【 インドネシアの首都移転】政府の構想や移転後の課題を解説

2022年1月18日に国会で承認された国家首都法により、新しい首都名は「Nusantara(ヌサンタラ)」となりました。首都移転を決定するに至ったインドネシア政府の意図はどのようなものだったのでしょうか?

今回は、話題のインドネシアの首都移転事情について詳しくご紹介します。

読了時間の目安:5分

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目次

インドネシアの首都移転計画の概要

民族悲願の首都移転

2019年8月16日にジョコウィ大統領が国会で行った「インドネシア独立74周年」を記念する演説の中で、大統領は「首都移転」に触れ、首都は国民のアイデンティティの象徴であるだけでなく、国の進歩の象徴でもあることを強調した。

「首都移転」が公平性と経済的正義の実現のためであり、先進インドネシアのビジョンのためのもので、永遠に生きるインドネシアにつながると語った。

また、「首都移転」は初代大統領スカルノ大統領時代から検討されてきた。インドネシアは74年間も独立してきた大国であるにもかかわらず、オランダの植民地政府が決めた首都ジャカルタを継承したままで、未だ独自の首都を決定し、設計したことがなく、「首都移転」が民族の悲願であることを強調した。

首都移転の法案を決定するまでの流れ

インドネシア共和国内閣事務局の発表によると、2016年から政府内部で「首都移転」の論議を開始した。2017年にはBappenas(国家開発計画庁)が経済的側面、社会政治的側面、そして環境的側面からより詳細な検討を開始した。

政府での検討が本格的になったのは2019年からである。2019年4月29日、インドネシア政府は、首都をジャワ島以外に移転する閣議決定を行った。

それに続き、2019年の5月にはジョコウィ大統領自ら閣僚とともに移転先候補地の現地視察を行った。1つ目の候補地は中部カリマンタン州のパランカラヤ。ここは初代大統領スカルノ大統領が建設した都市で当初はジャカルタに代わるインドネシアの首都として、その機能を移転させる計画があった場所である。2つ目の候補地は、東カリマンタン州のバリクパパンとサマリンダの間の地域である。

2019年8月16日の国会での演説で、ジョコウィ大統領は、首都移転先候補地がカリマンタンであることを明らかにし、カリマンタンへの首都移転について国会の承認を要請した。2019年8月26日、ジョコウィ大統領は首都移転先として東カリマンタン州のバリクパパンとサマリンダの間に決定したことを記者会見で明らかにした。

2022年1月18日、国家首都法が国会で承認される。

新首都ヌサンタラの概要

2022年1月18日に国会で承認された国家首都法で、新しい首都名は「Nusantara(ヌサンタラ)」となった。

COMPAS.comの「Tentang Ibu Kota Baru, Mengapa Harus Pindah?」の記事によると、首都特別州「Nusanrata」の面積は256,142ヘクタールで、首都(IKN)地域の面積は56,180ヘクタールである。首都特別州は、南側はペナジャム地区、北ペナジャムペーサーリージェンシー、バリクパパン湾、西バリクパパン地区、東バリクパパン地区、バリクパパン市に隣接し、西側は、クタイ・カルタネガラ・リージェンシーのロア・クル地区に隣接し、北側は、クタイカルタネガラリージェンシーのロアジャナン地区とサンガサンガ地区に隣接し、東側はマカッサル海峡に隣接している。

移転開始は2024年第1四半期からと定められている。

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インドネシアの首都移転の目的

首都移転を決めたインドネシア政府の意図

インドネシアが国家として今後も発展を続けていくためには、ジャカルタおよびジャワ島の負担軽減と経済の地域格差の是正を図らなければならないことが最大の課題である。

現在、ジャカルタの負担している機能は、政府センター、ビジネスセンター、金融センター、貿易センター、サービスセンターとすべての機能が集中している上、インドネシア最大の空港と港としても重たすぎる状態にある。

合わせて、ジャワ島の負担も重くなりすぎている。まず、ジャワ島の人口は1億5万人でインドネシアの人口の57%以上を占める。一方、ジャワ島以外では、スマトラ島が21%、スラウェシ島が7%、カリマンタン島にいたっては6%しか居住していない。また、ジャワ島のGDPはインドネシア全体の58%を占めている。食料の安全保障もジャワ島に依存している。従って、首都をジャワ島内で移転しても、ジャワ島としての負担は軽減されない。

また、2001年以降、地域で自治が実施されてきたものの、ジャワ島とジャワ島外の経済格差は拡大し続けている。

そして、人口密度、深刻化している交通渋滞、早急に対処しなければならない大気汚染・水質汚染とジャカルタとジャワ島の負担をこれ以上拡大し続けることができないのが実情である。

ヌサンタラが移転先にふさわしい5つの理由

今回、「Nusantara」が首都移転先として選ばれた背景のまず1番目はこの地域が、インドネシアの様々な地域で発生している洪水、地震、津波、山火事、火山、地滑りなどの自然災害リスクが最小限であること。

2番目は地理的にインドネシアの真ん中に位置する戦略的な場所であること。

3番目は開発された都市部である東カリマンタン州最大の港湾(木材・鉱物資源・石油の積出港)都市バリクパパンと東カリマンタン州の州都サマリンダとの間にあること。

4番目はすでに比較的完全なインフラストラクチャを持っていること。例えば、バリクパパンにある「スルターン・アジ・ムハンマド・スレイマン空港」はジャカルタのスカルノハッタ国際空港に次いで発着便数の多い空港である。

5番目に政府によって管理されている土地がすでに18万ヘクタールあること(首都特別州「Nusanrata」の面積は約26万ヘクタール)。さらにこの地域は天然資源の上流産業が盛んなため、インドネシア政府は天然資源の下流産業をこの地域に誘致することで、天然資源の上流から下流までの一貫生産化とこの地域の工業化を進めることができる可能性がある。

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首都移転に関するインドネシア政府の構想

首都移転計画法案の内容

国家首都法の内容は、第1章が「一般的要件」で用語説明。第2章が「所在地、形態、機能、原則および範囲」で都市名「Nusantara」、移転時期「2024年第1四半期から」、面積「首都特別州:256,142ヘクタール」、境界、都市機能などを定義。

第3章が「地域分割」で行政都市地域と州都地域の区分に関する規定。第4章が「政府の形態、構造、および業務」で首都特別州政府、州知事、州議会と市長に関する規定(選出方法、任期、役割など)と電子ベースの州政府システムの規定。

第5章が「国家首都」で中央政府エリア、首都圏管理庁、歳入歳出の規定。第6章が「空間計画、環境、および災害管理」で首都特別州での空間計画、環境および災害管理の規定。

第7章が「地域財政」で首都特別州の財政に関する規定。第8章が「首都移転」で首都開発マスタープラン、国家機関・外国の代表者および国際機関の代表者の地位の移転、移転する政府機関とジャカルタに残る政府機関(例えばインドネシア銀行や金融サービス局(OJK)などのような公的機関)に関する規定。

第9章が「移行条件」で首都移管中の規定。第10章は「終わりに」でこの法律が施行された時点で無効となるあるいは調整される関連法規の規定。

ジャカルタに残す機能とその目的

ジャカルタが現在負担している機能は「政府センター」、「ビジネスセンター」、「金融センター」、「貿易センター」、「サービスセンター」である。

首都移転を行った後は、「政府センター」機能だけが「Nusantara」に移転されるので、その他の機能はジャカルタに残る。

そのため、ジャカルタはインドネシア国として、引き続き開発すべき最優先都市であり、地域および世界規模のビジネス都市、金融都市、貿易センター、およびサービスセンターとして発展を続けて行く。

現在、DKIジャカルタ州政府が571兆ルピアの予算をつけて行っている都市再生計画は引き続き実施されることになっている。

また、国家首都法の第8章第3部34条(3)(4)に規定されているように、インドネシア銀行、OJK(金融サービス局)、LPS(貯金保険機構)、KPPU(ビジネス競争監督委員会)と投資調整の分野で政府業務を行うLPNKのような「金融セクター」と「ビジネスセクター」と強い結びつきのある政府機関は従来通りジャカルタに残し運営されることになっている。

ヌサンタラに移す機能とその目的

国家首都法の第8章第3部34条(1)に規定されているように、「ヌサンタラ」に移転される公的機能とは、1)立法機関として、インドネシア共和国国民協議会(MPR)、インドネシア共和国国民議会(DPR)と地方代表議会(DPD)。

2)司法機関として、インドネシア共和国最高裁判所(MA)、インドネシア共和国憲法裁判所(MK)とインドネシア共和国司法委員会(KY)。

3)行政機関として、大統領・副大統領、そして、すべての省庁。

4) インドネシア国軍本部、5) インドネシア国家警察本部、6) インドネシア共和国会計検査院(BPK)である。

アメリカが司法・立法・行政・軍(Pentagon)・警察(FBI)の中心をワシントン近郊に置き、ビジネス・金融の中心をニューヨークに置いているように、インドネシアも司法・立法・行政・軍・警察の中心をヌサンタラに置き、ビジネス・金融の中心をジャカルタに置く体制へとシフトすることになる。

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インドネシアの首都移転に関する課題

費用面での課題

新しい首都を建設するための総予算は約Rp466兆ルピア(約3.5兆円)必要だと言われている。インドネシア政府の目論見では、その内19%は国家予算を使う予定である。

残りは新しい首都とDKIジャカルタの共同資産運用スキームからとKPBU(政府と企業の共同体)からの出資と民間部門と国有企業による直接投資で賄うとしている。しかし、民間頼みでどこまで費用が確保できるか不透明なこと。

また、ジャカルターバンドン新幹線プロジェクトでは用地買収が難航したことでスケジュール遅延や予算オーバーが発生したが、首都移転プロジェクトではこの点大丈夫なのか。といったところがお金回りの課題として挙げられる。

公共施設の建設と運用に関する課題

中央統計庁(BPS)のデータによると、2016年の中央国家公務員数は918千人で、家族まで含めるとおそらく2百万人を超えるのではないかと推定される。

2024年の第1四半期に移転を開始するというタイトなスケジュールで、まず、2百万人以上が住める官舎、学校、病院などの公共施設の建設と運用ができるのかという問題。さらに生活に必要な民間投資による商業施設や交通機関の整備、多くの出張者のための宿泊施設などを準備できるのかという問題。

また、ジョコウィ大統領は、2024年10月に2期目を満了し引退することになる。そのため、首都移転はジョクウィ大統領のレガシー作りとも捉えることができる。目論見通り、新首都が混乱なく機能してインドネシアの発展に寄与することができるのかどうかが課題。

まとめ

初代スカルノ大統領時代から検討されてきた民族悲願の首都移転計画。2024年の第1四半期に移転開始というタイトなスケジュールですが、今後のインドネシアの発展に寄与することが期待できるのではないでしょうか。

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