【アメリカのEV】アメリカの主要EVメーカー5選とEV市場の今後を解説

十年ほど前のアメリカでは、トヨタのハイブリッド車であるプリウスが人気だったものの、徐々にテスラをはじめとするEVに注目が集まっていきました。しかし、2022年現在、各社主要メーカーの生産車両総数のうちのEV率は、まだ約4.6%程度でしかありません。今回は、世界的に順調な成長を続けるEV市場について、アメリカのEV主要メーカー5選を取り上げながら解説します。

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アメリカでビジネスをするなら知っておきたい10のこと
目次

アメリカのEV(電気自動車)市場

アメリカのEV(電気自動車)の市場規模

コロナ禍・戦争などによる半導体不足から自動車販売台数減少があったにもかかわらず、世界の電気自動車(以降EV)は順調に成長を続けている。特に2019年以降の成長率は著しい。2022年で自動車生産数の約6%がEVといわれる。

十年ほど前のアメリカではトヨタのハイブリッド車であるプリウスが大人気であった。その後、韓国車の人気が瞬間的に持ち上がったが、すぐにテスラをはじめとするEV人気に移っていった。とはいえ、2022年現在では、各社主要メーカーの生産車両総数のうちのEV率は、まだ約4.6%程度でしかない。

EV車両はガソリン車と比較して車重が重く、輸出となるとコスト増となる。車両価格自体ガソリン車と比較して高額なので、これを考慮して地産地消的な発想で販売するメーカーが多い。しかし欧州中心に環境に優しいEVへのシフトは進んでおり、アメリカからのEV輸出量は昨年比10%以上で成長中である。

テスラがドイツに工場を建設予定であり、これを足掛かりに欧州でのシェア率を高めようとしている。欧州のEV販売台数は2022年に中国を抜いて1位となり、今なお拡大するマーケットになっている。テスラに続くアメリカ主要メーカーも欧州を中心に輸出量を増やそうとしている。

アメリカのEV(電気自動車)の普及状況

2021年のアメリカ国内EV普及率は自動車登録数の約3%でしかなかった。それが2022年には約6%まで向上している。この結果から考えれば、アメリカ国内におけるEV普及率は急速に高まってきていると考えられている。

特に大気汚染が深刻な問題となっているカリフォルニア州では、2022年の自動車登録数で約10%がEVである。州法で排気ガス規制を強化したためと、環境問題に取り組む市民の意識がEV車両の販売数を伸ばしたと考えられている。

かつてのトヨタのハイブリッド車・プリウスの北米大流行も、環境問題を意識したカリフォルニア州がはじまりとされている。今回のEV普及は、テスラがけん引している。アメリカEV販売数の約7割がテスラである。

アメリカのEV(電気自動車)の他国への投資状況

アメリカのEVメーカーは他国へ積極的に投資をしていない。ひとつには、最大の貿易相手国である中国との関係が悪化していることに理由がある。このため、アメリカ政府はCHIPS法などで自国への投資に切り替えている。

逆に、アメリカEVメーカー最大手のテスラは、中国に組み立て工場を建設した。続いてドイツにも建設予定である。中国は国を挙げて自動車のEVへのシフトを後押ししており、テスラとしては対米中関係悪化が進んだとしても中国市場が堅実になるための工場建設としている。

EV車に需要な部品である電池やモーターなどの部品は、人件費の安い国での生産が望ましい。ただし、生産の歴史が長いガソリン車の部品と比較して、進化の途中であるEV車の部品はインフラ整備に費用がかかるため、アメリカ自動車メーカー大手であっても、他国への投資はガソリン車ほどにはなっていない。

世界規模でみると2030年までに、欧州と中国を中心に5000億米ドルの投資がEV関連、特に電池に対して投資されるのではないかとされている。人件費の安い途上国がEV生産に対してインフラ整備をどこまで整えられるかがカギとなっているが、アメリカは地産地消に舵を切っており、今後の投資状況は不透明といえる。

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アメリカのEV(電気自動車)政策

税制優遇制度

2009年、当時のオバマ政権において、アメリカの経済再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)に基づき制定された法案の一つにEV関連の減税法案があった。

消費者に対しての減税は、消費者からの申請により最大で7500米ドルの連邦税免除が受けられるものであった。対象はEV車の価格が8万米ドル以下の車であることが条件であった。この法案はメーカーごとに適応台数が決まっていた。

2022年夏に、メーカーごとに振り当てられていた20万台という上限を撤廃した。ただし新法案には減税対象となる車両はアメリカ国内で組み立てられたものと限定している。さらに電池の原材料の供給先をアメリカか、アメリカと自由貿易協定を締結している国に限定した。新法案は2032年まで継続される。

新法に対して、アメリカ国内で発売されているEV車の約7割が対象外になるとされる。日本車で減税優遇制度が利用できるのは日産自動車のEV「リーフ」のみとなっている。欧州や韓国は、新法にWTO違反だと反発している。

ZEV

2020年8月、カリフォルニア州は熱波激化のために電力が追い付かず、20年ぶりの計画停電を実施した。州知事は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する政策と発表した。

トランプ政権で中断していた気候変動対策は、バイデン政権の重要な政策の一つになっている。カリフォルニア州の政策と同じく、バイデン政権でも2030年末には充電ステーションの充実などを計画している。

2020年7月、カリフォルニア州大気資源委員会は、アメリカの15の州(カリフォルニア州、コネチカット州、コロラド州、ハワイ州、メイン州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ノースカロライナ州、オレゴン州、ペンシルバニア州、ロードアイランド州、バーモント州、ワシントン州)とコロンビア特別区とのZEV化覚書に調印した。

特にバスやトラックなどの大型車両については、2030年までに新車販売台数の30%を、また2050年までに新車販売台数の100%をZEV化することを目指している。

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アメリカの主要EV(電気自動車)メーカー5選

Ford

アメリカ全体でみると、実は普通乗用車の販売台数よりもトラックの販売台数のほうが多い。そのアメリカ産トラックにおいて、40年以上も不動の販売台数首位を守り続けているのがF-150 である。そのF-150 が2021年に、EV車両を販売開始した。

ガソリン使用のF-150エントリーモデルより2割も安く、販売初年度の2022年で15617台の大ヒットとなった。アメリカでは珍しく、3年先まで予約があるほどの人気車両となった。一部では、F-150の成功がアメリカのEV界を大きく進化させる起爆剤になったと評価している。

フォードのスポーツカーといえば、ムスタングが世界的に有名である。その代表的なアイコンを、新ムスタングはSUVに、しかもEVへと進化させた。航続距離も長く、また価格も50000米ドルを下回る購入しやすさで、2022年には39458台のムスタング・マッハEが販売された。

アメリカ自動車メーカーの代表であるフォードが、今後の車つくりをガソリン車からEV車へと、どうやって変遷していくのかが注目されている。現在発表されている車種にEV版を加えるのか、新車開発していくのか、今後の展開に期待が寄せられている。

Chevrolet

ゼネラルモータース内のひとつのブランドであるシボレーからは、過去、Volt(ボルト)という名のハイブリットカーを発売していた。発音がよく似ているが、シボレーの代表的EV車はBolt(ボルト)である。

数年前までのEV車は高価で裕福層向け・航続距離が短いので市街地走行向けと考えられていた。近年、EV車の性能は飛躍的に向上し、価格もガソリン車に近づいてきた。特に日産LEAFとボルトの2車は、アメリカ国内で入手できるEV車の中で唯一3万ドルを下回る価格である。

シボレーもフォードと同様、アメリカ国内販売数ではトラックの数が多い。このためシボレートラックの代表だあるシルバラードにEVモデルを発表している。発売は2024年を予定しているが、すでに予約が殺到しているという。その他、小型SUVのエクイノックスもEV版を2023年に発表するとみられている。

シボレーブランドを擁するゼネラルモータース全体でみると、2025年までにおよそ30種類のEV車両発表を予定している。ゼネラルモータース全体の目標としては100万台のEV車両販売を目標に掲げている。

GMC

アメリカ最大自動車メーカーゼネラルモータースの中にある、商用車やトラックなどを専門に扱うブランドがGMC である。かつては大型トラックや消防車や救急車なども製造していたが、現在は小型トラックなどを中心に製造販売する。

軍用四輪駆動車を民間向けに発売していたハマーは、1999年にゼネラルモータースが販売権を買い上げた。元が軍用車ゆえに燃費が悪く、2010年に生産終了となった。そのハマーがGMCブランドで、しかもEV化されて再デビューした。加速や馬力は、従来のハマーの名を汚さぬよう驚異的なスペックを持つ。

2020年5月、GMCブランドとしては初のEV車をハマーでデビューさせた。2021年12月には販売開始した。大きく分けて従来のハマーを踏襲するSUVタイプと、ピックアップトラックタイプの2種類を販売予定する。

2024年までに合計4種類のEVハマーモデルを計画しているが、すでに予約完売の状態という。また、GMCブランドの他小型トラックのEV化も検討されている。ゼネラルモータース全体でEV化へ舵を切っていることは明白である。

Rivian Automotive

いわゆるアメリカベンチャー企業である。2009年にカリフォルニア州で創業。SUVとピックアップトラックのEVを製造販売している。最大の特徴は、駆動系などのフレームを汎用パーツとして利用して作業効率を図っている点にある。

またアマゾン社と提携しており、配達用の電動バンの製造を引き受けている。EV車の大きな問題のひとつは充電ステーションがあげられるが、リヴィアン社では全米に専用の充電ステーションを整備する計画がある。

製造工場はイリノイ州にあった三菱自動車の工場を2016年にそのまま居ぬきで買い取った。その他、カリフォルニア州内、ミシガン州、アリゾナ州やカナダのバンクーバーやイギリスにも施設がある。さらにジョージア州に大規模な製造工場を建設する計画があるといわれている。

2021年に初出荷。2018年の従業員は250名程度だったが、2022年には10000人以上在籍するのではないかと言われている。投資家の間では、テスラ社の主な競争相手とみなされている。

Tesla

テキサス州オースチン市に本社を構える、EV・電気輸送機器・ソーラーパネルなどを主な製品とする企業である。2020年のデータでいえば、ハイブリッド車を含めた場合は約16%、完全なEV車の場合は約23%がテスラ車である。

2003年デラウエア州にて創業。当初はテスラ・モータースという社名であった。創業当時から投資をしてきたイーロン・マスクが2008年からCEOに就任している。テスラ車としては2009年にロードスターがデビューモデルだった。

2018年にモデル3という車種を発表。瞬く間にベストセラー車種となる。テスラは価格改定を突然行う自動車メーカーで、過去数回の値上げを行っていた。逆に2022年には、突如20%の値下げを行った。

2020年に小型SUVのモデルYを発売した。特に欧州での人気が高く、ガソリン車を含む世界売り上げランクの上位に入っている。アメリカでのEV車のうち、約7割はテスラ車であるといわれる。

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アメリカのEV(電気自動車)業界のトレンド

EV(電気自動車)の国内生産

バイデン政権はインフレ削減法などを可決させ、例えばガソリン価格の異常な高騰などを解決する方法を模索している。コロナ禍により経済活動の不活性化がみられたため、それを打破する方法として内需拡大を狙っている。

中国や欧州では、すでに環境保全や健康面からEV化を進めている。国家政策としても消費者の購入に対して減税を行ったり、EV関連施設への投資などを行っている。CHIPS法やEV減税優遇制度など、アメリカも同様に政策にはEVも視野に入れている。

半導体などは製品自体が小型・軽量であるために、輸送にかかるコストが少ない。このため、人件費の安い国で生産し、最終工程だけアメリカで行うことが理想とされる。EV車両に関しても半導体は多々使用されており、国外での生産・投資されることが懸念されていた。

これまでの輸出品目で自動車は上位品目であり、今後も主軸となるはずである。貿易黒字を維持するためには、海外拠点で生産させるのではなく、アメリカ国内で生産して輸出することが望ましい。このため、全工程をアメリカ国内で完成させ輸出する方法を最も理想としている。

EV化による自動車産業の空洞化を避けるためにも、バッテリー生産を含め、サプライチェーンは国内生産拠点に切り替えるべきと政府は考えている。

EV(電気自動車)の普及

ハリウッド俳優たちが環境保全をアピールする手段として、こぞってハイブリッド車を購入していた時代があった。それが今はEV車に変わった。環境保全を考えれば、ZEVでなければ意味がないと、意識が高い層は考え始めたといわれる。

ところがアメリカ中西部の州知事たちは、大都市圏以外には充電ステーションが見当たらないとして、EV化には慎重な態度をとっている。バッテリー技術の発達で航続距離は長くなり、車両本体価格はガソリン車と同じ程度のEV車も登場しているが、充電ステーションがガソリンスタンド並みに整備されないと早期普及は難しいのではないかとされている。

2010年から2022年の間、非常に穏やかな曲線ではあるが、EV市場は上昇曲線を描いている。コロナ禍のため前年比18%減となった2022年第1四半期の自動車登録台数のうち、約60%がEV車であるという。それでもアメリカで生産・登録された全車両のうちEV車両はわずか4.6%でしかない。

やはりネックとなっているのが充電ステーションの問題である。巷にあるガソリンステーションと比較すれば、充電ステーションは少ない。公共駐車場やスーパーマーケットの駐車場などに充電ステーションが作られ始めているが、都市部だけの状況であって、郊外では家庭用電源から充電するしかない。

こうしたインフラの整備とガソリン車より割高な価格設定の問題が解決できれば、EV化は急激に拡大していくだろうと専門家たちは考えている。

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