近年、テンセントやネットイースといった中国企業が、世界的に評価の高い最高クオリティのゲームを輩出しています。VR、AR、ブロックチェーンといった新技術が台頭する中、今後のスマホゲーム市場はどのような変化を遂げるのでしょうか?
今回は、世界で注目される中国のスマホゲーム市場に関して詳しくご紹介します。
読了時間の目安:5分
[toc]
中国国内と国外のスマホゲームの市場規模・動向
中国国内のスマホゲーム市場規模、動向
2019年、ゲーム業界の主管部門が打ち出した多くの産業政策により、同業界は「ポスト・プレミアム時代」に入り始めた。ゲーム会社は製品の文化的な意味合いを重視し、ブランド価値を向上させている。
同時に、ゲーム業界のビジネスモデルは継続的にアップグレードされている。5G、人工知能、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどの先進的な技術の発展に伴い、クラウドゲーム、e-スポーツ、ゲーム中継などの新たなビジネスも誕生した。これらから、ゲーム業界にはより高い次元での発展ニーズがあると言える。
スマホゲームに関して詳しくみていく。Zhiyan Consultingが発表した「2021年から2027年の中国のモバイルゲーム産業の市場需要分析と投資開発調査報告書」によると、2020年の中国のスマホゲームの市場規模は2096.76億元で、前年同期比32.61%増となった。
詳しくみると、スマホゲームのユーザー数と一人当たりの消費金額の両方が増加している。2014年の中国国内のスマホゲームのユーザー数は3億6000万人で、一人当たりの消費金額は76.8元であったが、2020年にはユーザー数が6億5000万人で、一人当たり消費金額が320.61元にまで増加した。
中国国外(世界)のスマホゲーム市場規模、動向
中国企業が制作したモバイルゲームに関して、海外での取引状況を見てみると、ダウンロード数とユーザーあたりの消費金額の両方が増加傾向にある。また、特にアメリカにおいて消費金額が多い傾向にある。
海外市場での展開は、中国のゲームメーカーにとって大きな発展の余地がある。 ZhiyanConsultingの発表によると、2019年のアメリカにおけるスマホゲームの市場規模は159億7900万ドルであった。 新型コロナウイルスの影響を受けてか、2020年における市場規模は第3四半期の時点で2019年の年間での市場規模と同程度であった。
さらに他国での状況をみてみると、2019年の日本におけるスマホゲームの市場規模は145億ドルであった。ネットイースの「OperationWilderness」、リリスゲームズの「Sword and Expedition」、YOOZOOの「Red:Pride of Eden」の人気が高かった。韓国においては2019年の市場規模は40億4000万ドルで、Bilibiliの「TwinVision」の成長が目立った。
中国のスマホゲームの主要メーカー
腾讯互娱(テンセントゲームズ)
中国最大のオンラインゲームコミュニティの運営会社。現在、200の国と地域で140以上の自社開発及びライセンスゲームを提供し、世界の数億人のユーザーにクロスプラットフォームでのインタラクティブエンターテイメントの体験を届けている。ユーザーに高品質な体験を提供するために、アニメや映画、文学などのテンセント内のIPリソースを活用し、ゲームの可能性を最大限に引き出している。
また、新しいゲームを制作するにあたり、戦略的パートナシップを結び、海外のゲームパブリッシャーと積極的に協業している。代表作としては、「Honour of Kings」や「PUBG MOBILE」、「League of Legends」が挙げられ、世界で人気を博している。
网易移动游戏(Netease Games)
2001年にオンラインゲーム事業部を正式に立ち上げ、今では世界的なゲーム会社の一つになった。中国有数のゲーム開発会社として、ネットゲームの自主開発分野の最先端を走っている。
現在、同社が運営するゲーム製品は約100種類。『夢幻の西旅行』コンピュータ版、『大話西旅行2経典版』、『大話西旅行2無料版』、『天下3』、『新倩女幽魂』、『逆水寒』などの人気作品を開発した。
2020年までに4年連続で全世界のスマホゲーム制作会社の収入ランキングTOP2にランクインした。同時にここ数年、海外市場においての展開に成功しており、中国メーカーの海外収入ランキングの上位4位に入った。
雷霆游戏(Leiting Games)
中国上場企業である「G-bits」の子会社で、2011年の設立以来、モバイルゲームやPCゲームなどの開発投資を行う中国大手のパブリッシャー。代表作としては、道教や中国文化を学べる「問道」、メカアクションゲームの「ハードコア・メカ」、アクションゲームの「荒野のハーク」などが挙げられる。
同社のホームページによると、中国政府との連携を通じて、海外のゲームデベロッパーと円滑に提携するための基盤を構築している。中国国内では版号制度にて描写や表現の規制が行われている。版号の取得には厳しい基準が設けられているため、海外のゲームを中国国内で展開するにあたっては大きなハードルになるが、同社は既に80以上のゲームに対して版号の代行取得を実施している。また、関連企業との提携も続けており、400を超える企業とのコラボレーションを実現している。
灵犀游戏(Lingxi Games)
アリババグループのゲームパブリッシャーで、ソーシャルプラットフォームに特化している。同社は業界トップクラスの開発チームを保有しており、同社製品の「三国志・戦略版」はAppStoreと各Android市場における世界のスマホゲームランキングの上位に輝いた。
技術インフラ、データ分析、責任を果たす顧客サービスにより、ゲーマーにカリスマ的なプレイヤー体験を提供し、魅力的なプレイヤーコミュニティを作り上げている。
上海莉莉丝网络(Lilith Games)
「本当に面白くて有益なゲームを作る」という信念のもと、スマホゲームの研究開発と運営を行っている。神武シリーズや夢の世界シリーズなどの作品には数千万人のプレイヤーがいる。
同社はインターネット企業の党建設事業を積極的に展開し、党建設によって企業の発展をリードしている。Sensor Towerの発表によると、2021年4月の中国スマホゲーム売上ランキング3位にランクインした。また、「中国インターネット企業トップ100」にはこれまでに9回ランクインしている。
中国スマホゲームの世界人気ランキングと概要
和平精英(Game For Peace)
騰讯光子工房群が開発し、2019年5月8日にリリースされたバトルロイヤルゲーム。テロとの戦いを体験できるといった内容である。もともと「PUBG MOBILE」として配信されていたゲームだったが、暴力表現があるため中国政府よりゲームライセンスを取得できていなかった。そこで、ストーリーは維持しつつも暴力的で残虐なシーンを一掃した和平精英(Game For Peace)がリリースされた。
Sensor Towerの発表によると同ゲームの前身である「PUBG MOBILE」は2021年7月時点におけるスマホゲームの全世界売上ランキングで1位になった。2021年4月時点での中国AppStoreにおけるスマホゲーム売上ランキングでは2位となった。
王者荣耀(Honor of Kings)
Android、iOS、NSプラットフォームで運営されているマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)。2015年11月26日に正式に配信された。王者栄耀でのプレーは競技対戦が中心で、プレイヤー同士で1VS1、3VS3、5VS5など様々な方式のPVP対戦を行う。
Sensor Towerの発表によると、同ゲームは2021年7月時点におけるスマホゲームの全世界売上ランキングで2位になった。2021年4月時点での中国AppStoreにおけるスマホゲーム売上ランキングでは1位となった。
原神(Genshin Impact)
miHoYoによって開発・運営されているオープンワールド型のアドベンチャーゲーム。ゲームの舞台となるのは「テイワット」と呼ばれる幻想世界。主人公である双子の兄妹は、謎の神との戦いに敗れ兄妹の片割れを紙に連れ去られてしまう。双子の片割れとの再開を目指す旅に出かけていく物語である。
Sensor Towerの発表によると、同ゲームは2021年7月時点におけるスマホゲームの全世界売上ランキングで3位になった。2021年4月時点での中国AppStoreにおけるスマホゲーム売上ランキングでは8位となった。
三国志・战略版(三国志・戦略版)
灵犀互娱(lingxigames)が製作した三国志が舞台の戦略スマホゲームで、2019年9月20日に配信開始された。AppStoreの説明によると、同ゲームは木材や石材など資源への課金はできず、兵士に関連するアイテムも販売されていない。つまり武将の戦闘値だけでは相手を倒すことができず、その公平性の高さが特徴となっている。
Sensor Towerの発表によると、同ゲームは2021年第1四半期におけるスマホゲームの全世界売上ランキングで5位になった。2021年4月時点での中国AppStoreにおけるスマホゲーム売上ランキングでは4位となった。
万国觉醒(RoK)
Lilith Gamesによるマルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA) のスマホゲームで、2020年9月23日に正式テストされた。
ゲームの中で、プレーヤーは11種類の文明を選択することができ、自分の都市を建造する。資源を増やしたり、科学技術を開発して、自分の戦闘力を高めることができる。
Sensor Towerの発表によると、同ゲームは2020年6月時点におけるスマホゲームの全世界売上ランキングで8位になった。2021年4月時点での中国AppStoreにおけるスマホゲーム売上ランキングでは6位となった。
中国のスマホゲーム業界の今後について
中国のスマホゲーム業界で求められる人材
ここ数年、ゲーム産業の急速な発展に伴い、オンラインゲームに投資する大手インターネット企業が急増している。易观分析の「2021年の中国のゲーム業界における人材の需要と供給に関する洞察」というレポートによると、中国でネットゲーム業界に直接的・間接的に従事する人材は現在までに100万人以上に達した。ネットゲーム業界は雇用創出の観点で重要な産業になっている。
人材の内訳を見ると、ゲーム美術の人材が最も多く、29.67%を占めた。次にゲーム開発プログラムの人材が25.27%で続き、ゲーム企画が19.78%で3番目に多かった。
学歴分布を見ると、同業界の人材は概して学歴が高く、学士が55%、修士が29%、博士が5%を占めていた。
中国のネットゲーム会社の人材分布地域と企業分布をみると、2020年までに上場した企業数は198社で、そのうち北京上場企業が24.1%、上海上場企業が10.1%、広東上場企業が20.2%、その他の地域での上場企業が45.6%を占めた。「北上広」に上場されたゲーム会社の数が半分を超えており、オンラインゲームの人材も北京、上海、広東に集中している。
中国のスマホゲーム業界で求められるコンテンツ
スマホゲームの近年の急速な発展に伴い、中国国内のゲーマーのゲームに対する意識が向上している。網易新聞の「中国游戏市场前所未有的变革:内容、需求和技术方面的转型升级」という記事によると、ただランクを上げたり、他のゲームを真似ただけの儲けるためのビジネスモデルでは、ほとんど生き残れなくなっているとのこと。
高品質で洗練されたゲーム製品にのみ勝ち抜くチャンスがある。ただし、品質の高い製品が不足しているわけではなく、それぞれのジャンルに代表作があることは明らかだ。新しいゲームは品質を保証する前提のもとで、良質な配給メーカーとプロモーションチャネルを組み合わせる必要がある。
VR、AR、ブロックチェーンは、この2年間で登場したゲーム産業と関連性の強い新技術だが、一時的なブームを起こしたのみで、ゲーム市場の構造に大きな影響を与えていない。現時点では、「5G+クラウドゲーミング」が国内外のあらゆるメーカーの注目を集めている。
クラウドゲームは、PC、スマートフォン、テレビなどのデバイスの壁を打ち破るだけでなく、従来のゲーム配信モデルや課金モデルにも変革を起こすことが期待されている。ゲーム開発者、パブリッシャー、配信チャネルにとって、クラウドゲーミングは大きなチャンスと見られている。
まとめ
急速な発展を遂げるスマホゲーム市場。クラウドゲーミングやメタバースなど新しく台頭する新技術によって、今後も大きな変革を遂げるのではないでしょうか。
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。