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中国のメタバース事情
そもそもメタバースとは?
「Meta」と「Universe」から形成される「Metaverse(メタバース)」は、現実とは別の世界のことを指している。体は現実世界にありながらも、仮想世界を楽しめる空間のことだ。まるでゲームのように作られた世界を、自分オリジナルのアバターを使って生活する。
昔はスマートフォンが導入された際には若者を中心に広まっていった。今回のメタバースも若者から人気が広がっており、著名な若手アーティストやデザイナーもメタバースを利用し、さらに人気を博している。さらに、美術館、図書館、博物館などの文化資源などでの実物のオンライン化が進んでおり、産業化への新たな道筋が描かれている。
「オンライン+オフライン」という新たなキーワードが1995年代以降の人たちによって広まっている。創作の可能性は無限大で新しい文化の形成になるためだ。文化的な商品もさらなるオリジナリティや楽しさ、多様性を求める傾向が強く、メタ・ユニバースの発展に貢献している。
中国のメタバースの市場規模
2022年度の中国におけるメタバースの市場規模は約425億元と予測されている。今後5年間の市場規模は1200億元程度の見込みとなっている。
デジタルアセットは、メタバースのエコシステムの中で必須の経済ツールになると予想されている。例えばアリババやテンセントなどの中国企業は、NFT(non-homogeneous token)を活用したデジタルコンテンツの検証・収集・取引のプラットフォームを構築している。
さらに、メタバースは5Gと高くマッチングしている。メタバースは膨大な通信容量をひつようとするため現状4G/LTEの通信環境でのサービスは困難と見込まれており、5Gの通信環境が整うことによりメタバース事業にさらなる拍車がかかるだろう。そして中国は世界最大かつ最も技術的に進んだ5G独立グループネットワークを持ち、5G基地局の数も大幅に増加している。 5Gネットワークは、全国のすべての県級市と県級都市部、および87%以上のエリアをカバーしているためメタバースを広くサポートすることが可能だろう。
中国のメタバースの普及状況
2021年からメタバースの存在が中国全土で広がっていった。当時は「メタバース元年」と呼ばれ、今やメタバースは誰もが知っているワードとなった。
メタ・ユニバース活動は活発で、関連するコンセプトの長期的なパフォーマンスに対して強気だ。メタバース関連の資本は大きな関心と多彩な活動が発生しており、2022年を通じてメタバースが投資の本線になると予想されている。
メタバースは既に新世代のビジネスとして認識され、各業界、企業ではメタバースでの活動方法が日々研究されている。投資市場においても特に熱い市場と評されている。
メタバースに関する中国政府の動向
中国政府のメタバースに対する姿勢
全体としてメタバース自体に対して、政府の言及はされていない状況である。しかしながら各地方政府などでは既にメタバースに対してのレポートなどが随時上がっている。下記にていくつか紹介をするが、5-10年後には改変されるだろうとの予想が大多数である。
上海電子産業からの報告によると、メタバースの基礎となるコア技術基盤能力の前向きな研究開発を強化し、知覚的相互作用を深め、体系的な仮想コンテンツ構築を行う新端末の開発を推進し、産業応用を模索予定とのこと。
武漢市政府からの報告では、デジタル産業の成長をサポートすると発表されている。メタバース、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、ブロックチェーン、地理空間情報、量子技術などの実体経済との融合を促進し、新世代の人工知能の発展のために国家試験区を建設する。小米技術パークなどのデジタル経済産業パーク、計5つを創設予定。
中国のメタバース関連の規制~商標買占めの禁止~
商標の買い占めが禁止となった。実際にネットイース、バイトダンス、点線都などの会社がメタバースの商標申請を行ったが全て受理されず。「メタバース」の商標は国家が管理をする運びとなる予定。
国家知識産権局は「ビジネスでの利用を目的としない商標の買い占めなどの悪質な商標登録は拒絶し、厳しく対処している」と発表している。
「メタバース」での商標は不可能だが、メタバースではなくそれに準じた商標登録は受理されている。メタバースを元にしたビジネス方法に関しては16000件以上も申請があるが、確認の上、受理を進めている。
中国のメタバース関連の規制~海外展開時の規制~
中国でのメタバースプラットフォームを海外と相互接続する場合、HTTPなどのプロトコルの問題だけでなく、税関、パスポート、外国為替、犯罪者の引き渡しなども必要とされている。 この問題は、現在も論争が続いている。
中国以外の市場を取り込み、中国版メタバースを世界に展開するためには、TikTokのような国際版を開発する必要がある。 海外のプラットフォームを導入して中国でメタバースを展開するためには、社会文化的、法的、異なるグループによるローカライズ等の問題が出現するだろう。
規制という点については中国では少なくともインターネット情報局、国家発展改革委員会、中国人民銀行、工業情報化部、文化観光部、公安部、教育部、市場規制総局、税務総局などの関連部門が関与するのが予想される。
中国のメタバース関連の主要企業
アリババ
2022年3月末にアリババは浙江省にあるNrealに対して約6000万ドル以上の投資を行った。これにより、 Nrealはアリババのメタバース事業に貢献していくことが予想される。下記でNrealのビジネスを紹介していく。
Nrealは2017年に設立され、MRスマートグラスの研究開発をビジネスとしている。 同社は“複合現実感技術のエコロジー構築に専念し、未来の世界を作り、人間の認知体験を変化させる ”をモットーに活動している。
浙江大学の学生チームにより設立されたNrealは、2019年に中国で広く注目を集めた。 同年、主力製品であるNreal lightが2019年の「Best Startup Technology Company」を受賞した。 Mobile World Congressでは、Nreal lightに続いて折りたたみ式のMRグラスが発表され、ユーザーの意識の敷居を下げると同時に、生活に密着した利用シーンを実現させた。
2021年来、メタバースという概念の高まりとともに、Nrealも業界で注目されるようになった。2021年9月、1億米ドル超のシリーズC資金調達ラウンドの完了を発表した。
ネットイース
NetEase Yaotaiは、NetEase Fuxi傘下の没入型イベントプラットフォームとして、人工知能と技術革新による新しいオンラインイベントモデルの構築に取り組んでいる。
同プラットフォームは、国際学術会議、業界サミット、展示会やフェアなど多くのシーンで利用されている。また、北京大学光華管理学院、中国ヨーロッパビジネススクール、浙江大学、アリクラウド、華為クラウド、華泰証券など様々な業界にサービスを提供している。
同社は2022年6月9日~10日の2日間、「生態系の保護」をテーマとした仮想空間での公共福祉生態写真展を実施した。テクノロジーの活用を通して公共福祉に力を与え、野生動物保護に貢献した。
バイトダンス
バイトダンスはメタバース分野に投資することを厭わない姿勢を見せている。2020年から注力していた新規ゲームの作成や開発を、メタバースと掛け合わせていく予定だ。
ゲーム分野では買収や自社チームによる研究開発を進めている。例えば、日本でも有名なモバイルゲームアプリ「放置少女」などを買収をしている。今後さらにモバイルゲーム市場にて活動を進めていく予定である。
2021年11月にはクラウドショールームやデジタル文化観光などの領域に注力するデジタルツイン企業のテクノロジー企業に投資した。2022年1月にはバーチャルヒューマンを作成し、すでに50万人以上のフォロワーと150万人以上の「いいね!」を獲得済み。
ゲームとメタバースの関係性は非常に高く、既に人気ゲームの買収などにより多くのプレイヤーを集めている。TikTokは中国のネットユーザーの65%が利用しているソーシャルアプリとされており、メタバースを起点としプレイヤー同士を引き合わせ、モバイルの「ソーシャル+ゲーム」のメタバース世界を作成していくだろう。
中国でのメタバースの活用事例
メタバース展覧会
新型コロナウイルスの流行により、オフラインのイベント開催に影響がでた。アーティストは展覧会を開けず、音楽演奏は中断、文学フォーラムも中止となった。著名なSF作家の韓昇は、アーティスト、作家、ミュージシャンのグループを管理しており、メタバースSFコンベンション「Eastern Fantasy」を始めた。
内容としてはアートの展示、音楽パフォーマンス、クロスオーバーフォーラムの3つのパートに分かれており、いずれも中国で初めてメタバースにて開催された。リアルの顔を出す人は、カメラを使用して各会場を回っていた。
アバター作成
Avatarxは仮想空間内でのアバター作成を提供しているプラットフォームである。どのデバイスからでもログインを可能としており、自分オリジナルのキャラクターを作成することが可能。
アバターのモーション作成なども請け負っており、豊かな表情やAI助手なども作成可能。さらには、ガイドや受付などの機能を追加することもできる。
また、仮想空間でのキャラクターはオリジナルキャラを作れるのは魅力的な点ではあるが、より現実に近いキャラを作る機能も備わっている。スマホなどのカメラスキャンによりリアリティ溢れたキャラを作成可能である。あらゆる角度からのスキャンにより正確な自分の分身を作ることが可能だ。
VR物語
VR下でのストーリーを体験可能。仮想空間で自らがストーリーのキャラクターとして物語をメタバースでは体験することができる。
家庭での体験とは違い店舗にてVRシステムを導入しより「リアル」にこだわった演出や感覚をプレイヤーに与える。人間が現実を確認するには五感を頼りにしている。一方、仮想空間では視覚と聴覚しか体験をすることができないため、リアルに感じることが難しいとされている。そこで店舗を構え、嗅覚と触覚をリアルにすることによりさらに仮想空間へと没入をさせることができる。
脚本家、建築家、ランドスケープ、インテリア、グラフィックデザイナー、編集者とともに世界を作っており、若い世代に向けた作品内容を仕上げている。
NFTビジネス
2021年のNFTの爆発的普及に伴い企業作成のシンプルなアートペインティング、フィジカルアセット、ゲーム、メタバースなども販売されている。
メタバースツアーと呼ばれるサービスはTencent、NetEaseなどの大型企業が自社でゲメタバース内にてゲームなどを作成することが予想される。しかし、個人や中小企業等は独自での作成が難しい可能性がある。そんな人たちのために独自でゲームを開発できるプラットフォームをメタバース内にて提供している。作成者は一定の手数料をプラットフォームに支払うことによりプラットフォーム内にてゲームやサービスの提供などを行うことが可能である。
また、zoomのようなオンライン会議などにアバターを用いて仮想空間上での会議や遊びなどを容易にするプラットフォーム等を提供。初心者にもわかりやすく使えるようにしている。
中国でのメタバースの今後の課題
法制度や文化習慣の整備
経済社会の新たなシステムに組み込むためには一連のルールとシステムが必要。 メタバースとは、現実の経済・社会シーンをデジタルでも可能とし、仮想空間ならではのビジネスを可能とする。しかしながら、制度設計や法規範、文化習慣などの仮想空間での設計に向けて実際に統一をしたほうがいいのかどうかは要検討しなければならない。
現実の都市は多種多様なものがあるが、メタバースにおける都市のイメージは、どの国や地域の都市のスタイルを採用するか、選んだスタイルが適切かどうか、ユーザーに受け入れられるかどうか、といった議論が高確率で発生する。
プライバシー保護と独占問題
近年、世界的なデータセキュリティ状況の深刻化に伴い、データセキュリティガバナンスの強化は各国共通認識となる。メタバースは、感覚という高い要求を満たすために、プライバシー情報を提出しなければならない。
既に中国国内ではデータ規制が強化されているため、近い将来、メタバース関連のデータ収集・利用もより制限を受けることになるのは明白である。
メタバースシステムが成熟されると多数のユーザーの接続・交流だけでなく、規格・仕様の整合・統一、大規模インフラの投資・運用が必要とされる。初期の構築過程では有力企業の膨大な人的・物的リソースが必要となり、メタバースをさらにハイテクにし、より便利にする必要性がある。同時に、メタバースが成熟されると比較的安定したサービスプロバイダーも必要である。 したがって、高度な独占状態の形成をいかに回避するかが、今後のメタバース産業の発展において非常に重要な課題となる。
上海在住で杭州出身の中国人。一橋大学の経済学修士課程修了。日本企業でマーケットインサイト部門で就労後、中国のIT会社でユーザー研究・マーケットリサーチに携わる。コンサル業界・証券業界の友人が多いため、リサーチ関連で助けとなっている。