国のEV車に関連する規制(ダブルクレジット規制)
ダブルクレジット規制の概要
ダブルクレジット規制とは、自動車メーカーや輸入業者に対して行われる「CAFC規制」(企業平均燃費規制)と、新エネルギー車生産の数値目標を設定する「NEV規制」の両方を総称している。
中国国内では、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)を新エネ車「NEV=New Energy Vehicle)と定義し、その普及を目指している。MIIT(中国人民共和国工業情報化部)が、NEVについて一定比率以上の数値目標を設定しているのが「NEV規制」である。
メーカーは、企業平均燃料消費量(CAFC)の要件により、低燃費車を製造する必要がある。またNEVのクレジット要件を満たすには、NEVを製造する必要がある。メーカーが目標達成できなかった場合は追加クレジットを購入する事となる。
NEV規制
MIIT(中国人民共和国工業情報化部)が、新エネルギー車(NEV)について一定比率以上の数値目標を設定しているのが「NEV規制」である。MIITによると、NEVの生産と販売の割合は、自動車の総生産量の20%に達することを目標としている。
各自動車メーカーの製造台数に対し、NEVの製造割合目標を示したNEVクレジットを設定している。2021年に14%、2022年に16%、2023年に18%と段階的に引き上げられる。(2019年は10%、2020年は12%)
NEVの生産台数や燃費などが一定基準に達しない場合、基準を上回った競合相手から「プラスクレジット」を買い取らなければならない。
CAFC規制
各自動車メーカーに課せられた、新車を製造販売する際の企業平均燃料消費量(CAFC)の制限のことを「CAFC規制」という。2000台以上の自動車を生産するメーカーや輸入企業に対して課されている。2005年から導入され、数年ごとに強化されている。2016年の基準は6.7L/100kmであり、2020年の基準は5L/100kmであった。
もし基準を超える場合は、NEV規制のクレジットと相殺するなどが可能。また、3年先までクレジットの繰り越しが可能であり、企業間でのクレジットの取引も可能となっている。
MIITによると、2018年には、国内の自動車メーカー113社のうち50社近くがCAFCの制限を超えた。しかし、現在のところ罰則は存在しない。
中国の主要なEVメーカーとその特徴
上海蔚来汽車(NIO)
2014年に創業し、中国上海に本社を置くEVメーカー。中国国内は上海、合肥、北京、南京に、その他ドイツのミュンヘンやイギリスのオックスフォードなど世界10カ所に開発拠点がある。2022年2月の新車販売台数(引き渡しベース)は前年同月比9.9%増の6,131台だった。
2020年8月には、バッテリーを供給するCATL(寧徳時代)とともに新会社「Wuhan Weineng Battery Asset」を設立し、バッテリーサービスをサブスクリプション化する「BaaS(Battery as a Service)」事業に着手すると発表した。
EVのほかにも、NIOハウス、NIOパワーなど住宅やバッテリー電池なども手掛けている。
小鵬汽車(Xpeng)
2015年に設立された小鵬汽車は、スマートEVを設計、開発、製造、販売している中国の大手スマート電気自動車企業である。SUV(G3)と4ドアスポーツセダン(P7)を主に生産し、テクノロジーに精通した中産階級の消費者を主にターゲットとしている。
2022年2月には6,225台のスマートEVを販売し、これは前年比で180%の増加であった。
また小鵬汽車はヨーロッパ市場で販売地域を拡大している。同社は2022年2月10日、スウェーデンおよびオランダの自動車販売会社と提携し、現地で販売・アフターサービス網を構築すると発表した。翌2月11日には、欧州初の直営ショールームをスウェーデンの首都ストックホルムにオープンした。
理想汽車(Li Auto)
2015年に創業し、北京に本社を置く、電気自動車の設計、開発、製造、販売などを手掛けるEV自動車メーカー。2016年に江蘇省常州市に自社工場を建設し、プレス、溶接、塗装、最終組立、試験ライン、ロジスティクス、IT、など車両生産プロセスをカバーしている。100,000台の年間生産能力を誇る。
主要ブランドLiONEは、範囲拡張システムと高度なスマートビークルソリューションを備えた6人乗りの大型プレミアム電気SUV。
レンジエクステンダー式電気自動車(EV)の中・大型スポーツタイプ多目的車(SUV)「 LiONE 」の2021年通年の販売台数(引き渡しベース)は、前年比2.8倍の9万491台だった。
中国のEVの今後の課題
充電ステーション不足の課題
1点目の課題は、EVの充電ステーションの供給が追い付いていない点である。国営テレビでインタビューを受けたある運転手は、中国南部の高速道路サービスエリアにあるEV充電ステーションに4時間並んだと言った。
中国でのEVの採用は非常に成功しているが、そのためのインフラが追いついていない。中国の高速道路の充電ステーションは、中国のゴールデンウィーク初日10月1日だけで143万キロワット時を記録した。これは、通常の休日以外の日の4倍の量である。
中国にはすでに世界最大のEV充電ネットワークを持ち、100万を超える公共充電ポイントがある。新しい充電ステーションの数は9月だけでも72%も急増している。しかし、電気自動車の販売がさらに急速に伸びており、2021年8月時点で約700万台の新エネルギー車が中国の道路を走っている。そのため充電ステーションがなお不足している状態である。
安全性の課題
2つめの課題は、走行距離や充電、バッテリーの安全性といった課題の克服が求められていること。設備が劣化して使用できなくなった充電スタンド(ゾンビスタンド)の増加も社会問題となっている。
過当競争で採算が合わなくなった設置業者が夜逃げしたり、最初から政府の補助金が目当ての業者が劣悪な施設を造ったりしているという。中国メディアの取材によると、上海市内にある充電スタンドの2割以上が「ゾンビ化」している疑いがある。
また、近年は耐用年数が過ぎたEVの使用済みバッテリーが大量に生み出されているが、その多くは正規ルート以外の業者が安価に受け入れて処理している。業界関係者によると、80%近くが不適格な零細工場で処理され、環境問題も発生している。EVの普及と並行した対策が急務となっている。
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。