【中国の半導体】国内生産の重要性と今後の動向を解説

china-telecommunication

米国からの貿易制裁などを背景に、中国では今、自国での半導体産業の推進を余儀なくされています。政府による補助金や優遇政策により、中国における半導体生産の世界シェアは大きく伸びています。今回は、そんな中国の半導体事情に関して詳しく解説します。

読了時間の目安:5分

[toc]

中国でビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

世界における中国の半導体生産の位置づけ

世界の半導体事情

2022年5月現在、世界の半導体は不足傾向が生じている。需要に対して供給が追い付いていない状況である。

理由のひとつとして、世界的な新型コロナウイルスの拡大があげられる。たとえば、自動車メーカーは、自動車販売が急落したため、2020年初頭に半導体チップの注文を削減した。2020年下半期に予想よりも早く需要が回復したとき、半導体業界はすでに他のアプリケーションの需要を満たすために生産ラインを変更していた。

新型コロナの影響によるオンラインでのコミュニケーションやサービス提供の増加、それに伴うコンピュータや通信機器市場の活況を受けて、半導体の需要が高まっている。一方で、半導体の製造はプロセスが複雑なため、生産量を急激に増やすことは難しい。

半導体製造においては、北米が最大の製造拠点となっており、世界の半導体生産量の約60%を占めている。アジアは36%であり、中国も自国での半導体生産を推進している。

中国の半導体生産事情

中国の半導体生産、販売量は増加している。これは主に、米中の緊張の高まりと、政府の補助金、調達、その他の優遇政策を含む、中国の半導体チップ産業を推進する政策の影響が大きい。

2017年中国の半導体デバイスの売上高は130億ドルで、世界の同売上高の約3.8%であった。しかし2020年には、中国の半導体産業は年間成長率30.6%を記録し、年間総売上高は398億ドルに達した。同年、世界の半導体売上高の約9%を中国が獲得し、2年連続で台湾を上回った。中国の半導体産業は2024年までに年間売上高1,160億ドル、世界シェア17.4%以上に達する可能性があるとされている。

特筆すべきは、半導体産業に参入する企業数の増加である。2020年には約15,000の中国振興企業が半導体企業として登録された。

この背景には、中国政府の戦略と米中の緊張の高まりがある。アメリカは、輸出管理規制の対象企業として中国の半導体企業を追加した。それに伴い、対象企業へ米国製品を輸出するときは、事前の申請が必要となった。最先端の部品や関連技術が中国に入ってこない可能性もあるため、中国は半導体産業を推進し、自国での調達が可能となるように経済支援など様々なサポートを行っている。

中国の半導体生産の課題

前述のとおり、中国は米国からの貿易制裁などを理由に、自国での半導体産業の推進を余儀なくされた。そこで各省庁や自治体は、半導体産業への経済的サポートを進めている。2020年には、半導体産業の補助金に106億元(16.6億米ドル)が費やされた。これは、10年前の約12倍である。合計113社が恩恵を受けた。

一方、経済的サポートなどの支援を通じて新たな問題も発生した。政府の補助金は、主に国から支援を受けた企業にのみ与えられていた。これらの企業は、上場企業のわずか3分の1を占める一方で、資金の約60%を集め、不均衡な競争の場を作り出すこととなった。さらに、資金を集めた多くのプロジェクトが失敗し、公的資金の無駄遣いにもなった。

また中国の技術は、最先端のスマートフォンに必要なハイエンドチップ(10nm以下)を生産できる競合他社である台湾TSMC社と韓国Samsung社に数年遅れをとっている。両社は同分野で63%と37%のシェアを占めている。一方、中国で最大手の半導体メーカーであるSMICは、いまだに14nmと28nmのマイクロチップを製造するのみである。

半導体製造の自給自足を推進することは、技術の進歩を遅らせ、コストも高くなり、サプライチェーンが十分でなくなる可能性があるともされている。

中国でビジネスをするなら知っておきたい10のこと

中国政府の半導体生産の政策

第14次5カ年規画における中国の半導体生産

「第14次5カ年規画」とは、2021年3月に開催された全国人民代表大会(全人代)において、「国民経済・社会発展第14次五ヵ年計画と2035年までの長期目標要綱」として承認されたものである。その特徴として、新しい発展段階、新しい発展理念、新しい発展戦略からなる三つの「新」が挙げられている。

新しい発展段階とは、中国が繫栄した社会を築き上げて100年が経ったのちの、第二の100年を迎える最初の5年のことである。新しい発展理念とは、「協調」、「グリーン」(エコ)、「開放」、「共有」からなっている。新しい発展戦略とは、「国内循環を主とし、国内と国際の2つの循環が相互に促進する」という「双循環戦略」のことである。

第14次5カ年規画の中でイノベーションの推進についても述べられている。半導体生産についてもその対象であり、将来を見据えた重要な科学技術プロジェクトを実施することが提案されている。

中国製造2025おける中国の半導体生産

「中国製造2025」とは、2015年5月に李首相が発行した、中華人民共和国の製造業をさらに発展させるための国家戦略計画である。ハイテク産業における中国の地位を確保し、中国の外国技術輸入の依存を減らし、国内と世界の両方で競争できる中国企業を作るために投資をすることを目的としている。

中国製造2025は10の主要産業に焦点を当てている。(高度な情報技術、自動機械工具およびロボット工学、航空宇宙および航空機器、海洋工学機器およびハイテク輸送、最新の鉄道輸送機器、省エネおよび新エネルギー車、電力機器、新素材、医学および医療デバイス、および農業機器)

この計画には、中国の外国技術輸入への依存を減らし、国内および世界の両方で競争できる中国企業を創設することが含まれている。そのため、必要な部品だけでなく、製品も増産する国内製造工程に力を入れている。半導体産業においては、2025年までに国内の半導体必要量の70%を生産するという目標が位置づけられている。

中国の半導体生産に関する税制優遇

2021年3月中国は、ハイテク大手のファーウェイや他企業への半導体チップへの提供を遮断する米国の制裁を受けて、中国国内での半導体産業の成長を促進するための減税を発表した。半導体メーカーは2030年まで無税で機械や原材料を輸入できる。

政府は、最新の措置では、「生産できない、または性能が需要を満たせない」機械および原材料は輸入税を免除されると述べた。発表によると、これはフォトレジスト、マスク、研磨パッドと液体、シリコン結晶などに適応される。

北京はこれまでにも過去20年間、中国の半導体産業を支援するために多額の費用を費やしてきたが、スマートフォンやその他の技術メーカーは、最先端のコンポーネントを米国、ヨーロッパ、台湾に依存している。

これまでも、政府は半導体・集積回路企業への税制優遇を行ってきた。「ソフトウエア産業と集積回路産業の発展をさらに奨励するための若干の政策」などに基づき、例えば回路線幅が0.8マイクロメートル以下の集積回路生産企業には、黒字化した年から2年間の企業所得税を免除し、その後の3年間は法定税率の25%から半減するなどの税制優遇策を実施してきた。

また2022年2月には、「工業経済の安定成長促進のための若干の政策」が発表され、中小・零細企業の設備投資に対する減価償却費の一括計上、地方政府による各種税金の減免対象の拡大などが挙げられている。

中国でビジネスをするなら知っておきたい10のこと

中国の半導体主要メーカーの概要と特徴

SMIC

中国の上海に本社を置くSMIC(セミコンダクター マニュファクチャリング インターナショナル コーポレーション)は、中国本土における製造能力、製造規模、および包括的なサービスのフロントランナーである。上海、北京、天津、深センに製造施設を持つ。

中国最大の半導体メーカーであり、同社の2021年売上高は前年比39%増となる54億米ドルだった。350nmから14nmのプロセス技術で、集積回路(IC)製造サービスを提供している。

通信大手のHuaweiをはじめとする中国のエレクトロニクス企業は、SMICなどの地元のサプライヤーを頼るようになっている。

米国商務省は2020年8月、米国の高度な半導体技術を購入するに当たり輸出許可を得ることが求められる企業を掲載したエンティティリストにHuaweiの関連会社を追加した。SMIC社も同年後半にリストに追加されている。

HiSilicon

HiSiliconは、1991年にHuaweiのASICデザインセンターとして設立され、2004年にHuaweiから独立した完全子会社となった。本社を深圳市に置く。スマートデバイス向けに最先端の半導体製品とサービスを提供し、スマートシティ、スマートホーム、スマートモビリティの構築に貢献している。

スマートビジョン、スマートIoT、スマートメディア、スマートモビリティ、ディスプレイインタラクション、モバイルSoC、データセンター、光トランシーバーなど、幅広い分野をカバーしている。

基本的に外販はせず、 Huawei 製品のための半導体チップを製造している。2020年8月、米国商務省の定めた輸出規制に係るエンティティリストに登録された。

Will Semiconductor(OmniVision group)

OmniVision Groupは本社をアメリカに置く半導体設計企業であったが、2015年に中国企業が買収した。グループの研究開発センターとビジネスネットワークは世界中にあり、年間出荷量は135億を超える。

OmniVision Groupは、携帯電話、セキュリティ、自動車用電子機器、ウェアラブルデバイス、IoT、通信、コンピューター、家庭用電化製品、産業、医療、その他の分野の顧客を支援するセンサーソリューション、アナログソリューション、タッチスクリーンおよびディスプレイソリューションの提供に取り組んでいる。

Will Semiconductor社が設計した半導体はファーウェイ、レノボ、ZTEなどの中国国内メーカーのみならず、メルセデス・ベンツ、トヨタ自動⾞、フォルクスワーゲンなど、世界的メーカーが持つサプライチェーンに供給、採用されている。

中国でビジネスをするなら知っておきたい10のこと

中国の半導体生産の今後の動向

中国の半導体生産の拡大

2022年1月の半導体工業会の記事によると、中国企業の半導体チップ販売量は増加している。

中国は2020年に世界の半導体市場の9%を獲得し、2年連続で台湾を上回り、それぞれが市場シェアの10%を占めた日本とEUに近接している。中国の半導体開発が勢いを増し、今後3年間で30%の成長率を維持し、他国の同産業の成長率が同じであると仮定すると、中国の半導体産業は2024年までに年間売上高1,160億ドルを生み出し、シェア17.4%以上を獲得する可能性があると予測される。

中国のハイエンドロジックデバイスの販売も加速しており、中国のCPU、GPU、FPGAセクターの合計収益は、2015年の約6,000万ドルから、2020年には10億ドル近くに増加している。

課題もあるとはいえ、中国の半導体をはじめとするテクノロジー企業への経済的、人材支援的サポートは続いている。また米国からの半導体関連製品や技術の輸入も制限が続くとみられるため、中国国内での半導体生産量は今後も増加していくのではないかと考えられる。

中国政府の半導体産業への投資拡大

新型コロナウイルスの世界的拡大やロシアのウクライナ侵攻も要因となっている世界的な半導体不足は、自動車メーカーから家電メーカーに至るまで、さまざまな産業に影響を与えている。そのため各国は半導体不足を克服するため、半導体産業に投資を続けている。

中国政府は、欧州や米国とのギャップを埋めるために、2030年までに1500億ドル以上を費やして、半導体の生産を成長させようとしている。

業界の発展に追いつくには、中国本土の大手半導体チップメーカーであるSemiconductor Manufacturing International Corp(SMIC)が開発する高度な技術が必要である。しかし、世界第5位のチップメーカーであるにもかかわらず、SMICは半導体不足の中で需要を満たすのが非常に困難な状況である。

今のところ、中国の半導体総売上高は、世界の同額の7.6%しかない。しかし政府が半導体生産を拡大する計画を発表、実行しているため、その数は増え続けている。

現状、中国の半導体サプライチェーンは米国などに比べ後れをとっている。しかしどのような種類のチップが生産されていても、業界関係者は、米国とヨーロッパは常にアジアに材料を依存しているとし、中国生産の半導体および関連産業の需要増を期待している。

中国でビジネスをするなら知っておきたい10のこと

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次