2010年ごろまで、アメリカの代替肉は割高であるものが多かったが、近年は代替肉市場の拡大により一般の食肉価格と同じくらいのコストになりました。特にアメリカの場合、肥満に対する世間の目が厳しくなると同時に代替肉市場は大きく拡大しています。今回はそんなアメリカの代替肉市場について主要企業5選を取り上げながら詳しく解説します。
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アメリカの代替肉事情
代替肉とは?
代替肉(だいたいにく)とは、プラントベースといわれる植物由来の食品とバイオテクノロジーで培養された肉をもとにする食品に分けられる。現在、市場に出回っているものは植物由来の代替肉がほとんどであり、ファストフード店だけではなくスーパーマーケットなどでも一般的に手にすることができるほど、身近な食品になりつつある。
植物由来の食品といえども、それは菜食主義者やヴィーガンたちのためのものではない。代替肉の中には卵や牛乳などが含まれる商品もある。また食肉に近づける過程で、より多くの調味料を使用している。このため健康的な食品であるかどうかは、断言しきれていない。
2016年のインポッシブルバーガーとビヨンドバーガーの大ヒットにより、代替肉の認知が広がった。挽肉に似せた代替肉は進化を遂げ続け、偽物感は日々減少している。ステーキなどの肉の塊までは未完成だが、挽肉は完成といえる食品に仕上がったともいわれている。従来の挽肉とほぼ同じような調理法・味付けで、肉愛好家でさえも納得する仕上がりにすることができるという。
アメリカの代替肉の市場規模
植物由来の代替肉を含む、アメリカ国内で販売されている植物性食品の売り上げは、2020年の69億ドルから2021年には74億ドルに膨らんだ。2020年はコロナ化で特殊な状況だったことを考慮しても、過去3年間で54%の増加となった。
代替肉の購入者の98%が、従来の肉も購入している。このことは代替肉が一般化したことを示していると同時に、消費者が代替肉が購入するに値する食品なのかを吟味している状況を表している。おおむね、消費者は代替肉を受け入れ始めている。一般的なスーパーマーケットにさえ代替肉は陳列されている。
植物由来の代替肉に関しては、2030年にかけて複合年間成長率17.8%の割合で成長し続けると予想されている。大豆主原料製品は全商品の43%を占めている。またエンドウ豆を原料とした製品は、それまでの成長速度の3倍の速さで成長している。その他、小麦を原料とした製品は大豆に次ぐ原材料として成長中。
肥満・糖尿病・心臓病に対する食事改善が注目されているため、代替肉の市場は拡大し続けると予想されている。また、家畜より格段に地球にやさしいとされるため、世論では植物主体の食事に推移していくことも予想されている。
大手スーパーでも植物由来の代替肉の売り上げは2020年3月から6月で50%上昇したところもある。もはや代替肉は、特殊なものではなくなったといえる。
アメリカ政府の代替肉への見解
アメリカは国連が定めた17の持続可能な開発目標(SDGs)の達成には、先進国中最下位の35位でしかない。大統領の入れ替わりで政策が右往左往し、国を挙げての活動がみられない。大都市単位や州単位でのみ、達成している目標があると感じられるに過ぎない。
SDGの2番目にあたる世界的な飢餓の撲滅と12番目にあたる持続可能な生産と消費を達成するには、代替肉は有効な手段とされる。消費者個人によるSDG#2、SDG#12の達成に代替肉使用が寄与しているといえる。
アメリカのSDGs達成率は100点満点中で48.9点でしかない。特にアメリカでは肥満と健康問題については政府介入が十分に行われていない。学校などで炭酸飲料の販売を禁止したことはあるが、それ以上の発展がみられない。
2022年6月に医師などからなる団体が、学校などでの植物由来食品の取り扱い拡大などを含む嘆願書を議会に提出している。議会は検討に入ってはいるものの、いまだ大きな動きは見られない。
欧州で活発なSDGsへの取り組みが、今後のアメリカに影響を与えるかがカギとなっている。消費者はすでに興味を示しているのは確かなので、国の政策が植物由来食品へ舵を切れば欧州以上の成果を生み出すのではないかと期待される。
アメリカの主要代替肉企業5選と特徴
Beyond meat Company
2009年にカリフォルニア州で設立。資本金はビル・ゲイツやビズ・ストーンなどから調達している。2019年にナスダックへ上場している。食品会社というよりは、食品テクノロジー企業として紹介されることが多い。
ビヨンドミートの代替肉の考え方は、バイオテクノロジー的なアプローチからなる。牛肉の分子構造をMRIなどを使って解析し、その分子構造をエンドウ豆などの植物由来の成分を使って再現している。
大手スーパーでの販売網とマクドナルドなどのレストランへの提供の二つの販売チャネルを展開している。いずれの販売チャネルも2019年から2020年にかけて大幅に黒字を延ばした。
商品の中でもハンバーガーパテやナゲットなどの挽肉を使った代替肉は、従来の食肉と思えるほど完成度が高く、価格も手ごろになってきている。半面、ステーキやジャーキーなどは発展途上感が否めないという声が多い。
消費者による代替肉の認知度は高まってきている。これまでの触感の悪さや味などが改善され、さらに地球にやさしいという付加価値を武器とすることができれば、代替肉のパイオニアでいられることは間違いない。
Impossible Foods
2011年にスタンフォード大学教授だったパトリック・ブラウンがカリフォルニア州で設立。ブラウン教授は生化学名誉教授だった。教授の環境問題改善の結論として、工業用畜産農業廃止のための代替肉開発が最善策として設立された。
グーグルやビル・ゲイツから資金調達がされ、2020年には、さらに新商品開発を加速するために、100人以上の科学者を雇用するという計画を発表している。また、2022年現在、株式上場はしていない。
最大の特徴は、血液のヘモグロビンに含まれている「ヘム」という鉄分を含む化学物質を使っている点である。これを培養するのに遺伝子組み換えをした酵母を使用しているので、販売許可が下りていない国や地域が存在する。
ハンバーガーパテ、ソーセージ、ミートボール、ナゲットなどを販売。ネット販売でも好調で、カリフォルニア州ではスーパーマーケットでの販売も好調である。2021年には豚肉の代替肉も発売開始。
ヘムや遺伝子組み換えの規制がある国や地域での販売が難しい。アメリカではバーガーキングやスターバックスで販売され、代替肉の認知度を高めるひとつの商品として広く知られるようになった。
Boca
1979年創業の老舗代替肉会社である。当時はBoca Foods Companyという会社名で、ベジタリアン向けの冷凍植物代替肉入りハンバーガーを販売していた。その後の10年間で代替肉入りのピザなどの商品を開発・販売された。
2000年初めに、アメリカ最大の加工食品会社であるクラフト・フーズによって買収された。当時のボカ・バーガー社は株式非公開であったので、詳細は不明である。現在もイリノイ州シカゴにボカ・バーガー社として本部を設置している。
クラフトによる買収の効果で、全米のスーパーマーケットで購入が可能となっている。昔から身近によく見た代替肉であり、現在はハンバーガーパテとナゲットと挽肉が主力商品となっている。
代替肉といえども原料にはクリームやチーズなどが含まれているため、完全菜食主義者には適していないともいえる。商品の中には、遺伝子組み換えの大豆を使っていないと明記されたものがあり、あきらかにImpossible Foods社などの製品との差別化を図っている。
古参であるがゆえに、味や触感は他の代替肉と比較すると一段下がる感じは否めない。環境や健康に配慮したというよりは、食肉を使っていないことだけに着目した食品と消費者に捕らえられている。
Morningstar Farms
アメリカにおいて非常に有名な胃薬であるアルカセッツァーやビタミン剤のワンスアデイなどを製造販売していたマイルズ・ラボラトリー社の一部門として設立された。1975年には、大豆由来の代替肉(ハンバーガーパテ)がすでにスーパーマーケットに並んでいたという、非常に歴史のある代替肉販売会社である。
その後、1999年に総合食品会社のケロッグ社が買収に成功した。ケロッグ社の傘下入っても社名や商品開発理念は変えず、モーニングスター・ファーム社の代替肉はケロッグ社の販売網に乗って全米展開していった。
最大の特徴は、「朝食用・昼食用・夕食用」など、商品ラインナップが豊富である点にある。また、2019年には販売されている全製品をヴィーガン(完全菜食主義)向けにすると発表した。ただし、2022年現在、商品の中には卵やチーズなどを含むものがあり、完全実施には至っていない。
総合食品会社ケロッグ社の傘下らしく、モーニングスター・ファーム社のホームページには自社商品を使ったレシピ集が充実している。最先端の代替肉には程遠いが、ファストフードで提供されているようなものに近い味・食感がある。
価格は落ち着いてきており、とびぬけて割高という感じではない。また地域によって代替肉の人気度合いが極端に違うので、在庫具合が地域ごとに異なる。
No Evil Foods
2014年にノースカロライナ州の小さな町のファーマーズマーケットから出発した代替肉メーカーである。他の代替肉メーカーと同様に、SDGsの実現を企業理念とし、CEOの一人であるサンドラ・シャデル女史は講演会にも奔走している。
最大の特徴は新しく若い企業であることを表現している、そのパッケージにある。CEOのマイク・ウォリアンスキー氏が元バンドマンだったことも大きな影響を与えている。商品の全体的な傾向としては、いわゆるTEXMEX(テキサス料理やメキシコ料理)を土台にしたものが多い。
本物の肉に近づけるため各企業は様々な科学的研究を追及しているが、No Evil Foods社は自分たちのできる範囲で代替肉を作っている。どの商品も原材料は細かく表示され、しかもよく目にするものばかりで作られていることがわかる。
他社の代替肉でみられるハンバーガーパテは、製造していない。チョリソーなどのソーセージが主力商品である。ほとんどの商品は小麦粉を主体とした代替肉で、それぞれの商品で独特のスパイス調合がなされている。
食感はパサつくものが多く、いかにも代替肉というかんじがする。全米展開しているものの、どこでも手に入る商品とは言い難い。
アメリカの代替肉のトレンド
代替肉のリアルさの追求
かつての代替肉は、肉とは思えない粘土のようなものが多くみられた。味付けもジャンクフードのようなものが多く、特別な事情がない限り口にすることはめったになかった。2005年ごろを境に、これらの代替商品が加速度的に品質が向上していった。
大手ハンバーガーチェーンがそろって代替肉を使った商品を通常販売しており、購入者の感想の多くは食感も味も、本物と変わらないとしている。この傾向は、それまでの代替肉の感想を翻すものであり、トップメーカーはさらにリアルさを求めて科学的アプローチを追及している。
挽肉の代替肉は完成の域に達してきており、ハンバーガーパテだけでなく、ナゲットやソーセージもリアルな食感・風味などを再現している。次はステーキなど、リアルな代替肉塊の完成が期待されている。
代替肉の価格の安定化
2010年ごろまで、代替肉の一般小売価格は本物の食肉と比較すれば割高であるものが多かった。代替肉の市場は、アメリカの場合、肥満に対する世間の目が厳しくなると同時に拡大した。現在では心臓疾患にも動物肉の摂取は問題視され、植物由来の代替肉が食欲も満たし、かつ健康にも良いとされ評価された。
世間の代替肉への高評価と比例して企業の開発がさらに進み、好循環が始まった。2010年以降の代替肉の価格は安定し始め、食肉価格とほぼ変わらないところまで落ち着いてきている。
科学的手法を用いたリアルな代替肉は開発コストがかさみ、小売価格が高騰する傾向があったが、代替肉市場が拡大したことでコスト削減につながったとみられている。今後10年間で現在の3倍の市場規模が期待され、さらに価格の安定がみられるのではないかと期待されている。
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。