シンガポールのFoodTech（フードテック）産業は、「30 by 30」政策のもとで急成長しています。限られた土地資源の中で、どのように持続可能な食料生産を実現しているのでしょうか？垂直農法や培養肉技術など、革新的なアプローチが導入され、シンガポールはアジアのフードテックハブとして台頭しています。Nurasaのフードテックイノベーションセンターが果たす役割や、地元企業による新たな食品ソリューションも注目されています。
この動きがもたらす未来とは？詳細を見ていきましょう。
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シンガポールにおけるフードテックの成長要因と政策的背景
政府のビジョン「30 by 30」政策の概要
シンガポールは「30 by 30」2030年までに必要な栄養の30％を持続的に生産できる農業食品産業の構築に取り組んでいる。シンガポールの農業用の土地はわずか1%だけなので、農産食品産業は今後数年間で生産性を大幅に向上させる必要がある。生産性が高く、気候変動に強く、持続可能な業界への変革を支援するために政府は次の戦略を採用している。
1. シンガポール南深海域で持続可能な魚の養殖の拡大を最適化するためのリム・チュー・カン地域の総合的計画。
2. アグリクラスター変革（ACT）基金を通じて、農産物セクターの生産性が高く、気候変動に強く、資源効率の高いセクターへの変革支援。
3. ACT基金が技術のスケールアップ、能力のアップグレード、イノベーション、試験床材など、さまざまな側面で農場のニーズをサポート。
4. 3億900万SGD以上の資金が割り当てられたシンガポール・フード・ストーリー研究開発プログラムを通じ、持続可能な都市食料生産、未来の食料、食品安全の科学とイノベーションにおける革新的な研究プロジェクトに資金援助。
5. 地元農産物のブランド化とプロモーションを通じて役割を果たすよう市民を結集。
6. 高等教育機関と協力して、熟練した農業・食品労働力を育成。
出典：https://www.ourfoodfuture.gov.sg/30by30/
フードテックにおける研究機関と教育機関の役割
2024年4月24日、持続可能な食品の製品イノベーションと商品化の戦略的拠点としてNurasa のフード テック イノベーション センターが開設された。Nurasaは、オープンイノベーションと戦略的パートナーシップを通じて、アジアにおける食料の持続可能性のための研究開発を行う。Temasekの完全所有会社のNurasaがシンガポールに最先端のフードテックイノベーションセンター（FTIC）を開設した。
バイオポリス内に戦略的に位置するNurasaの FTIC は、精密発酵 (PF) と食品加工における高度な機能を備えたハイテク研究所を備えた 3,840 平方メートルの食品グレードの施設。 PFラボには、最大100リットルの生産能力を持つバイオリアクターが含まれ、開発中の企業が大規模な生産を行うことができる。これらのラボは、科学技術研究庁 (A*STAR)、ScaleUpBio などのエコシステム機能を利用している。また、NuFoodコンセプトスタジオは、料理の創造性を育み、消費者中心の食品イノベーションと持続可能な実践を奨励。低糖質、コレステロールフリー、優れた風味プロファイルを備えた腸に優しい食品など、新たな食品業界のイノベーションに対応しており、企業が新たな食品のアイデアを得ることができる。
持続可能な食料生産技術とその実現可能性
土地の少ないシンガポールにとって重要なのは、気候制御された垂直農法。実証農場である GroGraceでは多層構造による乾燥水耕栽培システムを採用している。自動化システムと雨水収集を灌漑と施肥に利用することで、750㎡のコンパクトな施設内で年間33トンの新鮮な農産物を生産している。
「30 by 30」エクスプレス助成金を活用したGenesis One Tech Farm（GoFarm）の垂直農場では、高さ6.8メートル、14段の栽培ラックを運用し、1,000㎡未満の面積で毎日500～600キログラムの新鮮な野菜が生産できる。栄養フィルム技術と、システムを通じて水ベースの栄養素を再循環させる灌漑システムの採用で従来の深水ベースの水耕栽培より95％少ない水で栽培できる。
食糧安全保障を補うもう一つの分野は新規食品。新規食品の生産は、従来の動物性タンパク質に比べて、使用する土地が少なく、炭素排出量も少なくなる。シンガポールではすでに培養肉の販売を許可。また、微生物タンパク質であるSoleinを含む食品の販売も承認。Soleinは畜産や農業を利用せず生産され、既存のタンパク質を補完できる。フィンランドのSolar Foods社が微生物を使用して生産。シンガポールは、食品の安全性とイノベーションのバランスを取りながら進めている。
シンガポールのフードテック分野での技術革新とトレンド
培養肉技術の進化
屋台から高級レストランまで、代替タンパク質がシンガポールでますます一般的になっている。また、Barclays銀行によると、世界的に代替タンパク質市場が今後10年以内に1,400億USDに達し、1兆4,000億USDの世界食肉市場の約10％を占めると予測している。
シンガポールは2020年12月に培養肉製品の販売を承認した最初の国である。シンガポールは、動物の肉を直接置き換えるのではなく、イノベーションを利用して消費者が利用できるタンパク質の選択肢を広げる道を歩み始めている。専門家は、人口増加と経済成長により、アジアの肉と魚介類の需要が2050年までにさらに78％増加し、食品サプライチェーンと有限資源にさらなる負担がかかると予測している。生産者は種子サイズの細胞コレクションを培養器と呼ばれる栄養豊富な環境に置くことで、動物細胞から直接肉を栽培することができる。その結果、消費者が期待する肉を再現する製品が生まれ、混乱、病気、遅延のリスクが軽減され、土地、水、その他の有限の資源のごく一部しか使用しないという三方良しとなる。一方、生産者がシンガポールの農業食品イノベーションエコシステムを活用し味と食感を改善し、製造能力を拡大しているため、代替タンパク質のコストは低下している。
プラントベース食品の成長と消費者トレンド
EDB New VenturesとTemasekのベンチャーインキュベーションから生まれたスタートアップ企業Next Gen Foodsが植物由来の鶏肉ブランドTiNDLEを立ち上げた。アジアは現在、植物由来肉の採用という点で米国やヨーロッパに遅れをとっているかもしれないが、世代交代とタンパク質への強い欲求により、すでに市場が変化し始めていると言われている。また、鶏肉の普遍性と包摂性が多様なアジアの味覚に対応していることから、植物由来の豚肉や牛肉ではなく、植物由来の鶏肉の事業化が選択された。また、Next Gen Foodsが本社をシンガポールに置くことを決めたのは、シンガポールが将来フードテックのシリコンバレーになると考えられているためである。まだ発展途上だが、エコシステムの多くの部分がすでに整っており、研究開発で協力できる多国籍企業は数多くあり、さまざまな消費者グループ、シェフ、レストランで製品をテストすることもできること。また、安全性、透明性、ビジネスのしやすさ、デジタルと物理的な接続性、地域本社の集中などの要素が組み合わさることで、シンガポールは規模を拡大するのに最適な場所になるからだという。そして、植物由来の製品に対するEDBの強力なサポートがあるようだ。
主要企業
Shiok meats
Shiok Meatsは、2018年8月に筋肉、脂肪、幹細胞生物学の分野で合わせて 20 年以上の経験を持つ Sandhya Sriram 博士と Ka Yi LING 博士によって設立された。現在のシーフードの生産方法では増え続ける世界人口に対応できないため、地球の将来を保証する持続可能で美味しく健康的な肉を作り出した。Shiok Meats は世界初の養殖甲殻類肉会社であり、東南アジア初の養殖シーフード会社である。また、東南アジア初の養殖赤身肉会社 Gaia Foods を所有する。
「Shiok」は、素晴らしい、おいしい、そして単純に喜びを意味する地元のスラング。Shiokの使命は、動物ではなく健康な細胞から肉を育てる技術を使用して、おいしくて持続可能で健康的なシーフードを消費者の食卓に届けること。2020年10月、総合包装容器メーカーの東洋製罐グループがShiokに出資した。資金調達はシリーズAで、調達総額1,260万ドル。リード投資家はオランダの投資ファンドAqua Sparkで、SEEDS Capitalやリアルテックホールディングスなども参画。培養エビのミンチ肉の商業販売を目指しており、調達した資金は、シンガポールに建設する世界初の商用規模の細胞培養パイロットプラントの建設と、その運営資金にあてられる。&ペイでの料金支払いなど、「公共交通機関におけるリンケージ」が可能になった。
出典：https://shiokmeats.com/about-our-company/
Cremer Sustainable Foods
2021年12月8日、CREMERとTemasekのアジア・サステナブル・フーズ・プラットフォーム（Temasekが100％所有）が欧州委員会から合弁事業の承認を受け、新会社Cremer Sustainable Foodsを設立。これにより、アジアにおける植物性タンパク質製品の契約製造能力が導入されることになる。Cremer Sustainable Foodsの最初の11,000平方フィートの植物由来製造施設はシンガポールに設置され、初期のHME生産能力は年間1,000トン以上。植物ベースの代替タンパク質を生産し、肉によく似た植物ベースの製品の生産を拡大する。
CREMERは、Temasekのアジア・サステナブル・フーズ・プラットフォームと提携することで、アジアにおける持続可能な食品の商業化の加速に注力するパートナーと協力し、代替タンパク質などの農業食品への積極的な投資家として、Temasekの広範なネットワークを活用できる。CREMERは現在、北米と中国に既存の植物ベースの契約製造施設を保有している。そして今回シンガポールにCremer Sustainable Foodsの植物由来製造施設を新設した。CREMERが世界規模で事業を拡大する中で、CREMER Nutritionチームの今後は大きく期待されている。
Next Gen Foods
Next Gen Foodsは、おいしくて革新的、そして持続可能な植物由来の食品ブランドTiNDLE Foodsを開発、商品化するフードテックのスタートアップ企業。 4人の創業メンバー、Jean Madden、Andre Menezes、Timo Recker、John Seegers によって 2020年に設立された。人類の畜産への依存を減らす製品の開発に取り組んでおり、TiNDLE Foodsのおいしい植物性食品は、味、食感、全体的な体験を犠牲にすることなく、地球の健康に貢献している。
TiNDLE チキンは風味豊かで調理が簡単、世界中の料理のプロや家庭で注目を集めている。チキンの独特の味と食感を提供し、非遺伝子組み換え原料で作られている。TiNDLE チキンは、おいしくて、用途が広く、満足感があり、一口食べたら、もっと食べたくなる。TiNDLE チキンと鳥の鶏肉とのユニークな類似性は、鶏脂に通常見られる香り、調理性、風味を再現する植物性原料の当社独自のエマルジョンである Lipi™ によるもの。今後さらに、ソーセージ、牛乳、アイスクリームなど、TiNDLE Foods 傘下の植物性食品の完全なラインナップを導入する予定。これらの製品は、消費者が日頃愛用している動物性食品を植物由来にして再定義を試みる製品。
Umami Bioworks
Umami Bioworksは、比類のない品質と持続可能性を備えたシーフードの提供を最優先し、水銀、抗生物質、マイクロプラスチック、海洋汚染物質を排除することで、おいしいだけでなく栄養価の高い安全なシーフードを提供。UMAMI Bioworksは、2020年の設立以来、ニホンウナギなどの絶滅危惧種の魚に代わる持続可能な代替品を提供する細胞培養プラットフォームの開発に取り組んでいる。細胞株の確立、無血清培地の作成、機械学習と自動化を使用した製造システムなど、培養プロセスで重要なマイルストーンを達成し、事業を拡大してきた。
2023年8月31日、UMAMI Bioworksは日本最大の水産会社であるマルハニチロとの業務提携を発表。契約の一環として、マルハニチロはUMAMI Bioworksに投資し、養殖魚介類の生産と販売のための細胞培養プラットフォームへのアクセスを取得。この提携には、UMAMI Bioworksのプロセスを拡大するための多面的なコラボレーションも含まれている。UMAMI Bioworksには開発・生産技術はあるが、培養製品の製造と消費者への提供面が弱く、マルハニチロは世界規模の経験豊かなパートナーに最適。シンガポールに本社を置き、最近東京オフィスを開設し、拡張計画を発表した。
出典：https://umamibioworks.com/about/
Good Meat
GOOD Meat は世界で初めて培養肉を販売する企業で、健康的で安全かつ持続可能な食品システムを構築することを使命とする食品テクノロジー企業。製品は培養肉であり、屠殺された動物ではなく動物の細胞から安全で持続可能な本物の肉を作るプロセスで生産されている。
最初の製品は GOOD Meat 培養鶏肉で、シンガポールと米国の両方で販売が承認されており、現在一部のレストランで顧客に提供されている。また、GOOD Meatでは、JUST Egg ブランドの植物由来の卵製品も製造しており、サンフランシスコからソウルまで何百万もの家族が楽しんでいる。一方、シンガポールでは、史上初めて、培養肉を小売店で購入して自宅で調理できるようになった。最新製品であるGOOD Meat 3は、シンガポールの高級肉製品の一流生産者およびサプライヤーの１つである Huber’s Butchery の冷凍食品セクションで購入できるようになった。このおいしい細切り鶏肉は、3%の培養肉と植物由来の原料を組み合わせて作られており、Good meatがこれまで鶏肉を製造してきた方法と似ている。GOOD Meat 3 により、培養肉をより入手しやすくすると同時に、GOOD Meatの技術をさらに拡大していくことになる。
出典：https://www.goodmeat.co/about
2017年よりシンガポール在住の日本人。元客室乗務員。大学ではマーケティングと経済を学び、卒業後は海外での生活と旅行を重ね、さまざまな国の文化や人々、食に関する豊富な知識を身につける。シンガポール人の旦那との結婚を機にシンガポールに移住し、現地で就労。現在はライター業と翻訳業を行っている。
