ゴム生産が盛んなマレーシアではゴムを主原料とする製品がマレーシアの医療用機器輸出の約6割を占めています。2022年度は、世界的パンデミックの中で、ゴム手袋やマスクなどの需要が増え、マレーシアの医療機器業界は急激に成長しました。
今回は、そんなマレーシアの医療機器業界に関する最新情報をお届けします!
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2022年 マレーシアの医療機器(医療・介護)業界
トップグローブ、2022年度は大幅減収減益に〜医療機器業界動向〜
2022年11月の発表によると、世界最大手の手袋メーカーであるトップグローブは、2022年度の収益が前年度の164億リンギットから56億リンギットへ大幅に縮小したことを発表。税引後利益についても、前年度の78億リンギットから3億リンギットへ縮小した。
主要要因は、新規生産能力による手袋の供給過剰に加え、パンデミック時の顧客による過剰備蓄が大きく影響した。結果、受注は大幅に減速し、それに伴い平均販売価格も下落した。さらに、世界的なサプライチェーンの混乱、2022年度中の天然ガス料金引き上げ、及び2022年5月に施行された国内最低賃金引き上げで運用コストが上昇した。
2023年度、同社は運用効率、コスト合理化、人材育成、及び持続可能な利害関係者の価値創造といった4つの重要な分野での基盤強化へ注力するとしている。さらに、この機会に既存の生産ラインの改修・更新を行い、業界が回復した時に備えて体制を整えるとしている。
出典:https://www.bursamalaysia.com/market_information/announcements/company_announcement/announcement_details?ann_id=3306062
MIDAとAMMIが医療機器業界の展望発表〜医療機器業界動向〜
マレーシア投資開発庁(MIDA)とマレーシア医療産業協会(AMMI)は、2022年11月14日、COVID-19パンデミックの課題に直面したマレーシアの医療機器業界の驚くべき回復力に焦点を当てた「AMMI医療機器産業の現状と展望2021年/2022年報告書」を発表した。
報告書によると、世界の医療技術企業上位30社のうち10社がマレーシアに製造拠点を有しており、世界有数の医療機器のオフショア製造ハブとみなされている。現在、マレーシアでは300社近い医療機器メーカーが地域本部や製造、研究開発(R&D)などの活動を展開している。
AMMIのアンディー・リー会長は、マレーシアは、環太平洋パートナーシップ協定の批准により、医療機器製造の外国直接投資をさらに誘致していくだろうとしている。また、パンデミック時において、AMMI会員のマレーシアへの投資額は増加を続けており、この傾向は今後数年間続くと予想されている。
出典:https://www.mida.gov.my/media-release/mida-and-ammi-launched-medical-device-industry-status-outlook-2021-2022-report-malaysia-dazzles-as-a-world-leader-in-medical-device/
MDAが新しいオンライン決済導入〜医療機器業界動向〜
マレーシア保健省傘下の医療機器庁(MDA)は、2023年2月24日から「BayarNow」と呼ばれる新しいオンライン決済システムを開始したことを発表した。
顧客はこの新しい決済システムを使用して、トレーニング料金、製品分類レターの申請、自由販売証明書、及びオンライン申請システムの「Medcast2.0+」では処理できないその他の支払いを行うことができる。「BayarNow」は、MDAで申請が承認された後、登録された電子メールにリンクが送付され、銀行決済の「FPX」を介してオンラインで支払うことができるシステムとなっている。
この新しいソリューションは、顧客にシームレスで手間のかからないデジタルソリューションを提供し続けるというMDAのコミットメントの一部であり、同庁は今後もサービス品質の向上に向けた取り組みを強化していくとしている。
出典:https://portal.mda.gov.my/announcement/1152-press-release-medical-device-authority-mda-ministry-of-health-malaysia-mda-introduces-it-s-new-online-payment-system-bayarnow.html
BSXがペナン州で医療機器事業拡大〜医療機器業界動向〜
米国を拠点として1979年に設立されたボストン・サイエンティフィック(BSX)は、2022年11月14日、ペナン州で11万平方フィートのグローバル物流センターを含む施設拡張を発表し、今後数年間で約300人の雇用が可能になる見込みとなっている。
新しい施設の一部ではソーラーパネルを使用し、エネルギー効率化のために電力監視システムを採用する予定だ。さらに、屋内及び屋外で使用するための雨水貯留システムを備えることで、施設が近い将来に環境性能評価システム「LEED」のゴールド認証を取得することを目指している。
新施設は、同社にとって3ヶ所目となるグローバル・ディストリビューション・センターであり、マレーシア国内及び世界各国に医療機器を出荷する。施設では、製造業務に加え、物流、カスタマーケア、機器サービス修理など、知識集約型の地域サプライチェーン業務に従事する専門家を雇用する予定だ。
出典:https://investpenang.gov.my/press-release-boston-scientific-expands-operations-in-penang/
コマークコープ、マスク販売収益が寄与〜医療機器業界動向〜
1975年に設立され、世界クラスの粘着ラベルソリューションを提供するコマークコープは、2023年2月、2022年度第3四半期の収益が907万リンギット、税引後損失が54万4,000リンギットを記録したことを発表した。
収益の内訳としては、フェイスマスクの同期収益が460万リンギットとなり、全収益の51%に寄与した。また、2022年度第1四半期から同年度第3四半期までの収益は1,491万リンギットとなり、全収益の48%に寄与した。
同社においては、消費者向けパッケージ及び印刷サービス業界の景気後退の影響を緩和するため、フェイスマスク事業の展開に一層注力するとしている。具体的には、2023年までに3層フェイスマスクの製造ラインを最大102ライン、レスピレーターフェイスマスクの製造ラインを26ライン設置することを予定しており、更に医療用サージカルマスクを製造するための新しい機械に投資することを計画している。
出典:https://www.insage.com.my/BursaNews/Attachment/202302/20230224/KOMARK-AN20230224A1-1.pdf
2020年 マレーシアの医療機器(医療・介護)業界
マレーシアのトップグローブ、COVIDで収益大幅増〜医療機器業界動向〜
世界最大手の手袋メーカーであるトップグローブは、2020年度の収益が前年度比で51%増となる72.4億リンギット、税引後利益も前年度比417%増となる19億リンギットを記録し、販売数量も17%増加した。
成長の背景は、COVID-19パンデミックによる世界的な需要が急増したことにある。2020年度第4四半期は、特にアジア、西ヨーロッパ、東ヨーロッパにおいて前年同期比でそれぞれ110%、73%、64%の需要が増加した。最も好調だったのはニトリル手袋の需要で、前年同期比で31%増加した。
同社は、COVID-19により手袋需要が2020年に年間20%、2021年に25%、COVID後に15%増加すると見通している。また、ワクチンが利用可能になった場合でも、手袋需要は高いレベルにとどまると予想している。
出典:https://www.topglove.com/App_ClientFile/7ff8cb3f-fbf6-42e7-81da-6db6a0ab2ef4/WebEvent/UploadItem/EventDocument/6e51e590-d7c2-4b88-ba84-f449c2052f3d_en.pdf
マレーシアのMIDAとAMMIが医療機器産業報告書発表〜医療機器業界動向〜
マレーシア工業開発庁(MIDA)とマレーシア医療産業協会(AMMI)は、2019年/2020年の医療機器産業の状況と展望報告書を発表した。報告書では、AMMI会員が国内サプライヤーや中小企業から42億リンギットの原材料やサービスを調達しているとしている。
また、世界経済が悪化している中、マレーシアの医療機器産業の見通しは依然として楽観的であり、AMMIの回答者は2020年にプラント拡張や新製品開発、R&Dに7億6,500万リンギットを投資するとしている。
医療機器輸出に関しては、AMMI会員が2018年の輸出額の55%以上を占めた。AMMIの分析によると、マレーシアからの医療機器輸出は2019年に前年比12%増となる257億リンギット、2020年には288億リンギットに達すると見通している。
出典:https://www.mida.gov.my/home/9608/news/ammi-members-will-invest-a-collective-amount-of-rm765-million-in-plant-expansion-new-product-developmentr-d-in-2020-/
インドネシアのKeyASICとUCRESTが人工呼吸器で協力〜医療機器業界動向〜
IPやASIC、SoCの設計を手掛けるKeyASICは、同社の特許技術である『MCard』と、クラウドホスピタル及びモバイルヘルスサービスを提供するUCREST社の『iMedic』が、COVID-19のパンデミックに共同で対応する契約を締結した。
KeyASICのMCardは、中国BMCメディカル社の人工呼吸器に搭載されている。BMC社の非侵襲的人工呼吸器はパンデミックの中で最も求められている機器の一つであり、遠隔監視・管理機能により急速な成長が期待されている。
同契約におけるトータルソリューションとして、UCREST社のオンラインデジタルヘルスケアプラットフォーム『iMedic』も、BMC社の人工呼吸器に統合する。これにより、患者の人工呼吸器データはクラウドにアップロードされ、離れた場所にいる医師が確認できる。
ネクスグラム、インドネシアにも販路拡大〜医療機器業界動向〜
電気通信やセキュリティ、ソフトウェア開発などを手掛けるネクスグラムは、同社子会社であるネクスグラム・インダストリーズを通じて、PTラファ・トパーズ・ウタマ(RAFA)とインドネシアにおける病院向け人工呼吸器及び医療機器の販売・流通に関する戦略的調達契約を締結した。
契約では、両社はインドネシアの病院へBIPAP、CPAP、APAP、酸素発生人工呼吸器の供給を含む医療用人工呼吸器の普及・販売・流通で協力する。また、契約にはマレーシア向けCOVID-19テストキットを販売代理店経由で調達することも含まれている。
同社のハジ・マズル氏は、インドネシアのCOVID-19感染者数はアセアンで2番目に多く、医療機器の需要は増加傾向にあるが供給不足にあると説明した。
出典:https://nexgram.co/2020/04/22/press-nexgram-supplies-hospital-ventilators-to-indonesia-21-apr-2020/
マレーシアのmTouche、COVID-19テストキット調達へ〜医療機器業界動向〜
2002年に設立された通信・メディア企業のmToucheは、子会社であるmToucheインターナショナルを通じて、オーストラリアのネットワークグローバルソリューション(NGS)とマレーシア及び東南アジア市場向けにCOVID-19テストキットの普及・販売・流通で協力することを発表した。
mToucheのタン・ブーン・クーン常務取締役は、同社が東南アジア市場で築いたネットワークを活用し、COVID-19との戦いに参加したいとしている。また、現在COVID-19テストキットのサンプルは、承認とライセンス取得のため医療機器庁に送付している。同氏は、今回の提携で両社の技術力と販売ネットワークを活用することで相乗効果を発揮し、域内でより多くの人にテストキットを提供したいとしている。
出典:https://disclosure.bursamalaysia.com/FileAccess/apbursaweb/download?id=102501&name=EA_GA_ATTACHMENTS
2019年 マレーシアの医療機器(医療・介護)業界
米国によるマレーシアの医療機器業界分析
米国商務省国際貿易局は、マレーシアのヘルスケア産業に関するデータを発表した。まず、高品質医療と社会福祉へのアクセスはマレーシア政府の重点分野であり、2019年度には290億リンギットの予算が割り当てられた。
マレーシアの医療機器産業の総取引額は2018年に24億7,000万米ドルで、7億2,500万ドルが輸入された。米国からの輸入は前年から45.3%増加、輸入全体の24.6%を占め、医療機器輸出国首位であった。以降はシンガポール(17.3% )、ドイツ(10.8%)、日本(9.9%)、中国(7.9%)が続いている。
対して、マレーシアからの医療機器・デバイス輸出は2018年に前年比19.6%増となる17億4,000万米ドルであり、米国(28.9%)、ドイツ(19.9%)、日本(10.5%)が上位であった。
マレーシアで医療機器業界大手のトップグローブ、サステナビリティで高評価
2019年10月10日、手術用手袋を含むゴム手袋製造大手のトップグローブ社は、経済、環境、および社会分野において国際的な評価を獲得したことを発表した。
まず、同社は世界の代表的なESG投資指標であるDow Jones Sustainability Index(エマージング市場)に選出された。同社はヘルスケア企業44社中15位の評価であった。また、タイのラテックス濃縮工場はFSC森林認証制度におけるCoC認証を取得、トレーサビリティに関して最高水準を維持していることを証明した。
同社のサステナビリティ委員会会長は、トップグローブ社が全ての主要な利害関係者と環境のためにより長期的な価値を生み出すよう努めており、グループは社会と環境にプラスの影響をもたらし続けるとした。
バイオコン・マレーシア、GMP認証で需要に対応〜医療機器業界動向〜
2019年8月29日、アジアの大手バイオ医薬品会社であるバイオコンは、アジア最大の総合インスリン施設を運営するマレーシアの子会社が欧州医薬品庁からGMP証明書を取得したことを発表した。この承認により、同社の新規大型施設は増大する欧州の糖尿病患者の需要に対応することができる。
欧州医薬品庁による検査は2019年5月に実施され、原体や製剤、インスリンデリバリーデバイスといった製造設備が製造ガイドラインに準拠していることが確認された。
同施設で製造されている組換えヒトインスリン、及びインスリングラルギンは35万人を超えるマレーシアの糖尿病患者の需要に対応しており、2018年11月よりMylan社との提携で欧州市場に参入している。
マレーシアで医療機器業界牽引のLKL、台湾の医療機器メーカーと販売契約
2019年4月12日の発表によると、医療周辺機器大手のLKLインターナショナルは、台湾に拠点を置く医療機器メーカーとディストリビューション契約を締結した。
同社は100%子会社であるMedik Gen社(MGen)を通じて、台湾のBenQ Asia Pacific Corp及びLily Medical Corpと契約。BenQの医療用ディスプレイデバイスと関連するスペアパーツ、ソフトウェア、更にLilyの使い捨て医療デバイスと関連するスペアパーツを販売する。BenQとLilyは、MGenが商標とロゴを使用して製品を宣伝・販売することを許諾している。
更に、4月10日にMGenはマレーシアのAgrow Corporationと合弁会社『LKL Agrow Healthtech(提案名)』を設立し、特定ブランドの医療機器をマレーシア国内で販売することで株主間合意したと発表した。契約から3ヶ月以内に事業が開始される予定である。
2018年 マレーシアの医療機器(医療・介護)業界
マレーシアで医療機器業界大手のトップグローブ、医療用手袋製造のアスピオンを買収
2018年1月12日の発表によると、マレーシアに籍を置くゴム手袋メーカー世界最大手のトップ・グローブ社は、医療用手袋製造で世界最大のシェアを誇るアスピオン社の全株式を13億7,000万リンギットで買収すると発表した。これにより、同社は医療用手袋製造で世界的なリーダーシップをとり、世界最大手の手袋メーカーとしての地位を更に強化することになる。
同社は買収によって製品の販売エリアを拡大するだけでなく、アスピオン社が有する技術・イノベーションへアクセスすることが可能となる。そして、グループ内での医療手袋の収益寄与率は、現在の約5%から約13%に増加すると予想されている。
買収金額のうち、12億3,300万リンギットは現金で、残り1憶3,700リンギットは同社が新株を発行することで対応する。
医療機器業界牽引のビー・ブラウン、マレーシア・ペナンに5工場を新設
ビー・ブラウン・メディカル・インダストリーズは、ドイツに本社を置くビー・ブラウンの子会社で、1972年にアジア太平洋地域における医療機器製造の最初の拠点としてペナンに設立された。同地域に設置された工場では2018年現在、およそ7,700名が勤務している。
同社は、ペナンに新しく5つの工場を増築した。これら工場は最新の建築技術と生産設備を有しており、世界中の注入療法や製薬ソリューション、手術用医療機器などを製造する。
同社は、2010年から2018年にかけてペナンの製造拠点に約35億リンギットを投資している。
マレーシア貿易振興公社、欧州への医療機器輸出拡大を支援〜医療機器業界動向〜
2018年11月8日、マレーシア貿易開発公社 (Malaysia External Trade Development Corporation; MATRADE)は、2018年11月にドイツ・デュッセルドルフで開催されるヘルスケア・医療機器展『メディカ』において、マレーシアブランドの宣伝活動を強化することを発表した。
MATRADEのメディカへの出展は今回で6回目となり、今年はマレーシアから関連企業10社が参加する。参加企業は主に、診断・試験キット、消毒剤、医療用グラフペーパー、避妊具、医療用部品の製造者などとなっており、マレーシアの医療用消耗品メーカーとイギリス企業との長期契約締結も予定されている。
展示会では、バイヤーやディストリビューターとの関係を確立・強化するだけでなく、マレーシア医療機器メーカーに向けて欧州における厳しい規制要件や市場構造などの理解・認識を共有することを目的としている。
医療機器業界大手のボストン・サイエンティフィック、マレーシアに域内製造拠点を開設
低侵襲性治療に特化した医療機器メーカーのボストン・サイエンティフィックは、ペナンのバトゥ・カワン工業団地に域内向け製造拠点を開設した。開所式には、通商産業省副大臣、ペナン州知事、マレーシア工業開発庁副所長などが参加した。
ウォーレン・ワン上級副社長兼アジア太平洋局長は「マレーシアは医療機器ハブとして成長を続けており、今回の製造拠点の新設により地域の医療従事者や医療機関の利用者が抱えるニーズに的確に対応できる」としている。
初期の製品群として、心臓病や泌尿器、内視鏡といった医療機器が製造される。また、2019年までに400名以上の従業員を確保することを目指しており、大幅な設備拡張も見据えている。製造された製品は、アジアの主要成長市場へ輸出される。
まとめ:マレーシアの医療機器業界
マレーシアは世界屈指の医療・手術用手袋市場となっており、国内外問わず幅広い流通ネットワークを張り巡らせています。今後は医療用機器のトレンドに注目することでさらなるビジネスチャンスに繋げられるのではないでしょうか。
クアラルンプール在住4年目の日本人。大学卒業後、東京で飲料メーカーの営業を担当。その後、マレーシアのクアラルンプールへ移住し食品商社の営業及び購買のサポートを担当。