アメリカの酒類業界は、2024年、消費者の価値観の変化を反映し、新しい潮流が次々と生まれています。ノンアルコール飲料や低アルコール商品の人気が高まり、健康志向のニーズに応える一方で、環境に配慮した生産プロセスやパッケージングも注目されています。さらに、AIやブロックチェーン技術を活用した製品の追跡可能性や消費者体験の向上も話題に。本記事では、業界を変革する最新トレンドを深掘りし、次世代の市場機会を探ります。
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2023年 アメリカの酒類業界
オンラインアルコール販売、正常化に~酒類業界動向〜
米国でのアルコール販売は州ごとで規制が若干異なるため、オンラインでの販売がうまく機能していなかった部分もあった。それが、コロナ禍を経てオンラインショッピングが一般的になると、アルコール販売に関しても大きな動きがあった。
特定の州では規制緩和が、他の州では様々な工夫で規制を回避しする方法がとられた。結果、オンラインでの酒類販売はコロナ以前の状態に戻り、さらに2021年から2026年の間に平均成⻑率11%にまでなると予想される。ただし、現在のオンラインでの酒類購入は酒類販売総額のわずか3.5%でしかない。
様々なオンライン販売網を利用して、特に高級蒸留酒(ウイスキーやテキーラ)や高級シャンパンなどが人気になりつつある。⻑きにわたるインフレのために消費者購入欲が不安定ではあるが、「ご褒美」として購入するような流れが見られる。
出典:https://www.theiwsr.com/online-alcohol-sales-in-the-us-normalise-after-a-surge-during-covid-19-lockdowns/
フードデリバリーで人気のお酒とは〜酒類業界動向〜
宅配サービスのDOORDASHが自社の顧客500人に対して、2022年11月30日から同年12月6日までの間の利用状況を調査した。その結果、これまで注文人気一番のピザやハンバーガーなどにかわり、サラダやタコスなどの「比較的健康的な食品」の注文が増えていることが分かった。
また、注文された飲み物についても、これまで首位であったビールやコーラなどの炭酸飲料にかわり、アルコール5%程度の炭酸飲料(ハードセルツァー)が人気となり、これまでの5倍以上の注文数となっている。特にウォッカとテキーラをベースとしたものが売れている。
消費者の最優先事項は「利便性」であり、アプリなどにもストレスを感じさせない工夫が求められている。また、⻑く続くインフレのために消費者にとって低料金は重要であるが、地元のレストランをサポートする新しい方法も模索しているともいわれている。
出典: https://about.doordash.com/en-us/news/doordash-unveils-what-and-how-consumers-have-been-eating-and-drinking-in-2023
ビール会社がビール以外の酒類を発売〜酒類業界動向〜
2023年2月15日の発表によるとアメリカで4番目に大きいビール会社であるボストンビール社は、2016年から市場に投入したアルコール炭酸飲料「Truly」のシリーズを刷新した。同社にとってはアメリカ国内のハードセルツァー売上2位から首位を目指すために、新規開発ともいえる改革となった。
ノンアル飲料とパッケージが似ていることなどが混乱を起こしていたので、パッケージを「見てすぐにわかる」ものに変更。さらに消費者の健康ブームをうけ、使用する果汁は「本物」にこだわり、よりさわやかな味わいを、より分かりやすく伝えるように改良した。
さらに2022年から始めた季節限定品を各学期ごとにリリース。販売促進手段として利用する。蒸留方法を変えた「プレミアム」を「セルツァー」ではなく「ソーダ」に改名して販売。こうした新規開発に近い改革を経て、他社製品と差別化をはかる。ビール会社が作ったビール以外の酒類の開発が、大きな話題になっている。
出典:https://www.bostonbeer.com/news/2023/02/truly-hard-seltzer-to-refresh-product-portfolio
ミレニアル世代とZ世代の酒類扱い〜酒類業界動向〜
2023年6月7日の全米レストラン協会の発表によると、90%以上のレストランはテイクアウトメニューに酒類が含まれているとのことだ。また自店の配達ではなく、Uberイーツなどのサードパーティーデリバリーサービスと提携しているレストランは全体の26%以上あるという。
一方で、飲酒可能な全年齢層を調べてみると、過去6か月の間でレストランでのテイクアウトまたはデリバリーを利用した人のうち、酒類が注文に含まれていたのはわずか25%に過ぎないという。いくつかの州では酒類のデリバリーには規制があることが障害のひとつになっているという。
ミレニアル世代の62%、またZ世代の52%は、テイクアウトレストランを決める際に、酒類を注文に含めることができるレストランであるかが重要と答えている。酒類を好む率が低いとされている2つの世代だが、食事と関連させると、実は他の世代と変わらない、一般的な結果になっていることがわかる。
出典:https://restaurant.org/research-and-media/media/press-releases/profits-on-tap-more-than-half-of-millennials-and-gen-z-adults-
蒸留酒を使ったカクテル需要の向上〜酒類業界動向〜
トロピカーナ社に次ぐ有名なオレンジジュースメーカーであるSimply飲料社は、コカ・コーラ傘下の飲料会社である。そのSimply飲料社が、消費トレンドを見越してフレッシュジュースを原材料にした、簡単にカクテルが作れる、カクテル用ジュースを新たに発売した。
アメリカではビール消費が落ち込み、蒸留酒を使ったカクテルの需要が高まっている。また、ミレニアル世代やZ世代のような酒類には興味が薄く、かわりに水や自然食品などに興味があるニーズもある。発売になったSimply Mixologyにより、これらの市場が潤うことになる。
昨年モルソン・クアーズとコラボでリリースしたSimplySpikedレモネードは大ヒット。自宅で気軽にカクテルが作れ、しかもモクテル(ノンアルコールカクテル)にも使える便利さから、Simply Mixologyは消費者に新しいSimply飲料を届けるであろう。
出典: https://www.coca-colacompany.com/media-center/simply-mixology-raises-the-bar-of-the-at-home-mocktail-and-cocktail-
2021-2022年 アメリカの酒類業界
2022年のアルコール飲料消費統計と傾向〜酒類業界動向〜
2022年4月16日、ペンシルバニア州立大学がアルコール飲料消費統計と傾向をまとめた。それによると男性の63%、女性の57%が飲酒しているという。また、1週間平均で3.6杯の飲酒があり、前年からわずかに減っている。ミレニアル世代は90%が飲酒しているのに対して、Z世代は84%であった。
さらにノンアルコール飲料売り上げは33%増加し、低アルコール飲料の売り上げは8%増加した。しかしノンアルコール飲料を購入した78%がビールやワインなどのアルコール飲料も購入している。反面、ワインなどの750mlボトルの売り上げは減少し、250mlなどの小型ボトルの売り上げが伸びていることがわかった。
他にも、アルコール飲料を購入する消費者は、複数の種類の酒類購入をしていることがわかった。ビールしか飲まない消費者は全体の22%、ワインしか飲まない消費者は17%、蒸留酒しか飲まない消費者は14%という結果になった。
出典:https://extension.psu.edu/alcoholic-beverage-consumption-statistics-and-trends-2022
アルコール市場の競争報告書〜酒類業界動向〜
2022年2月9日、財務省が酒類市場の競争報告書を発表し中小企業の機会拡大を提言した。それによると、この数十年間で新興企業の急増が見られ、経済発展の面からすると称賛に値するとしている。一方で、酒類の規制が前時代的であり、新規参入者への足かせとなっていることも指摘されている。
ジョナサン・カンター司法次官補は、酒類業界の首領であるビール業界の言いなりになるべきではないと、消費者や起業家に注意を施した。また「執行当局と規制当局は、法を時代に合わせ改正し、競争を保護すべき存在になるべきである」と提言している。
この報告書ではさらに、企業の合併や買収の見直し、酒類貿易の排他的な行為の見直し、禁酒法時代以降の法規制の改革など、ビール・ワイン・蒸留酒の市場における正しい競争のありかたを示している。複雑で古典的な規制が、中小企業を抑圧し、新規参加企業の市場介入を阻止しているひとつの原因だとしている。
出典:https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy0591
新しい飲酒トレンド「ノンアルコール酒」〜酒類業界動向〜
オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、日本、南アフリカ、スペイン、イギリス、アメリカのうち、ノンアルコールおよび低アルコール飲料の市場価格は2018年の80億米ドルから110億米ドルに成⻑した。
特に成⻑が期待される市場はドイツ、日本、スペイン、イギリス、アメリカである。アメリカなどでは、2022年から2026年にかけて二桁の年間複合成⻑率が見込まれている。その中でもノンアルコールのRTD(レディートゥードリンク)の成⻑は日本とアメリカが牽引している。
ターゲット市場はミレニアル世代である。実はノンアルコール飲料や低アルコール飲料消費者の78%は普通のアルコール飲料も飲んでいる。つまり機会に応じて適宜切り替えている。コストも下がったことで購入しやすくなっている。残る最大の課題は認知度不足であるとされている。
出典: https://www.theiwsr.com/no-and-low-alcohol-category-value-surpasses-11bn-in-2022/
コカ・コーラのアルコール飲料実験~酒類業界動向〜
ビール需要が減少しているアメリカでは、蒸留酒を使ったカクテルが人気となりつつある。しかもバーに行って飲んだり自宅で作るものではなく、気軽に飲めるRTD(レディートゥードリンク)といわれる缶入りカクテルが人気となりつつある。
1966年にコカ・コーラ社が発売した低カロリー飲料のフレスカは、アメリカ家庭の定番飲料となっている。それをもとに、コカ・コーラ社が100カロリーで糖質ゼロ、アルコール度数5%のウォッカベースとテキーラベースの2種類のフレスカ・ミックスド・カクテルを発売する。
2018年には日本で檸檬堂とのコラボでRTDを発表し、2021年にはアメリカでもモリソン・クアーズとのコラボでRTDを発売した。今回のフレスカを使った販売実験は、アメリカのビール一辺倒だったアルコール嗜好を覆す実験になるだろうといわれている。
出典:https://www.frescamixed.com/
コロナの酒類販売に対しての影響〜酒類業界動向〜
2021年12月20日の発表によると、ニューヨーク州立バッファロー大学の研究者3人が、16州におけるコロナと酒類販売の因果関係について調査した。一般的には、コロナによる外出禁止令などの制限が導入されたために、酒類売り上げが増加したといわれている。それを改めて精査したということである。
それによると、確かにコロナ初期には全体として蒸留酒とワインの売り上げが向上していた。一方で、ビールは全体的に減少していた。ただし、カンザス州とアーカンソー州とテキサス州でのビール売り上げは増加していた。またテキサス州とケンタッキー州とバージニア州では蒸留酒とワインの売り上げは、コロナに関係なく持続的に増加している。
また、コロナ禍において、一部の州で酒類のオンライン購入が増えたことが分かった。さらに一部の州では、外出制限があったときに蒸留酒とワインの「パニック買い」が増加した可能性が見られた。
出典:https://www.buffalo.edu/news/releases/2021/12/015.html
ワシントン在住の日本人。大学卒業後、日本で外資系メーカーに勤めており、営業とマーケティングを経験。マーケティングは発売予定の製品周りの広告、パッケージや販促、イベントやデジタルプラットフォームの使用等様々な側面に関わり、年に1−2回ある新商品発売に向けて取り組む。渡米してからはフリーランスでスタートアップにマーケティングやマーケティングリサーチのサービスを提供し、プロジェクトベースで様々な依頼に応えている。